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第五章 帰還
121話
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朝からフォルスは父親である現キャベル王と話をしていた。
昨日はとりあえず無事にフォルスが帰還したことを、父王は満面の笑みで迎え入れてくれた。そしてパーティーとまではいかなくとも家族そろって夕食もとっていた。通常なら基本的に食事はそれぞれ自分の宮殿でとるのだが、久しぶりに親子そろっての食事は中々に有意義だった。フォルスもせっかくの団欒であるため、呪いのことについては詳しく語らず旅の話などをして楽しく過ごしていた。食事を終えてから解呪についての話もしたが、翌朝となり今こうして初めて父親に話している内容は、しかしフォルスがずっと考えていたことだ。
「本気で言っているのか?」
「はい。解呪が成功すれば、いえもちろん成功しますが、とにかくそうなれば俺は王位継承権の優先をアルディスに譲りたいと本気で思っています」
父王は相当驚いているようだが、しかしすぐに落ち着いた様子を見せてきた。さすがはキャベル王だとフォルスは昔から敬愛している父親を尊敬の眼差しで見る。
「何故そう考えているのか、わけも話すのだろうな」
「ええ。結論から申しますとキャベル王国の王に相応しいのは俺よりもアルディスだからです」
一旦言葉を切るが、特に王は口を開く様子がなかったため、フォルスは続けた。
「旅に出る前はずっと、俺が次期王となるべく邁進しておりましたし、それを疑ったこともありませんでした。ですが今回外の世界を知り、様々な経験をして気づいたんです。俺は王位を継いで国の中心となるよりも、自らの足で国のために動くほうが合っている、と」
フォルスが話している間、父王はただじっとフォルスを見ているだけだった。とはいえ迷いは全くないため、口ごもることなく言葉にしていた。
「そもそも弟のためだとはいえ、王位継承権を持ちながら我が国を簡単に飛び出すような者は王に相応しくないでしょう。アルディスは優しすぎるところもありますが、そこは俺がフォローすればいいことです。俺は王について国を支えるほうが合っているし、きっとそのほうがさらにキャベル王国をいい国にできるのではないかと思っております。何より王としての資質は俺よりアルディスのほうが備わっている。それは俺が言うまでもなく、父上もわかっておられるかと」
言い終えると、父王はため息をついてきた。だが沈黙は少し続いた。フォルスはその間、父親を見上げたまま同じく黙って返事を待っていた。
「……考えておこう」
ようやく父王からその言葉が出ると、フォルスは「聞いていただき、感謝いたします」と頭を下げた。王位のことだけに重要な内容だ。フォルスとて即答してもらえるとは思っていない。
その後フォルスがアルディスのいる執務室へ向かうと、本人は数名の騎士に指示を出していた。兵舎の訓練所の人払いと、王宮内でもっとも信頼できる騎士たちに余計な者が入って来られないよう見張りをさせるらしく、それについての指示のようだ。
様々な訓練を行うため、訓練所はそれなりに広い。竜の姿となったディルも十分そこに収まるだろう。そういったことをおそらくアルディスは通信機で話している時にすぐ浮かんだのだろうし、また指示を与える様子も堂々としている。やはり王となるのはアルディスのほうが向いているなとフォルスは改めて思った。自分ならば王宮の敷地内にある庭園などに自ら結界魔法を張るなりして指定された場所を作りそうだ。人を使うよりも自分で動いてしまう。上に立つ者としては頭を使う上で、人を見抜き上手く人を使えないと駄目だとフォルスは思っている。そしてそれを上手くこなすのはフォルスよりもアルディスだ。
フォルスが声をかけると、アルディスは嬉しそうに笑いかけてきた。
「兄さん、おはよう! もう少し休んでいればいいのに」
「十二分に休んだよ。というかお前は俺をいつまで病人扱いする気なんだ。魔力は完全に元通りなんだぞ」
「それでも旅疲れとかあるじゃないか」
「もう取れた」
「さすがだね」
アルディスはニコニコとしている。そして改めて柔らかい人柄にフォルスはホッと癒された。旅の間ずっとコルジアと一緒だったため、余計かもしれない。コルジアなら「さすが」だと微笑んでくれるどころか「まるでゴリラですね」くらいは笑顔ながらに言ってきそうだ。
「兄さん?」
「ああいや、すまない。ちょっと癒されていた」
「何に?」
「まあ、気にするな。どのみちもうすぐリフィたちも来るだろうし、俺もゆっくりしているわけにいかないだろう。準備をお前に任せっきりなのも申し訳ない」
「何言ってるの。僕が何もできなくて引きこもっているだけの間、散々大変な思いをしてくれていたのにこれ以上何かなんてさせられるわけないよ」
昨日、呪いの当事者であるアルディスにはディルから教えてもらったルナのことや竜たちのことなどを全て話してあった。それはディルの了承済みだ。そして話した上で、ディルが解呪するのはあくまでも神幻獣であるディルだからであるとしかリフィルナには話していないことも告げている。呪いの原因や経緯などはリフィルナには黙っていることも話した。アルディスもそれについて同意してきた。
「前世のことと言ってもリフィルナはきっと自分が原因で僕も呪いに苦しんでいるんだって思っちゃうだろうし。僕たちの先祖のしでかしたことで、リフィルナをわざわざ悲しませる必要は僕もないと思う。ただでさえ僕は酷い目に遭わせてしまっているし、これ以上悲しませたくはないかな」
フォルスは自分も同意見だと頷いた。
ふと、そういえばアルディスはリフィルナといつ知り合ったのだろうと思った。気になりながらもまだそれについては聞いていなかった。
「どうしたの、兄さん」
「いや……お前はリフィといつ知り合う機会があったのかなと」
「ああ、それか。ほら、兄さんたちの婚約発表のパーティーがあっただろう。その時に──」
アルディスは何でもないように話してきた。
「──というわけで、町にもたびたび実は一緒に出かけていたんだ」
あのアルディスが?
フォルスは少し驚いた。まさかあのパーティーで知り合っていたとはとも思ったが、何よりも引きこもりだったアルディスがたびたび外へ出かけていたというのが驚かれる。
子どもの頃はフォルスたちをとても大事に可愛がってくれた乳母が連れ出してくれていた。だが乳母が亡くなり、そして成長するにつれアルディスは自分の部屋と王宮の一部の場所でしか過ごさなくなっていった。それを思うと知らなかったことは悲しいがリフィルナのおかげなのかなと嬉しく思えてもくる。
「そういうことがあって呪いのせいでリフィルナを殺しかけた……あまりにも耐え難いことだった。だからあの頃、また引きこもりがひどくなっていたんだ。でも……兄さんがね、旅に出て……がんばってくれてるのに俺は引きこもるだけってどうなんだって思って……また少しずつ前向きになれるようあがいてた」
あはは、とアルディスは笑う。フォルスは胸が塞がれるような気持ちになりながらアルディスを抱きしめたくなる。
その時、リフィルナたちが到着したという知らせがきた。
昨日はとりあえず無事にフォルスが帰還したことを、父王は満面の笑みで迎え入れてくれた。そしてパーティーとまではいかなくとも家族そろって夕食もとっていた。通常なら基本的に食事はそれぞれ自分の宮殿でとるのだが、久しぶりに親子そろっての食事は中々に有意義だった。フォルスもせっかくの団欒であるため、呪いのことについては詳しく語らず旅の話などをして楽しく過ごしていた。食事を終えてから解呪についての話もしたが、翌朝となり今こうして初めて父親に話している内容は、しかしフォルスがずっと考えていたことだ。
「本気で言っているのか?」
「はい。解呪が成功すれば、いえもちろん成功しますが、とにかくそうなれば俺は王位継承権の優先をアルディスに譲りたいと本気で思っています」
父王は相当驚いているようだが、しかしすぐに落ち着いた様子を見せてきた。さすがはキャベル王だとフォルスは昔から敬愛している父親を尊敬の眼差しで見る。
「何故そう考えているのか、わけも話すのだろうな」
「ええ。結論から申しますとキャベル王国の王に相応しいのは俺よりもアルディスだからです」
一旦言葉を切るが、特に王は口を開く様子がなかったため、フォルスは続けた。
「旅に出る前はずっと、俺が次期王となるべく邁進しておりましたし、それを疑ったこともありませんでした。ですが今回外の世界を知り、様々な経験をして気づいたんです。俺は王位を継いで国の中心となるよりも、自らの足で国のために動くほうが合っている、と」
フォルスが話している間、父王はただじっとフォルスを見ているだけだった。とはいえ迷いは全くないため、口ごもることなく言葉にしていた。
「そもそも弟のためだとはいえ、王位継承権を持ちながら我が国を簡単に飛び出すような者は王に相応しくないでしょう。アルディスは優しすぎるところもありますが、そこは俺がフォローすればいいことです。俺は王について国を支えるほうが合っているし、きっとそのほうがさらにキャベル王国をいい国にできるのではないかと思っております。何より王としての資質は俺よりアルディスのほうが備わっている。それは俺が言うまでもなく、父上もわかっておられるかと」
言い終えると、父王はため息をついてきた。だが沈黙は少し続いた。フォルスはその間、父親を見上げたまま同じく黙って返事を待っていた。
「……考えておこう」
ようやく父王からその言葉が出ると、フォルスは「聞いていただき、感謝いたします」と頭を下げた。王位のことだけに重要な内容だ。フォルスとて即答してもらえるとは思っていない。
その後フォルスがアルディスのいる執務室へ向かうと、本人は数名の騎士に指示を出していた。兵舎の訓練所の人払いと、王宮内でもっとも信頼できる騎士たちに余計な者が入って来られないよう見張りをさせるらしく、それについての指示のようだ。
様々な訓練を行うため、訓練所はそれなりに広い。竜の姿となったディルも十分そこに収まるだろう。そういったことをおそらくアルディスは通信機で話している時にすぐ浮かんだのだろうし、また指示を与える様子も堂々としている。やはり王となるのはアルディスのほうが向いているなとフォルスは改めて思った。自分ならば王宮の敷地内にある庭園などに自ら結界魔法を張るなりして指定された場所を作りそうだ。人を使うよりも自分で動いてしまう。上に立つ者としては頭を使う上で、人を見抜き上手く人を使えないと駄目だとフォルスは思っている。そしてそれを上手くこなすのはフォルスよりもアルディスだ。
フォルスが声をかけると、アルディスは嬉しそうに笑いかけてきた。
「兄さん、おはよう! もう少し休んでいればいいのに」
「十二分に休んだよ。というかお前は俺をいつまで病人扱いする気なんだ。魔力は完全に元通りなんだぞ」
「それでも旅疲れとかあるじゃないか」
「もう取れた」
「さすがだね」
アルディスはニコニコとしている。そして改めて柔らかい人柄にフォルスはホッと癒された。旅の間ずっとコルジアと一緒だったため、余計かもしれない。コルジアなら「さすが」だと微笑んでくれるどころか「まるでゴリラですね」くらいは笑顔ながらに言ってきそうだ。
「兄さん?」
「ああいや、すまない。ちょっと癒されていた」
「何に?」
「まあ、気にするな。どのみちもうすぐリフィたちも来るだろうし、俺もゆっくりしているわけにいかないだろう。準備をお前に任せっきりなのも申し訳ない」
「何言ってるの。僕が何もできなくて引きこもっているだけの間、散々大変な思いをしてくれていたのにこれ以上何かなんてさせられるわけないよ」
昨日、呪いの当事者であるアルディスにはディルから教えてもらったルナのことや竜たちのことなどを全て話してあった。それはディルの了承済みだ。そして話した上で、ディルが解呪するのはあくまでも神幻獣であるディルだからであるとしかリフィルナには話していないことも告げている。呪いの原因や経緯などはリフィルナには黙っていることも話した。アルディスもそれについて同意してきた。
「前世のことと言ってもリフィルナはきっと自分が原因で僕も呪いに苦しんでいるんだって思っちゃうだろうし。僕たちの先祖のしでかしたことで、リフィルナをわざわざ悲しませる必要は僕もないと思う。ただでさえ僕は酷い目に遭わせてしまっているし、これ以上悲しませたくはないかな」
フォルスは自分も同意見だと頷いた。
ふと、そういえばアルディスはリフィルナといつ知り合ったのだろうと思った。気になりながらもまだそれについては聞いていなかった。
「どうしたの、兄さん」
「いや……お前はリフィといつ知り合う機会があったのかなと」
「ああ、それか。ほら、兄さんたちの婚約発表のパーティーがあっただろう。その時に──」
アルディスは何でもないように話してきた。
「──というわけで、町にもたびたび実は一緒に出かけていたんだ」
あのアルディスが?
フォルスは少し驚いた。まさかあのパーティーで知り合っていたとはとも思ったが、何よりも引きこもりだったアルディスがたびたび外へ出かけていたというのが驚かれる。
子どもの頃はフォルスたちをとても大事に可愛がってくれた乳母が連れ出してくれていた。だが乳母が亡くなり、そして成長するにつれアルディスは自分の部屋と王宮の一部の場所でしか過ごさなくなっていった。それを思うと知らなかったことは悲しいがリフィルナのおかげなのかなと嬉しく思えてもくる。
「そういうことがあって呪いのせいでリフィルナを殺しかけた……あまりにも耐え難いことだった。だからあの頃、また引きこもりがひどくなっていたんだ。でも……兄さんがね、旅に出て……がんばってくれてるのに俺は引きこもるだけってどうなんだって思って……また少しずつ前向きになれるようあがいてた」
あはは、とアルディスは笑う。フォルスは胸が塞がれるような気持ちになりながらアルディスを抱きしめたくなる。
その時、リフィルナたちが到着したという知らせがきた。
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