上 下
122 / 151
第五章 帰還

121話

しおりを挟む
 朝からフォルスは父親である現キャベル王と話をしていた。
 昨日はとりあえず無事にフォルスが帰還したことを、父王は満面の笑みで迎え入れてくれた。そしてパーティーとまではいかなくとも家族そろって夕食もとっていた。通常なら基本的に食事はそれぞれ自分の宮殿でとるのだが、久しぶりに親子そろっての食事は中々に有意義だった。フォルスもせっかくの団欒であるため、呪いのことについては詳しく語らず旅の話などをして楽しく過ごしていた。食事を終えてから解呪についての話もしたが、翌朝となり今こうして初めて父親に話している内容は、しかしフォルスがずっと考えていたことだ。

「本気で言っているのか?」
「はい。解呪が成功すれば、いえもちろん成功しますが、とにかくそうなれば俺は王位継承権の優先をアルディスに譲りたいと本気で思っています」

 父王は相当驚いているようだが、しかしすぐに落ち着いた様子を見せてきた。さすがはキャベル王だとフォルスは昔から敬愛している父親を尊敬の眼差しで見る。

「何故そう考えているのか、わけも話すのだろうな」
「ええ。結論から申しますとキャベル王国の王に相応しいのは俺よりもアルディスだからです」

 一旦言葉を切るが、特に王は口を開く様子がなかったため、フォルスは続けた。

「旅に出る前はずっと、俺が次期王となるべく邁進しておりましたし、それを疑ったこともありませんでした。ですが今回外の世界を知り、様々な経験をして気づいたんです。俺は王位を継いで国の中心となるよりも、自らの足で国のために動くほうが合っている、と」

 フォルスが話している間、父王はただじっとフォルスを見ているだけだった。とはいえ迷いは全くないため、口ごもることなく言葉にしていた。

「そもそも弟のためだとはいえ、王位継承権を持ちながら我が国を簡単に飛び出すような者は王に相応しくないでしょう。アルディスは優しすぎるところもありますが、そこは俺がフォローすればいいことです。俺は王について国を支えるほうが合っているし、きっとそのほうがさらにキャベル王国をいい国にできるのではないかと思っております。何より王としての資質は俺よりアルディスのほうが備わっている。それは俺が言うまでもなく、父上もわかっておられるかと」

 言い終えると、父王はため息をついてきた。だが沈黙は少し続いた。フォルスはその間、父親を見上げたまま同じく黙って返事を待っていた。

「……考えておこう」

 ようやく父王からその言葉が出ると、フォルスは「聞いていただき、感謝いたします」と頭を下げた。王位のことだけに重要な内容だ。フォルスとて即答してもらえるとは思っていない。
 その後フォルスがアルディスのいる執務室へ向かうと、本人は数名の騎士に指示を出していた。兵舎の訓練所の人払いと、王宮内でもっとも信頼できる騎士たちに余計な者が入って来られないよう見張りをさせるらしく、それについての指示のようだ。
 様々な訓練を行うため、訓練所はそれなりに広い。竜の姿となったディルも十分そこに収まるだろう。そういったことをおそらくアルディスは通信機で話している時にすぐ浮かんだのだろうし、また指示を与える様子も堂々としている。やはり王となるのはアルディスのほうが向いているなとフォルスは改めて思った。自分ならば王宮の敷地内にある庭園などに自ら結界魔法を張るなりして指定された場所を作りそうだ。人を使うよりも自分で動いてしまう。上に立つ者としては頭を使う上で、人を見抜き上手く人を使えないと駄目だとフォルスは思っている。そしてそれを上手くこなすのはフォルスよりもアルディスだ。
 フォルスが声をかけると、アルディスは嬉しそうに笑いかけてきた。

「兄さん、おはよう! もう少し休んでいればいいのに」
「十二分に休んだよ。というかお前は俺をいつまで病人扱いする気なんだ。魔力は完全に元通りなんだぞ」
「それでも旅疲れとかあるじゃないか」
「もう取れた」
「さすがだね」

 アルディスはニコニコとしている。そして改めて柔らかい人柄にフォルスはホッと癒された。旅の間ずっとコルジアと一緒だったため、余計かもしれない。コルジアなら「さすが」だと微笑んでくれるどころか「まるでゴリラですね」くらいは笑顔ながらに言ってきそうだ。

「兄さん?」
「ああいや、すまない。ちょっと癒されていた」
「何に?」
「まあ、気にするな。どのみちもうすぐリフィたちも来るだろうし、俺もゆっくりしているわけにいかないだろう。準備をお前に任せっきりなのも申し訳ない」
「何言ってるの。僕が何もできなくて引きこもっているだけの間、散々大変な思いをしてくれていたのにこれ以上何かなんてさせられるわけないよ」

 昨日、呪いの当事者であるアルディスにはディルから教えてもらったルナのことや竜たちのことなどを全て話してあった。それはディルの了承済みだ。そして話した上で、ディルが解呪するのはあくまでも神幻獣であるディルだからであるとしかリフィルナには話していないことも告げている。呪いの原因や経緯などはリフィルナには黙っていることも話した。アルディスもそれについて同意してきた。

「前世のことと言ってもリフィルナはきっと自分が原因で僕も呪いに苦しんでいるんだって思っちゃうだろうし。僕たちの先祖のしでかしたことで、リフィルナをわざわざ悲しませる必要は僕もないと思う。ただでさえ僕は酷い目に遭わせてしまっているし、これ以上悲しませたくはないかな」

 フォルスは自分も同意見だと頷いた。
 ふと、そういえばアルディスはリフィルナといつ知り合ったのだろうと思った。気になりながらもまだそれについては聞いていなかった。

「どうしたの、兄さん」
「いや……お前はリフィといつ知り合う機会があったのかなと」
「ああ、それか。ほら、兄さんたちの婚約発表のパーティーがあっただろう。その時に──」

 アルディスは何でもないように話してきた。

「──というわけで、町にもたびたび実は一緒に出かけていたんだ」

 あのアルディスが?

 フォルスは少し驚いた。まさかあのパーティーで知り合っていたとはとも思ったが、何よりも引きこもりだったアルディスがたびたび外へ出かけていたというのが驚かれる。
 子どもの頃はフォルスたちをとても大事に可愛がってくれた乳母が連れ出してくれていた。だが乳母が亡くなり、そして成長するにつれアルディスは自分の部屋と王宮の一部の場所でしか過ごさなくなっていった。それを思うと知らなかったことは悲しいがリフィルナのおかげなのかなと嬉しく思えてもくる。

「そういうことがあって呪いのせいでリフィルナを殺しかけた……あまりにも耐え難いことだった。だからあの頃、また引きこもりがひどくなっていたんだ。でも……兄さんがね、旅に出て……がんばってくれてるのに俺は引きこもるだけってどうなんだって思って……また少しずつ前向きになれるようあがいてた」

 あはは、とアルディスは笑う。フォルスは胸が塞がれるような気持ちになりながらアルディスを抱きしめたくなる。
 その時、リフィルナたちが到着したという知らせがきた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...