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第四章 白き竜
109話
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ディルの力でずいぶん楽にはなっていたが、それでも話し過ぎたのか咳き込んでしまって少々苦しかった。しかしそれもコルジアが汲んできてくれた湖の水を飲むとさらに楽になった。フォルスは改めて笑顔でリフィルナを見る。
「本当の姿で向かい合うのは初めてだね」
ある意味本当に初めてではある。最初に見た時のリフィルナは意識がなかった。二度目は意識のある状態ではあってもちらりと見えただけだった。こうして面と向かうのは実際フォルスも初めてだ。こちらを見たり動いたり話したりしている銀髪の少女は本当に華奢で儚げに見え、一緒に魔物と戦いながら旅をしてきたとは思えないほどだった。
最初から気づいていたと正直に打ち明けるとリフィルナは落ち込んでいるようだった。申し訳なく思いつつも少し可愛らしく思え、フォルスはそっと小さく咳払いをする。
その後ある意味リフィルナらしいといえばリフィルナらしい天然さを発揮され、また困惑しかない流れになりそうだったが少し離れたところで吹き出すコルジアをあえて無視してフォルスは気を取り直したように通信機を見た。
「アルディスはリフィと知り合いだったんだな」
『ああ、うん。でもそのことはまた改めて話すよ。あと兄さんが少年好きな件についても』
「それは改めなくていい……」
『ふふ。冗談はさておき、具合、本当に大丈夫なの? かなり悪そうに見えたんだけど』
「大丈夫だ。ただ魔力を使い過ぎただけだから気にしなくていい」
『だけって……兄さんほどの魔力の持ち主が魔力切れを起こすって相当だと……ああ、もしかしてさっきの流れからしてリフィルナがひどい怪我を負って、それを癒すために使ったってことだろうか……。もしそうなら、本当によほどのことがあったんだろうね……。二人とも何とか無事で本当によかった……』
アルディスは少し考えてからそれに至ったようで少し青ざめている。
「そうなんです、ぼ、私を助けてくれた代わりに魔力、もの凄く使っちゃったみたいで。いくら感謝してもし足りないし、本当に無事でよかった……」
『リフィルナも無事でよかったんだよ?』
「はい、ありがとうございます。でもとにかくフォルが無事でとにかく何よりですよね」
『それはうん、本当に。ほんとよかったよ兄さん』
「ああ、無事だ。ありがとう。リフィもありがとう。とりあえずリフィの元気そうな様子をこの目で見られて俺もようやく本当に安心したよ。来てもらったのにすまない、これからちょっとアルディスと話があって」
「はい、私、出ますね」
『私も出よう』
「じゃあディル、昨夜は暗くてちゃんと見れなかったこの辺りを一緒に見て回ろう!」
ニコニコと言うリフィルナにディルはチロチロと舌を出しながらいつものようにリフィルナの肩まで上った。
二人が出ていった後、フォルスはそっと笑う。アルディスとリフィルナが親しいことに困惑したが、二人のやりとりが微笑ましくて動揺など一気に吹き飛んだ。どういった経緯で知り合ったのだろうかなど気になることはあるが、とりあえず今は早く通信機の先にいるアルディスに呪いの件を伝えたかった。
先ほどディルによって見た過去は、愛し子が殺された時の、ディル自身の深い悲しみと憤り、そしてその怒りからの呪いといった経緯だった。
その過去により、リフィルナがやはり例の愛し子、ルナの生まれ変わりであるということだけでなく、ディルもルナの眷属であった竜が転生した姿で間違いなかったのだと実感できた。
元々ルナは戦争孤児だったのをディルが見つけて、この竜のすみかでたくさんの精霊や竜たちにより育てられたようだった。竜や精霊たちは我が子のように慈しんでおり、それもあって愛し子の中でも最も特別な存在だったというわけだ。
だがそんな特別な愛し子をキャベル王国はさらった。しかもその王は無理やり自分のものにしようとし、挙句ルナは死んだ。
その辺はフォルスも過去の文献を読んで察した内容だったが、改めて突きつけられた気分だった。しかもそれほど大切な愛し子であったなら、確かに精霊も竜も、そして他の幻獣たちもキャベル王とその血筋を許さないだろう。
その上竜たちは元々じわじわと積み重なっていた人間への不信感などがさらに強まり、これをきっかけにこうして今のようにこのすみかから出ることもなく、また魔法により封印していたのだとわかった。
主と眷属は絆が深ければ深いほど、同じ時代や場所に転生する確率が高くなるのだとディルは記憶を見せながら言っていた。そして当時キャベル王家に呪いをかけたのはディル自身だったのだと。
呪いを解くのに竜の涙などまったく必要でないし関係ないとも断言された。呪いを解くにはかけた本人が解く以外ないのだという。なので例えフォルスが単独でこの島へやってきて、ほぼ不可能ではあるが万が一運よく竜に会うことができたのだとしても、ディルがいないのなら、そしてディルが許さないのなら全く意味がなかった。
これほど転生してくれていてよかったと思ったことはないかもしれない。ルナが死んだことにより本来なら長いはずの命を終えようとしていた際に、ディルも当時のキャベル王の眷属である獅子のように転生しない魔法をかけていればもう、間違いなく完全に、二度と永遠に呪いは解かれることがなかったということだ。
大切な愛し子を再び傷つけることがあるならとディルは言っていたが、それこそフォルスは断言できる。リフィルナを傷つけるなんて絶対にしないし、誰にもさせない。愛し子であるかどうかなど関係なかった。国の繁栄のためなどクソくらえだと同じく断言できるくらいだ。愛し子など関係なく、フォルスはリフィルナ自身を守ると旅で思ったし今も思っているし、そして今後も思うだろう。
「本当の姿で向かい合うのは初めてだね」
ある意味本当に初めてではある。最初に見た時のリフィルナは意識がなかった。二度目は意識のある状態ではあってもちらりと見えただけだった。こうして面と向かうのは実際フォルスも初めてだ。こちらを見たり動いたり話したりしている銀髪の少女は本当に華奢で儚げに見え、一緒に魔物と戦いながら旅をしてきたとは思えないほどだった。
最初から気づいていたと正直に打ち明けるとリフィルナは落ち込んでいるようだった。申し訳なく思いつつも少し可愛らしく思え、フォルスはそっと小さく咳払いをする。
その後ある意味リフィルナらしいといえばリフィルナらしい天然さを発揮され、また困惑しかない流れになりそうだったが少し離れたところで吹き出すコルジアをあえて無視してフォルスは気を取り直したように通信機を見た。
「アルディスはリフィと知り合いだったんだな」
『ああ、うん。でもそのことはまた改めて話すよ。あと兄さんが少年好きな件についても』
「それは改めなくていい……」
『ふふ。冗談はさておき、具合、本当に大丈夫なの? かなり悪そうに見えたんだけど』
「大丈夫だ。ただ魔力を使い過ぎただけだから気にしなくていい」
『だけって……兄さんほどの魔力の持ち主が魔力切れを起こすって相当だと……ああ、もしかしてさっきの流れからしてリフィルナがひどい怪我を負って、それを癒すために使ったってことだろうか……。もしそうなら、本当によほどのことがあったんだろうね……。二人とも何とか無事で本当によかった……』
アルディスは少し考えてからそれに至ったようで少し青ざめている。
「そうなんです、ぼ、私を助けてくれた代わりに魔力、もの凄く使っちゃったみたいで。いくら感謝してもし足りないし、本当に無事でよかった……」
『リフィルナも無事でよかったんだよ?』
「はい、ありがとうございます。でもとにかくフォルが無事でとにかく何よりですよね」
『それはうん、本当に。ほんとよかったよ兄さん』
「ああ、無事だ。ありがとう。リフィもありがとう。とりあえずリフィの元気そうな様子をこの目で見られて俺もようやく本当に安心したよ。来てもらったのにすまない、これからちょっとアルディスと話があって」
「はい、私、出ますね」
『私も出よう』
「じゃあディル、昨夜は暗くてちゃんと見れなかったこの辺りを一緒に見て回ろう!」
ニコニコと言うリフィルナにディルはチロチロと舌を出しながらいつものようにリフィルナの肩まで上った。
二人が出ていった後、フォルスはそっと笑う。アルディスとリフィルナが親しいことに困惑したが、二人のやりとりが微笑ましくて動揺など一気に吹き飛んだ。どういった経緯で知り合ったのだろうかなど気になることはあるが、とりあえず今は早く通信機の先にいるアルディスに呪いの件を伝えたかった。
先ほどディルによって見た過去は、愛し子が殺された時の、ディル自身の深い悲しみと憤り、そしてその怒りからの呪いといった経緯だった。
その過去により、リフィルナがやはり例の愛し子、ルナの生まれ変わりであるということだけでなく、ディルもルナの眷属であった竜が転生した姿で間違いなかったのだと実感できた。
元々ルナは戦争孤児だったのをディルが見つけて、この竜のすみかでたくさんの精霊や竜たちにより育てられたようだった。竜や精霊たちは我が子のように慈しんでおり、それもあって愛し子の中でも最も特別な存在だったというわけだ。
だがそんな特別な愛し子をキャベル王国はさらった。しかもその王は無理やり自分のものにしようとし、挙句ルナは死んだ。
その辺はフォルスも過去の文献を読んで察した内容だったが、改めて突きつけられた気分だった。しかもそれほど大切な愛し子であったなら、確かに精霊も竜も、そして他の幻獣たちもキャベル王とその血筋を許さないだろう。
その上竜たちは元々じわじわと積み重なっていた人間への不信感などがさらに強まり、これをきっかけにこうして今のようにこのすみかから出ることもなく、また魔法により封印していたのだとわかった。
主と眷属は絆が深ければ深いほど、同じ時代や場所に転生する確率が高くなるのだとディルは記憶を見せながら言っていた。そして当時キャベル王家に呪いをかけたのはディル自身だったのだと。
呪いを解くのに竜の涙などまったく必要でないし関係ないとも断言された。呪いを解くにはかけた本人が解く以外ないのだという。なので例えフォルスが単独でこの島へやってきて、ほぼ不可能ではあるが万が一運よく竜に会うことができたのだとしても、ディルがいないのなら、そしてディルが許さないのなら全く意味がなかった。
これほど転生してくれていてよかったと思ったことはないかもしれない。ルナが死んだことにより本来なら長いはずの命を終えようとしていた際に、ディルも当時のキャベル王の眷属である獅子のように転生しない魔法をかけていればもう、間違いなく完全に、二度と永遠に呪いは解かれることがなかったということだ。
大切な愛し子を再び傷つけることがあるならとディルは言っていたが、それこそフォルスは断言できる。リフィルナを傷つけるなんて絶対にしないし、誰にもさせない。愛し子であるかどうかなど関係なかった。国の繁栄のためなどクソくらえだと同じく断言できるくらいだ。愛し子など関係なく、フォルスはリフィルナ自身を守ると旅で思ったし今も思っているし、そして今後も思うだろう。
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