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第四章 白き竜
108話
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フォルスとしてはここまで弱ってしまうつもりではなかった。いや、力の限り何とか助けたいと思ったし何なら魔力が枯渇してでもと思ったのは本当だが、その後精霊の力を借りることができた時点では自分もそこまで弱っているとは思っていなかった。ようやく安心した上にディルから言われたことでだろうか、とうとう意識を保てなくなっただけでなく、夜が明けても尚、中々起き上がることすらできないとは思っていなかった。朝が来て目を覚ましてもうつらうつらとしてまた眠ってしまう。そこに自分の意志はなかった。
だがそこへ蛇の姿にまた擬態したディルがやってきて少々嫌そうな顔をしつつもフォルスの額をペロリと舐めてきた後、ゆっくりとだが自分の中にじわりじわりと力が戻っているのを自覚できるようになった。
『お前は思っていた以上に魔力を使い過ぎていたようだ。それでは死ななくとも回復に何日かかるやら。私のリフィルナを無駄に心配させるでない』
「……やっぱりディルの、力か……。あり、がとう。何だか、力、湧いて……きたよ」
どこかへ出ていたらしいコルジアがテントに戻ってきて一瞬怪訝な顔でフォルスを見てきたが、ディルを見て納得したような顔をし「今アルディス様が通信してこられて。リフィ……くんがお話をなさっておられます」とだけ口にすると何事もなかったかのように何やら取ってきたらしい果物などの皮を切ったりしている。
アルディスとリフィが?
二人は知り合いだったのか?
少しそれに気を取られていると、ディルが話を続けてきた。
『空気の抜けたような声で言われてもな。あと私も眷属契約を結んでいない人間相手に大した力は使えん』
「王族を……憎んでいたディルに力を、使って……もらえるだけでも、あり、がたい。……例え、親の仇みたい、な……顔で俺を舐めて、きてもな」
『そんな顔などしておらん。第一人間は蛇の表情などわからないものだとリフィルナの兄はリフィルナに言っておったぞ』
「リフィ……ルナ……。へ、ぇ? じゃあ、俺と……ディルの、信頼関係、の成せる業、だな……」
『今にも死にそうだったくせによくそう減らず口をたたける。まだ死にかけておるようだがまあとりあえずは大丈夫そうだな』
「俺を、そんなに心配、してくれたの、か?」
『たわけが。お前に私の記憶する過去を見せておこうと思ったのだが、そのようにうつらうつらと死にかけておられては見せるに見せられんからな。それだけだ』
ディルは無い鼻息を荒くして言い返してきた。それに対し少し笑ってからフォルスは「記憶する過去、を……。あの王のことか」と呟いた。
『ああ』
頭をコクリと動かすと、ディルは特殊な魔法を使ったのだろう、フォルスの脳裏に何やら映像が浮かび上がってきた。それらの記憶に、フォルス自身居たたまれなさや怒り、悲しみを覚えた。
『この記憶を見せたのは、私や他の幻獣、精霊たちの大切な愛し子を再び無残にも傷つけるようなことがあれば、その時こそ二度目はもうない、という警告のためだ』
「……俺は自分の血筋を恥じたことはない。それは、今も変わらないし、俺や大抵の王族、たちはガルシア家に恥じぬ行いをして、きたと思っている……。だ、が間違いなく、かの王も俺の血筋であり、間違いなく恥ずべきことを王、はした。それに関し……ても俺は認めるし改め、て心からの謝罪を……したいと思う。だがリフィには……」
『もちろん、伝える必要はないし謝罪も必要ない。ただ、決して傷つけるようなことをしないと誓えばよい』
「誓う」
『話はそれだけだ』
「わかった。……あり、がとう。コルジア……」
「はい」
「アルディス、と話が、したい」
「一旦休まれたほうがいいのでは」
「いい。早く、伝えたい。……リフィとまだ、話を、しているのだろう、か。リフィと知り、合い……」
「まだ話されてるかとは思います。とても仲がよさそうで、確かにお知り合いといったご様子ではありました。その、リフィ……くんはおそらくですが、侯爵令嬢ではないか、と。私もフォルス様の婚約パーティの時にしか目の当たりにはしておりませんが、フィールズ家末娘のリフィルナ嬢だと思われます。それに幻獣との眷属契約といい、間違いはないか、と」
「……フィールズ家」
ふと婚約を破棄したイルナをフォルスは思い出した。だがあのパーティで確かに挨拶をしたのかもしれないが、フィールズ家の者たちの顔を全然覚えていない。しかもそれよりもコルジアの言った「仲がよさそうで」という言葉のほうが気になってしまった。
……ああもしかして、以前アルディスが通信機の向こうで言っていた「気になる子」のことだろうか。
『とても気になっている人がいたんだけどね、その人が体を壊したか何だかで田舎に行ってしまったらしくて……』
「どういう人なんだ? というか気になるとは、どう気になるのだ? いや、そもそもアルディス、お前に一体いつ、そんな気になる人ができたのだ」
『質問が多いよ兄さん……あとそれは今はどうでもいいんだ』
「……その人がどういう人だかわからないだけに俺としてもお前を慰めようがないというか、意見しようがないというか、だな」
『ありがとう、兄さん。やっぱり優しいね。でもいいんだ、今は別に意見を求めたかったわけでもなくて……ただ俺のせいだろうかとか、具合は大丈夫なのだろうかとか、今どうしているんだろうとかつい気になってしまって、でも今の僕にはどうしようもなくて、というか近づかないほうがその人のためになるんだろうなと思うとどうもしちゃいけないというか……だからせめて兄さんに言って気を紛らわせたかっただけなのかなあ。僕のためにがんばってくれているのに、なんだかごめんね』
そんな会話を交わしたのを覚えている。気になる人。
ふと不意に胸やけにもにた感覚がした。もしかしたらまだ魔力があまり戻っていないままなのに喋り過ぎたせいかもしれないと思いつつ、フォルスはコルジアにアルディスたちを呼んできて欲しいと頼んだ。
だがそこへ蛇の姿にまた擬態したディルがやってきて少々嫌そうな顔をしつつもフォルスの額をペロリと舐めてきた後、ゆっくりとだが自分の中にじわりじわりと力が戻っているのを自覚できるようになった。
『お前は思っていた以上に魔力を使い過ぎていたようだ。それでは死ななくとも回復に何日かかるやら。私のリフィルナを無駄に心配させるでない』
「……やっぱりディルの、力か……。あり、がとう。何だか、力、湧いて……きたよ」
どこかへ出ていたらしいコルジアがテントに戻ってきて一瞬怪訝な顔でフォルスを見てきたが、ディルを見て納得したような顔をし「今アルディス様が通信してこられて。リフィ……くんがお話をなさっておられます」とだけ口にすると何事もなかったかのように何やら取ってきたらしい果物などの皮を切ったりしている。
アルディスとリフィが?
二人は知り合いだったのか?
少しそれに気を取られていると、ディルが話を続けてきた。
『空気の抜けたような声で言われてもな。あと私も眷属契約を結んでいない人間相手に大した力は使えん』
「王族を……憎んでいたディルに力を、使って……もらえるだけでも、あり、がたい。……例え、親の仇みたい、な……顔で俺を舐めて、きてもな」
『そんな顔などしておらん。第一人間は蛇の表情などわからないものだとリフィルナの兄はリフィルナに言っておったぞ』
「リフィ……ルナ……。へ、ぇ? じゃあ、俺と……ディルの、信頼関係、の成せる業、だな……」
『今にも死にそうだったくせによくそう減らず口をたたける。まだ死にかけておるようだがまあとりあえずは大丈夫そうだな』
「俺を、そんなに心配、してくれたの、か?」
『たわけが。お前に私の記憶する過去を見せておこうと思ったのだが、そのようにうつらうつらと死にかけておられては見せるに見せられんからな。それだけだ』
ディルは無い鼻息を荒くして言い返してきた。それに対し少し笑ってからフォルスは「記憶する過去、を……。あの王のことか」と呟いた。
『ああ』
頭をコクリと動かすと、ディルは特殊な魔法を使ったのだろう、フォルスの脳裏に何やら映像が浮かび上がってきた。それらの記憶に、フォルス自身居たたまれなさや怒り、悲しみを覚えた。
『この記憶を見せたのは、私や他の幻獣、精霊たちの大切な愛し子を再び無残にも傷つけるようなことがあれば、その時こそ二度目はもうない、という警告のためだ』
「……俺は自分の血筋を恥じたことはない。それは、今も変わらないし、俺や大抵の王族、たちはガルシア家に恥じぬ行いをして、きたと思っている……。だ、が間違いなく、かの王も俺の血筋であり、間違いなく恥ずべきことを王、はした。それに関し……ても俺は認めるし改め、て心からの謝罪を……したいと思う。だがリフィには……」
『もちろん、伝える必要はないし謝罪も必要ない。ただ、決して傷つけるようなことをしないと誓えばよい』
「誓う」
『話はそれだけだ』
「わかった。……あり、がとう。コルジア……」
「はい」
「アルディス、と話が、したい」
「一旦休まれたほうがいいのでは」
「いい。早く、伝えたい。……リフィとまだ、話を、しているのだろう、か。リフィと知り、合い……」
「まだ話されてるかとは思います。とても仲がよさそうで、確かにお知り合いといったご様子ではありました。その、リフィ……くんはおそらくですが、侯爵令嬢ではないか、と。私もフォルス様の婚約パーティの時にしか目の当たりにはしておりませんが、フィールズ家末娘のリフィルナ嬢だと思われます。それに幻獣との眷属契約といい、間違いはないか、と」
「……フィールズ家」
ふと婚約を破棄したイルナをフォルスは思い出した。だがあのパーティで確かに挨拶をしたのかもしれないが、フィールズ家の者たちの顔を全然覚えていない。しかもそれよりもコルジアの言った「仲がよさそうで」という言葉のほうが気になってしまった。
……ああもしかして、以前アルディスが通信機の向こうで言っていた「気になる子」のことだろうか。
『とても気になっている人がいたんだけどね、その人が体を壊したか何だかで田舎に行ってしまったらしくて……』
「どういう人なんだ? というか気になるとは、どう気になるのだ? いや、そもそもアルディス、お前に一体いつ、そんな気になる人ができたのだ」
『質問が多いよ兄さん……あとそれは今はどうでもいいんだ』
「……その人がどういう人だかわからないだけに俺としてもお前を慰めようがないというか、意見しようがないというか、だな」
『ありがとう、兄さん。やっぱり優しいね。でもいいんだ、今は別に意見を求めたかったわけでもなくて……ただ俺のせいだろうかとか、具合は大丈夫なのだろうかとか、今どうしているんだろうとかつい気になってしまって、でも今の僕にはどうしようもなくて、というか近づかないほうがその人のためになるんだろうなと思うとどうもしちゃいけないというか……だからせめて兄さんに言って気を紛らわせたかっただけなのかなあ。僕のためにがんばってくれているのに、なんだかごめんね』
そんな会話を交わしたのを覚えている。気になる人。
ふと不意に胸やけにもにた感覚がした。もしかしたらまだ魔力があまり戻っていないままなのに喋り過ぎたせいかもしれないと思いつつ、フォルスはコルジアにアルディスたちを呼んできて欲しいと頼んだ。
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