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第四章 白き竜

104話

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「コルジア!」

 コルジアの元へ駆けつけると、コルジアはホッとしたようにリフィを見てきた。

「リフィくん、傷はもう大丈夫なのですか? 痛いところはありませんか?」
「はい、もう全然。ありがとうございます」

 リフィが笑顔で言えば、コルジアはますます安心したような顔を見せてきた。相当心配してくれていたようだ。リフィの心がポカポカと温かくなる。

「あの、フォルは? 僕、フォルのおかげで死ななかったってディルに聞きました」
「……今は疲れて休んでます。あ、でも大丈夫ですよ、聞いたと思いますが確かに魔力を相当使いましたが命に別状はありません。休んだら元気になりますから。ですのであなたも今日はもう休んでください。あなた用のテントも横に用意してあります」

コルジアは一瞬何か考えるような風だったが、そう言ってきた。

『こやつが言うんだ、そなたもやはり休むといい』
「……はい。そうします。あの、フォルが目を覚ましたら僕は元気だってとりあえず伝えてください」
「ええ、そういたします。おやすみなさい、リフィくん」
「はい、おやすみなさい」

 とても心配だったしせめて一目でも様子を窺いたかったが、コルジアが言うのならその通りにしようとリフィは結局休むことにした。ある意味先ほどまで眠っていたようなものなので眠れるかなと思ったが、元気になったとはいえ体はまだ疲れていたようだ。気づけばテントの中でぐっすりだった。
 翌朝、目がすっきりと覚めたリフィはテントから出た。見れば日は既にかなり高くなっている。早めに眠ったというのにどうやら相当眠りこけていたようだ。やはりまだ疲れていたのだろう。

「でもすっきりだ」

 思い切り伸びをしていると、コルジアが隣のテントから出てきた。

「おはようございます、リフィくん」
「コルジア、おはようございます! と言っても早くなさそうだけど」
「ふふ。ぐっすり眠れたようでよかった」
「……フォルは?」
「起きてたんですが……今はまた眠っております。ああでも容体が悪いからではないですよ。リフィくん同様、疲れているんでしょう。眠らせてやってください。とりあえず温かいスープを用意しますね」

 コルジアはニコニコとしながら携帯燃料を使って準備し始めた。

「あ、僕が」
「いいえ、お気になさらず」

 その時、鞄にしまっていた通信機に反応があるのを感じた。もしかしたらコルドからかもしれない。いよいよ竜のいる島だと聞いて相当心配していたようだしその後連絡できていないのもあって、向こうから連絡しないという約束どころではなくなったのかもしれない。リフィは通信機を取り出して手元に置いた。だが通信できる状態にした際に自分のものではないと気づいた。多分昨夜フォルのものかもしれないと拾ったほうの通信機だ。慌てて切ろうと思ったがそれはそれで失礼かもしれない。間違えて出てしまったが本人は今いないと伝えたほうがいいだろうかとリフィは戸惑っていると通信相手が映った。

「……っアル?」

 思ってもみなかった相手がそこにいた。そのせいで思わずアルディスの呼び名を口にしていた。最近思うことがあったせいで幻覚を見ているのかと目を凝らしたが、やはりどう見てもアルディスに見える。
 向こうも呼び名を口にされて驚き、少し動揺している様子が窺えた。



 アルディスからすれば驚かないわけがなかった。呪いのこともあり、滅多に国民の前に顔を出さない。雰囲気は違うし髪の長さも違うとはいえ、双子であるフォルスと間違えてくるならまだしも、目の前の少年はアルディスを知っているかのようにそれも「アル」と呼んできた。
 すぐに落ち着きを取り戻して改めて見れば、以前フォルスと通信していた時にちらりと見た少年だ。あの時も何故か声や雰囲気が似ている気がしたのだが、まさかやはりそうなのだろうか。しかし目の前の少年はまごうことなき少年だ。とはいえリフィルナであるのなら、彼女は幻獣を眷属にしている少女だ。もしかしたらアルディスやフォルスすら使えない魔法で見た目を変えている可能性もなくはないのかもしれない。

「……リフィルナ……?」

 間違っていれば謝ればいい。それで済む。とはいえアルディスには確信があった。
 元々フォルスへはリフィルナの件で通信していた。竜の島へ着いてこれから岩山へ登るという話を聞いていたので、今する話ではないとは思いつつも相談したかった。もちろんフォルスが大変そうな状況ならリフィルナのことは口にせずに様子だけ窺うつもりだった。
 側近のウェイドが探してくれていたリフィルナの情報だが、知り合いから知り合いといった伝手でリフィルナの兄であるコルドと連絡を取る手段を得てくれたのだ。どうやらリフィルナと大層仲がよかったらしい兄と会う手段を取り付けてくれてアルディスとしてもありがたかった。基本的に誰とも面会はしないが、この場合は別だ。もちろん夜は絶対に駄目なので昼にアルディスの住居へ申し訳ないながらも来てもらった。
 長男のコットンはフィールズ家の跡取りということもあり面と向かっては会ったことがないながらも一方的に多少は知っていた。だがその弟のコルドのことは、かなり頭がよく最近は独自の経営で頭角を現しているらしいと耳にした程度だった。
 そのコルドと初めて面と向かって会い、話を聞いたところ、リフィルナはとある事情があって既にキャベル王国を出ているとわかった。ただし詳しい場所はわからないとも言われた。とりあえず原因に思い当たることしかなくて家を出た理由を聞いたが濁されたため、むしろやはり自分が原因なのではとアルディスは自業自得とはいえ落ち込んだ。ただコルドは親切にも「王子殿下、家庭の事情なので上手く話せないだけです」と言ってくれた。
 フォルスにはその件で事情を正直に話して相談してみようかと思っていた。旅に出ているフォルスの考えなどを聞いてみたかった。

「リフィルナ、だよ、ね……?」

 まさかこんなところでと思いつつ、アルディスの胸にとてつもなく込み上げるものがあった。
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