上 下
104 / 151
第四章 白き竜

103話

しおりを挟む
 抱擁を解いた後にリフィは「フォルとコルジアはどこ? 無事なの?」と聞いた。するとディルは目を細めてくる。何か考えているのだろうか。

「ディル?」
『あやつの見た目……リフィルナのトラウマを引き起こすやもしれんからな……』
「え? ど、どういうこと……? フォル、そんなに怪我がひどいの?」

 リフィは血の気が引くのがわかった。頭に水を被ったかのような冷たさを感じる。

『……だがいずれは知ること……それが今日というだけのことと考え……どのみち呪いを解くには戻らねばならんし、そうなると正体も否応なしに知ることとなる……』
「ディル? 何を言ってるの? 本当にどういうことなのっ? 僕が気絶している間に何があったの? 二人はひどいの……?」

 思わずぎゅっとディルの体をつかむと、ディルは我に返ったかのようにハッとしてきた。

『なんだって?』
「なんだって、は僕が言いたいよ。ディルが言ってること、全然わからない。二人はもしかしてかなりひどい状態なの?」
『……い、いや。違う。ちょっとまだ私も混乱ではないが気持ちが色々と高ぶってしまっているのか、考えが漏れたようだ。まだまだ未熟でしかない……。安心しろ、あの二人は怪我一つない』
「ほ、本当? 本当に?」
『ああ』
「っよかった」

 ホッとしたからだろうか、足の力が抜けてリフィはその場にへたり込んだ。

『まだ具合が悪いのか……?』
「違うよ。ディルだって今元気でしょ? それと同じ。僕も元気だよ……でもディルが変なことぶつぶつ言うから心配で心配で。でも大丈夫だって知って力、抜けちゃったんだよ」
『それはすまない。まさか考えが漏れるとは。昔の私にはまだ程遠いのだろうな……。とにかく気にするな。あやつらは明日、明後日には逆立ちで全力疾走すらできるようになっているだろうよ』
「えぇ……? それはちょっと見たいかも……。とりあえず無事なら会ってお礼言いたい。二人はどこ?」
『……うむ、そうだ、な。では案内しよう』

 ディルに促され、リフィも歩き出す。ふと、途中で何かを踏んだ。精霊の光があっても夜だ。足元は薄暗いため、リフィは確かめるためにも屈んでそれを拾った。

「……通信機?」
『リフィルナ? どうした』
「あ、ううん。大丈夫」

 慌ててまた歩き出しながら、リフィは自分の鞄を念のために調べようとして、改めて自分の服や鞄も炎でやられる前のままだということに気づいた。あれほど炎に包まれたら焼けてボロボロになっているはずだ。顔などは今見えないが、手も綺麗なままだし、こういったこともリフィが元気であることと同じ理由なのだろう。
 やはり自分の通信機は鞄の中に入っていた。拾ったものも明るいところで見たら誰のものかわかるだろうか。もしかしたらフォルのものかもしれないと、とりあえず一旦はそれも鞄の中にしまうことにした。

「ねえ、ディル」
『どうした?』
「僕の命だけでなくおそらくは酷い火傷とか諸々を治してくれたのは……」
『最終的に完全に治療してくれたのは精霊たちだ。私はそなた同様、弱っており何もできなかった。本当に未熟で情けないことに。だがな、精霊たちのいるここへ運ぶにもそなたも私も本当に死にかけていた。それを何とか救ってくれたのはフォル、……だ』
「フォルが……」
『瀕死のそなたにずっと癒しの魔法をかけていた。魔力が枯渇する寸前までだ』
「そ、んなことしたら……」
『ああ、下手をすれば死んでいたのはあやつだったかもしれん』
「なんてこと……」
『待て、そなたがそれを申し訳なく感じれば感じるほど、あやつにとっても辛いことであるのだと知っておくがいい』
「でも」
『逆に考えてみろ。もしあやつが瀕死の状態だった場合、そなたはきっと魔法を使って治そうとするだろう?』
「うん」
『まずその時点でそなたのことだ、もっと前に守れたかもしれないのにとか考えるだろう』
「そ、うかも」
『かも、じゃなくて間違いなくそうであろう。そしてその上、あまりにも状態がひどくていくら魔法を使っても治る様子がないとなると、そなたは諦めるか?』
「まさか!」
『そうだろうな。あやつに限らず、そなたは船でも自分の魔力の限界なんか過りもせずひたすら皆を治していた。あやつ以上に馬鹿者だからな、そなたは』

 馬鹿者、と言いながらもディルは優しい眼差しを向けてくれた。

『そうしてようやく回復の兆しが見えたその後、治ってもそなたに対してひたすら申し訳ながってこられればどんな気持ちになる?』
「……治ったのは嬉しい、けどちょっと悲しい、かな。どうせなら治ったことを喜んで欲しい」
『あやつがそなたと同じように思わんと、どうして思える?』
「……そ、っか。で、でも一度くらいは謝ってもいいかな? だって謝らないなんて無理だよ」
『まあ、それくらいは』
「うん」
『自分で考えることだ』
「ここで突き放すのっ?」
『フフ。ところでリフィルナ』
「何?」

 気づけば足が止まっていたため、二人ともまたゆっくりと歩きだした。

『そなたはキャベル王国へ戻る気はあるか?』
「え……? 何故急にそんなこと聞くの?」
『そなたに魔力をほぼ使い込んで今頃横になっているであろうあやつと約束があってな。だが事情はまた改めて話そう』
「うん、わかった。……僕は別に戻ってもいいよ。コルド兄様にも会いたいし、それに……」

 アルディスのことも実際どうなるか、どう思うかなどわからないが、多分大丈夫なのではとほんの少しだが思えている。
 リフィが言いかけたところでディルが足を止めた。見れば少し先にあるテントの前にコルジアがいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...