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第四章 白き竜
99話
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早く何とかしなければリフィは目の前の白い竜共々死んでしまう。だがそうは言っても先ほどから全力で魔法をかけ続けているがリフィに変化はなかった。いくら強力な魔力であっても本人に直接力が届き、そして漲らない限り傷すら治すことはできない。結局はその者の持つ生命力次第になってしまう。
「フォルス様、あなたとリフィくんをじっと見ていた竜ですがとうとう意識を失ったようです」
「……クソ」
説明しながら、コルジアはディルの容態を確認してくれているようだ。少しして「辛うじてまだ息をしています」と伝えてきた。ディルがまだ何とか生きていることにさえホッとしてしまう。
どれくらい時間が経っただろうか。延々とひたすらフォルが注いだ魔力はようやくリフィ自身をじわじわと癒してきたようだ。酷い状態には変わらないまでも傷は少なくとも塞がっているし多少は火傷痕も治っているように見えなくもない。
「フォルス様。リフィくんは多分もう命に別状はないと思います。傷などはまだ酷いですが、そろそろあなたも一旦休まないと、あなたが危ない」
確かにフォルの外見も既に元に戻っているようだ。時折チラチラと目に届く自分の髪色が金になっている。魔法で髪や目の色を変えていたので仕方がないことだろう。それだけもう魔力に余裕がないということだ。
「どう見てもあなたは疲れすぎてますよ。魔力を使い切るおつもりですか。一旦休んでください」
魔力が枯渇すれば疲れたり気持ちが悪くなる程度では済まなくなる。それこそ命に係わる。それはフォルもわかっている。だがここでやめるわけにはいかなかった。
こんなに酷い状態のリフィを見ていられないし耐え難い。この少女を絶対に守ろうと思っていたというのに、結局こんなひどいことになった。悔やんでも悔やみきれないし自分が許せない。
「すまない、コルジア……わかっている、が……だが」
コルジアが止めるのも聞かずに続けていると、魔力が手元からリフィへと流れている感覚すらわからなくなってきた。目も霞んでくる。
「フォルス様。これ以上なさるようでしたら私は実力行使で止めます」
「やめろ、俺に触れるな……! ……頼、む……せ、めてもう少し……」
「フォルス様!」
その時、さきほどまで意識を失って動かなくなっていたディルがよろよろとだがまた起き上がってきた。それを霞む目で見て、フォルはようやく少し力が抜けそうになった。意識さえ保てなくなったディルが起き上がったということは、少なくともそれくらいリフィが回復してきたということになる。
ディルはまだよろめきつつも近づき、顔でここから退くようフォルを押してきた。魔力を注ぎつつもその仕草に困惑している内にとうとうリフィから離された。フォルは慌ててリフィを取り返そうとする。
「ディル、待て。リフィはまだ苦しいはずだ。意識だってないし傷もマシになったとはいえ全然ひどい」
すると脳内に声が響いてきた。それは以前聞いた声だった。やはりディルの声なのだろう。
『大切な主を救ってくれて感謝する。だがこれ以上力を注げばお前自身の命が危ういだろう。そうなると例え主が生き延びても責任を感じ、傷つくのは目に見えている。お前もわかるだろう。そういう性格なのだと』
「そ、れは」
「フォルス様? どうされたんですか」
どうやらコルジアには聞こえていないらしい。フォルはとりあえずコルジアを見て頷いた。事情はわからなくともそれでコルジアは一旦黙った。
フォルはまたディルを見た。ディルは竜の姿だからだろうか。それともフォルを多少は認めてくれたのだろうか。白蛇の頃いつも忌々しそうだったり冷たい瞳でフォルを見てきたはずだったのだが、今の瞳は優しげに見える。
『主はもう大丈夫だ。私がこの方を運ぶから、お前たちもついてくるといい』
確信を持った話し方に、フォルはどうするのか把握していないもののようやく納得して立ち上がった。その際に眩暈がしてコルジアが慌てて支えてくる。
「コルジア。この竜の後についていく」
「御意」
枯渇していなくとも相当魔力を使ったせいで力が入らずによろけるフォルをコルジアが支えつつ、二人はディルの後に続いた。リフィはディルがそっと背中に乗せるとそのまま運んでいるが、まるで気持ちの良いベッドで休んでいるかのように体がゆったりと背中に預けられているようで、フォルも安心した。
そのまま後に続いて歩いて行くと、ディルはどんどん入ってきたところと反対側の奥へ進んでいく。しばらくは何もないような、冷たい色をした壁に挟まれた道を進んでいたが、少しするとまた開けた場所へ出た。
「ほぉ……」
息も絶え絶えになりかけていたフォルから思わず感嘆の声が漏れた。
冷たい色に挟まれていた状態から一変し、そこは明るい太陽の光が燦燦と優しい風と共に降り注ぐ、とても幻想的な場所だった。木々に囲まれた草原のかなり向こう側には滝が流れているのが霞んだ目にも辛うじて見える。そこにある湖は遠目で見てもキラキラと光っていた。桃源郷、シャングリラ、ザナドゥ──色んな呼び名があるだろうが、そう呼びたくもなるような場所だとフォルは思った。何よりも驚いたのは、その所々にいる竜の姿だった。
「フォルス様、あなたとリフィくんをじっと見ていた竜ですがとうとう意識を失ったようです」
「……クソ」
説明しながら、コルジアはディルの容態を確認してくれているようだ。少しして「辛うじてまだ息をしています」と伝えてきた。ディルがまだ何とか生きていることにさえホッとしてしまう。
どれくらい時間が経っただろうか。延々とひたすらフォルが注いだ魔力はようやくリフィ自身をじわじわと癒してきたようだ。酷い状態には変わらないまでも傷は少なくとも塞がっているし多少は火傷痕も治っているように見えなくもない。
「フォルス様。リフィくんは多分もう命に別状はないと思います。傷などはまだ酷いですが、そろそろあなたも一旦休まないと、あなたが危ない」
確かにフォルの外見も既に元に戻っているようだ。時折チラチラと目に届く自分の髪色が金になっている。魔法で髪や目の色を変えていたので仕方がないことだろう。それだけもう魔力に余裕がないということだ。
「どう見てもあなたは疲れすぎてますよ。魔力を使い切るおつもりですか。一旦休んでください」
魔力が枯渇すれば疲れたり気持ちが悪くなる程度では済まなくなる。それこそ命に係わる。それはフォルもわかっている。だがここでやめるわけにはいかなかった。
こんなに酷い状態のリフィを見ていられないし耐え難い。この少女を絶対に守ろうと思っていたというのに、結局こんなひどいことになった。悔やんでも悔やみきれないし自分が許せない。
「すまない、コルジア……わかっている、が……だが」
コルジアが止めるのも聞かずに続けていると、魔力が手元からリフィへと流れている感覚すらわからなくなってきた。目も霞んでくる。
「フォルス様。これ以上なさるようでしたら私は実力行使で止めます」
「やめろ、俺に触れるな……! ……頼、む……せ、めてもう少し……」
「フォルス様!」
その時、さきほどまで意識を失って動かなくなっていたディルがよろよろとだがまた起き上がってきた。それを霞む目で見て、フォルはようやく少し力が抜けそうになった。意識さえ保てなくなったディルが起き上がったということは、少なくともそれくらいリフィが回復してきたということになる。
ディルはまだよろめきつつも近づき、顔でここから退くようフォルを押してきた。魔力を注ぎつつもその仕草に困惑している内にとうとうリフィから離された。フォルは慌ててリフィを取り返そうとする。
「ディル、待て。リフィはまだ苦しいはずだ。意識だってないし傷もマシになったとはいえ全然ひどい」
すると脳内に声が響いてきた。それは以前聞いた声だった。やはりディルの声なのだろう。
『大切な主を救ってくれて感謝する。だがこれ以上力を注げばお前自身の命が危ういだろう。そうなると例え主が生き延びても責任を感じ、傷つくのは目に見えている。お前もわかるだろう。そういう性格なのだと』
「そ、れは」
「フォルス様? どうされたんですか」
どうやらコルジアには聞こえていないらしい。フォルはとりあえずコルジアを見て頷いた。事情はわからなくともそれでコルジアは一旦黙った。
フォルはまたディルを見た。ディルは竜の姿だからだろうか。それともフォルを多少は認めてくれたのだろうか。白蛇の頃いつも忌々しそうだったり冷たい瞳でフォルを見てきたはずだったのだが、今の瞳は優しげに見える。
『主はもう大丈夫だ。私がこの方を運ぶから、お前たちもついてくるといい』
確信を持った話し方に、フォルはどうするのか把握していないもののようやく納得して立ち上がった。その際に眩暈がしてコルジアが慌てて支えてくる。
「コルジア。この竜の後についていく」
「御意」
枯渇していなくとも相当魔力を使ったせいで力が入らずによろけるフォルをコルジアが支えつつ、二人はディルの後に続いた。リフィはディルがそっと背中に乗せるとそのまま運んでいるが、まるで気持ちの良いベッドで休んでいるかのように体がゆったりと背中に預けられているようで、フォルも安心した。
そのまま後に続いて歩いて行くと、ディルはどんどん入ってきたところと反対側の奥へ進んでいく。しばらくは何もないような、冷たい色をした壁に挟まれた道を進んでいたが、少しするとまた開けた場所へ出た。
「ほぉ……」
息も絶え絶えになりかけていたフォルから思わず感嘆の声が漏れた。
冷たい色に挟まれていた状態から一変し、そこは明るい太陽の光が燦燦と優しい風と共に降り注ぐ、とても幻想的な場所だった。木々に囲まれた草原のかなり向こう側には滝が流れているのが霞んだ目にも辛うじて見える。そこにある湖は遠目で見てもキラキラと光っていた。桃源郷、シャングリラ、ザナドゥ──色んな呼び名があるだろうが、そう呼びたくもなるような場所だとフォルは思った。何よりも驚いたのは、その所々にいる竜の姿だった。
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