100 / 151
第四章 白き竜
99話
しおりを挟む
早く何とかしなければリフィは目の前の白い竜共々死んでしまう。だがそうは言っても先ほどから全力で魔法をかけ続けているがリフィに変化はなかった。いくら強力な魔力であっても本人に直接力が届き、そして漲らない限り傷すら治すことはできない。結局はその者の持つ生命力次第になってしまう。
「フォルス様、あなたとリフィくんをじっと見ていた竜ですがとうとう意識を失ったようです」
「……クソ」
説明しながら、コルジアはディルの容態を確認してくれているようだ。少しして「辛うじてまだ息をしています」と伝えてきた。ディルがまだ何とか生きていることにさえホッとしてしまう。
どれくらい時間が経っただろうか。延々とひたすらフォルが注いだ魔力はようやくリフィ自身をじわじわと癒してきたようだ。酷い状態には変わらないまでも傷は少なくとも塞がっているし多少は火傷痕も治っているように見えなくもない。
「フォルス様。リフィくんは多分もう命に別状はないと思います。傷などはまだ酷いですが、そろそろあなたも一旦休まないと、あなたが危ない」
確かにフォルの外見も既に元に戻っているようだ。時折チラチラと目に届く自分の髪色が金になっている。魔法で髪や目の色を変えていたので仕方がないことだろう。それだけもう魔力に余裕がないということだ。
「どう見てもあなたは疲れすぎてますよ。魔力を使い切るおつもりですか。一旦休んでください」
魔力が枯渇すれば疲れたり気持ちが悪くなる程度では済まなくなる。それこそ命に係わる。それはフォルもわかっている。だがここでやめるわけにはいかなかった。
こんなに酷い状態のリフィを見ていられないし耐え難い。この少女を絶対に守ろうと思っていたというのに、結局こんなひどいことになった。悔やんでも悔やみきれないし自分が許せない。
「すまない、コルジア……わかっている、が……だが」
コルジアが止めるのも聞かずに続けていると、魔力が手元からリフィへと流れている感覚すらわからなくなってきた。目も霞んでくる。
「フォルス様。これ以上なさるようでしたら私は実力行使で止めます」
「やめろ、俺に触れるな……! ……頼、む……せ、めてもう少し……」
「フォルス様!」
その時、さきほどまで意識を失って動かなくなっていたディルがよろよろとだがまた起き上がってきた。それを霞む目で見て、フォルはようやく少し力が抜けそうになった。意識さえ保てなくなったディルが起き上がったということは、少なくともそれくらいリフィが回復してきたということになる。
ディルはまだよろめきつつも近づき、顔でここから退くようフォルを押してきた。魔力を注ぎつつもその仕草に困惑している内にとうとうリフィから離された。フォルは慌ててリフィを取り返そうとする。
「ディル、待て。リフィはまだ苦しいはずだ。意識だってないし傷もマシになったとはいえ全然ひどい」
すると脳内に声が響いてきた。それは以前聞いた声だった。やはりディルの声なのだろう。
『大切な主を救ってくれて感謝する。だがこれ以上力を注げばお前自身の命が危ういだろう。そうなると例え主が生き延びても責任を感じ、傷つくのは目に見えている。お前もわかるだろう。そういう性格なのだと』
「そ、れは」
「フォルス様? どうされたんですか」
どうやらコルジアには聞こえていないらしい。フォルはとりあえずコルジアを見て頷いた。事情はわからなくともそれでコルジアは一旦黙った。
フォルはまたディルを見た。ディルは竜の姿だからだろうか。それともフォルを多少は認めてくれたのだろうか。白蛇の頃いつも忌々しそうだったり冷たい瞳でフォルを見てきたはずだったのだが、今の瞳は優しげに見える。
『主はもう大丈夫だ。私がこの方を運ぶから、お前たちもついてくるといい』
確信を持った話し方に、フォルはどうするのか把握していないもののようやく納得して立ち上がった。その際に眩暈がしてコルジアが慌てて支えてくる。
「コルジア。この竜の後についていく」
「御意」
枯渇していなくとも相当魔力を使ったせいで力が入らずによろけるフォルをコルジアが支えつつ、二人はディルの後に続いた。リフィはディルがそっと背中に乗せるとそのまま運んでいるが、まるで気持ちの良いベッドで休んでいるかのように体がゆったりと背中に預けられているようで、フォルも安心した。
そのまま後に続いて歩いて行くと、ディルはどんどん入ってきたところと反対側の奥へ進んでいく。しばらくは何もないような、冷たい色をした壁に挟まれた道を進んでいたが、少しするとまた開けた場所へ出た。
「ほぉ……」
息も絶え絶えになりかけていたフォルから思わず感嘆の声が漏れた。
冷たい色に挟まれていた状態から一変し、そこは明るい太陽の光が燦燦と優しい風と共に降り注ぐ、とても幻想的な場所だった。木々に囲まれた草原のかなり向こう側には滝が流れているのが霞んだ目にも辛うじて見える。そこにある湖は遠目で見てもキラキラと光っていた。桃源郷、シャングリラ、ザナドゥ──色んな呼び名があるだろうが、そう呼びたくもなるような場所だとフォルは思った。何よりも驚いたのは、その所々にいる竜の姿だった。
「フォルス様、あなたとリフィくんをじっと見ていた竜ですがとうとう意識を失ったようです」
「……クソ」
説明しながら、コルジアはディルの容態を確認してくれているようだ。少しして「辛うじてまだ息をしています」と伝えてきた。ディルがまだ何とか生きていることにさえホッとしてしまう。
どれくらい時間が経っただろうか。延々とひたすらフォルが注いだ魔力はようやくリフィ自身をじわじわと癒してきたようだ。酷い状態には変わらないまでも傷は少なくとも塞がっているし多少は火傷痕も治っているように見えなくもない。
「フォルス様。リフィくんは多分もう命に別状はないと思います。傷などはまだ酷いですが、そろそろあなたも一旦休まないと、あなたが危ない」
確かにフォルの外見も既に元に戻っているようだ。時折チラチラと目に届く自分の髪色が金になっている。魔法で髪や目の色を変えていたので仕方がないことだろう。それだけもう魔力に余裕がないということだ。
「どう見てもあなたは疲れすぎてますよ。魔力を使い切るおつもりですか。一旦休んでください」
魔力が枯渇すれば疲れたり気持ちが悪くなる程度では済まなくなる。それこそ命に係わる。それはフォルもわかっている。だがここでやめるわけにはいかなかった。
こんなに酷い状態のリフィを見ていられないし耐え難い。この少女を絶対に守ろうと思っていたというのに、結局こんなひどいことになった。悔やんでも悔やみきれないし自分が許せない。
「すまない、コルジア……わかっている、が……だが」
コルジアが止めるのも聞かずに続けていると、魔力が手元からリフィへと流れている感覚すらわからなくなってきた。目も霞んでくる。
「フォルス様。これ以上なさるようでしたら私は実力行使で止めます」
「やめろ、俺に触れるな……! ……頼、む……せ、めてもう少し……」
「フォルス様!」
その時、さきほどまで意識を失って動かなくなっていたディルがよろよろとだがまた起き上がってきた。それを霞む目で見て、フォルはようやく少し力が抜けそうになった。意識さえ保てなくなったディルが起き上がったということは、少なくともそれくらいリフィが回復してきたということになる。
ディルはまだよろめきつつも近づき、顔でここから退くようフォルを押してきた。魔力を注ぎつつもその仕草に困惑している内にとうとうリフィから離された。フォルは慌ててリフィを取り返そうとする。
「ディル、待て。リフィはまだ苦しいはずだ。意識だってないし傷もマシになったとはいえ全然ひどい」
すると脳内に声が響いてきた。それは以前聞いた声だった。やはりディルの声なのだろう。
『大切な主を救ってくれて感謝する。だがこれ以上力を注げばお前自身の命が危ういだろう。そうなると例え主が生き延びても責任を感じ、傷つくのは目に見えている。お前もわかるだろう。そういう性格なのだと』
「そ、れは」
「フォルス様? どうされたんですか」
どうやらコルジアには聞こえていないらしい。フォルはとりあえずコルジアを見て頷いた。事情はわからなくともそれでコルジアは一旦黙った。
フォルはまたディルを見た。ディルは竜の姿だからだろうか。それともフォルを多少は認めてくれたのだろうか。白蛇の頃いつも忌々しそうだったり冷たい瞳でフォルを見てきたはずだったのだが、今の瞳は優しげに見える。
『主はもう大丈夫だ。私がこの方を運ぶから、お前たちもついてくるといい』
確信を持った話し方に、フォルはどうするのか把握していないもののようやく納得して立ち上がった。その際に眩暈がしてコルジアが慌てて支えてくる。
「コルジア。この竜の後についていく」
「御意」
枯渇していなくとも相当魔力を使ったせいで力が入らずによろけるフォルをコルジアが支えつつ、二人はディルの後に続いた。リフィはディルがそっと背中に乗せるとそのまま運んでいるが、まるで気持ちの良いベッドで休んでいるかのように体がゆったりと背中に預けられているようで、フォルも安心した。
そのまま後に続いて歩いて行くと、ディルはどんどん入ってきたところと反対側の奥へ進んでいく。しばらくは何もないような、冷たい色をした壁に挟まれた道を進んでいたが、少しするとまた開けた場所へ出た。
「ほぉ……」
息も絶え絶えになりかけていたフォルから思わず感嘆の声が漏れた。
冷たい色に挟まれていた状態から一変し、そこは明るい太陽の光が燦燦と優しい風と共に降り注ぐ、とても幻想的な場所だった。木々に囲まれた草原のかなり向こう側には滝が流れているのが霞んだ目にも辛うじて見える。そこにある湖は遠目で見てもキラキラと光っていた。桃源郷、シャングリラ、ザナドゥ──色んな呼び名があるだろうが、そう呼びたくもなるような場所だとフォルは思った。何よりも驚いたのは、その所々にいる竜の姿だった。
0
お気に入りに追加
388
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!
アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」
ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。
理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。
すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。
「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」
ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。
その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。
最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。
2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。
3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。
幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。
4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが…
魔王の供物として生贄にされて命を落とした。
5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。
炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。
そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り…
「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」
そう言って、ノワールは城から出て行った。
5度による浮いた話もなく死んでしまった人生…
6度目には絶対に幸せになってみせる!
そう誓って、家に帰ったのだが…?
一応恋愛として話を完結する予定ですが…
作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。
今回はHOTランキングは最高9位でした。
皆様、有り難う御座います!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる