銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第四章 白き竜

97話

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 リフィだけでなくフォルたちも戸惑いを隠せないようだった。どこかに先ほどのように出入り口が開くような仕掛けでもないのかと岩を慎重に手探りしたりしている。

『これも何か仕掛けがあるの?』

 ディルに尋ねると『そなたならわかるはずだ』とだけ返ってきた。先ほどのように教えてくれればいいのにと思いつつ、きっと自分で見つけないと駄目なのかもしれないとも考え、リフィは行き止まりの岩壁をじっくり観察した。一度見てもピンとこなかったし二度見てもやはりわからなかった。だがさらにもう少し念入りに見た三度目で、一か所何か違和感を感じる部分に気づいた。見た目は何も変わりのない様子なのだが、リフィの中でほんの少し感じる、まるで引き寄せられるかのような小さなそわそわとした違和感というのだろうか。
 恐る恐る手を伸ばし、その部分に触れてみた。もしかしたら先ほどのように胸元が熱くなるのかもしれないし、もっと怖い目に遭ったりするかもしれない。そう思うと恐る恐るにもなってしまう。幸い、体には何も感じなかった。だが指先に物理的な違和感を覚える。さらにしっかり触れると窪みのほうなものがすっと現れたことに気づいた。なにもなかったはずだが触れたことで魔法にかかったように窪みができたという感じだった。特殊な力のせいなのだろうか。その窪みを触れた後に改めて見ると、どこかで見たことのある形をしている。首を傾げて目を凝らし、気づいた。今は少年の姿だから見えないが、リフィの胸元にある紋章の形と同じだった。

「リフィ? どうした。何かあったのか?」

 背後からフォルが声をかけてきた。

「はい、あの、ここに窪みが……」

 触れると現れたが、今のところそれだけだと告げると、何か他にも手掛かりか仕掛けがあるかもしれないなとフォルとコルジアがその周辺を調べ始めた。それを眺めていたリフィは『窪みはできたけど、さっきみたいに熱くならないし光らないし、他にも条件がいるの?』とディルへ向き直った。ディルは先ほどのように答えてくれず、ただじっとフォルを見ているようだった。その顔に迷いを感じる。そういえば川を眺めながら話していた時もフォルたちのほうを見ていたディルを思い出す。フォルが何か関係あるのだろうか。

『ディル?』

 その時、コルジアが何か叫んだ。そして少し離れていたフォルの元へ走っている。ハッとなったリフィはコルジアを見た後変な影を感じた。上空に違和感を覚え、上を眺める。

「あ、れ何……」
『グルルだ……』

 珍しくディルが警戒をむき出しにしたような声で答えてきた。

「グ、グルル?」
「な、んであんな鳥が……リフィ、あの鳥は危険すぎる! 隠れてくれ!」

 フォルも知っているのか、そう叫ぶと剣を抜いた。コルジアは一旦リフィのそばへ来ると自分の背後に隠すように立ち、同じように剣を抜いた。

「隠れてください、リフィくん」

 確かにどう考えても足手まといだろう。ただ、隠れてと言われても大して隠れられるようなところはない。所々に小さな岩はあるが上からだと隠れられないだろうし、小さな穴くらいはあるがそこだと何とかリフィが入られてもディルと一緒には難しそうだ。

「そ、そうだ、ディル、鞄の中に……」
『グルルは竜の天敵だ……。この辺はそもそも魔物は近寄れないはずだと言うのに……しかもグルルは、あの怪鳥は本来なら竜と同じように賢く、絶対ここへ来るはずなどないというのに』
「ディル、鞄の中に入って! それにあのグルルって大きな鳥もはぐれ竜みたいなタイプかもしれないよ」

 改めてグルルを見上げ、リフィは恐怖に体が強張るのを感じた。ディルですら警戒する怪鳥。それもあんな上にいるのに大きい。それが降りてきたらどれほど大きいのだろうか。

「ディル! 鞄の……」
『っ迷っている場合ではなさそうだ』
「そうだよ、早く鞄に……」

 言いかけるリフィを無視して、ディルは先ほどリフィが触れて窪みになったところを凝視したかと思うと目を瞑った。まるで何か念じているように見える。

「ディル?」
『あやつら二人は確かに強いが、グルル相手には分が悪い。竜の住みかへの出入り口を今すぐ開ける! そこへはあの怪鳥も入られぬ』

 口早に言ってきたかと思うと、ディルの体が淡く光り始めた。それをリフィが見守っていると、フォルが「ディルは……」と何か言おうとしてきた。だがその前にグルルが一気に下りてきてリフィたちに向かって突進してきた。攻撃を受けずとも風圧だけで倒されそうだった。その上何も放たなくともその体から熱を発しているようだ。熱気でもやられそうな気がする。

「っきゃっ」
「リフィ! せめて伏せていろ!」

 そう言うとフォルはグルルに攻撃を始めた。コルジアも続く。だがあれほど強かった二人だというのにほとんど歯が立たなかった。剣が例え届いても、受けた傷は瞬時に塞がっていく。おまけにグルルはフォルたちを翼で薙ぎ払ったかと思うと間髪を入れずにすさまじい勢いの炎を吐いてきた。その炎は上空へと燃え上がるもののこの広まった場所をもくまなく燃やそうとしてきた。当然、リフィにも襲いかかってくる。
 フォルの叫ぶ声が聞こえた。リフィは怯えながらも何とか集中して一気に強い魔法を使おうとする。自分を守るだけじゃ駄目だ、ここにいる全員を守らなければ、と水魔法を放った。その強力な水魔法はグルルの炎を消していく。だがまた思い切り吐き出してきた炎がさらにそれを飲み込んできた。
 息ができない。あまりの高温に魔法どころか体そのものが保てない。痛みと熱で混乱する。ますます息ができない。意識が混濁していくリフィの前に、何やら大きな白い影が現れたような気がした。
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