銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

Guidepost

文字の大きさ
上 下
98 / 151
第四章 白き竜

97話

しおりを挟む
 リフィだけでなくフォルたちも戸惑いを隠せないようだった。どこかに先ほどのように出入り口が開くような仕掛けでもないのかと岩を慎重に手探りしたりしている。

『これも何か仕掛けがあるの?』

 ディルに尋ねると『そなたならわかるはずだ』とだけ返ってきた。先ほどのように教えてくれればいいのにと思いつつ、きっと自分で見つけないと駄目なのかもしれないとも考え、リフィは行き止まりの岩壁をじっくり観察した。一度見てもピンとこなかったし二度見てもやはりわからなかった。だがさらにもう少し念入りに見た三度目で、一か所何か違和感を感じる部分に気づいた。見た目は何も変わりのない様子なのだが、リフィの中でほんの少し感じる、まるで引き寄せられるかのような小さなそわそわとした違和感というのだろうか。
 恐る恐る手を伸ばし、その部分に触れてみた。もしかしたら先ほどのように胸元が熱くなるのかもしれないし、もっと怖い目に遭ったりするかもしれない。そう思うと恐る恐るにもなってしまう。幸い、体には何も感じなかった。だが指先に物理的な違和感を覚える。さらにしっかり触れると窪みのほうなものがすっと現れたことに気づいた。なにもなかったはずだが触れたことで魔法にかかったように窪みができたという感じだった。特殊な力のせいなのだろうか。その窪みを触れた後に改めて見ると、どこかで見たことのある形をしている。首を傾げて目を凝らし、気づいた。今は少年の姿だから見えないが、リフィの胸元にある紋章の形と同じだった。

「リフィ? どうした。何かあったのか?」

 背後からフォルが声をかけてきた。

「はい、あの、ここに窪みが……」

 触れると現れたが、今のところそれだけだと告げると、何か他にも手掛かりか仕掛けがあるかもしれないなとフォルとコルジアがその周辺を調べ始めた。それを眺めていたリフィは『窪みはできたけど、さっきみたいに熱くならないし光らないし、他にも条件がいるの?』とディルへ向き直った。ディルは先ほどのように答えてくれず、ただじっとフォルを見ているようだった。その顔に迷いを感じる。そういえば川を眺めながら話していた時もフォルたちのほうを見ていたディルを思い出す。フォルが何か関係あるのだろうか。

『ディル?』

 その時、コルジアが何か叫んだ。そして少し離れていたフォルの元へ走っている。ハッとなったリフィはコルジアを見た後変な影を感じた。上空に違和感を覚え、上を眺める。

「あ、れ何……」
『グルルだ……』

 珍しくディルが警戒をむき出しにしたような声で答えてきた。

「グ、グルル?」
「な、んであんな鳥が……リフィ、あの鳥は危険すぎる! 隠れてくれ!」

 フォルも知っているのか、そう叫ぶと剣を抜いた。コルジアは一旦リフィのそばへ来ると自分の背後に隠すように立ち、同じように剣を抜いた。

「隠れてください、リフィくん」

 確かにどう考えても足手まといだろう。ただ、隠れてと言われても大して隠れられるようなところはない。所々に小さな岩はあるが上からだと隠れられないだろうし、小さな穴くらいはあるがそこだと何とかリフィが入られてもディルと一緒には難しそうだ。

「そ、そうだ、ディル、鞄の中に……」
『グルルは竜の天敵だ……。この辺はそもそも魔物は近寄れないはずだと言うのに……しかもグルルは、あの怪鳥は本来なら竜と同じように賢く、絶対ここへ来るはずなどないというのに』
「ディル、鞄の中に入って! それにあのグルルって大きな鳥もはぐれ竜みたいなタイプかもしれないよ」

 改めてグルルを見上げ、リフィは恐怖に体が強張るのを感じた。ディルですら警戒する怪鳥。それもあんな上にいるのに大きい。それが降りてきたらどれほど大きいのだろうか。

「ディル! 鞄の……」
『っ迷っている場合ではなさそうだ』
「そうだよ、早く鞄に……」

 言いかけるリフィを無視して、ディルは先ほどリフィが触れて窪みになったところを凝視したかと思うと目を瞑った。まるで何か念じているように見える。

「ディル?」
『あやつら二人は確かに強いが、グルル相手には分が悪い。竜の住みかへの出入り口を今すぐ開ける! そこへはあの怪鳥も入られぬ』

 口早に言ってきたかと思うと、ディルの体が淡く光り始めた。それをリフィが見守っていると、フォルが「ディルは……」と何か言おうとしてきた。だがその前にグルルが一気に下りてきてリフィたちに向かって突進してきた。攻撃を受けずとも風圧だけで倒されそうだった。その上何も放たなくともその体から熱を発しているようだ。熱気でもやられそうな気がする。

「っきゃっ」
「リフィ! せめて伏せていろ!」

 そう言うとフォルはグルルに攻撃を始めた。コルジアも続く。だがあれほど強かった二人だというのにほとんど歯が立たなかった。剣が例え届いても、受けた傷は瞬時に塞がっていく。おまけにグルルはフォルたちを翼で薙ぎ払ったかと思うと間髪を入れずにすさまじい勢いの炎を吐いてきた。その炎は上空へと燃え上がるもののこの広まった場所をもくまなく燃やそうとしてきた。当然、リフィにも襲いかかってくる。
 フォルの叫ぶ声が聞こえた。リフィは怯えながらも何とか集中して一気に強い魔法を使おうとする。自分を守るだけじゃ駄目だ、ここにいる全員を守らなければ、と水魔法を放った。その強力な水魔法はグルルの炎を消していく。だがまた思い切り吐き出してきた炎がさらにそれを飲み込んできた。
 息ができない。あまりの高温に魔法どころか体そのものが保てない。痛みと熱で混乱する。ますます息ができない。意識が混濁していくリフィの前に、何やら大きな白い影が現れたような気がした。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

これぞほんとの悪役令嬢サマ!?

黒鴉宙ニ
ファンタジー
貴族の中の貴族と呼ばれるレイス家の令嬢、エリザベス。彼女は第一王子であるクリスの婚約者である。 ある時、クリス王子は平民の女生徒であるルナと仲良くなる。ルナは玉の輿を狙い、王子へ豊満な胸を当て、可愛らしい顔で誘惑する。エリザベスとクリス王子の仲を引き裂き、自分こそが王妃になるのだと企んでいたが……エリザベス様はそう簡単に平民にやられるような性格をしていなかった。 座右の銘は”先手必勝”の悪役令嬢サマ! 前・中・後編の短編です。今日中に全話投稿します。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!

アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」 ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。 理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。 すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。 「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」 ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。 その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。 最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。 2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。 3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。 幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。 4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが… 魔王の供物として生贄にされて命を落とした。 5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。 炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。 そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り… 「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」 そう言って、ノワールは城から出て行った。 5度による浮いた話もなく死んでしまった人生… 6度目には絶対に幸せになってみせる! そう誓って、家に帰ったのだが…? 一応恋愛として話を完結する予定ですが… 作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。 今回はHOTランキングは最高9位でした。 皆様、有り難う御座います!

処理中です...