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第四章 白き竜

96話

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 ずいぶん険しい道にも慣れてきた頃、歩いている途中でディルが『もう少しすれば洞窟がある。そこへ入れ』とリフィに伝えてきた。

『フォルたちに告げていい?』
『……ああ』
「フォル! コルジア! 待ってください」

 慣れてきてはいても数歩分は絶えず遅れをとっているリフィは前の二人に呼びかけた。リフィを気にしてくれているからだろう。大きな声を出さずとも二人はすぐに立ち止まり振り返ってきた。

「ディルがもう少ししたら洞窟があるからそこへ入れ、だそうです」
「ディルが? ディルは何か知っているのか?」

 フォルが少し怪訝な顔をしてくる。確かに実は竜なのだとは告げていないので至極当たり前な疑問だろう。

『幻獣の言うことを疑うなと言ってやれ』
「げ、幻獣の言うことを疑うな、だそうです」
「なるほど? まあ、そうだな。やみくもに頂上を目指してもきっと無駄だろう。上に行きさえすれば見つかるなら誰しもが見つけているしな」

 苦笑した後にフォルは真面目な顔で頷いてきた。コルジアも「そうですね」と同意している。
 フォルに「もう少しなんだよな? すまないが洞窟まではリフィが先に歩いてくれ。ディルが教えてくれた場所をそして知らせてくれるとありがたい」と言われ、初めて先頭を切った。少し誇らしいような気持ちでドキドキするが、このまま勝手に歩き続けていいのかとも気になりドキドキする。

 二人はついて来ている?
 変な仕掛けとかないかな?
 道、間違えていない? このまま進んで本当に大丈夫?

 普通の道でなく険しい山道の先頭は思っていた以上に神経を使うものだと知った。とはいえ三人仲良く優雅に並んで歩くような道ではなく、誰かが先頭に立たなければならない。基本はフォルが、時折コルジアが先頭を歩いていたが、よく二人とも何も消耗せずいられたなとリフィは内心しみじみ思った。さくさくと進み、絶えずリフィを窺う勢いで気にかけてくれる。改めて自分は二人に精神的に引っ張ってもらって歩いていたんだなと知った。

「大丈夫か?」

 後ろからフォルが聞いてくる。声をかけてもらえるだけでずいぶん安心した。

「はい、ありがとうございます!」

 しばらくするとディルがようやく『ここだ』と合図してきてくれた。

「こ、ここ?」

 どうやって入るのだ、と立ち止まって言われたところを見たリフィは唖然とする。どう見ても普通に岩だ。以前呪いの宝石をどうこうする時に入った洞窟をリフィは思い描く。あの時は広くはないものの明らかに「ここ、入れますよ」と洞窟が主張してくれていた。フォルと初めて出会った山の遭難の時の小さな洞穴でさえ、もっとわかりやすかった。今、目の当たりにしているところはそんな受け入れ姿勢が皆無過ぎる。やはり何度見直しても岩だ。
 そばにまで来たフォルたちも怪訝な顔をしている。

「ディル、どうやって入るの?」
『そなたなら開けられる。手をかざすがいい』

 わけがわからないまま、リフィは言われた通り手をかざした。とはいえどこにかざせばいいかもわからず、単に手を伸ばしたと言ったほうが近いかもしれない。だが位置的に問題なかったようだ。というか本当に問題がないのかはわからない。リフィの胸元が変に熱くなってきたからだ。確か元の姿では紋章があった位置であり、もしかして何か変なことになるのではと思わず手を引っ込めようとした。その前に淡く指先が光り、洞窟は口を開けた。

「……わ」
「リフィ、今のって……」

 フォルとコルジアがぽかんとしている。それはそうだろう。リフィが見ている側だとしてもしている。
 紋章の辺りが熱くなったということは、リフィが眷属を持つ者だから開いたのだろうか。だとしたらフォルたちも知っているから問題ないが、リフィが愛し子だから開いたのだとしたら打ち明けられない。フォルたちになら言っても大丈夫だと本能ではわかっているが、それでも気軽に打ち明けるものではないと理性でもわかっている。

「手をかざしたら開く仕組みだったのかもです。もしくは僕が眷属持ちだからとかそういう理由もあるの、かも。わかりませんが」

 とにかくそう答えておこう、とリフィが言えば「ディルは何か言っていないのか?」と聞かれた。

『いいからさっさと入れと言ってやれ。また閉じるぞ、と』
「えっと、いいからさっさと入るようにだそうです。でないとまた閉じちゃうみたいで」
「そうか」

 中はひんやりとしていた。そして薄暗い。だが灯りがないと進めないほどではなく、足元も一応見える程度にはどこからか光が入っているようだった。
 洞窟に入るまではまだたまに出ていた魔物も、この中にはいないのか全然襲ってこなくなった。とはいえディル曰く『この辺りに魔物は出ないはずだが気を抜くなよ』だそうで、リフィも一応緊張しながらまたフォルたちの後について歩いている。
 洞窟の中で色んな道を試行錯誤しながら歩くことになったらどうしようかと、本で読んだようなダンジョンをリフィは想像したが、道は特に枝分かれしている様子はなく、その点だけで言うなら気楽だった。そのままひたすら歩き続けた。それなりの時間は有しただろうか。ようやく最奥に辿り着こうとしていた。
 そこはとても開けた場所だった。今までは完全に洞窟の中といった雰囲気だったが、そこは広くなっているだけでなく日の光を感じる。見上げると空が見えた。どうやら上を覆う岩が全くない状態のようだ。ただしここから外へ出るのも外から中へ入るのも人間には不可能だと思えた。あまりに空が高い。魔法の力を使ってもし岩壁をよじ登ったとしても到底辿り着けないだろう。そして竜ならば、可能だろう。
 もしかしたらとうとう竜に会えるのかもしれないとドキドキしていたリフィはだがすぐに困惑することとなった。おそらく最奥だろうと思われるところは先に道がなく、完全に行き止まりになっていたからだ。
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