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第三章 旅立ち
90話
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呪いも解け、ようやく船も出港できるようになったと連絡も入った。マティアスたちに別れを告げ、整備の整った船に乗り込む。久しぶりの大きな船に、また船酔いをしてしまうのではとリフィは少し心配だったが杞憂に終わったようだ。
「僕のこの成長っぷりに、コルド兄さんに次会ったらびっくりするかも」
『安心するがいい、何が成長しているか見つけるのは大変そうだ』
「ディル、あなたたまに辛辣になったと思うんだけど僕に恨みでもあるの」
『私は元々こういう性格だ、それも安心するがいい』
「何をどう安心するの」
『それにそなたのことはこれでも何よりも大切だと思っている。安心できたか?』
「……うん、ようやく安心できたよ」
リフィはディルを抱きしめた。友情の抱擁は微笑ましいもののはずだが、はたから見れば蛇に抱きつく変わった少年といったところだろうか。
「多分次か次の上陸が目的地になるよ、ディル」
手すりにもたれ、海を眺めながらリフィは呟いた。
「そしたら、フォルとコルジアとは別行動になるのかな」
『さあ。あやつらは目的があるのだろうし、そうかもしれんな』
「……だよね」
冒険者となってたくさんの人と知り合った。だがそれと同じだけ別れもある。寂しいけれどそういうものだとリフィは思っていた。刹那的かもしれないがそういう生活を楽しむのなら仕方のないことだと。
だがフォルたちとは長らく近くにずっといたからだろうか。別行動どころかもしかしたらこれでお別れかもしれないと思うといつも以上に寂しく思えた。
『寂しいのか』
「うん、ちょっと。ディルがいるから一人でも平気だったし、むしろ自由が嬉しかったはずなのにね」
『……。せいせいするかもしれんぞ。第一満月の時だって変に気を遣わなくてよい』
「あはは、そうだね」
船が出てから晴れが続いており、海の青が太陽に反射してキラキラとした様子で目を楽しませてくれる。ただ海の上は焼けやすいのか、あまり無防備に肌を晒しているとリフィは後で泣く羽目になるだろうしと、ディルを肩に乗せて船の中へ戻ることにした。肌が白いせいか日に焼けて黒くなるより赤くなってしまう。一応魔法を応用して透明なヴェールのように皮膚の上に水の魔力の膜を張ってはいるが、強い日差しには勝てない。
部屋に戻る途中で船員のマーヴィンに会ったのでしばらく話した。このマーヴィンとも目的地に着けばお別れになる。それもやはり寂しいと思うが、フォルたちは格別な気がした。
「ねえ、ディル。こういうのが友だちに対する思いってやつなのかな」
『私に聞くな』
「何故」
『またリフィ特有の何故、か。私は神幻獣だぞ。人間の感覚なぞ知る訳ないだろう』
「それもそうかぁ」
部屋に着き、日に当たって少し疲れたのもあってリフィはベッドにころりと転がった。長くこの船で過ごしているのもあり、わりと我が家のような感覚がある。
初めて友だちというものを得た気がしたのが「アル」との出会いだった。だがその「アル」に殺されかけてトラウマになりそうなほどショックを受けてから、ディルとコルド以外ずっと固定の親しい人との付き合いをしたことがなかった。だからよくわからない。けれどもフォルたちとのお別れは格別に寂しいと思う。
友だち、かぁ。
ため息をついた後にリフィはとある名前を心の中で呟いた。
──アル。
アルディス・ガルシア。キャベル王国の第二王子。
殺されかけたショックで動揺していた時に姉であるイルナから「あれは王子であり、あなたはその王子から殺したいほど憎まれ、命を狙われている」と言われたため、信じられないと思いつつも鵜呑みにした。その後少し冷静になれてもショックから抜け切れず、また友だちとして大好きだったアルディスの殺意が込められた目と表情が恐ろしすぎて、楽しかったはずの思い出すら思い出すのも怖くなった。
その後コルドから「フォルス王子とアルディス王子が双子であり、イルナがアルディス王子をフォルス王子だと勘違いしたせいで嘘を吐いたようだ」と聞かされた。リフィは決して王族から命を狙われているのではないとコルドは言っていた。むしろ特別な地位を与えられるくらい大切にされているのだと。そして心の優しい人だと言われているアルディス王子が何故リフィを襲ったのかを調べている、と。だからトラウマを抱えて欲しくないとも言われた。
それでもあの頃はアルディスのことを考えるだけで、また少しでも話を聞くだけで体が勝手に凍り付いた。だからコルドにもその話は聞きたくないと告げたし、自分でもずっと避けていた。その後も思い出すたびに体が固まっていた。
だが最近色んなことがありすぎたせいだろうか。それとも時間がすべてを癒してくれるというのは本当なのだろうか。こうしてアルディスのことを考えても、以前のようにむやみやたらに恐れて体が凍り付くといったことはない。
アル──初めてのお友だち……。
久しぶりにアルディスのことを恐る恐るではあるが考えてみて、リフィは気づいた。自分があれほど恐ろしく思ったアルディスのことを、懐かしくさえ思っていることに。
フォルたちのことも、こんなに寂しいと思ってもいずれは懐かしく思えるのだろうか。
リフィは小さく微笑んだ。アルディスに会いたいなとそして少し思った。
「僕のこの成長っぷりに、コルド兄さんに次会ったらびっくりするかも」
『安心するがいい、何が成長しているか見つけるのは大変そうだ』
「ディル、あなたたまに辛辣になったと思うんだけど僕に恨みでもあるの」
『私は元々こういう性格だ、それも安心するがいい』
「何をどう安心するの」
『それにそなたのことはこれでも何よりも大切だと思っている。安心できたか?』
「……うん、ようやく安心できたよ」
リフィはディルを抱きしめた。友情の抱擁は微笑ましいもののはずだが、はたから見れば蛇に抱きつく変わった少年といったところだろうか。
「多分次か次の上陸が目的地になるよ、ディル」
手すりにもたれ、海を眺めながらリフィは呟いた。
「そしたら、フォルとコルジアとは別行動になるのかな」
『さあ。あやつらは目的があるのだろうし、そうかもしれんな』
「……だよね」
冒険者となってたくさんの人と知り合った。だがそれと同じだけ別れもある。寂しいけれどそういうものだとリフィは思っていた。刹那的かもしれないがそういう生活を楽しむのなら仕方のないことだと。
だがフォルたちとは長らく近くにずっといたからだろうか。別行動どころかもしかしたらこれでお別れかもしれないと思うといつも以上に寂しく思えた。
『寂しいのか』
「うん、ちょっと。ディルがいるから一人でも平気だったし、むしろ自由が嬉しかったはずなのにね」
『……。せいせいするかもしれんぞ。第一満月の時だって変に気を遣わなくてよい』
「あはは、そうだね」
船が出てから晴れが続いており、海の青が太陽に反射してキラキラとした様子で目を楽しませてくれる。ただ海の上は焼けやすいのか、あまり無防備に肌を晒しているとリフィは後で泣く羽目になるだろうしと、ディルを肩に乗せて船の中へ戻ることにした。肌が白いせいか日に焼けて黒くなるより赤くなってしまう。一応魔法を応用して透明なヴェールのように皮膚の上に水の魔力の膜を張ってはいるが、強い日差しには勝てない。
部屋に戻る途中で船員のマーヴィンに会ったのでしばらく話した。このマーヴィンとも目的地に着けばお別れになる。それもやはり寂しいと思うが、フォルたちは格別な気がした。
「ねえ、ディル。こういうのが友だちに対する思いってやつなのかな」
『私に聞くな』
「何故」
『またリフィ特有の何故、か。私は神幻獣だぞ。人間の感覚なぞ知る訳ないだろう』
「それもそうかぁ」
部屋に着き、日に当たって少し疲れたのもあってリフィはベッドにころりと転がった。長くこの船で過ごしているのもあり、わりと我が家のような感覚がある。
初めて友だちというものを得た気がしたのが「アル」との出会いだった。だがその「アル」に殺されかけてトラウマになりそうなほどショックを受けてから、ディルとコルド以外ずっと固定の親しい人との付き合いをしたことがなかった。だからよくわからない。けれどもフォルたちとのお別れは格別に寂しいと思う。
友だち、かぁ。
ため息をついた後にリフィはとある名前を心の中で呟いた。
──アル。
アルディス・ガルシア。キャベル王国の第二王子。
殺されかけたショックで動揺していた時に姉であるイルナから「あれは王子であり、あなたはその王子から殺したいほど憎まれ、命を狙われている」と言われたため、信じられないと思いつつも鵜呑みにした。その後少し冷静になれてもショックから抜け切れず、また友だちとして大好きだったアルディスの殺意が込められた目と表情が恐ろしすぎて、楽しかったはずの思い出すら思い出すのも怖くなった。
その後コルドから「フォルス王子とアルディス王子が双子であり、イルナがアルディス王子をフォルス王子だと勘違いしたせいで嘘を吐いたようだ」と聞かされた。リフィは決して王族から命を狙われているのではないとコルドは言っていた。むしろ特別な地位を与えられるくらい大切にされているのだと。そして心の優しい人だと言われているアルディス王子が何故リフィを襲ったのかを調べている、と。だからトラウマを抱えて欲しくないとも言われた。
それでもあの頃はアルディスのことを考えるだけで、また少しでも話を聞くだけで体が勝手に凍り付いた。だからコルドにもその話は聞きたくないと告げたし、自分でもずっと避けていた。その後も思い出すたびに体が固まっていた。
だが最近色んなことがありすぎたせいだろうか。それとも時間がすべてを癒してくれるというのは本当なのだろうか。こうしてアルディスのことを考えても、以前のようにむやみやたらに恐れて体が凍り付くといったことはない。
アル──初めてのお友だち……。
久しぶりにアルディスのことを恐る恐るではあるが考えてみて、リフィは気づいた。自分があれほど恐ろしく思ったアルディスのことを、懐かしくさえ思っていることに。
フォルたちのことも、こんなに寂しいと思ってもいずれは懐かしく思えるのだろうか。
リフィは小さく微笑んだ。アルディスに会いたいなとそして少し思った。
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