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第三章 旅立ち
88話
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あまりに魔物が増えた時はそれらをなぎ倒すように始末していきながらもフォルはリフィのことが心配でならなかった。ちらりとリフィを窺えばそれに気づいたリフィは笑みを向けてくる。だがそれも本当に大丈夫だからというよりはフォルたちが心配しないよう取り繕っているだけのように思え、余計に心配になる。とはいえあまりリフィのほうを窺うとむしろそれに対応するためリフィに隙ができてしまうかもしれない。それは避けなければならない。
今、俺にできることは少しでも多く魔物を倒すことだけか。
ルビーを探すこともままならないと、舌打ちをしながらもフォルは魔物に集中するしかなかった。リフィのことはきっと眷属である幻獣のディルが守ってくれるだろうと思うしかない。
相当倒した自覚はあったし、その内ようやく数が減ってきた気がした。また少しリフィを窺うと何か結界のようなモヤというのだろうか、光がリフィを取り巻くのに気づいた。リフィの魔力という感じはしなかったのでおそらくディルが張ったのだろう。白いとはいえ一見ただの蛇にしか見えないが、やはり幻獣だなとフォルはホッと安心してまた魔物に集中した。
しばらくすると今度はリフィがいた辺りから妙な力を感じた。気になってまたそちらをそっと窺うと、ぼんやりとした何かにしか見えなかった結界とはまた別の、とても美しい青の光がリフィを取り巻いている。その様子があまりに荘厳に見えて思わず跪きたくなった。
「フォル、あまりに気もそぞろではありませんか」
ふとコルジアの声がした。
「そんなことはない」
どうやらコルジアが戦っている辺りからはリフィの姿はあまり見えないか全く見えないかのようだ。見えていたらコルジアであってもきっと何らかの反応をしていたはずだとフォルは思う。
「リフィくんが気になるお気持ちはわかりますが」
「お前は何もわかっていない」
「とにかく、いくら魔物が思ったより強くないからと油断しているとあなたでもやられてしまいますよ」
「それはわかっている、油断はしていない」
「リフィくんが気になるお気持ちはわかりますけどね」
「何故二回も言ってきた……!」
本当にこいつは、と微妙な気持ちになりながら相変わらず魔物と戦っていると「フォル! 例のルビー、こっちにあるから!」というリフィの声が聞こえてきた。既にリフィの姿は見えなくなっていたが、声で方向だけは把握した。ここから離れるなんてと今すぐリフィの元へ駆けつけたいが、そうすれば魔物も引き連れることになる。フォルがリフィの側へ行くことによって結界も意味をなさなくなるだろう。多分あの結界は完全に姿を隠すものではなく、存在を見えなくしているだけだと思われる。だとしたらフォルによってその存在を知らしめることになってしまう。何故リフィがルビーを発見できたのかはわからないが、こうなると石を探すという目的はひとまず不要となったためフォルたちはひたすら魔物を倒してリフィを結果的に守るしかない。
「クソ。コルジア、とっとと全滅させるぞ」
「そうこなくては」
「楽しそうに言うな!」
いくらフォルたちにとっては大して強くもない魔物であっても、数があれば中々に苦戦もする。おまけにルビーの呪いによってもしかしたら今もなお、ひたすら魔物たちが吸い寄せられ集まってきている可能性もある。そうなると全滅など意味がない。リフィの結界が無駄になろうが合流してルビーの呪いを解くのをやはり先決したほうがいいだろうかとコルジアを呼ぼうとした時、さきほどリフィの声が聞こえてきた先からとてつもなくおぞましい気を感じた。災いを呼ぶルビーの呪いが強まったのかとフォルは青ざめた。
「っコルジア! 魔物を倒しながらリフィの元へ向かう!」
「御意!」
リフィは大丈夫なのだろうかと心臓が落ち着かない。だが駆けつけている途中で地面にしゃがんでいるリフィの姿が見えてとりあえずホッとした。とはいえどこか様子がおかしい気がした。少し足を緩めたフォルはまた急いで駆けつける。ただリフィのそばに着く前におぞましい気がふと消えてなくなった。その前後に何となくこの辺り一帯の空気が浄化されたような気がして、フォルは少し戸惑いながらリフィに近づく。
「リフィ……?」
「……、フォル! コルジアも。魔物、お疲れ様でした。お怪我はなさってませんか?」
フォルとコルジアに気づいたリフィが笑みを向けながら振り向き、立ち上がってきた。その際に少々ふらついてきたので慌てて支える。
「君こそ大丈夫なのか? その手にしているのはもしかして……」
「え? はい、大丈夫です。ちょっと力を使って疲れちゃったみたいで。駄目ですね、まだまだ軟弱みたいで。ルビーはもう触っても大丈夫ですよ。浄化、したので」
「え? あ、え? リフィ、君はルビーを見つけてくれただけじゃなくて呪いの浄化までやってのけたのか?」
どこにあるか全くわからなかったルビーを見つけただけでなく、相当力の強そうな呪いを浄化するなど、ちょっとした力程度では絶対に無理だ。船で大勢の者を癒した時も思ったが、どうやらそれなりに強そうだとは思っていたリフィの水魔法は相当なものなのかもしれない。ただ、そもそも癒す系とはいえ水魔法にあれほど禍々しい闇を感じさせる気を浄化するほどの力は多分基本的にない気がする。系統が違うというのだろうか。
「僕の力だけじゃなくて、ディルと……いえ、ディルの力も借りたので」
ディルと。
ふと、初めて出会った時にリフィの周りに感じた、嫌われているはずのフォルでもわかるほどの精霊の光をフォルは思い出した。もしかしたらディルだけでなく精霊の力も借りたのだろうか。
そう考えたフォルの脳裏に、先日船で見た目を開けているリフィの本当の姿が過った。
イエローとゴールドが混ざったような琥珀色の瞳に、白に近いシルバーの髪を持つ、あらゆる精霊、幻獣から愛されていた愛し子──
今、俺にできることは少しでも多く魔物を倒すことだけか。
ルビーを探すこともままならないと、舌打ちをしながらもフォルは魔物に集中するしかなかった。リフィのことはきっと眷属である幻獣のディルが守ってくれるだろうと思うしかない。
相当倒した自覚はあったし、その内ようやく数が減ってきた気がした。また少しリフィを窺うと何か結界のようなモヤというのだろうか、光がリフィを取り巻くのに気づいた。リフィの魔力という感じはしなかったのでおそらくディルが張ったのだろう。白いとはいえ一見ただの蛇にしか見えないが、やはり幻獣だなとフォルはホッと安心してまた魔物に集中した。
しばらくすると今度はリフィがいた辺りから妙な力を感じた。気になってまたそちらをそっと窺うと、ぼんやりとした何かにしか見えなかった結界とはまた別の、とても美しい青の光がリフィを取り巻いている。その様子があまりに荘厳に見えて思わず跪きたくなった。
「フォル、あまりに気もそぞろではありませんか」
ふとコルジアの声がした。
「そんなことはない」
どうやらコルジアが戦っている辺りからはリフィの姿はあまり見えないか全く見えないかのようだ。見えていたらコルジアであってもきっと何らかの反応をしていたはずだとフォルは思う。
「リフィくんが気になるお気持ちはわかりますが」
「お前は何もわかっていない」
「とにかく、いくら魔物が思ったより強くないからと油断しているとあなたでもやられてしまいますよ」
「それはわかっている、油断はしていない」
「リフィくんが気になるお気持ちはわかりますけどね」
「何故二回も言ってきた……!」
本当にこいつは、と微妙な気持ちになりながら相変わらず魔物と戦っていると「フォル! 例のルビー、こっちにあるから!」というリフィの声が聞こえてきた。既にリフィの姿は見えなくなっていたが、声で方向だけは把握した。ここから離れるなんてと今すぐリフィの元へ駆けつけたいが、そうすれば魔物も引き連れることになる。フォルがリフィの側へ行くことによって結界も意味をなさなくなるだろう。多分あの結界は完全に姿を隠すものではなく、存在を見えなくしているだけだと思われる。だとしたらフォルによってその存在を知らしめることになってしまう。何故リフィがルビーを発見できたのかはわからないが、こうなると石を探すという目的はひとまず不要となったためフォルたちはひたすら魔物を倒してリフィを結果的に守るしかない。
「クソ。コルジア、とっとと全滅させるぞ」
「そうこなくては」
「楽しそうに言うな!」
いくらフォルたちにとっては大して強くもない魔物であっても、数があれば中々に苦戦もする。おまけにルビーの呪いによってもしかしたら今もなお、ひたすら魔物たちが吸い寄せられ集まってきている可能性もある。そうなると全滅など意味がない。リフィの結界が無駄になろうが合流してルビーの呪いを解くのをやはり先決したほうがいいだろうかとコルジアを呼ぼうとした時、さきほどリフィの声が聞こえてきた先からとてつもなくおぞましい気を感じた。災いを呼ぶルビーの呪いが強まったのかとフォルは青ざめた。
「っコルジア! 魔物を倒しながらリフィの元へ向かう!」
「御意!」
リフィは大丈夫なのだろうかと心臓が落ち着かない。だが駆けつけている途中で地面にしゃがんでいるリフィの姿が見えてとりあえずホッとした。とはいえどこか様子がおかしい気がした。少し足を緩めたフォルはまた急いで駆けつける。ただリフィのそばに着く前におぞましい気がふと消えてなくなった。その前後に何となくこの辺り一帯の空気が浄化されたような気がして、フォルは少し戸惑いながらリフィに近づく。
「リフィ……?」
「……、フォル! コルジアも。魔物、お疲れ様でした。お怪我はなさってませんか?」
フォルとコルジアに気づいたリフィが笑みを向けながら振り向き、立ち上がってきた。その際に少々ふらついてきたので慌てて支える。
「君こそ大丈夫なのか? その手にしているのはもしかして……」
「え? はい、大丈夫です。ちょっと力を使って疲れちゃったみたいで。駄目ですね、まだまだ軟弱みたいで。ルビーはもう触っても大丈夫ですよ。浄化、したので」
「え? あ、え? リフィ、君はルビーを見つけてくれただけじゃなくて呪いの浄化までやってのけたのか?」
どこにあるか全くわからなかったルビーを見つけただけでなく、相当力の強そうな呪いを浄化するなど、ちょっとした力程度では絶対に無理だ。船で大勢の者を癒した時も思ったが、どうやらそれなりに強そうだとは思っていたリフィの水魔法は相当なものなのかもしれない。ただ、そもそも癒す系とはいえ水魔法にあれほど禍々しい闇を感じさせる気を浄化するほどの力は多分基本的にない気がする。系統が違うというのだろうか。
「僕の力だけじゃなくて、ディルと……いえ、ディルの力も借りたので」
ディルと。
ふと、初めて出会った時にリフィの周りに感じた、嫌われているはずのフォルでもわかるほどの精霊の光をフォルは思い出した。もしかしたらディルだけでなく精霊の力も借りたのだろうか。
そう考えたフォルの脳裏に、先日船で見た目を開けているリフィの本当の姿が過った。
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