上 下
89 / 151
第三章 旅立ち

88話

しおりを挟む
 あまりに魔物が増えた時はそれらをなぎ倒すように始末していきながらもフォルはリフィのことが心配でならなかった。ちらりとリフィを窺えばそれに気づいたリフィは笑みを向けてくる。だがそれも本当に大丈夫だからというよりはフォルたちが心配しないよう取り繕っているだけのように思え、余計に心配になる。とはいえあまりリフィのほうを窺うとむしろそれに対応するためリフィに隙ができてしまうかもしれない。それは避けなければならない。

 今、俺にできることは少しでも多く魔物を倒すことだけか。

 ルビーを探すこともままならないと、舌打ちをしながらもフォルは魔物に集中するしかなかった。リフィのことはきっと眷属である幻獣のディルが守ってくれるだろうと思うしかない。
 相当倒した自覚はあったし、その内ようやく数が減ってきた気がした。また少しリフィを窺うと何か結界のようなモヤというのだろうか、光がリフィを取り巻くのに気づいた。リフィの魔力という感じはしなかったのでおそらくディルが張ったのだろう。白いとはいえ一見ただの蛇にしか見えないが、やはり幻獣だなとフォルはホッと安心してまた魔物に集中した。
 しばらくすると今度はリフィがいた辺りから妙な力を感じた。気になってまたそちらをそっと窺うと、ぼんやりとした何かにしか見えなかった結界とはまた別の、とても美しい青の光がリフィを取り巻いている。その様子があまりに荘厳に見えて思わず跪きたくなった。

「フォル、あまりに気もそぞろではありませんか」

 ふとコルジアの声がした。

「そんなことはない」

 どうやらコルジアが戦っている辺りからはリフィの姿はあまり見えないか全く見えないかのようだ。見えていたらコルジアであってもきっと何らかの反応をしていたはずだとフォルは思う。

「リフィくんが気になるお気持ちはわかりますが」
「お前は何もわかっていない」
「とにかく、いくら魔物が思ったより強くないからと油断しているとあなたでもやられてしまいますよ」
「それはわかっている、油断はしていない」
「リフィくんが気になるお気持ちはわかりますけどね」
「何故二回も言ってきた……!」

 本当にこいつは、と微妙な気持ちになりながら相変わらず魔物と戦っていると「フォル! 例のルビー、こっちにあるから!」というリフィの声が聞こえてきた。既にリフィの姿は見えなくなっていたが、声で方向だけは把握した。ここから離れるなんてと今すぐリフィの元へ駆けつけたいが、そうすれば魔物も引き連れることになる。フォルがリフィの側へ行くことによって結界も意味をなさなくなるだろう。多分あの結界は完全に姿を隠すものではなく、存在を見えなくしているだけだと思われる。だとしたらフォルによってその存在を知らしめることになってしまう。何故リフィがルビーを発見できたのかはわからないが、こうなると石を探すという目的はひとまず不要となったためフォルたちはひたすら魔物を倒してリフィを結果的に守るしかない。

「クソ。コルジア、とっとと全滅させるぞ」
「そうこなくては」
「楽しそうに言うな!」

 いくらフォルたちにとっては大して強くもない魔物であっても、数があれば中々に苦戦もする。おまけにルビーの呪いによってもしかしたら今もなお、ひたすら魔物たちが吸い寄せられ集まってきている可能性もある。そうなると全滅など意味がない。リフィの結界が無駄になろうが合流してルビーの呪いを解くのをやはり先決したほうがいいだろうかとコルジアを呼ぼうとした時、さきほどリフィの声が聞こえてきた先からとてつもなくおぞましい気を感じた。災いを呼ぶルビーの呪いが強まったのかとフォルは青ざめた。

「っコルジア! 魔物を倒しながらリフィの元へ向かう!」
「御意!」

 リフィは大丈夫なのだろうかと心臓が落ち着かない。だが駆けつけている途中で地面にしゃがんでいるリフィの姿が見えてとりあえずホッとした。とはいえどこか様子がおかしい気がした。少し足を緩めたフォルはまた急いで駆けつける。ただリフィのそばに着く前におぞましい気がふと消えてなくなった。その前後に何となくこの辺り一帯の空気が浄化されたような気がして、フォルは少し戸惑いながらリフィに近づく。

「リフィ……?」
「……、フォル! コルジアも。魔物、お疲れ様でした。お怪我はなさってませんか?」

 フォルとコルジアに気づいたリフィが笑みを向けながら振り向き、立ち上がってきた。その際に少々ふらついてきたので慌てて支える。

「君こそ大丈夫なのか? その手にしているのはもしかして……」
「え? はい、大丈夫です。ちょっと力を使って疲れちゃったみたいで。駄目ですね、まだまだ軟弱みたいで。ルビーはもう触っても大丈夫ですよ。浄化、したので」
「え? あ、え? リフィ、君はルビーを見つけてくれただけじゃなくて呪いの浄化までやってのけたのか?」

 どこにあるか全くわからなかったルビーを見つけただけでなく、相当力の強そうな呪いを浄化するなど、ちょっとした力程度では絶対に無理だ。船で大勢の者を癒した時も思ったが、どうやらそれなりに強そうだとは思っていたリフィの水魔法は相当なものなのかもしれない。ただ、そもそも癒す系とはいえ水魔法にあれほど禍々しい闇を感じさせる気を浄化するほどの力は多分基本的にない気がする。系統が違うというのだろうか。

「僕の力だけじゃなくて、ディルと……いえ、ディルの力も借りたので」

 ディルと。

 ふと、初めて出会った時にリフィの周りに感じた、嫌われているはずのフォルでもわかるほどの精霊の光をフォルは思い出した。もしかしたらディルだけでなく精霊の力も借りたのだろうか。
 そう考えたフォルの脳裏に、先日船で見た目を開けているリフィの本当の姿が過った。
 イエローとゴールドが混ざったような琥珀色の瞳に、白に近いシルバーの髪を持つ、あらゆる精霊、幻獣から愛されていた愛し子──
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...