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第三章 旅立ち
87話
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「フォル! 例のルビー、こっちにあるから!」
勝手に行くことは避け、フォルに対して知らせるだけはとりあえず知らせるとリフィは感じ取った所へと向かった。該当するであろう場に立つとその場に屈みこんで岩と岩の間、ごつごつとしたわずかな隙間を即座に見つけ、手を突っ込もうとする。
『待て、不用意に突っ込むな』
だがディルの声にハッとなり、リフィはその手を引っ込めた。
『でもディル、手を入れないと取れないよ』
『それくらいなら蛇の姿でも取れる。少し下がれ』
『だ、大丈夫? 無理してない?』
『神幻獣に対してなんて無駄な心配を』
そうは言っても死にかけたディルを一度見ているだけにちょっとしたことでも不意に心配になってしまう。ディル曰く、あの時やリフィが山で遭難した時はまだ自分のことを思い出せていなかったから油断したのと上手く力も使いこなせてなかったのらしい。それを聞いた時は「ディルって記憶喪失だったの?」と驚いたが、それについてはあまり詳しく話してくれなかった。ただそう言われてみるといつからだろうか、山で遭難してフォルに助けてもらったあたりだろうか。ディルの雰囲気が変わったような気がしてディルに聞いたことがあるやり取りを思い出した。
「……っていうか今日のディル、ちょっと変じゃない?」
『私が変だと?』
「うん。なんだろう。なんだかね、尊大? 偉そう?」
『無礼な話だな』
「ごめんね、ちょっと言い方が浮かばないんだ。とにかく一気に賢者様みたいな感じになったみたいなね、そんな感じ」
そんな会話をしたものの、その時もそういえばディルは言葉を流して結局それに対して何も言ってくれなかった気がする。
やはり自分のことを思い出したから話し方とかも少々変わったのだろうか。思い出したからこそ力も上手く使えるのだろうか。だがもしそうだとしても、やはり大切な存在なので心配はしてしまう。
少しハラハラとしながら言われた通り少しだけ下がって見ていると、ディルは隙間の近くでじっと動かなくなった。だが代わりに岩のわずかな隙間からひびが入っては小さく砕けていき、少しずつ広がるそこからしばらくすると赤い石が浮かび上がってきた。
「そ、それだ」
思わず心の中でなく声に出していると『触れるでないぞ』とディルが石を浮かべたまま振り向いてきた。
「触ったら呪われる?」
『そういうこともよく分からんから不用意に触れるなと言っておる。とりあえず私が調べるまで待て』
「わ、わかった。じゃあフォルたちの手助けに──」
『行かなくてよい。あやつらだけで十分だろう。そなたはその間にこの石をどうにかすればよいのだ。だから少し待て』
「うん、わかった」
ディルはルビーを浮かせたまま、じっとそれを見つめだした。リフィはディルを見た後にルビーを見る。
禍々しい程の赤だった。本当に女王の血を吸っていてもおかしくないように思えた。そして確かに中にまるでトカゲが入っているかのような模様が見える。
「……これがシルクインクルージョンで出来た模様なんて、すごい……普通ならインクルージョンはないほうが価値があるけど……これは確かに市場に出ていたらとても高価な石と判断されていたかも」
思わず呟いたが、だからといって欲しいとは思えなかった。あまりに色や様子が禍々しい。呪いがなくともこれは触れたくないかもしれないなどとも思えてきた。
引きこもりとはいえ令嬢であった頃に宝石を見る機会はあるにはあった。ダイヤモンドの次に硬度の高いルビー自体とても価値のある宝石とされているが、中でもやはり一番価値があると言われているのがピジョンブラッドだ。でもリフィはそれよりも透明度が高くピンク色に近い赤の、チェリーピンクというカラーのルビーのほうが好きだった。
『やはり女王とやらの怨念と魔力が宿っているようだな。私がついているそなたであっても念のため触れないほうがいい。だがそなたであれば浄化はできるかもしれん』
「僕の力で?」
『ああ。私と、そしてこの周りに潜んでいる精霊の力も使う。フォルの魔法も本来浄化に向いてはいるが、あやつの場合は精霊がまず力を貸さん』
『何で? ああ、えっと僕はディルと眷属契約をしてるから精霊さんも力を貸してくれるってことかな』
際どい話かもしれないと、リフィはまた心の中で話した。
『……まぁ、そのようなものだ』
『ディル、また何か言葉濁してない? フォルのこととかディルの記憶云々とか、ちょいちょい言葉濁すのずるい』
『気のせいだ。そんなことよりとっとと浄化するぞ』
『あ、そうだね。それはそうだ。えっと、どうしたらいい?』
『祈ればよい。ただ祈るがいい』
『そんな抽象的な』
苦笑しながらも、リフィは言われた通り祈った。魔力をまた解放しつつ、ひたすら知らない過去の女王やこの石のことを祈る。そして自分の魔法でどうか禍々しい気が浄化されますようにと願いながら手を触れずにかざした。その手に見えない強い抵抗力を感じる。ぐっと唇を噛みしめてリフィはその手に力を再度込めた。痛みはないが、まるで筋肉を酷使するかのような厳しさを感じる。何とか鼻から息を吸い、口から吐きながら深呼吸を繰り返し、リフィはさらに力を込めた。
ふと、そこに先ほど感じたような清々しいものを感じた。精霊が力を貸してくれているのかもと心の片隅で思う。だがさらに強い抵抗を感じ、リフィは力を込めることに集中した。
どれくらい時間が経ったのだろうか。ふっと抵抗力を感じなくなった。自分を取り巻く気が一気に気持ちのいいものになるのがわかった。
『もう大丈夫だ』
ディルの声がして、リフィはようやく体の力を抜いた。
勝手に行くことは避け、フォルに対して知らせるだけはとりあえず知らせるとリフィは感じ取った所へと向かった。該当するであろう場に立つとその場に屈みこんで岩と岩の間、ごつごつとしたわずかな隙間を即座に見つけ、手を突っ込もうとする。
『待て、不用意に突っ込むな』
だがディルの声にハッとなり、リフィはその手を引っ込めた。
『でもディル、手を入れないと取れないよ』
『それくらいなら蛇の姿でも取れる。少し下がれ』
『だ、大丈夫? 無理してない?』
『神幻獣に対してなんて無駄な心配を』
そうは言っても死にかけたディルを一度見ているだけにちょっとしたことでも不意に心配になってしまう。ディル曰く、あの時やリフィが山で遭難した時はまだ自分のことを思い出せていなかったから油断したのと上手く力も使いこなせてなかったのらしい。それを聞いた時は「ディルって記憶喪失だったの?」と驚いたが、それについてはあまり詳しく話してくれなかった。ただそう言われてみるといつからだろうか、山で遭難してフォルに助けてもらったあたりだろうか。ディルの雰囲気が変わったような気がしてディルに聞いたことがあるやり取りを思い出した。
「……っていうか今日のディル、ちょっと変じゃない?」
『私が変だと?』
「うん。なんだろう。なんだかね、尊大? 偉そう?」
『無礼な話だな』
「ごめんね、ちょっと言い方が浮かばないんだ。とにかく一気に賢者様みたいな感じになったみたいなね、そんな感じ」
そんな会話をしたものの、その時もそういえばディルは言葉を流して結局それに対して何も言ってくれなかった気がする。
やはり自分のことを思い出したから話し方とかも少々変わったのだろうか。思い出したからこそ力も上手く使えるのだろうか。だがもしそうだとしても、やはり大切な存在なので心配はしてしまう。
少しハラハラとしながら言われた通り少しだけ下がって見ていると、ディルは隙間の近くでじっと動かなくなった。だが代わりに岩のわずかな隙間からひびが入っては小さく砕けていき、少しずつ広がるそこからしばらくすると赤い石が浮かび上がってきた。
「そ、それだ」
思わず心の中でなく声に出していると『触れるでないぞ』とディルが石を浮かべたまま振り向いてきた。
「触ったら呪われる?」
『そういうこともよく分からんから不用意に触れるなと言っておる。とりあえず私が調べるまで待て』
「わ、わかった。じゃあフォルたちの手助けに──」
『行かなくてよい。あやつらだけで十分だろう。そなたはその間にこの石をどうにかすればよいのだ。だから少し待て』
「うん、わかった」
ディルはルビーを浮かせたまま、じっとそれを見つめだした。リフィはディルを見た後にルビーを見る。
禍々しい程の赤だった。本当に女王の血を吸っていてもおかしくないように思えた。そして確かに中にまるでトカゲが入っているかのような模様が見える。
「……これがシルクインクルージョンで出来た模様なんて、すごい……普通ならインクルージョンはないほうが価値があるけど……これは確かに市場に出ていたらとても高価な石と判断されていたかも」
思わず呟いたが、だからといって欲しいとは思えなかった。あまりに色や様子が禍々しい。呪いがなくともこれは触れたくないかもしれないなどとも思えてきた。
引きこもりとはいえ令嬢であった頃に宝石を見る機会はあるにはあった。ダイヤモンドの次に硬度の高いルビー自体とても価値のある宝石とされているが、中でもやはり一番価値があると言われているのがピジョンブラッドだ。でもリフィはそれよりも透明度が高くピンク色に近い赤の、チェリーピンクというカラーのルビーのほうが好きだった。
『やはり女王とやらの怨念と魔力が宿っているようだな。私がついているそなたであっても念のため触れないほうがいい。だがそなたであれば浄化はできるかもしれん』
「僕の力で?」
『ああ。私と、そしてこの周りに潜んでいる精霊の力も使う。フォルの魔法も本来浄化に向いてはいるが、あやつの場合は精霊がまず力を貸さん』
『何で? ああ、えっと僕はディルと眷属契約をしてるから精霊さんも力を貸してくれるってことかな』
際どい話かもしれないと、リフィはまた心の中で話した。
『……まぁ、そのようなものだ』
『ディル、また何か言葉濁してない? フォルのこととかディルの記憶云々とか、ちょいちょい言葉濁すのずるい』
『気のせいだ。そんなことよりとっとと浄化するぞ』
『あ、そうだね。それはそうだ。えっと、どうしたらいい?』
『祈ればよい。ただ祈るがいい』
『そんな抽象的な』
苦笑しながらも、リフィは言われた通り祈った。魔力をまた解放しつつ、ひたすら知らない過去の女王やこの石のことを祈る。そして自分の魔法でどうか禍々しい気が浄化されますようにと願いながら手を触れずにかざした。その手に見えない強い抵抗力を感じる。ぐっと唇を噛みしめてリフィはその手に力を再度込めた。痛みはないが、まるで筋肉を酷使するかのような厳しさを感じる。何とか鼻から息を吸い、口から吐きながら深呼吸を繰り返し、リフィはさらに力を込めた。
ふと、そこに先ほど感じたような清々しいものを感じた。精霊が力を貸してくれているのかもと心の片隅で思う。だがさらに強い抵抗を感じ、リフィは力を込めることに集中した。
どれくらい時間が経ったのだろうか。ふっと抵抗力を感じなくなった。自分を取り巻く気が一気に気持ちのいいものになるのがわかった。
『もう大丈夫だ』
ディルの声がして、リフィはようやく体の力を抜いた。
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