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第三章 旅立ち
86話
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静かな声になったのは、いくら海賊といえども死体は死体だからだ。リフィは心の中で海賊たちのことをそっと祈るとフォルたちに続く。
既に海で溺れかけてフォルに迷惑をかけている。これ以上はできれば足を引っ張りたくなかった。
初めて乗った船が大きな船だったため特に気にしていなかったのだが、小舟というものは想像以上に小さかった。正直内心とても引いていた。確かにこんな舟なら戦いになれば本にあったようにとても揺れたであろうと目の当たりにして実感する。せっかく治った船酔いすらぶり返しそうだと思いつつ、フォルたちがあっけないほど簡単に襲ってくる魔物たちをさくさく倒していくのを感嘆の思いで見ていた。ディルとも心の中で話をして、もし万が一溺れることがあればコルドに教わったことのある対応でやり過ごし、それでもどうしようもない場合や魔物が襲ってくる場合はディルが力を使って何とかする、という取り決めをした。一応安心し、明るくいようと努めていたらしばらくすると魔物があまりにも多くてとうとう舟がひっくり返され、海の中に投げ出された。
咄嗟のことで必死になってもがきそうになったが、鞄の中にいたディルの『落ち着け』という頭に届いた声で我に返ることができた。じっとしながら息を止め、きっと浮かぶ、きっと大丈夫と必死になって思っているとフォルが助けてくれた。また迷惑をかけてしまったという悲しい気持ちと、やっぱりさすがフォルだという嬉しい気持ちに苛まれつつ、フォルに落ち込むところは見せたくないのでまた明るく振舞った。
だからこれ以上迷惑をかけたくない。とはいえ無理をしても無茶をしても間違いなく駄目なことになるだろう。リフィにできることは細心の注意を払い、ディルについていてもらいつつ自分の身を守り、自分の力が発揮できる状況になれば精一杯がんばることだ。
『にしてもフォルは何であんなに僕が服を脱ごうとすると嫌がるんだろ』
『……』
『ディル? 起きてる?』
『眠るわけないだろうが』
『だって返事がないから』
『どうでもよすぎて流しただけだ。ほら、ちゃんと周りをよく見ておけ』
『もう。でもそうだね、気をつけないとね』
洞窟の中は時折天井から滴る水のせいか下の海から漏れてくるのか、足場である岩は所々濡れているために滑りやすくなっていたりする。おまけに時折とても狭くなっていて歩きにくい。リフィでも狭いと感じるのだからフォルやコルジアはなおさらだろう。二人ともかなり背のあるコルドよりは多分少し低めだとは思うが、ハードカバーの本の高さよりさらにもう少しくらいはリフィより背がありそうだ。
『もっと差はあるのではないか』
「幅じゃなくて高さだよ。だからそれくらいだよ、それくらい。それくらい』
魔物は洞窟の中でも現れたが、今のところ先ほどの海よりはマシかもしれない。あれは一旦吸い寄せられた魔物が新たに他所へ向かおうとしているところだったのだろうか。そんなことを思っていたが、しばらく奥へ進むとまただんだんと数が増えてきた。フォルとコルジアがほとんどを倒していくが、それでも漏れてしまうくらい多くなっていく。リフィも剣で何とか倒していくが、二人と違ってどうにも手間取った。倒せないことはないが、簡単にというわけにはいかなかった。だがキツくても戦う手は緩められない。ひどい怪我をすればフォルたちが心配するだけじゃなく、リフィと契約しているディルの命も危なくなるのだ。
時折フォルが心配そうに窺ってくるのがわかる。リフィはニッコリと笑って見せた。僕は問題ありませんと笑顔で表してみせた。
『私の力を使うまでもないとはいえ、そなたが本当に危険な状態となれば有無を言わず力を使うし、場合によれば元の姿に戻るからな』
今までそんなことを一度も言ったことのないディルの言葉に、どうやらそれなりに大変な状況らしいとリフィは無我夢中になって魔物を倒していきながら思った。
神幻獣の力はきっとすごいものなのだろう。それにディルの本当の姿はリフィも見たことがないが、以前同じ場所に留まっていた時に過ごしていた宿を壊してしまうくらいの大きさはあるといった話は聞いた。本当にリフィだけでなくフォルたちの命も危ないのならそんなことは言っていられないが、フォルたちは少なくとも問題なく大量の魔物たちを倒している。ならできるだけディルの正体はバレないほうがいいような気が、同じく正体を隠しているリフィとしてはしたので『大丈夫、大丈夫だから』とディルに言い聞かせてから改めて気合いを入れて戦った。
おかげで集中力も高まったし自分の身に対してもさらに気遣いながら戦えたかもしれない。ようやく少し減ったのか、フォルとコルジアだけでまた対応できるようになったように思えた。
『これなら結界を張れるな』
『結界? なんの?』
『魔物からそなたを一時的に隠す結界だ。いきなりあんなに絶えず襲ってきてはさすがに隠すこともできんかったからな。最初から張ればよいのだろうが、大したことでもないのにそれなりに魔力がいるものを無駄に使うものでもないからな』
ディルはリフィの腕に巻きつくと軽くだが噛んできた。前にも何らかで噛まれた気がする。
『噛まなきゃなの?』
『接触したほうがかけやすい。痛くはないだろう?』
『うん、大丈夫』
実際魔物は全くリフィのほうへ来なくなり、これ幸いと周りに注意を巡らせた。ルビーを探すためだ。これほど魔物が集まっているということは、もしかしたら例のルビーが近くにあるのかもしれない。
……どこ……?
これほどの魔物を吸い寄せる禍々しい力があるのなら、何か感じられるのではないだろうか。改めてフォルたちの様子を窺い、魔物がこちらへやってくる気配は今のところないことを確認すると、リフィは『魔力を使っても結界は大丈夫?』と聞いた。ディルが『そなたの魔法なら』と頷くと自分の魔力を解放した。
水の魔法に魔力探索といった力はない。だが浄化する力を応用して、禍々しい気を探すことができるのではないかと思ったのだ。
集中していると、海や島の木々といった自然のものが近いからか、自分だけではなくおそらくではあるが精霊の力もなんとなく感じた。体が清々しいものに包まれたように思う。
実際傍から見るとリフィの体は美しい青の光に包まれていた。とはいえ自分ではその光はあまりわからない。ただ、ひたすら清々しい気持ちになった。と同時に少し離れた場所からとてつもなく禍々しい気を感じた。
──見つけた。
既に海で溺れかけてフォルに迷惑をかけている。これ以上はできれば足を引っ張りたくなかった。
初めて乗った船が大きな船だったため特に気にしていなかったのだが、小舟というものは想像以上に小さかった。正直内心とても引いていた。確かにこんな舟なら戦いになれば本にあったようにとても揺れたであろうと目の当たりにして実感する。せっかく治った船酔いすらぶり返しそうだと思いつつ、フォルたちがあっけないほど簡単に襲ってくる魔物たちをさくさく倒していくのを感嘆の思いで見ていた。ディルとも心の中で話をして、もし万が一溺れることがあればコルドに教わったことのある対応でやり過ごし、それでもどうしようもない場合や魔物が襲ってくる場合はディルが力を使って何とかする、という取り決めをした。一応安心し、明るくいようと努めていたらしばらくすると魔物があまりにも多くてとうとう舟がひっくり返され、海の中に投げ出された。
咄嗟のことで必死になってもがきそうになったが、鞄の中にいたディルの『落ち着け』という頭に届いた声で我に返ることができた。じっとしながら息を止め、きっと浮かぶ、きっと大丈夫と必死になって思っているとフォルが助けてくれた。また迷惑をかけてしまったという悲しい気持ちと、やっぱりさすがフォルだという嬉しい気持ちに苛まれつつ、フォルに落ち込むところは見せたくないのでまた明るく振舞った。
だからこれ以上迷惑をかけたくない。とはいえ無理をしても無茶をしても間違いなく駄目なことになるだろう。リフィにできることは細心の注意を払い、ディルについていてもらいつつ自分の身を守り、自分の力が発揮できる状況になれば精一杯がんばることだ。
『にしてもフォルは何であんなに僕が服を脱ごうとすると嫌がるんだろ』
『……』
『ディル? 起きてる?』
『眠るわけないだろうが』
『だって返事がないから』
『どうでもよすぎて流しただけだ。ほら、ちゃんと周りをよく見ておけ』
『もう。でもそうだね、気をつけないとね』
洞窟の中は時折天井から滴る水のせいか下の海から漏れてくるのか、足場である岩は所々濡れているために滑りやすくなっていたりする。おまけに時折とても狭くなっていて歩きにくい。リフィでも狭いと感じるのだからフォルやコルジアはなおさらだろう。二人ともかなり背のあるコルドよりは多分少し低めだとは思うが、ハードカバーの本の高さよりさらにもう少しくらいはリフィより背がありそうだ。
『もっと差はあるのではないか』
「幅じゃなくて高さだよ。だからそれくらいだよ、それくらい。それくらい』
魔物は洞窟の中でも現れたが、今のところ先ほどの海よりはマシかもしれない。あれは一旦吸い寄せられた魔物が新たに他所へ向かおうとしているところだったのだろうか。そんなことを思っていたが、しばらく奥へ進むとまただんだんと数が増えてきた。フォルとコルジアがほとんどを倒していくが、それでも漏れてしまうくらい多くなっていく。リフィも剣で何とか倒していくが、二人と違ってどうにも手間取った。倒せないことはないが、簡単にというわけにはいかなかった。だがキツくても戦う手は緩められない。ひどい怪我をすればフォルたちが心配するだけじゃなく、リフィと契約しているディルの命も危なくなるのだ。
時折フォルが心配そうに窺ってくるのがわかる。リフィはニッコリと笑って見せた。僕は問題ありませんと笑顔で表してみせた。
『私の力を使うまでもないとはいえ、そなたが本当に危険な状態となれば有無を言わず力を使うし、場合によれば元の姿に戻るからな』
今までそんなことを一度も言ったことのないディルの言葉に、どうやらそれなりに大変な状況らしいとリフィは無我夢中になって魔物を倒していきながら思った。
神幻獣の力はきっとすごいものなのだろう。それにディルの本当の姿はリフィも見たことがないが、以前同じ場所に留まっていた時に過ごしていた宿を壊してしまうくらいの大きさはあるといった話は聞いた。本当にリフィだけでなくフォルたちの命も危ないのならそんなことは言っていられないが、フォルたちは少なくとも問題なく大量の魔物たちを倒している。ならできるだけディルの正体はバレないほうがいいような気が、同じく正体を隠しているリフィとしてはしたので『大丈夫、大丈夫だから』とディルに言い聞かせてから改めて気合いを入れて戦った。
おかげで集中力も高まったし自分の身に対してもさらに気遣いながら戦えたかもしれない。ようやく少し減ったのか、フォルとコルジアだけでまた対応できるようになったように思えた。
『これなら結界を張れるな』
『結界? なんの?』
『魔物からそなたを一時的に隠す結界だ。いきなりあんなに絶えず襲ってきてはさすがに隠すこともできんかったからな。最初から張ればよいのだろうが、大したことでもないのにそれなりに魔力がいるものを無駄に使うものでもないからな』
ディルはリフィの腕に巻きつくと軽くだが噛んできた。前にも何らかで噛まれた気がする。
『噛まなきゃなの?』
『接触したほうがかけやすい。痛くはないだろう?』
『うん、大丈夫』
実際魔物は全くリフィのほうへ来なくなり、これ幸いと周りに注意を巡らせた。ルビーを探すためだ。これほど魔物が集まっているということは、もしかしたら例のルビーが近くにあるのかもしれない。
……どこ……?
これほどの魔物を吸い寄せる禍々しい力があるのなら、何か感じられるのではないだろうか。改めてフォルたちの様子を窺い、魔物がこちらへやってくる気配は今のところないことを確認すると、リフィは『魔力を使っても結界は大丈夫?』と聞いた。ディルが『そなたの魔法なら』と頷くと自分の魔力を解放した。
水の魔法に魔力探索といった力はない。だが浄化する力を応用して、禍々しい気を探すことができるのではないかと思ったのだ。
集中していると、海や島の木々といった自然のものが近いからか、自分だけではなくおそらくではあるが精霊の力もなんとなく感じた。体が清々しいものに包まれたように思う。
実際傍から見るとリフィの体は美しい青の光に包まれていた。とはいえ自分ではその光はあまりわからない。ただ、ひたすら清々しい気持ちになった。と同時に少し離れた場所からとてつもなく禍々しい気を感じた。
──見つけた。
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