銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

Guidepost

文字の大きさ
上 下
86 / 151
第三章 旅立ち

85話

しおりを挟む
 小舟は城で準備してもらった。話を聞いたマティアスが「おれも行きたかった」と言いながら手配してくれた。

「あなたはもうすぐしたら隣国へ行って今度は正式な婚礼を上げるんだから余計なことなどしている余裕なんかないぞ」
「わかってるけどさ。面白そうだし。でも危険そうでもあるしな、本当に気をつけてくれ」
「ああ、もちろん。舟、助かるよ」
「何を言っているんだ。既に船が出せないほどの影響がこの国にも出ているんだぞ。むしろお前たちの行動に褒美や金を払いたいくらいだ。頼んだぞ」

 外洋からだと魔物が出たり荒波や渦潮など様々な問題が発生するかもしれないが、小舟で行けるくらいの内海は穏やかなものだった。時折、ルビーに吸い寄せられたのであろう魔物の一部が潜んでいることはあったが、雑魚も雑魚で問題にもならない。リフィが言うには「僕からしたら雑魚とは、と首を傾げたくなりますが」らしいし、フォルとしても油断だけはするつもりはなかったが、とにかく楽に小さな島の間をすり抜けていくことはできた。
 ただ、例の小さな島が近づくとさすがに「確かにこれでは船を出すにも警戒してしまうな」と思うくらい内海でも魔物が増えてきた。全然問題ないレベルの魔物であっても少々数が多すぎる。挙句、もうすぐ着くという手前くらいでとうとう小舟をひっくり返された。フォルは合図を送ってコルジアに魔物の対応を任せつつ、真っ先にリフィの元へ向かった。すぐに見つけたが、リフィはどうしたのだろうというくらいジッとしたまま一旦沈んでいる。慌てて抱き寄せるとフォルは水面に出た。そして陸地へ向かった。

「何であんなにジッとしてたの?」
「兄に教わったんです。川じゃなければ溺れた時は息を止めてじっと動くなって。じゃあ自然と体が浮かぶからって。川はその前に流されちゃうから何か浮いているものがあればそれをつかめと言われてます」

 ああ、泳げないんだなと理解した。確かにもし本来それなりの身分だったなら、しかも女の身なら大抵の人は泳げないかもしれない。その辺を失念していた自分をフォルは内心責めた。

「うん……そうだな。ただ今回は魔物がたくさんいるから……」
「それに関してはディルが守ってくれる予定ではあったので……でもフォルが助けてくれましたね、ありがとうございます!」

 どうやらリフィとディルの間で一応対策済みではあったようだ。とはいえ泳げないなら小舟なんて乗るのも怖いものだと思うのだが、リフィはずっと楽しそうだった。本当に楽しんでいたのかもしれないし、もしかしたら明るく振舞っていたのかもしれない。どちらにしてもリフィらしい。

「……君らしいというか」
「もしかして僕、呆れられてます?」

 リフィはそんなことを言いながら服を脱ごうとした。

「っ待て! 何故服を脱ごうとしている」
「海水でずぶ濡れだからですが……」
「そ、そうだが、しかしそれは俺が乾かしてあげるから脱ぐのはやめなさい」
「……そういえば初めて会った時もそんなことありましたね」

 あはは、とリフィが笑っていると「そういうことがあったんですね」とコルジアの声がした。振り返るとニコニコとした顔でこちらに近づいてきている。見れば小舟もちゃんと回収してくれているようだった。その辺はやはり優秀だとフォルも思う。

「酷いですよ、全部私に任せるんですから。でもまあ、リフィくんを守るためなら仕方がありませんね、渋々ですがチャラにして差し上げましょう」
「一言多い……けどまあ助かった。ありがとう、コルジア」

 ため息をつきながら言えばコルジアも服を脱ぎながら「いえいえ、で続きを聞かせてください」などと言ってくる。

「煩い」
「……あの、コルジアはいいんですか?」
「? 何が?」

 何の話だとフォルはリフィを見た。

「服、脱ぐの」
「……あ、いや」

 正直コルジアはどうでもいい。とはいえそれを口にするとまた「少年が好きなのか」などと勘違いされかねない。
 そうではなく君が元々女だからどうにも気を遣うのだと、しかし口にするわけにもいかない。

「コルジアは見慣れているしあいつは別に……」
「見慣れているんですか」
「いや、待て、違うからな? まさかコルジアまでもが俺の性的嗜好だなんて間違っても思わないでくれ……それはとてつもなく嫌だ。本当に嫌だ。心の底から否定するからな?」
「いえ、僕は別にそこまで……」
「私とフォルがですか? 一方的に私が振られている感じですが、もちろん私にも拒否権はあるんでしょうね?」
「コルジアは黙っててくれ……!」

 その後魔法を使って皆の服を乾かし、自分の分だけは自分でそのままは無理なので結局一旦脱いでから乾かすと、フォルたちはようやく島を歩き始めた。乾いても少し服などがベタつくが仕方ない。
 ここは実際に小さな島のようで、背の高い木やちょっとした小山以外には特になにもなさそうに見える。だが少しすると岩の間に出入りできそうな隙間を見つけた。警戒しつつなんとか入ると、中は奥行きがかなりありそうだし広かった。外にもいくつか転がっているのは見かけたが、ここでも所々におそらく海賊であったのだろう骸骨が転がっている。
 死体は環境などによってかなり左右されるが、放置していた場合だと寒い冬でなければ十日から二週間もあれば白骨化するだろう。埋められていた場合は何年もかかるが、洞窟の中とはいえむき出しであるため、少なくとも一か月もかかってはいないとは思われた。幸い悪臭もすでにない。
 リフィをそっと窺ってみたが、変に怯えた様子はなかった。そういうところも元は女だというのに純粋にすごいなとフォルは思う。

「死体は怖くないのか?」
「骨ですしまだ。過程だったら少し怖かったかもしれません。ただ、冒険者として仕事をしていると何度か死体に遭遇することもあったので、鍛えられたのかもですね」

 リフィは静かな声で返してきた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

処理中です...