銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

83話

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 親方もまた人から聞いた話のようだったが、だいたい噂というのはこうして広まるものだろうし驚くことでもない。信憑性があるかどうかは話を聞いた上で、何なら直接自分の目で確かめればいいとフォルは考えていた。何も動かないまま思案しているより行動したほうが少なくとも前へ進む。

「で、その海賊たちはそのいわくありげでありながら金を持ってそうな船を襲ってお宝をせしめたらしいんだけどな、その後で海の魔物に襲われてしまってよ。なんつったっけ。クラーケン? だっけか」
「あ、その魔物ならフォルたち……」

 思わず漏れたといったリフィの口を、コルジアがやんわりと手で塞いでいる。おかげで余計な話はせずに済んだがフォルは何故かコルジアに対して妙にムッとした気持ちが少々湧いた。そんなフォルを親方が怪訝な顔で見てきた。

「何だ?」
「いや、続けてくれ」
「あ? ああ。えっと、何だっけか、ああそうだ。その海の魔物に襲われたせいでな、とある島、っつーかその例の島だな。ここから小舟出せばいける小さな島。そこに遭難したらしい。小舟で行ける範囲とはいえさすがに小舟すらないと厳しいからな、そこに留まるしかなかった。それでもしばらくそこで何とかやってたらしいがな。怪我をしている者も多かったし、遭難予定じゃないだろ、食料やらの備えが万全だったわけじゃないしで皆死んでしまったようだ。だが船を襲って奪ったお宝に呪われたルビーが混じっていたらしくてな。その禍々しい気のせいで多分今、島に眠っているルビーに魔物が呼び寄せられてんじゃねえかって話だ。そもそも海賊たちがそういった目に遭ったのも奪った宝に呪われたルビーがあったからかもしれねえわな」
「ふむ。……で、その呪われたルビーだが。何か特徴とか聞いてないか」
「え? ああ、そうだな、確かトカゲの模様があるだか何だかって聞いたような?」
「トカゲ……なるほど。わかった。ありがとう、助かった。だが何故そんなに詳しく知ってるんだ? 誰から聞いたんだ? ん?」
「えっ? あ、いや……別に俺は聞いただけだし、知るかよ。つか誰から聞いたかなんてあんたに関係ねえだろ」
「……ふ。まぁいい。確かに関係ないし俺にとってはどうでもいい。だがどうでもよくないヤツだっているだろうし、あまり気軽に話さないほうがいいんじゃないか? 特にお宝が眠っているなんて出回ったら下手に押し寄せることもあるかもしれん。そうなると生き残った海賊にはありがたくないだろうな」

 フォルは立ち上がるとコルジアを見た。コルジアは頷き、小さな袋をテーブルに置く。あまり価値のある硬貨ではないが、多分十分だろう。

「聞かせてくれてありがとう。じゃあ」

 親方の家を出てしばらくしてからリフィが「さっきのはどういう意味ですか」と聞いてきた。

「さっき?」
「親方さんが誰から聞いたとか、あと言わないほうがいいとかの話」
「ああ。多分あの男が知り合いから話を聞いたのは間違いないだろうな。変によく知っているし噂話をしているのが楽しそうだったし。だがその知り合いか、もしくは知り合いの知り合いは多分何とか生き残ってここまでようやくたどり着いた海賊じゃないだろうかな。でないと知り得ない内容だ」
「確かに!」

 リフィがやたら目を輝かせて頷いてきた。思わず口元が綻びながらフォルは続けた。

「その海賊と知り合いなら、知り合いが困ることはあまりしないほうがいいだろうし、知り合いじゃなくてもあの男から話が漏れたせいで残った宝を誰か他のやつに奪われたとなると逆恨みされる可能性もあるだろうしね」
「なるほど……」

 そういうことか、とリフィがうんうん頷いている。思わず頭を撫でたくなったが堪えた。何度か撫でたりしているしリフィも嫌ではないそうだが、あまり何度も軽率に頭や髪に触れるものでもないだろう。

 ……それにそのことで兄を思い出すらしいしな。

 自分でも謎だが、リフィに兄のようだと思われるのは嬉しい気がするはずだというのに変にモヤモヤとする。
 とりあえずあまり外で話す内容でもないので一旦マティアスの城へ戻ってから、また三人と一匹は集まった。

「例の島には小舟で行けるらしいし、俺とコルジアで向かおうと思っている」
「僕も行きます」
「呪いとか怖いのに?」

 フォルがにこにこと聞くとリフィは少し顔を赤らめながら「別に怖くありません」と返してきた。

「知らないことが少し怖いだけです。呪いとかお化けだから怖いんじゃありません」

 少しむきになって言い返してきたリフィの言葉に、コルジアがフォルには絶対見せてきたことのない慈愛に満ちた笑顔で頷いている。どうにも鬱陶しいやつだとフォルは思った。

「だ、だいたい呪いのルビーって何ですか。フォルたちは島へ向かうとおっしゃいましたが、そのルビーのこと、わかったんですか?」

 わからないと言うべきだ。知らないと。知らないことが怖いのなら、きっとこのままリフィはついてくるのを断念し、大人しくこの城で待っていてくれるかもしれない。
 そう思った後でフォルは心の中で苦笑した。
 そんなわけがあるものかと思う。それでもきっとリフィはついてくるのだろう。人任せにせず自分も手助けをしたい、と、怖くても来るのだろう。役に立たないと悩みつつもいつだって何とかしたいと足掻きながらついてくる。そしてフォルを振り回してくれる。その上思わぬほど助けになったりすることもある。

 何て迷惑で可愛い。
 ──じゃなくて。

 フォルは我に返ってため息をついた。そしてリフィを見てからもう一度ため息をつく。

「わかった。以前欲しい文献を探していた時に読んだことがある。別に気にする内容でもなかったが頭の片隅には残っていたようだ。トカゲの模様のあるルビー。亡国の女王が大切にしていた宝石として言い伝えられているものと一致する。確かに呪いはあるかもしれないな」

 フォルは知っている内容を話した。
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