銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

80話

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 船が出港するまでの数日間、リフィはフォルたちと一緒にマティアスの城にそのまま滞在させてもらっていた。新婚でもあるマティアスと顔を合わせることはパーティー以来あまりなかったが、本人からは「自由に過ごしてくれ」と言われている。フォル、コルジアと一緒に何度か町にも出かけて一緒に買い物もした。とはいえリフィは懐がかなり心許無いので大抵見ているだけになったが。ずっとギルドで稼いだ一部を貯めてきてはいたが、竜のいる島へ向かう船賃でほぼ全て消えた。二人からは「どうせ買うのだから一緒にまとめて買う」と、欲しいものを遠慮なく言うようにとまで言われたが、さすがに遠慮なくというのは無理がある。改めて二人の身分は本来高いものなのだろうなと思う。資金が途切れることはないのだろうか。
 せっかく数日間暇があるのでここでも仕事を貰おうとディルと一緒にギルドへ向かおうとすれば、フォルとコルジアもついてきた。

「黙って行くなどと水臭いですよ、リフィくん」
「コルジア……。ですが、お二人は別にこんなところで仕事をなさらなくても大丈夫そうなので」
「それでも私たちはギルドでのチームではないですか。ねえ、フォル」
「ああ。ギルドの仕事を請け負うなら声をかけて欲しいな」
「……ありがとうございます」

 ここで遠慮しても意味はないのだろうなと、リフィはありがたく一緒に来てもらうことにした。実際、リフィとディルだけではあまり難しい仕事は受けられない。どのみち戦う系の仕事を受けようとしても第二のコルドとなりつつあるディルに大抵止められる。

『それはそなたには向いてない。駄目だ』

 そして結局薬草を取ってくるような仕事ばかりになる。すぐに達成できる内容が大抵だし数をこなせばいいのだが、慣れた場所でなく旅先では薬草が生えている場所にも詳しくないし効率は悪い。
 ここのギルドでもいくつかリフィとディルだけでは受けられなかったような依頼がいくつかあった。それの一つをとりあえず引き受けさせてもらう。場所が離れているのもあり、戻って来るのは翌日となってしまったが、少々強い魔物ではありながらもフォルたちにかかれば相変わらずあっという間だった。依頼を受けていた角を切り取り、その帰りに一旦港へ立ち寄った。修理や点検の進歩状況を確認するためだ。

「倒したのはフォルとコルジアであって僕は一切何もしてないのに賞金を分けてもらうことにどうしてもまだ抵抗があるんですが」

 引き受けた仕事は三人で分けたとしても薬草を取りに行くより高い報酬になる。

「さすがリフィくん。いい子ですねえ」

 コルジアは前からリフィに対して優しくはあったが、最近それがもう少し際立っている気がする。少し苦笑しながらコルジアを見上げた際にフォルがどこか呆れたような顔をしているのが見えた。だがフォルはその表情を引っ込めるとリフィに「そんな抵抗、持っていても無駄なだけだからなくしてしまうといい」などと言ってくる。

「わざとしているものじゃないから難しいです」
「じゃあわざとなくすといい」
「無茶苦茶じゃないですか」
「そうでもないぞ」

 そんなことを言いながら港に着くと、自分たちが乗っていた船へ向かった。

「フォル様。それにコルジア様にリフィ様も」

 船長がリフィたちに気づくと駆けつけてきた。挨拶に来てくれたのかと思いきや、あまりいい顔をしていない。フォルもそう思ったのか、船長に「どうかしたのか」と問いかけた。

「それが……」

 整備は順調であるらしい。この様子だと早めに出港もできるのではと言われていたようだ。だが、少し先の航路で何か災いが起きているという情報が入ってきたという。

「災い?」
「はい、フォル様。どうやら魔物を呼び寄せる力のあるなにかがこの先の小さな島にあるようで。急に発生したのかどうかも定かではありませんが、このままでは船を出すことができないかと思われます。少なくともしばらく様子を見る形になるか、と」
「それは……困るな。もう少し詳しい情報はないのか?」
「こちらには主に海や航路に関する情報が入ってくるだけで。魔物とは聞いておりますので、もしかしたらギルドの方が詳しい情報があるかもしれません」
「そうか、ありがとう」

 フォルは船長に礼を言うとリフィ、コルジアに「ギルドへ向かおう」と促しながら歩きだした。リフィは慌ててその後について行きながらディルに心の中で話しかけた。

『どういうことだと思う?』
『災いと言っていたな。とはいえ私も魔物探知機でもなければ生き字引でもない。少し先の島というのならさすがに先ほどの情報だけではわからん。ただ、呼び寄せる力のあるなにか、というのが引っかかるな。もしかしたら呪いの媒体か何かがあるのかもしれんな』
『呪い? え、何それ怖いやつなの?』
「……リフィ? 先ほどから黙っていると思えば顔色が悪い。何かあったのか?」

 先を歩いていたフォルが振り返ったかと思うと心配そうに聞いてきた。

「な、何でもないです」
「そう、か? ならいいが、あまり無理をするなよ」
「はい、ありがとうございます」

 フォルは再び前を向いてコルジアと何か話をしながら歩きだしたが、先ほどより歩みが多少ゆっくりになった気がする。それに気づいたリフィは「優しい人だなあ」としみじみ思った。

『そなた、呪いが怖いのか?』
『呪いが、っていうか、何だろう、うんでも呪い、怖いよ。あとお化けとかも嫌だ』
『魔物を倒すような冒険者がお化けが怖い……』
『そんな呆れたように言わないで。僕にとってよくわからない感じが怖いんだよ、あえて言うなら。別にお化けの見た目が怖いとかじゃないから!』
『そもそも見たことなどないであろうが……。まあわからんでもない。自分の理解が及ばないものは確かに怖いし、そうだと認めることは悪くない』

 うんうんといった風に言いながらもどこかからかう風にも見えてリフィはムッとディルを見返した。
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