銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

Guidepost

文字の大きさ
上 下
78 / 151
第三章 旅立ち

77話

しおりを挟む
「明日はここで第三王子の婚約パーティがあるからね、台所で仕事をしている姫を連れて湯あみをさせ、元のように綺麗に着飾らせてそのパーティを楽しんでもらおうと思って。それでまた元の高慢な姫に戻るならもう仕方がない。どのみちおれは恨まれるだろうし潔く諦める。でももし、前のようにはならなかったら打ち明けて恨まれてもおれは諦めずに何度もプロポーズしたいと思っているんだ。結婚は当然一旦破棄になるわけだしね。これがおれなりの婚活」
「もう好きにしろ」
「すでにしているよ。とりあえず今日は家で休ませているんだ。明日のパーティには彼女の父親である隣国の王も招待しているし、彼女のための衣装のこともあるしで色々手配をしていておれは忙しいから」
「忙しい中、僕たちにお付き合いくださってありがとうございます」
「全然。いい気分転換になったよ」

 恐縮しながら礼を告げるリフィにマティアスがにっこりと本当に優しげに笑みを向けている。いくら気に入っている様子であっても少年だとしか思っていないであろうマティアスに対して、だがどうしても落ち着かずにフォルは何だかその様子にモヤモヤとした。そしてそんな自分を怪訝に思う。
 リフィが今、少年だから、ではない。元の姿が少女だと最初から知っているだけに今まで一度もフォルはリフィに対して男女どうこうといった目で見ていたつもりはない。男の姿だからこうあるべきだとも、元が女なのだからこうあるべきだとも思っていない。リフィはリフィだ。ただ本来は少女であるだけにどうしてもフォルが色んなことに心配になるだけだ。
 そう、一度たりともリフィを女性として見てはいない。はずだというのに何故モヤモヤとするのか。
 ここへ上陸する前にかなり久しぶり、というか二度目ではあるが、リフィが元の姿に戻っているところを目の当たりにしたことを思い出す。その時も女性として見たから焦ったつもりはない。確かにまた触れたくなるほど美しい髪に見惚れはしたが、焦った理由は違う。
 最初に見た時と違って目を覚ましているリフィを見たのは初めてだった。すぐ慌てたようにリフィは引っ込んだため見たのは一瞬ではあったが、瞳の色も見た。綺麗な満月のおかげで夜とはいえ色はしっかり把握できたはずだ。
 あの美しい満月のような金色だった。いや、黄色の混じった琥珀色というのだろうか。

 ──そう、文書にあった、愛し子のような。

 白に近いシルバーの髪にイエローとゴールドが混ざったようなアンバーカラーの瞳を持つ愛し子。リフィはまるで古い文献に載っていた愛し子そのもののように見えた。それで焦ったのだと多分思う。
 本当の姿について、聞けばもしかしたらリフィは答えてくれるのかもしれないなどと少し迷ったが、翌日何も知らない振りをしたままのフォルにホッとしているリフィを見て、見なかったことにしたのは間違っていなかったのだろうと思った。
 ちなみにその際、ディルからまるで取って食うぞといった不穏な気を感じたが、多分気のせいではないと思う。何故ならその後にかつて洞穴の中で聞いた時にように声が聞こえてきたからだ。

『この子を悲しませるようなことをすればただでは置かないからな。無理やり口を割らすような言動をとれば貴様を殺す』

 初めてリフィと出会った時にも洞穴に避難した際に『見極めさせてもらう』といった声を聞いた。フォルが問いかけてもそれ以上何も言わずにディルはリフィのそばで寄り添うようにくるまっていた。それを思い出す。
 それにしても殺すとは穏やかでないなと内心思っていると、『それくらい、私はこの子を守りたいし貴様のことはまだ警戒している』とまた声が聞こえた。もしかして心を読まれたのかと改めて「俺の心の声を読んだのか?」と心の中で問いかけるも、やはり今回もそれ以上は何も返ってこなかった。なので仕方なく「俺は無理やりなんてリフィに対して一切したくない」とだけまた心の中で答えておいた。
 そう、リフィのことはどうしたって心配だし酷い目には自他ともに合わせたくないと思っている。だがこのモヤモヤは何だ、とまた改めて怪訝に思った。いくらマティアスがフォルでさえ見惚れるような整った顔立ちをしていようが、関係ない。リフィのことを大切な友人と思っているのならむしろ感じることのない感情ではないだろうか。とはいえいくらリフィが元は女だとしてもまだ子どもなのだ。絶対に自分はそういう目で見てはいないはずだとフォルはそっと首を振った。

「失礼いたします!」

 その時、部屋に召使の一人が入ってきた。

「どうかしたのか」
「マティアス様。その、仮の奥方様が──」

 その召使が言いかけた時、また部屋に誰かが入ってきた。とてもみすぼらしい恰好をした、だがぼろぼろの衣装が違和感を覚えるほど美しい顔立ちをした女性だった。しかし美しいその顔は煤か何かで薄汚れている。

「これは……どういうことなのです」
「あなたは……、おい、何故彼女がここへ」
「申し訳ございません。奥方様の正体を知らない台所の料理人たちがマティアス様の行っていることを耳に挟んだらしく、噂をしたようで……それが奥方様の耳にも」

 詳しくはわからなかったが、どうやら台所で仕事をしている者たちは基本的に姫を姫と知らずに普通に雇っていたようだ。そしてたまたまマティアスが現在隣国の王女を更生させる手助けをしているらしいという話を耳にして噂話をしていたのを家で休んでいたはずの姫が何故か仕事場に来ていて運悪く聞いてしまったということらしい。

「……これは、まずいのでは」
「まずいでしょうね。どういたしましょうかフォル。我々は席を外したほうがよいのでしょうか」

 思わず呟いたフォルに、コルジアも同意してきた。リフィだけは少しおろおろとしつつもだがとてつもなく二人から目が離せないといった様子だった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...