70 / 151
第三章 旅立ち
69話
しおりを挟む
翌朝、久しぶりに通信機でアルディスと連絡を取っているとドアからノックが聞こえた。コルジアが出て応対している。声からしてリフィだ。フォルはドアの方に背中を向けているから見えていないが、アルディスからは見えているのだろう。話の途中で『今の……』と呟いている。
「今? ああ、最近親しくしている少年のことだろうか」
『少年……だったね確かに。……ああ、いや、何でもないよ兄さん。とにかく、いくら強いからって過信せず気をつけてね』
「ああ、わかった。じゃあまた」
通信機を切り、振り返ると既にリフィはいないが、いなくていい蛇はいる。
「……そうか、そういえばそうだったな……」
リフィが「朝、ディルを連れていく」と言っていたことを思い出した。フォルはため息をついてから会話は基本的に成り立たないであろうディルに話しかける。
「君が来るのをうっかり忘れていたよ。おはよう、ディルとやら。さて、今日は一日よろしく。とはいえ一緒に過ごすにしてもどうすればいいのだろうな」
床を這って近づいてくるディルに言えば動くのをやめて鎌首をもたげてきた。もし何か答えているのだとしてもフォルにはわからないし、どう見ても威嚇されているようにしか見えない。
「威嚇されているわけではないのだよな?」
苦笑しながらディルを見ているとまた床を這いディルに近づいてきた。そしてディルの体を伝い登ってくる。正直気持ちがいいものではないが大人しく様子を窺っていると、リフィの場合だと腕か肩におさまっているディルが、何故か頭の上に乗ってきた。親しい仲なら気軽に頭を撫でたりもするが、頭に触れる行為は本来中々に気を遣う行為でもある。
「何で頭なんだ。君、散々床を這った後に俺の頭に乗るのはもしかしてわざとではないだろうな」
「中々に無礼な蛇ですね。少し言い聞かせますか?」
普段自分は散々フォルに対してふざけた言動を取ってくるくせにコルジアがじろりとディルを見ながら言ってくる。
「いい。というかディルは幻獣でありリフィの眷属だぞ。何よりリフィがとても大切にしている友人なのだからな。余計なことはするな」
「しかし……」
コルジアを話しているとディルがずるりと肩にまで下りてきた。
「何だ? 気が済んだのか?」
肩を見るとしかし鎌首をもたげている状態だった。フォルとしてはどうにも落ち着かない。蛇は小柄であるしリフィと一緒のところを見ている限りおそらく幻獣らしく理性のある蛇のようには見える。だが一見白いとはいえただの蛇にしか見えないため、特に鎌首をもたげられるといつ噛まれてもおかしくないようにも見える。
「ディルとやらよ、俺とも自由に話せたらな。とはいえ俺は本来幻獣からも嫌われているであろう身だ。こうして近づいてくれているだけでもかなりすごいことなのだろうな」
朝の支度も済ませ、朝食をとりに行くとリフィと鉢合わせた。
「おはよう」
「おはようございま……す」
ニコニコと挨拶を返している途中でリフィがぽかんとした顔をしてきた。
「どうかした?」
「ディルがまたフォルの肩に乗ってる」
「ん? ああこれか。食事だしな、リフィの時みたいに鞄の中に入れと言ったんだが俺やコルジアの言葉は理解できないのか聞こえていても無視なのか、肩から動いてくれなくてね。大丈夫、ちゃんと支配人に許可をもらった。クラーケンでも倒しておくものだね。快く受け入れてくれたよ。リフィもこれから船の中だけならどこにいようがディルを鞄に入れなくて大丈夫だよ」
「そ、れは嬉しいしありがとうございます! でも今びっくりしてたのはディルが僕以外の人の腕や肩に乗ることにです」
「え? でも猪の魔物を倒しに向かった森でもディルは俺の腕に絡んでこなかったか」
「そうなんですよね。その時も僕、けっこうびっくりしてたんですよ」
「そうなのか」
ということは基本的にディルはリフィ以外に近づかないということだろうか。
……近づかないというか、……この場合なんて言えばいいんだ? こう、あれだ、スキンシップ? いや、ちょっと違う気がするが……だいたい蛇とスキンシップって何だよ……でもまあそういうことだよな、ディルはリフィ以外には触れないということだろう?
ならば自分はもしかして他の誰かよりは好意を寄せてもらえているのだろうか。精霊や幻獣からは無条件で嫌われているはずなだけにフォルは嬉しさが込み上げてくる。だが思わず口元を綻ばせながら肩の上のディルを見ると思い切り「シャーッ」と威嚇音を出された。
「ディル!」
リフィが困惑したような顔をしているが、困惑したいのはこちらだ。思い返す必要もないくらい、そういえば鎌首をもたげらたりと威嚇しかされていない気がする。
結局どうなのだ。
わからないままフォルは肩にディルを乗せて一日を過ごした。とりあえずほぼ修復されている船ではあるが、所々でまだメンテナンスが必要な部分が見つかったりする。どうせ船に乗っている間は何もすることがないため、フォルは船長の依頼もあり、そういった箇所が見つかれば光魔法の応用で修復していた。コルジアには計算が必要だったりと頭を使う仕事を手伝うよう指示している。船の色んなところへ出向いたので船員たちともかなり親しくなった気がする。その彼らから「あの坊主には本当に助けられた」「あの子はいい子だな」などとリフィの話題を耳にすると、フォルは自分が認められるよりも誇らしい気持ちになった。
「ディル。俺がこうして船内を回っていることはリフィには内緒にしてくれよ。でないとあの子なら絶対『僕も手伝います』とか言いかねないからな。気持ちは嬉しいが、船底などは危険なところもある。下手に立ち入らないほうがいい」
夕食時にディルをリフィに戻すことになっており、また夕方に食堂へ向かいながらフォルは会話の成り立たないディルに話しかけた。リフィの魔力はとても強い。フォルと同じように船に乗っている間何もすることがないリフィも、船室の一つを借りて短い時間であるが怪我をしたり体調がすぐれない者を時折治療している。時間制限を設けているのはそうでもしないといくらでも治療し続けるかららしい。ディルに言い聞かせられたとリフィが言っていた。フォルとしても安心だし、その上船内を色々駆け回られたりでもしたら心配しかない。
フォルが「内緒だよ」とディルに言えば、ディルは何故かまた鎌首をもたげてきた。もしかしたら威嚇以外の反応でもあるのかもしれないと何となくフォルは思った。
「今? ああ、最近親しくしている少年のことだろうか」
『少年……だったね確かに。……ああ、いや、何でもないよ兄さん。とにかく、いくら強いからって過信せず気をつけてね』
「ああ、わかった。じゃあまた」
通信機を切り、振り返ると既にリフィはいないが、いなくていい蛇はいる。
「……そうか、そういえばそうだったな……」
リフィが「朝、ディルを連れていく」と言っていたことを思い出した。フォルはため息をついてから会話は基本的に成り立たないであろうディルに話しかける。
「君が来るのをうっかり忘れていたよ。おはよう、ディルとやら。さて、今日は一日よろしく。とはいえ一緒に過ごすにしてもどうすればいいのだろうな」
床を這って近づいてくるディルに言えば動くのをやめて鎌首をもたげてきた。もし何か答えているのだとしてもフォルにはわからないし、どう見ても威嚇されているようにしか見えない。
「威嚇されているわけではないのだよな?」
苦笑しながらディルを見ているとまた床を這いディルに近づいてきた。そしてディルの体を伝い登ってくる。正直気持ちがいいものではないが大人しく様子を窺っていると、リフィの場合だと腕か肩におさまっているディルが、何故か頭の上に乗ってきた。親しい仲なら気軽に頭を撫でたりもするが、頭に触れる行為は本来中々に気を遣う行為でもある。
「何で頭なんだ。君、散々床を這った後に俺の頭に乗るのはもしかしてわざとではないだろうな」
「中々に無礼な蛇ですね。少し言い聞かせますか?」
普段自分は散々フォルに対してふざけた言動を取ってくるくせにコルジアがじろりとディルを見ながら言ってくる。
「いい。というかディルは幻獣でありリフィの眷属だぞ。何よりリフィがとても大切にしている友人なのだからな。余計なことはするな」
「しかし……」
コルジアを話しているとディルがずるりと肩にまで下りてきた。
「何だ? 気が済んだのか?」
肩を見るとしかし鎌首をもたげている状態だった。フォルとしてはどうにも落ち着かない。蛇は小柄であるしリフィと一緒のところを見ている限りおそらく幻獣らしく理性のある蛇のようには見える。だが一見白いとはいえただの蛇にしか見えないため、特に鎌首をもたげられるといつ噛まれてもおかしくないようにも見える。
「ディルとやらよ、俺とも自由に話せたらな。とはいえ俺は本来幻獣からも嫌われているであろう身だ。こうして近づいてくれているだけでもかなりすごいことなのだろうな」
朝の支度も済ませ、朝食をとりに行くとリフィと鉢合わせた。
「おはよう」
「おはようございま……す」
ニコニコと挨拶を返している途中でリフィがぽかんとした顔をしてきた。
「どうかした?」
「ディルがまたフォルの肩に乗ってる」
「ん? ああこれか。食事だしな、リフィの時みたいに鞄の中に入れと言ったんだが俺やコルジアの言葉は理解できないのか聞こえていても無視なのか、肩から動いてくれなくてね。大丈夫、ちゃんと支配人に許可をもらった。クラーケンでも倒しておくものだね。快く受け入れてくれたよ。リフィもこれから船の中だけならどこにいようがディルを鞄に入れなくて大丈夫だよ」
「そ、れは嬉しいしありがとうございます! でも今びっくりしてたのはディルが僕以外の人の腕や肩に乗ることにです」
「え? でも猪の魔物を倒しに向かった森でもディルは俺の腕に絡んでこなかったか」
「そうなんですよね。その時も僕、けっこうびっくりしてたんですよ」
「そうなのか」
ということは基本的にディルはリフィ以外に近づかないということだろうか。
……近づかないというか、……この場合なんて言えばいいんだ? こう、あれだ、スキンシップ? いや、ちょっと違う気がするが……だいたい蛇とスキンシップって何だよ……でもまあそういうことだよな、ディルはリフィ以外には触れないということだろう?
ならば自分はもしかして他の誰かよりは好意を寄せてもらえているのだろうか。精霊や幻獣からは無条件で嫌われているはずなだけにフォルは嬉しさが込み上げてくる。だが思わず口元を綻ばせながら肩の上のディルを見ると思い切り「シャーッ」と威嚇音を出された。
「ディル!」
リフィが困惑したような顔をしているが、困惑したいのはこちらだ。思い返す必要もないくらい、そういえば鎌首をもたげらたりと威嚇しかされていない気がする。
結局どうなのだ。
わからないままフォルは肩にディルを乗せて一日を過ごした。とりあえずほぼ修復されている船ではあるが、所々でまだメンテナンスが必要な部分が見つかったりする。どうせ船に乗っている間は何もすることがないため、フォルは船長の依頼もあり、そういった箇所が見つかれば光魔法の応用で修復していた。コルジアには計算が必要だったりと頭を使う仕事を手伝うよう指示している。船の色んなところへ出向いたので船員たちともかなり親しくなった気がする。その彼らから「あの坊主には本当に助けられた」「あの子はいい子だな」などとリフィの話題を耳にすると、フォルは自分が認められるよりも誇らしい気持ちになった。
「ディル。俺がこうして船内を回っていることはリフィには内緒にしてくれよ。でないとあの子なら絶対『僕も手伝います』とか言いかねないからな。気持ちは嬉しいが、船底などは危険なところもある。下手に立ち入らないほうがいい」
夕食時にディルをリフィに戻すことになっており、また夕方に食堂へ向かいながらフォルは会話の成り立たないディルに話しかけた。リフィの魔力はとても強い。フォルと同じように船に乗っている間何もすることがないリフィも、船室の一つを借りて短い時間であるが怪我をしたり体調がすぐれない者を時折治療している。時間制限を設けているのはそうでもしないといくらでも治療し続けるかららしい。ディルに言い聞かせられたとリフィが言っていた。フォルとしても安心だし、その上船内を色々駆け回られたりでもしたら心配しかない。
フォルが「内緒だよ」とディルに言えば、ディルは何故かまた鎌首をもたげてきた。もしかしたら威嚇以外の反応でもあるのかもしれないと何となくフォルは思った。
0
お気に入りに追加
385
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる