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第三章 旅立ち

68話

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 確かに夜、リフィの姿を見かけたことは何度もある。夜であってもリフィはいつもと変わらない様子だった。初めて出会った時に少女へと変態した際に月の光を浴びていた気がするとフォルは思い返したこともある。だが夜に見かけた時は普通に月の光を浴びていたはずだ。だからこそ暗闇でなくリフィの姿が見えていた。
 結果、フォルが思い至ったことがある。

「満月だ。確かあの時は満月だった気がする。絶対という断言はしないが、確か満月だったように思う。それに思い至ってから何気に満月前後に気にするようにしていたが、たまたまなのかやはりなのか、満月の夜にリフィを見かけることはなかった」
「……では、フォルス様の見たものが間違いなく、実際にそうなのだとしたらリフィくんは女、ということですね」
「だからそうだと言っている」
「なるほど。それなら話は違ってきます」

 コルジアの様子が俄然生き生きしだした気がする。それを引いたように見ているとコルジアが続けてきた。

「この際、身分がどうこうなどは私、全く気に致しません。本人や国、まわりがしっかりしていれば問題などあるはずもない。現に先日の国では魔物を倒した英雄が王女と結婚なさいましたしね」
「……何の話だ」
「それにしてもよかった。私なりに心配だったんですよ。あなたが昔から女性に対してその気になられるところなど見たことがございませんし、せっかくのイルナ嬢との婚約も破棄なさいますし。その上少年に対してはなはだしく気にされているようで。本当に心配致しました、が、これで安心です。私も思い残すことはございません」
「だから何の話だ! あと、お前は何があっても最後まで一人生き残るタイプだ。むしろ周りが思い残すことだらけになるだろうよ」
「お褒めにあずかり、私は」
「褒めておらん。おい、本当に何の話をしている?」

 忌々しいとばかりにコルジアを見たが、本人は至って涼しげな顔をしている。

「もちろん、リフィ様を将来の伴侶に──」
「何故そうなる……!」

 その後延々と、フォルはリフィをそういう対象にするつもりで接してなどいないと何度も何度も何度もコルジアに言い聞かせた。

「だいたいあの子はまだ子どもだぞ」
「は。たかが三歳しか変わらないくせに大人ぶっておられるのですか」
「実際俺は成人した大人なのでな!」
「王宮であれほど様々な女性と接しながらもわかっておりませんね、我が君は。女性は一瞬で大人になられますよ。リフィ様とて同様です。あと今は少年の姿をなさっていおられるから余計そう見えるだけでしょう。……年齢は偽っておられませんよね、まさか」
「知らん!」

 呆れてものも言えないとはこのことかとフォルはため息をついた。

「お前はゼロか百しかないのか。全く。……とにかく。リフィはそういうわけだから俺は少なくとも少年愛を持ち合わせているのではない。その上で、お前は性格があれだから邪な風にしか見てこないようだが、俺は基本的に少年の姿をしている彼女に対して別に変な風に下心などない。ただ、元は少女だとわかっているからこそ色々と心配になるしできるだけ守ってやらなければと思うだけだ。それと同様に、竜の島も幻獣がついているとはいえ少女を一人で向かわせる自体、俺の流儀に反する。危険かもしれないところへ放置するなど俺にはできん。理解したか?」

 淡々と連ねていき、フォルはコルジアをどうだとばかりに眺めた。

「左様ですか」

 コルジアは穏やかな表情をして頷くだけだった。むしろ全く読めない。

「さ、さようだ。わかったということだな? だったら俺がリフィに接しているのを目の当たりにするたびに微妙な顔をするのもやめるんだな」
「ご安心ください。慈愛に満ちた表情で見守ります」
「それもやめろ……」
「まあ、とりあえず理解いたしました。そしてそういうことであれば竜の島も一応了解です。ただし王家の機密事項についてはしっかり守ってくださいね」
「ああ。それはもちろん。俺もこんなでも一応王子なのでな」
「こんなでも、などと。色々呆れることは多々ありますが、私はこれでもフォルス様を尊敬、敬愛しておりますよ。これでもね。これでも。世界中にフォルス様を知らしめたい程度には」
「何故これでもを三回も言った。あとその規模は少々アレすぎて『程度』とは言わん」
「私の思いを『アレすぎる』とは失礼な」
「お前こそ俺に対してだいたい失礼な態度しか取ってないからな?」
「そんな私めに対し、いつも寛大なご様子で許してくださるなんて何てお優しい王子でしょう」
「……鬱陶しい」

 本気で鬱陶しいので心底気持ちを込めて呟いた。

「ああ、それとフォルス様」
「……何だ!」
「リフィ様の件、私もフォルス様同様秘密にいたします。リフィ様がどういった経緯や理由で少年になられているのか興味深くはありますが、私からは今後も一切触れません」
「……うん。それは感謝する。ありがとう、コルジア」

 やはり有能だ、と苛立っていた気持ちもおさまり、フォルスは感激した。だがその後リフィを夕食に誘いに行ったり、食事中何かリフィと話すたびに微笑ましい様子で眺めてくるコルジアに気づくと「改めてまたコルジアと話す必要がありそうだな」と心底思えた。
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