銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

67話

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 リフィがディルと賭け事をしていた頃、フォルは部屋でコルジアに問い詰められていた。

「フォルス様は本気で少年がお好きなのではないでしょうね……」
「違うと言っているだろうが……何度違うと言えばわかるのだ……!」
「仕方がないでしょう? それほどあなたが毎度毎度疑わしい言動をリフィくんに取るからですよ!」
「だいたい疑わしい言動とはどういったものを言っているんだ」
「逆に聞きますけど、フォルス様がリフィくんに取られている態度などを私にそっくりそのまま取れと言われて取れるのかお聞きしたい」
「そ……」

 そんなことくらい普通にできる、と言い返そうとして、数々の自分がリフィに対して取った言動が脳内を流れる。それをコルジアに取れと言われてもまず取りたくない。

「っというかあの小さな少年と成人しているクソ生意気で性格の悪いお前とを一緒にするな。無理がある」
「……」

 言い返すとまたコルジアが何とも言えない表情でフォルを見てきた。腹立たしいことこの上ない。

「わかっていると思うが、お前が前にしている相手はキャベル王国の第一王子だからな?」
「これ以上ないほどにわかっておりますよ。ですからこそ何度も確認しているんです」

 コルジアはため息をつきながら洗濯に出していて戻ってきた乾いたシャツを所定の場所へしまっている。旅に出て最初の頃は「この私が召使のようなことまでするなどと。雑用係を雇いましょうよ」と不満を言っていたが、フォルが「なら俺がする」と即答すれば「どこの世界に王子にそんなことをさせる側近がいるんです」とさらに文句を浴びせられた。その後基本的に外部へ依頼できる時はするし、できない時はコルジアが対応している。はっきり言って有能だとフォルは思う。改めて何でもできる男だ。完璧と言っても過言ではないだろう。性格がろくでもないのと口が煩いのを除けば。

「……確認といえば、コルジア。いずれ竜の島へ着いたら、リフィの目的は知らないがある程度までは一緒に行けたらと思うんだが」
「は?」

 振り向いたコルジアの顔が全面的に「それのどこが疑わしい言動じゃないと言えるんです」とはっきり言っている。

「いくら幻獣が眷属でそばにいるからとはいえ、竜の住みかかもしれない島なんだぞ。一人……と一匹で行かすのも気になるだろうが」
「何度も確認していることと同じ理由でそれは却下したい気持ちで一杯ですが」

 コルジアが真顔で言い放ってきた。キャベル王国の、しかもフォルスのためにならないことは言わないし行わないコルジアはこれでも案外心情も汲んでくる。よっていくら性格が悪いとはいえ嫌がらせで言っているのでないことくらいさすがにフォルでもわかる。

「理由を述べろ」

 ため息をつきながら言えば、予想通りの言葉が返ってきた。

「あなたはキャベル王国の第一王子です。よって王家の機密事項についての厳守を今一度省みていただきたいですし、次期王の可能性も高い分、跡継ぎについても責任を持って考慮すべきです」
「……だから?」
「いくら信用に足るリフィくんであれ、竜の島へ着いてからも行動を共にするのは少々軽率だと思われますし、いい子だとは私も心底思いますが結婚のできない相手を選ぶ時点でやはり軽率だと思いますし結果的にリフィくんにも迷惑をかけるとしか思えません」
「そう言うとは思った」
「私も嬉々として言っているのではありません」
「わかっている。……まずリフィについてはっきりさせよう」
「望むところです」

 部屋にある小さなテーブルにお互いついて酒をまず注いだ。コルジアはやはりできる側近で、ごそごそとチーズとビスケットを取り出してくる。それらを味わいながら、フォルはリフィの本当の姿について話した。

「お前だからこそ信用するが、本当はお前にすらずっと黙っているつもりだった」
「あなたについて知らないことなどあってはならない私にですか」
「ああ。というのもあの子の秘密を知ったからな。別に暴こうとしたり故意的に知ったのでなく、偶然知ってしまったんだ。だからこの秘密を知る者は俺でなくお前だった可能性もなくはない。とはいえやはりあの子の秘密を俺が漏らすようですっきりはしない」
「私相手にそんな建前のような戯言は結構です」

 ごくごくと葡萄酒を喉に流し込みながらコルジアは実際どうでもよさげに言う。フォルは苦笑した。性格は本当に悪いが、正直なところそういう部分もフォルは好きだったりする。

「あの子は女の子だ」
「……そういう風に見えるとかそういう話ですか」
「本当に俺を何だと思っているんだ……違う。確かに今の姿も可愛らしいとは思うが──」

 話している途中で飽きれたようなため息が聞こえてきた。フォルはジロリとコルジアを睨みつけ、続ける。

「思うが、だが誰が見ても少年だ。少女だと疑う者は多分いないはずだ。だろう?」
「ええ」
「だがあの子を助けた夜、俺は見た。月明かりに照らされたリフィは次の瞬間には美しい長い髪をした少女になっていた」
「……」

 コルジアは何も言わない。フォルはそのまま続けた。

「気を失っているようだったから起きているところは確かに見ていない。だがそれこそあの姿はどう見ても少女だった。顔の面影はあるのだろうか。今となってはもうあまりわからないが、少なくとも髪の長さや色は全く違うし別人だとしか思えないほどの変化がある。もちろん体つきも今よりもっと小さくて丸みがあった」
「……しかし、夜にもフォルくんの姿を我々は何度も見ている気がしますが」

 さすがコルジアといったところだろうか。あからさまな否定や疑いなどを出すこともなく、ただ淡々と的確な疑問を口にしてきた。
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