銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

66話

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『あれらは無効ではないか?』

 通信が終わった後でディルが不満げに言ってくる。確かにリフィも少しだけ、今回の出来事を思えばコルドがあれほど質問してきても仕方がないなとは思った。だがコルドがリフィを心配のあまりやたら色々聞いてくるのはデフォルトだ。標準装備だ。

「でもコルドってあんなだよディル。今回はわかりやす過ぎたとは僕も思うけど、いつだって僕のこと根掘り葉掘り聞いてくるじゃない」
『……そういえばそうだったな……あやつの頭のよさと基本はしっかりとした落ち着いた性格だということに何故かとらわれていてそなたへの異常者っぷりを忘れるとは。私もまだまだだな』
「異常者は言い過ぎじゃない?」
『そうでもない』

 ふん、ともし鼻があれば鳴らしてそうな勢いで返してくると、心地のいい布団が盛り上がったところへディルは這って移動しようとした。

「ねえ。ディルも認めたわけだよね? なかったことにしようとしてるけど、忘れてないよね?」
『……せめて半日にせんか?』
「神幻獣ともあろうディルが前言撤回なんてするの?」
『っち。わかったわ。やってやろうではないか。だがフォルにはそなたがちゃんと説明するのだぞ。あとフォルに話しかけるつもりはないからな』
「わかってるよ。というか話しかけるつもりはないって、どのみちフォルには聞こえないのでしょ?」
『……ふん。嫌なことはとっとと終わらせるに限る。今すぐ私をフォルのところへ連れていくがいい』
「嫌なことって……。それに今日はもう駄目。だってそれこそもう日の半分は過ぎてるよ。さらっとずるいなぁディルってば。明日。後で夕食の時にフォルに出会えればその時に話すよ」
『っち』

 ディルは忌々しそうに鎌首をもたげてゆらゆら揺れていた。
 夕食時に会えればと言ったが、問題なかった。遭遇どころかフォルが誘いに来てくれた。

「え? ディルが?」

 食事をしながら、賭け事の内容までは話さなかったがリフィはディルと賭けた結果ディルが負けたので一日フォルと一緒に過ごすことになったと話をした。すると案の定ポカンとされる。

「勝手にフォルを巻き込んだのはごめんなさい」
「それは全然構わないが……ディルが負けた結果俺と一緒に過ごすことになったということは、どうやら君たちは俺と一緒に過ごすのが相当嫌なようだな」

 少し戸惑った後、フォルはわざと傷ついたような顔をしてからニヤリと笑ってきた。

「……そ、そんなことないです! あの、僕が負けた場合は僕がフォルと一緒に過ごすんじゃなくてですね、隠し持ってるボンボンをディルにあげないといけなかったんです」
「隠し持ってるの?」
「う……」
「はは。ボンボン、好きなの?」
「あ、甘いお菓子は何だって好きです」
「そうか」

 フォルがニッコリと笑ってくる。何故笑われたのか全くわからなくて怪訝な顔をしながらふとコルジアを見れば、いつもならリフィと話しているフォルを何故かよく生暖かい目で見ていることが多かったのだが、今はむしろ楽しげに見ていた。変に違和感だったが、もしかしたらたまたま何かいいことがあって機嫌がいいのかもしれない。というかそう思うことにした。

「と、とにかく。申し訳ないんですが明日は一日、ディルと一緒に過ごしてもらえませんか」
「それは別に構わないよ。だがディルは君の眷属だろ。君についてなくていいのか」
「一日くらいどうってことないですよ。船の中だし、さすがに誰かに殺されかけるなんてないだろうし」
「何て?」
「え? あ、ああ、いえ。その、例えですよ! 大袈裟に言いました。あはは」

 うっかり過去にあった自分の出来事を基本にして口にしていた。別に憐れまれたいとかではなく、単にこの船でならディルがそばにいなくても自分を殺そうとする人もいないだろうし問題ないと言いたかっただけだが、そもそも普通は自分が殺される発想などないかもしれない。それにそもそもリフィの過去をフォルもコルジアも知らないし、知られるつもりもない。

「物騒な例えだな」
「まあ、それだけ問題ないってことです。どうしましょうか、今晩から一緒で? それとも明日朝一にそちらへディルを連れていきましょうか」
『今晩からとかやめてくれ、とんでもない』
「ディルが威嚇音を出しているぞ。明日からでいいんじゃないのか? 朝、何時に来てくれても構わないよ。万が一俺が寝ていてもコルジアが起きているだろうし」
「フォルは意外にも寝汚いですしね」
「……コルジア」
「フォル、朝苦手なんですか?」
「に、がてというか……コルジアが年寄りだから朝早いだけだ」
「聞き捨てなりませんね。私はあなたと一つしか変わりませんよ。まだ十九ですからね」
「それこそ意外にも、だ。お前がまだ二十歳にもなってないとはな」

 コルジアのニコニコとしながらの言葉にフォルが微妙な顔を向けている。対してリフィは新しくも楽しそうなフォルの情報を得たとばかりに生き生きと質問したものの、聞いてばかりは子どもっぽいらしいということをふと思い出して二人の会話を聞きながら口を閉じていた。
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