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第三章 旅立ち
65話
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しばらくは修繕や手当に大わらわだった船も、じわじわと持ち直してきた。リフィは船長にまで皆の前でお礼を言われてむしろフォルの後ろに隠れた。
「何故俺の後ろに隠れるんだ」
「僕、その、ちょっとこういうのはまだ苦手で……」
「こういうの?」
「人前で注目を浴びる的な?」
「……よくわからないが、なるほど」
わからないのになるほどと言ってきた時点でおそらく流してきたか流してきたか、流してきたのだろう。とはいえフォルは船長に何か言ってくれたようで、その後は変にかしこまった場で周りから何か言われることはなくなってリフィはホッとする。
『感謝されているのだから素直に受ければよいだろう』
「なんか恥ずかしいんだよ」
『恥じることなどないだろうが』
「ちょっとね、違うの、それとこれとは」
『どれとどれだ』
「ディル、煩い。下手したらコルド兄様より煩いかもだよ」
『……それはまずいな』
マーヴィンはしばらくして多少動けるくらいに元気になったようだ。リフィを見つけると、ただ黙ってぎゅっと抱きしめてきた。マーヴィンが負ったあまりの怪我の酷さにもう駄目なのだろうかとあの時思ったリフィも嬉しくてぎゅっと抱き返した。ぼろぼろだった骨や組織などを魔法で回復させたとはいえ、まだ今のところ無理はしないようにと周りから言われているようだ。仕事のなさに「まさかの本当に迷子受付係になりそうだ」と笑っていた。
ちなみにフォルからは少し怒られた上で「君の力はすごい」と褒められた。怒られたのは仕方がない。リフィの剣の腕を知った上で安全を願われ、隠れているようにと言われたにも関わらずリフィは警戒していたとはいえ辺りをうろうろとしていた。それもあって褒められるとは予想していなかった。
「……何だろうか、リフィのその顔は」
「え? だってひたすら怒られるとばかり」
「ほぉ。なら君は俺が怒るとわかっていて、隠れず動き回っていたということか」
「う……」
「……冗談だ」
「笑えませんでしたけど」
「笑えない冗談だ。とはいえ俺が怒ったのは本当だからね。君はどうにも言うことを聞かないな。まあそれはともかく、君のおかげで死者はほぼ出なかった。むしろ助かった者がどれだけ多いか。君のしたこと、俺は心から素晴らしいと思う」
「そ、そんなに褒めてもらえる、とは思ってなくて、その、あの」
動揺していると少し怪訝な顔をした後にフォルが吹き出してきた。何か変な顔でもしていたのだろうかとリフィは耳を熱くする。
「な、んで笑うんです?」
「いや……リフィは人前で注目を浴びてなくても苦手なようだな」
「え? あ、いや、えっと……確かにそうかも、です。褒められることに多分慣れてないのかも」
あはは、と今度はリフィが笑ったが、フォルは少々困惑したような顔をしてきた。だが少し躊躇しながらも頭をそっと撫でてくれた。
「ねえ、ディル」
『何だ』
「さっきなんでフォルに威嚇してたの?」
しばらくしてディルと二人で部屋に籠りながら、ふとリフィは思い出して聞いた。
『さっき?』
「とぼけるなんてディルらしくない。さっき、フォルに叱られた上で褒められた後で急に威嚇してたでしょ」
『急になんてしてないぞ』
「してたよ」
『威嚇はしたかもしれん。だが急に、ではない』
「じゃあ、何で?」
『そなたはすぐに何で、どうして、何故、だな。子どもと言われても仕方がないぞ』
「もうすぐ成人する子どもだから! っていうか、そうなの? 大人はあまり質問しないの?」
『周りを見てみろ』
そう言われると確かにフォルやコルジアも、マーヴィンたち親しくなった船員も、ギルド仲間たちも、あまり誰かに質問していないかもしれない。
「……あ、でもコルド兄様は違うよ!」
『コルド? あやつも別に質問せんだろうが』
「じゃあ賭けてもいいよ」
『ほぉ、いいだろう。私が勝ちならそなたが隠し持っているボンボンを寄越せ』
「な、なんで隠してんのバレてるの? でも、いいよわかった。じゃあ僕が勝ちならディルはフォルと仲良くすること」
『待て。そのようないつまでという期限のない約束は無効だ』
「もう。何でそう、フォルと仲良くなること自体無理みたいな感じなのかな。いいよわかった。じゃあ、一日フォルと一緒に過ごすこと」
『……それくらいなら、まぁ、いいだろう……どのみち私の勝ちだ』
「じゃあどうせ今から連絡を取ろうと思っていたから、この通信で勝負だね!」
『うむ』
「コルドが質問してきたら勝負あった、でいい?」
『あやつとて、元気かくらいは聞くだろう。五個だ。五個以上質問してきたら、もしくは以下だった場合勝負あったといこう』
「わかった」
『誘導はなしだぞ』
「うん。でもいつものようにあったことを報告はしないとだから」
『それはわかっておる』
いつもの通信機を取り出してベッドの上へ置き、リフィはコルドへ連絡を取った。まさかそんな賭け事のネタにされているとは露ほど思っていないコルドは相変わらず今回も出るのが早かった。
「相変わらず早いね、出るの」
『そりゃあ俺の可愛いリィーが連絡を取ってきているんだ。早くもなるだろう。元気にしているか?』
一つ。
「うん」
『なら良かった。で、何かあったりはしなかったか? お腹は冷やしてないか? ご飯はちゃんと食べているのか?』
既に四つ。
とはいえこの辺はカウントしていいのか微妙でもある。
「大丈夫だよ。元気だから。ああ、でもこの間ね、クラーケンって魔物に船が襲われたんだ」
『何、だと……っ? リィーは怪我を本当にしていないのか? 怖くなかったか? トラウマになってないか? 毎晩ちゃんと眠れているのか? ちゃんと守ってくれるような戦闘員はいるのか? それに──』
もはや既にいくつ質問されたかわからなくなってきた。
「何故俺の後ろに隠れるんだ」
「僕、その、ちょっとこういうのはまだ苦手で……」
「こういうの?」
「人前で注目を浴びる的な?」
「……よくわからないが、なるほど」
わからないのになるほどと言ってきた時点でおそらく流してきたか流してきたか、流してきたのだろう。とはいえフォルは船長に何か言ってくれたようで、その後は変にかしこまった場で周りから何か言われることはなくなってリフィはホッとする。
『感謝されているのだから素直に受ければよいだろう』
「なんか恥ずかしいんだよ」
『恥じることなどないだろうが』
「ちょっとね、違うの、それとこれとは」
『どれとどれだ』
「ディル、煩い。下手したらコルド兄様より煩いかもだよ」
『……それはまずいな』
マーヴィンはしばらくして多少動けるくらいに元気になったようだ。リフィを見つけると、ただ黙ってぎゅっと抱きしめてきた。マーヴィンが負ったあまりの怪我の酷さにもう駄目なのだろうかとあの時思ったリフィも嬉しくてぎゅっと抱き返した。ぼろぼろだった骨や組織などを魔法で回復させたとはいえ、まだ今のところ無理はしないようにと周りから言われているようだ。仕事のなさに「まさかの本当に迷子受付係になりそうだ」と笑っていた。
ちなみにフォルからは少し怒られた上で「君の力はすごい」と褒められた。怒られたのは仕方がない。リフィの剣の腕を知った上で安全を願われ、隠れているようにと言われたにも関わらずリフィは警戒していたとはいえ辺りをうろうろとしていた。それもあって褒められるとは予想していなかった。
「……何だろうか、リフィのその顔は」
「え? だってひたすら怒られるとばかり」
「ほぉ。なら君は俺が怒るとわかっていて、隠れず動き回っていたということか」
「う……」
「……冗談だ」
「笑えませんでしたけど」
「笑えない冗談だ。とはいえ俺が怒ったのは本当だからね。君はどうにも言うことを聞かないな。まあそれはともかく、君のおかげで死者はほぼ出なかった。むしろ助かった者がどれだけ多いか。君のしたこと、俺は心から素晴らしいと思う」
「そ、そんなに褒めてもらえる、とは思ってなくて、その、あの」
動揺していると少し怪訝な顔をした後にフォルが吹き出してきた。何か変な顔でもしていたのだろうかとリフィは耳を熱くする。
「な、んで笑うんです?」
「いや……リフィは人前で注目を浴びてなくても苦手なようだな」
「え? あ、いや、えっと……確かにそうかも、です。褒められることに多分慣れてないのかも」
あはは、と今度はリフィが笑ったが、フォルは少々困惑したような顔をしてきた。だが少し躊躇しながらも頭をそっと撫でてくれた。
「ねえ、ディル」
『何だ』
「さっきなんでフォルに威嚇してたの?」
しばらくしてディルと二人で部屋に籠りながら、ふとリフィは思い出して聞いた。
『さっき?』
「とぼけるなんてディルらしくない。さっき、フォルに叱られた上で褒められた後で急に威嚇してたでしょ」
『急になんてしてないぞ』
「してたよ」
『威嚇はしたかもしれん。だが急に、ではない』
「じゃあ、何で?」
『そなたはすぐに何で、どうして、何故、だな。子どもと言われても仕方がないぞ』
「もうすぐ成人する子どもだから! っていうか、そうなの? 大人はあまり質問しないの?」
『周りを見てみろ』
そう言われると確かにフォルやコルジアも、マーヴィンたち親しくなった船員も、ギルド仲間たちも、あまり誰かに質問していないかもしれない。
「……あ、でもコルド兄様は違うよ!」
『コルド? あやつも別に質問せんだろうが』
「じゃあ賭けてもいいよ」
『ほぉ、いいだろう。私が勝ちならそなたが隠し持っているボンボンを寄越せ』
「な、なんで隠してんのバレてるの? でも、いいよわかった。じゃあ僕が勝ちならディルはフォルと仲良くすること」
『待て。そのようないつまでという期限のない約束は無効だ』
「もう。何でそう、フォルと仲良くなること自体無理みたいな感じなのかな。いいよわかった。じゃあ、一日フォルと一緒に過ごすこと」
『……それくらいなら、まぁ、いいだろう……どのみち私の勝ちだ』
「じゃあどうせ今から連絡を取ろうと思っていたから、この通信で勝負だね!」
『うむ』
「コルドが質問してきたら勝負あった、でいい?」
『あやつとて、元気かくらいは聞くだろう。五個だ。五個以上質問してきたら、もしくは以下だった場合勝負あったといこう』
「わかった」
『誘導はなしだぞ』
「うん。でもいつものようにあったことを報告はしないとだから」
『それはわかっておる』
いつもの通信機を取り出してベッドの上へ置き、リフィはコルドへ連絡を取った。まさかそんな賭け事のネタにされているとは露ほど思っていないコルドは相変わらず今回も出るのが早かった。
「相変わらず早いね、出るの」
『そりゃあ俺の可愛いリィーが連絡を取ってきているんだ。早くもなるだろう。元気にしているか?』
一つ。
「うん」
『なら良かった。で、何かあったりはしなかったか? お腹は冷やしてないか? ご飯はちゃんと食べているのか?』
既に四つ。
とはいえこの辺はカウントしていいのか微妙でもある。
「大丈夫だよ。元気だから。ああ、でもこの間ね、クラーケンって魔物に船が襲われたんだ」
『何、だと……っ? リィーは怪我を本当にしていないのか? 怖くなかったか? トラウマになってないか? 毎晩ちゃんと眠れているのか? ちゃんと守ってくれるような戦闘員はいるのか? それに──』
もはや既にいくつ質問されたかわからなくなってきた。
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