銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

61話

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 ちっともコルジアとダミアンに出会わないなとリフィは思っていたが、それも仕方がないことだったようだ。二人は森へ入る手前にある酒場にいた。

「お前……何してんだ……」

 最初に見つけたのはフォルだった。二人と出会わないなと怪訝に思いながら森を一旦出て、通りかかった店の窓からたまたまコルジアが見えたようで、文字通りフォルはあんぐりと口を開けていた。ハッとなると店内へ入っていく。リフィとクルトも頷き合い、後に続いた。もう動かない猪の魔物をクルトは店の裏手に置いた。もし誰かが見つけても持ち上げられないだろうし、そもそも倒れている様子すら恐ろしくて近づけないだろう。
 中ではフォルが心底微妙な顔でコルジアに聞いているところだった。

「何って、フォルに言われた通りあれに付き添っておりましたが。もし魔物に遭遇してその魔物がやっかいな代物なら手助けをしてやる気は満々だったのですが、あれが『気合いを入れるためにちょっと飲んで行こう』などと言いましてね。私はただ付き添っただけですね、フォルに言われた通り」

 コルジアは笑みをほんのり浮かべながら答えてきた。フォルはますます微妙な顔をしている。リフィは「コルジアらしい」と思わず笑いそうになり、がんばって堪えた。

「兄さん、魔物を倒すつもりじゃなかったの」

 飲みながら店の若い女と騒いでいるダミアンを見つけ、クルトは近づいていった。

「ああ、倒すともさ。これを飲み終えたらな」
「あの、ごめん。魔物はフォ……」
「悪いが魔物はクルトが倒した。残念だったな、ダミアン。君の出番はもうないよ」
「はぁっ?」
「フォル、違うだろ、魔物を倒したのは」
「倒したのは君だ、クルト。……皆の者、聞け。恐れられ脅かされていたあの猪の魔物はここにいるクルトが倒した。獲物は……どこに置いた? クルト」
「え、っと……この店の裏手だけど」
「聞いたか? クルトは魔物を倒し、自ら担いでいたのをここの裏手に置いたそうだ。勇気のある者は確認しに行くとよい。あの魔物をクルトが倒したこと、そばにいた俺もとても気持ちがめでたい。祝いだ! この俺が皆に酒を一杯おごってやろう!」
「っちょ……」

 クルトが止めるのも構わずフォルが叫んだ。途端、店内は辺りに響き渡るほどの歓声に包まれた。
 周りが多いに騒ぐ中、クルトがフォルに「倒したのは君じゃないか」と困惑した顔を向ける。それを聞きつけたダミアンが「お前が倒しただと? な、なら無効だ。というかお前が報酬を得るつもりがないならクルトじゃなくて俺が得てもどちらでも同じじゃないか」などと文句を言ってくる。だがその声もこの騒ぎの中、あまり聞き取れない。
 フォルはというと、そんなダミアンに対し淡々とした様子で言い返した。

「もう宣言した。ここにいる者たちが証人だ。ここには色んな者がいるからな。あっという間に広まるだろう。俺は俺が倒したと認める気はない。では誰が倒したか? ここにいる全員が『クルトが倒した』と言うだろう。それが全てだ」

 ひたすら淡々と返すフォルをもの凄い顔で睨みつけると、ダミアンは店を出て行った。クルトが慌てて後を追おうとするのをフォルは止める。リフィはといえば一連の流れをただ黙って見ていた。

「君には君のすることがある。コルジアを追わせるから大丈夫だ。コルジア」
「そうですね、付き添うのが私の役目だ」

 楽しげに笑みを浮かべるとコルジアが立ち上がり、同じく店を出ていった。

「でも俺は兄さんの弟だし……」
「クルト。弟だから兄のどんな行動も許容、容認するというのは正しいのか?」
「え?」
「君から見ればダミアンは何も問題ないのだろうか。兄弟が大切な気持ちは俺にもわかるしな。だとしたらすまないことをした。だがこれだけは俺からのお願いということで聞いてもらえないだろうか。俺はこの国の王女に興味はない。報酬はいらない。しかしもらうものはもらうべきだと思う。でないと契約は成り立たないからね。だから君が倒したことにしてくれ。そして君に報酬を受け取ってもらいたい」
「でもそれじゃあ俺ばかりが……」
「君ばかりじゃない。君には助けてもらった。部屋を譲ってもらったこと、本当にありがたく、嬉しく思っているんだ、俺は。だから俺からのお返しを受け取ってもらいたい」
「すでに貰ったよ……俺の宿泊代を君は既に払っていたじゃないか」
「あれくらいじゃ返したことにならない。いいから君は受け取るんだ。いいな? そして俺は君にだけ受け取ってもらいたい。けっしてダミアンにだけは受け取ってもらいたくない」
「そ……」
「君が、倒した。俺は見ていた。リフィ、君はどうだろうか。見ていたかな?」

 ずっと聞いているだけだったリフィにフォルが話を振ってきた。リフィは慌てて頷く。

「見ていたよ。クルトさんが倒してた。間違いないよ。力の強いクルトさんが倒してた」
「リフィ……」

 クルトが困惑顔をリフィにも向けてくる。

「クルトさん。まだ旅を続ける僕にはフォルがとても必要なんだ。だからこの場所に留まらないと貰えない報酬は受け取ってもらうと僕も困っちゃう。だからお願い。あなたが代わりに受け取って。ねえ、この国のお姫様を見たことがある?」
「あ、あるよ」
「どうだった? 嫌い?」
「そ、そんなわけない! とても綺麗だった。そして優しい王女様だって有名なんだ。俺もそう思う」
「なら何も問題ないじゃない」

 リフィが微笑むと、ようやくクルトは少しホッとしたような顔を浮かべてきた。

「そ、うなのかな」
「そうだよ! でね、いつまでも二人は幸せに暮らしました、めでたしめでたし、で物語は終わるんだ。素敵だね」

 うんうん、とリフィがニコニコと言えば、何故か今度は少々引いたような顔をしてきた。
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