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第三章 旅立ち
60話
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ディルがいきなりフォルの腕に巻きついたことに対してリフィはかなり驚いていた。ずっとコルドと生活をしていた時ですら、ディルはリフィ以外の腕に巻きついたり肩に乗ったりしたことはなかった。
『もしかして、僕に愛想をつかしてフォルに乗り換えちゃったの?』
思わず心の中で話しかけると、フォルに対して鎌首をもたげていたディルが呆れたようにリフィを見てきた。
『何をたわけたことを』
『だって。ディル、僕以外にくっつくことなんてなかったじゃない』
『別にくっついているのではないわ。というかこやつ、私を無視してろくでもない腕の動かし方をしてきよる。忌々しい。……そもそも簡単に乗り換えるなどと口にするでない。眷属の契約はそのような浅はかなものではない』
『そうなんだ、よかった。でもなら、なんでフォルに? もしかして、フォルのこと好きになった?』
『笑顔でやめろ、心底忌々しい。そうではない。こやつがそなたに妙なことをしでかさんようにだな……』
『妙?』
『とにかく……、……待て、魔物の気配がする』
何か言いかけたディルが腕の位置のせいで変な体勢からまた鎌首をもたげ、とある方向を見た。フォルも何か感じたのか、ディルと同じ方向を見ている。
「おい、ディルとやら。リフィに戻れ。お前が守るのはリフィだろう」
フォルがそちらを向いたままディルの巻きついた腕をリフィのほうへ差し出してきた。
『言われなくともそうするわ』
ディルはムッとした顔をしながらリフィに戻ってくる。フォルはリフィを見ることもなく「君はここにいろ。あとクルトもここにいるように。俺が見てくる」と言い放つと返事を待つことなく静かに素早く移動してしまった。
「フォル、大丈夫なんかな。人数いたほうがいいんじゃないか」
クルトが心配そうにリフィを見てくる。リフィとて心配ながらに、何度もフォルたちが容易く魔物を倒しているところを見ているだけに大丈夫な気がしてしまい、もしかして自分は薄情なのかなと思った。
『いや、あやつなら大丈夫だろう』
『でもお姫様をお嫁に出すくらい困ってるわけだし、今まで見たことのないほどの魔物かもしれないよ。ここにいろって言われたけどやっぱり心配になってきた……』
クルトと顔を合わせ頷くと、リフィはクルトと共にそっとフォルの後を追った。自分がフォルの役に立てるほど強くないことはわかっているし、むしろ邪魔にだけはなりたくないので慎重に向かう。クルトものほほんとした性格ではあるものの無鉄砲ではないからか、同じく慎重に進んでいる。
だがそんな二人の心配は全くの無駄だということがすぐにわかった。
少し開けた場所が見えたかと思うと、確かに普通なら到底太刀打ちできないような恐ろしい猪の魔物が目に入ってきた。あれをフォル一人が対峙するなど無理がある、それに今まで難なく倒してきたのは一人ではなくコルジアと二人だったからだとリフィは青ざめた。しかし今にもフォルを押しつぶさんとしているように見えた恐ろしい猪の魔物はあっという間にその場に大きな音を立てて倒れた。そしてそのままピクリとも動かない。
「フォ、フォル……!」
駆けつけたリフィを見るなりフォルは「あの場所にいろって言ったはずだろ」と呆れたような顔をしてきた。
「ごめんなさい。でももし何かあったらって思うと……」
言いかけて、何かあるなんてフォルに限ってあるはずもなかったなとリフィは少々遠い目になった。クルトもやってきて「え、ほんとに? え、ほんとに?」と繰り返しているし、気持ちはわかる。
どう見ても確かに間違いなく恐ろしい魔物だった。さすがに山より大きくはないが、何となく浮かべていた猪よりは大きかったし見た目も怖い。しかもフォル目がけて突進してくる様子はどう見ても重そうで思い切り吹き飛ばされそうだというのに、とてつもなく移動速度は速かった。そんな猪の魔物をフォルは魔法を使うこともなく剣を使って一瞬で倒す。フォルが魔物を倒しているところを今までも見ているはずのリフィもクルトのように「え、ほんとに?」と言いたくもなった。
フォルを見るとだがフォルも「え、ほんとに?」といった顔をしている。もしかしてやはり強そうだとフォルも思っていたのに意外にも倒せたとかなのだろうかとリフィは「あの、とりあえずお疲れ様でした。強そうでしたよね」と声をかける。
「強そう? いや、あれほど散々脅かされていると聞いていたから警戒していたんだが……想像以上に弱くてびっくりして」
そっち?
リフィは笑顔のまま少し固まってしまった。あれが弱いのか、なるほど……とちっとも納得したわけではないがとりあえず頷いた。
戦闘能力はどうかわからないものの、クルトは腕力などがかなりあるようで、フォルが倒した猪の魔物を運ぶ係となった。実際、自分より大きい魔物をやすやすと背負う。ああ、こういうところは物語っぽい、と少しテンションが上がりつつも自分のあまりに役に立たない様にリフィはため息をついた。
「どうしたんだ」
それに気づいたフォルが歩きながら聞いてきた。三人と一匹は西から入っているであろうコルジアとダミアンの二人と合流するため向かっているところだった。
「僕一人がほんと役に立ってないなあと思って」
「大丈夫、安心しろ。君は存在が役に立っている」
「存在?」
「ああ。癒されるし守らなければとがんばれる」
「……癒……? よくわかりませんが守られるよりは一緒に戦いたいです」
「そうだったな、すまない。あと今俺が言ったことはコルジアには内緒だからな」
「はぁ。でも何故ですか?」
「あいつは煩いから」
「……?」
『もしかして、僕に愛想をつかしてフォルに乗り換えちゃったの?』
思わず心の中で話しかけると、フォルに対して鎌首をもたげていたディルが呆れたようにリフィを見てきた。
『何をたわけたことを』
『だって。ディル、僕以外にくっつくことなんてなかったじゃない』
『別にくっついているのではないわ。というかこやつ、私を無視してろくでもない腕の動かし方をしてきよる。忌々しい。……そもそも簡単に乗り換えるなどと口にするでない。眷属の契約はそのような浅はかなものではない』
『そうなんだ、よかった。でもなら、なんでフォルに? もしかして、フォルのこと好きになった?』
『笑顔でやめろ、心底忌々しい。そうではない。こやつがそなたに妙なことをしでかさんようにだな……』
『妙?』
『とにかく……、……待て、魔物の気配がする』
何か言いかけたディルが腕の位置のせいで変な体勢からまた鎌首をもたげ、とある方向を見た。フォルも何か感じたのか、ディルと同じ方向を見ている。
「おい、ディルとやら。リフィに戻れ。お前が守るのはリフィだろう」
フォルがそちらを向いたままディルの巻きついた腕をリフィのほうへ差し出してきた。
『言われなくともそうするわ』
ディルはムッとした顔をしながらリフィに戻ってくる。フォルはリフィを見ることもなく「君はここにいろ。あとクルトもここにいるように。俺が見てくる」と言い放つと返事を待つことなく静かに素早く移動してしまった。
「フォル、大丈夫なんかな。人数いたほうがいいんじゃないか」
クルトが心配そうにリフィを見てくる。リフィとて心配ながらに、何度もフォルたちが容易く魔物を倒しているところを見ているだけに大丈夫な気がしてしまい、もしかして自分は薄情なのかなと思った。
『いや、あやつなら大丈夫だろう』
『でもお姫様をお嫁に出すくらい困ってるわけだし、今まで見たことのないほどの魔物かもしれないよ。ここにいろって言われたけどやっぱり心配になってきた……』
クルトと顔を合わせ頷くと、リフィはクルトと共にそっとフォルの後を追った。自分がフォルの役に立てるほど強くないことはわかっているし、むしろ邪魔にだけはなりたくないので慎重に向かう。クルトものほほんとした性格ではあるものの無鉄砲ではないからか、同じく慎重に進んでいる。
だがそんな二人の心配は全くの無駄だということがすぐにわかった。
少し開けた場所が見えたかと思うと、確かに普通なら到底太刀打ちできないような恐ろしい猪の魔物が目に入ってきた。あれをフォル一人が対峙するなど無理がある、それに今まで難なく倒してきたのは一人ではなくコルジアと二人だったからだとリフィは青ざめた。しかし今にもフォルを押しつぶさんとしているように見えた恐ろしい猪の魔物はあっという間にその場に大きな音を立てて倒れた。そしてそのままピクリとも動かない。
「フォ、フォル……!」
駆けつけたリフィを見るなりフォルは「あの場所にいろって言ったはずだろ」と呆れたような顔をしてきた。
「ごめんなさい。でももし何かあったらって思うと……」
言いかけて、何かあるなんてフォルに限ってあるはずもなかったなとリフィは少々遠い目になった。クルトもやってきて「え、ほんとに? え、ほんとに?」と繰り返しているし、気持ちはわかる。
どう見ても確かに間違いなく恐ろしい魔物だった。さすがに山より大きくはないが、何となく浮かべていた猪よりは大きかったし見た目も怖い。しかもフォル目がけて突進してくる様子はどう見ても重そうで思い切り吹き飛ばされそうだというのに、とてつもなく移動速度は速かった。そんな猪の魔物をフォルは魔法を使うこともなく剣を使って一瞬で倒す。フォルが魔物を倒しているところを今までも見ているはずのリフィもクルトのように「え、ほんとに?」と言いたくもなった。
フォルを見るとだがフォルも「え、ほんとに?」といった顔をしている。もしかしてやはり強そうだとフォルも思っていたのに意外にも倒せたとかなのだろうかとリフィは「あの、とりあえずお疲れ様でした。強そうでしたよね」と声をかける。
「強そう? いや、あれほど散々脅かされていると聞いていたから警戒していたんだが……想像以上に弱くてびっくりして」
そっち?
リフィは笑顔のまま少し固まってしまった。あれが弱いのか、なるほど……とちっとも納得したわけではないがとりあえず頷いた。
戦闘能力はどうかわからないものの、クルトは腕力などがかなりあるようで、フォルが倒した猪の魔物を運ぶ係となった。実際、自分より大きい魔物をやすやすと背負う。ああ、こういうところは物語っぽい、と少しテンションが上がりつつも自分のあまりに役に立たない様にリフィはため息をついた。
「どうしたんだ」
それに気づいたフォルが歩きながら聞いてきた。三人と一匹は西から入っているであろうコルジアとダミアンの二人と合流するため向かっているところだった。
「僕一人がほんと役に立ってないなあと思って」
「大丈夫、安心しろ。君は存在が役に立っている」
「存在?」
「ああ。癒されるし守らなければとがんばれる」
「……癒……? よくわかりませんが守られるよりは一緒に戦いたいです」
「そうだったな、すまない。あと今俺が言ったことはコルジアには内緒だからな」
「はぁ。でも何故ですか?」
「あいつは煩いから」
「……?」
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