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第三章 旅立ち

59話

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 森へ出向く前に一旦兄弟二人は王宮へ向かった。そして王から「確実に猪の魔物を見つけ、倒してもらうために森へ入るのはできれば二手に分かれて入ってもらいたい」と言われたようだ。確かに森を出入りするための楽な道は東西二手に分かれているようだし確実を狙いたい気持ちもわかるが、それほど危険ならあまり分散しないほうがいいのではないだろうかとフォルはそっと思った。おまけに人手を増やし倒しに向かうのかと思っていたが、結局のところ誰も魔物を恐れ引き受けたがらないからこういった触れを出したわけで、手助けをしようという者がいるはずもない。

「コルジア、仕方がないからお前が念のため兄について行け。ずる賢くて抜け目がない同士、似合いだ」
「フォルは私に何か含むところでもあるんでしょうか?」
「ないぞ。いつだって俺の大事な存在だと思っている」
「は。……で、私はどうしましょうか。ダミアンを導くべきか、それとも彼がすることにただ付き添うべきか」
「なんだその態度は。全く。……そうだな、ああいう輩はどうせお前が口出ししても鬱陶しがるだけだろう。危険を回避できるならそれに越したことはないからな、あれに付き添い、もし魔物に遭遇してその魔物がやっかいな代物なら手助けをしてやるといい」
「了解しました」

 フォルとリフィは弟のクルトについて行く。ダミアンが東に向かったため、フォルたちは西から森の中へ向かった。

「一緒に来てくれるのは嬉しいけど……危険らしいからやめたほうがいいんじゃないかな」

 コルジアがついて行くと知った時のダミアンは利用してやるとばかりに笑っていたがクルトはむしろ断ろうとしてきた。フォルは笑みを向ける。

「問題ない。俺らは魔物にも多少慣れている。君たちと違ってずっと旅をしていたのもあるしな」
「そう、か。なら、うん、ありがとう。助かるよ。本当は一人でなんて心細かったし、嬉しいよ」

 森の中は人が立ち入らないようになったのもあり、鬱蒼とした雰囲気を漂わせていた。生い茂る背の高い木々や苔むした岩で日の光もさほど差し込んでこない。早朝に入っていたらこの上濃霧に囲まれ、何も見えなかったかもしれない。
 こんな雰囲気にもしかしたらリフィは怯えるのではないかとフォルは心配になったが、怯えるどころかリフィはますます「絶対に岩の影に小人さんがいるに違いない」などとうっとりしている。
 ずっと弟のアルディスを心配し続けてきたのもあり、あまり令嬢たちと楽しむ気持ちもなかったフォルではあるが、それでもパーティやら何やらとで女性と接する機会は否応なしにあった。なので女性の反応やどう思うかなどを知らない訳ではないが、リフィのような反応を見せてくる女性は少なくとも見たことがない。
 少年の姿になると性格などの中身も変わるのだろうか。それとも元々こういうタイプなのだろうか。

「フォル? どうかしたんですか?」

 歩きながらリフィが気がかりそうにフォルを見上げてきた。

「いや……。君はこの森の雰囲気が怖くはないのか? 魔物にいつ出会うかもしれない状況も怖くはないのか?」
「え? ああ……こういう雰囲気は嫌いじゃないです。むしろ落ち着くかもしれない。賑やかなところも楽しいですが、僕はまだそれほど賑やかなところに慣れているわけでもないので。あ、でもちゃんと警戒はしますので!」

 そういえば引きこもっていたと言っていたか、とフォルは頷く。

「それに自然に溢れたところはむしろ僕にとって力を分けてもらえそうな気、さえします。少なくとも見守ってもらえそうな」
「……それは、幻獣であるディルたちと関りがある理由からか?」

 ふと、リフィに初めて出会った時にリフィを助けようとしていた無数の光を思い出す。精霊だ。精霊は自然の中で特に力を発揮するというのも本で読んだことがあるかもしれない。それに今まではフォルの祖先のせいで国にほとんど精霊はいなかったが、ここはもう他国だ。おそらく見えていないだけでたくさんの精霊がいるのかもしれない。

「え、ああ、そう、ですね」

 リフィは少々歯切れが悪くなった。ディルが関わるような話題になるとたまにこういった反応を見せてくる。もしかしたら幻獣や眷属で隠していることでもあるのかもしれない。フォルは「追及する気はない」という気持ちを出すつもりで「魔物はしかし怖いものだろう」と話の軌道を少し変えた。

「そうですね。魔物は確かに。でもそれだって僕自身弱いくせに多少はわくわくしてしまうんです。こういった冒険に昔からとても憧れていたから……」

 リフィは実際どこか嬉しそうに笑みを浮かべてきた。

「……そう、か」

 思わずその表情をじっと見ていると何故かリフィの肩に乗っていたディルがフォルの腕に絡みついてきた。

「……どういうつもりだ、ディルとやら」

 勝手に巻き付いてきた蛇を微妙な顔で見れば、ディルは鎌首をもたげ、威嚇音を出してくる。

「ディル? 何をしているの」

 リフィが困惑しながらディルを自分のほうへ戻そうとしてきた。フォルはため息をつきながら首を振る。

「構わない。俺は残念ながらディルの言っていることはわからないが、やりたいようにすればいい」

 幻獣であり眷属というのならば、少なくともリフィに害をなすことはしないわけで、それなら実際好きにすればいいとフォルはさせたいようにさせた。とはいえ可愛がるつもりはないのでまるでディルなど巻きついていないかのように存在を無視して腕を好きに動かす。いや、むしろわざと変に動かしたりしたかもしれない。

「その蛇、珍しい色してるね」

 今まで呑気に歩いていたクルトがディルに気づき、これまた呑気な様子で言ってきた時、フォルは無視できない気配を向こうに感じた。
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