銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

58話

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 実際にこの国では猪の魔物に困らされているようだ。翌日、一見のどかな風景を見て回りながら聞いた話によると、その魔物はたまに森から出てきては農地を荒したり家畜を殺したりするだけでなく人間をも簡単に殺してきた。王もそれらに悩まされた挙句、魔物を倒してくれた者にはたくさんの褒美をとらせると最初触れを出したらしい。だがそれくらいでは大きくて恐ろしい魔物を退治するどころか誰も森にさえ近づこうとしなかったらしく、とうとう自分の娘を娶らせると触れを出すに至ったようだ。この国の王女は美しいだけでなく、とても善良な人だと平民の中でも有名なのだという。

「自分の娘を差し出すなんて、いったいどれほど恐ろしい魔物だというのだ。山よりも高い大きさだったりするというのか」

 魔物を倒す代わりに大切で大事な弟、アルディスを婿にとらせようと触れを出す父親を想像しようとして頭を抱えたフォルは呟いた。

「山よりでかいなら森に住むことは困難ではないでしょうか」
「コルジア、お前は黙ってろ」

 一方、リフィは楽しそうだ。好奇心は旺盛だとはいえいつもはどちらかと言えば控えめでおとなしいというのに、ひたすらクルトの話や魔物について、挙句の果てには実際そんな話などクルトからも町や村の人々からも一切出てこなかったというのによくわからない小人などについて語っている。

「……小人は……まぁもしかしたらいるかもしれんが、基本的に魔物と同じではないのか?」
「色んな小人がいるんですよ。でも大抵は主人公を助けてくれるキーパーソンとなる存在なのです」
「たかが小人がそんな重大な役目なのか……? というか主人公とはどういうことだ。主人公……というのは主役か? 誰を指しているんだ。まさかクルトか」
「当然この場合はクルトさんじゃないですか」

 力いっぱい肯定され、フォルは何故かほんのりモヤっとした。だがリフィが楽しそうなのでとりあえずよくわからない妄想については指摘もなにもせず聞き流すことにする。
 クルトはわりと最近に親を亡くしたばかりだったが貧しい家のため遺産もなく、ダミアンと二人で何とかその日その日を暮らしていたようだ。その後フォルたちも何度かダミアンと接することもあったが兄弟は全然似ていないようだった。弟のクルトが素朴で真面目そうなのに対し、兄のダミアンはずる賢く抜け目がなさそうな性格をしているように思われる。

「お前よりたちが悪そうだな、コルジア」
「そもそも私はずる賢くも抜け目がなさそうでもありませんが?」

 宿の宿泊費なども今回の危険な仕事を引き受けた際の準備金的なもので賄っているようだが、クルトが控えめに使用している反面、ダミアンが一人一人で部屋を取っただけでなく、大いに飲食を楽しんだりと好きに使っているように見える。とはいえ魔物退治のために英気を養っていると考えることもできないではない。

「君も好きなものを飲み食いしないのか」
「オレはいいよ。特に必要ないし、兄さんが使えばいい」
「そうか」

 フォルがそれ以上特に何も言わないでいると、一緒に聞いていたリフィが「うんうん、きっとそういうところも小人さんは知っていて簡単な試練のあとに贈り物をくれるはずなんです」と目を煌めかせてきた。

「コルジア……」
「何です」
「リフィは……どういうことだろう」
「私が何でも知っていると思ったら大間違いですよ」

 後でそっとコルジアに言えば微妙な顔で返された。仕方なく本人に恐る恐る「リフィはどうしたんだ……?」と聞くと最初はぽかんとされたが小人云々について改めて聞くと笑顔で答えてくれた。

「僕、昔から物語を読むの好きで。兄がたまに本をくれたんです」
「本? それはまた……結構貴重なものだろう?」
「あっ……えっと、そう、ですね。でもその、僕の生まれ育った国ではわりとえっと、普通にありました、本!」

 動揺が怪しいし、紙は貴重なのでどの国だろうが、それこそ小人の国があるならいざ知らず、普通は本など高級品だろう。
 たまに垣間見る気品を感じさせる物腰からしてもやはりリフィは元々庶民ではないのではとフォルはそっと思った。
 リフィの言う小人や動物云々がクルトを救ってくれる説はさておき、魔物が実際どれほどのものかあちこちで聞いてみてもわからなかったフォルとしては、クルトのあとについて行くことにした。部屋を譲ってくれた恩は小人ではないが忘れない。もし実際に危険なら手を貸したいと思った。

「また例のアレですか」
「アレとか言うのやめろ、コルジア」
「病気というよりいいでしょう。それともお節介のほうがよろしいですか? まぁどのみちまだ船は出ませんしね、時間は以前と違ってありますし。しかしリフィくんはどうします?」
「できれば観光でもしていてもらいたいが」

 とはいえ内緒にしておくのもかわいそうだと仕方なくリフィにフォルたちがついて行くことを言えば「僕も行きます、絶対」と予想通りの答えが返ってきた。

「危ないかそうでないかもわからない状態なんだ。だが必要以上に警戒していてくれるならついてきていい」
「僕を子ども扱いするのだけはやめてくださいね。まあそりゃあなた方お二人にとっては足手まといでしかないでしょうけれども」

 子ども扱いね……とフォルは微妙な顔でリフィを見た後に小さくため息をついた。リフィに対してどういう扱いをしているかはあまり考えないようにしている。それは多分コルジアが鬱陶しいせいだとフォルは内心舌打ちをした。
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