59 / 151
第三章 旅立ち
58話
しおりを挟む
実際にこの国では猪の魔物に困らされているようだ。翌日、一見のどかな風景を見て回りながら聞いた話によると、その魔物はたまに森から出てきては農地を荒したり家畜を殺したりするだけでなく人間をも簡単に殺してきた。王もそれらに悩まされた挙句、魔物を倒してくれた者にはたくさんの褒美をとらせると最初触れを出したらしい。だがそれくらいでは大きくて恐ろしい魔物を退治するどころか誰も森にさえ近づこうとしなかったらしく、とうとう自分の娘を娶らせると触れを出すに至ったようだ。この国の王女は美しいだけでなく、とても善良な人だと平民の中でも有名なのだという。
「自分の娘を差し出すなんて、いったいどれほど恐ろしい魔物だというのだ。山よりも高い大きさだったりするというのか」
魔物を倒す代わりに大切で大事な弟、アルディスを婿にとらせようと触れを出す父親を想像しようとして頭を抱えたフォルは呟いた。
「山よりでかいなら森に住むことは困難ではないでしょうか」
「コルジア、お前は黙ってろ」
一方、リフィは楽しそうだ。好奇心は旺盛だとはいえいつもはどちらかと言えば控えめでおとなしいというのに、ひたすらクルトの話や魔物について、挙句の果てには実際そんな話などクルトからも町や村の人々からも一切出てこなかったというのによくわからない小人などについて語っている。
「……小人は……まぁもしかしたらいるかもしれんが、基本的に魔物と同じではないのか?」
「色んな小人がいるんですよ。でも大抵は主人公を助けてくれるキーパーソンとなる存在なのです」
「たかが小人がそんな重大な役目なのか……? というか主人公とはどういうことだ。主人公……というのは主役か? 誰を指しているんだ。まさかクルトか」
「当然この場合はクルトさんじゃないですか」
力いっぱい肯定され、フォルは何故かほんのりモヤっとした。だがリフィが楽しそうなのでとりあえずよくわからない妄想については指摘もなにもせず聞き流すことにする。
クルトはわりと最近に親を亡くしたばかりだったが貧しい家のため遺産もなく、ダミアンと二人で何とかその日その日を暮らしていたようだ。その後フォルたちも何度かダミアンと接することもあったが兄弟は全然似ていないようだった。弟のクルトが素朴で真面目そうなのに対し、兄のダミアンはずる賢く抜け目がなさそうな性格をしているように思われる。
「お前よりたちが悪そうだな、コルジア」
「そもそも私はずる賢くも抜け目がなさそうでもありませんが?」
宿の宿泊費なども今回の危険な仕事を引き受けた際の準備金的なもので賄っているようだが、クルトが控えめに使用している反面、ダミアンが一人一人で部屋を取っただけでなく、大いに飲食を楽しんだりと好きに使っているように見える。とはいえ魔物退治のために英気を養っていると考えることもできないではない。
「君も好きなものを飲み食いしないのか」
「オレはいいよ。特に必要ないし、兄さんが使えばいい」
「そうか」
フォルがそれ以上特に何も言わないでいると、一緒に聞いていたリフィが「うんうん、きっとそういうところも小人さんは知っていて簡単な試練のあとに贈り物をくれるはずなんです」と目を煌めかせてきた。
「コルジア……」
「何です」
「リフィは……どういうことだろう」
「私が何でも知っていると思ったら大間違いですよ」
後でそっとコルジアに言えば微妙な顔で返された。仕方なく本人に恐る恐る「リフィはどうしたんだ……?」と聞くと最初はぽかんとされたが小人云々について改めて聞くと笑顔で答えてくれた。
「僕、昔から物語を読むの好きで。兄がたまに本をくれたんです」
「本? それはまた……結構貴重なものだろう?」
「あっ……えっと、そう、ですね。でもその、僕の生まれ育った国ではわりとえっと、普通にありました、本!」
動揺が怪しいし、紙は貴重なのでどの国だろうが、それこそ小人の国があるならいざ知らず、普通は本など高級品だろう。
たまに垣間見る気品を感じさせる物腰からしてもやはりリフィは元々庶民ではないのではとフォルはそっと思った。
リフィの言う小人や動物云々がクルトを救ってくれる説はさておき、魔物が実際どれほどのものかあちこちで聞いてみてもわからなかったフォルとしては、クルトのあとについて行くことにした。部屋を譲ってくれた恩は小人ではないが忘れない。もし実際に危険なら手を貸したいと思った。
「また例のアレですか」
「アレとか言うのやめろ、コルジア」
「病気というよりいいでしょう。それともお節介のほうがよろしいですか? まぁどのみちまだ船は出ませんしね、時間は以前と違ってありますし。しかしリフィくんはどうします?」
「できれば観光でもしていてもらいたいが」
とはいえ内緒にしておくのもかわいそうだと仕方なくリフィにフォルたちがついて行くことを言えば「僕も行きます、絶対」と予想通りの答えが返ってきた。
「危ないかそうでないかもわからない状態なんだ。だが必要以上に警戒していてくれるならついてきていい」
「僕を子ども扱いするのだけはやめてくださいね。まあそりゃあなた方お二人にとっては足手まといでしかないでしょうけれども」
子ども扱いね……とフォルは微妙な顔でリフィを見た後に小さくため息をついた。リフィに対してどういう扱いをしているかはあまり考えないようにしている。それは多分コルジアが鬱陶しいせいだとフォルは内心舌打ちをした。
「自分の娘を差し出すなんて、いったいどれほど恐ろしい魔物だというのだ。山よりも高い大きさだったりするというのか」
魔物を倒す代わりに大切で大事な弟、アルディスを婿にとらせようと触れを出す父親を想像しようとして頭を抱えたフォルは呟いた。
「山よりでかいなら森に住むことは困難ではないでしょうか」
「コルジア、お前は黙ってろ」
一方、リフィは楽しそうだ。好奇心は旺盛だとはいえいつもはどちらかと言えば控えめでおとなしいというのに、ひたすらクルトの話や魔物について、挙句の果てには実際そんな話などクルトからも町や村の人々からも一切出てこなかったというのによくわからない小人などについて語っている。
「……小人は……まぁもしかしたらいるかもしれんが、基本的に魔物と同じではないのか?」
「色んな小人がいるんですよ。でも大抵は主人公を助けてくれるキーパーソンとなる存在なのです」
「たかが小人がそんな重大な役目なのか……? というか主人公とはどういうことだ。主人公……というのは主役か? 誰を指しているんだ。まさかクルトか」
「当然この場合はクルトさんじゃないですか」
力いっぱい肯定され、フォルは何故かほんのりモヤっとした。だがリフィが楽しそうなのでとりあえずよくわからない妄想については指摘もなにもせず聞き流すことにする。
クルトはわりと最近に親を亡くしたばかりだったが貧しい家のため遺産もなく、ダミアンと二人で何とかその日その日を暮らしていたようだ。その後フォルたちも何度かダミアンと接することもあったが兄弟は全然似ていないようだった。弟のクルトが素朴で真面目そうなのに対し、兄のダミアンはずる賢く抜け目がなさそうな性格をしているように思われる。
「お前よりたちが悪そうだな、コルジア」
「そもそも私はずる賢くも抜け目がなさそうでもありませんが?」
宿の宿泊費なども今回の危険な仕事を引き受けた際の準備金的なもので賄っているようだが、クルトが控えめに使用している反面、ダミアンが一人一人で部屋を取っただけでなく、大いに飲食を楽しんだりと好きに使っているように見える。とはいえ魔物退治のために英気を養っていると考えることもできないではない。
「君も好きなものを飲み食いしないのか」
「オレはいいよ。特に必要ないし、兄さんが使えばいい」
「そうか」
フォルがそれ以上特に何も言わないでいると、一緒に聞いていたリフィが「うんうん、きっとそういうところも小人さんは知っていて簡単な試練のあとに贈り物をくれるはずなんです」と目を煌めかせてきた。
「コルジア……」
「何です」
「リフィは……どういうことだろう」
「私が何でも知っていると思ったら大間違いですよ」
後でそっとコルジアに言えば微妙な顔で返された。仕方なく本人に恐る恐る「リフィはどうしたんだ……?」と聞くと最初はぽかんとされたが小人云々について改めて聞くと笑顔で答えてくれた。
「僕、昔から物語を読むの好きで。兄がたまに本をくれたんです」
「本? それはまた……結構貴重なものだろう?」
「あっ……えっと、そう、ですね。でもその、僕の生まれ育った国ではわりとえっと、普通にありました、本!」
動揺が怪しいし、紙は貴重なのでどの国だろうが、それこそ小人の国があるならいざ知らず、普通は本など高級品だろう。
たまに垣間見る気品を感じさせる物腰からしてもやはりリフィは元々庶民ではないのではとフォルはそっと思った。
リフィの言う小人や動物云々がクルトを救ってくれる説はさておき、魔物が実際どれほどのものかあちこちで聞いてみてもわからなかったフォルとしては、クルトのあとについて行くことにした。部屋を譲ってくれた恩は小人ではないが忘れない。もし実際に危険なら手を貸したいと思った。
「また例のアレですか」
「アレとか言うのやめろ、コルジア」
「病気というよりいいでしょう。それともお節介のほうがよろしいですか? まぁどのみちまだ船は出ませんしね、時間は以前と違ってありますし。しかしリフィくんはどうします?」
「できれば観光でもしていてもらいたいが」
とはいえ内緒にしておくのもかわいそうだと仕方なくリフィにフォルたちがついて行くことを言えば「僕も行きます、絶対」と予想通りの答えが返ってきた。
「危ないかそうでないかもわからない状態なんだ。だが必要以上に警戒していてくれるならついてきていい」
「僕を子ども扱いするのだけはやめてくださいね。まあそりゃあなた方お二人にとっては足手まといでしかないでしょうけれども」
子ども扱いね……とフォルは微妙な顔でリフィを見た後に小さくため息をついた。リフィに対してどういう扱いをしているかはあまり考えないようにしている。それは多分コルジアが鬱陶しいせいだとフォルは内心舌打ちをした。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる