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第三章 旅立ち
57話
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半月と少々経った頃に、船は最初の島へと上陸した。
「数日はここで滞在らしい。どこか宿泊するところを探そう」
三人と一匹は宿屋を見つけると、とりあえず部屋を二つとろうとして部屋が一つしか空いていないと主人に言われた。
「それは困る。もう一つ部屋が必要なんだ」
「そう言われましてもね。ああ、そうだ。馬屋でしたら一人くらいならなんとかなりますけど」
「馬……っ?」
フォルが唖然としている横でリフィが「あの、同じ部屋でいいですよ」と平然と言い放つ。確かにリフィは普通に少年の体をしたどう見ても本物の少年なのだから何も問題はないのだろう。だが本当の姿を知っているだけにフォルが落ち着かない。他人である男女が眠る部屋を同じにするなどあってはならないことだと思ってしまう。
' 元の姿は女である張本人はあっけらかんとしているし、事情を知らないコルジアはまた生温い目でフォルを見てくる。ディルはリフィの鞄の中で大人しくしているようだが、とにかくフォルとしては何故自分ばかりが気にしないといけないのかと思いながらも、自分が気になるのだから仕方がないとため息をつき、「馬とは寝れん……」と首を振った。
「あの」
その時、すぐ後ろの酒場で食事をしていたらしい男が近づいてきた。
「よかったらオレの部屋をこの人たちに。オレが馬屋を使うよ」
「そんな、それは駄目ですよ」
フォルが「それは助かる」と言いかけている途中でリフィが勢いよく否定してきた。
「ううん、いいよ。オレは馬屋で眠るのに慣れているからね。気にしないで。それに主人、馬屋だと宿代も安くしてくれるんだろ?」
「まあベッドすらねえですからね。かなり安くしますよ」
「ほら、ね。気にしないで」
人の良さそうな男がにこにこと言ってきた。同じテーブルで食事をしていたらしい別の男が肉を食べながら「馬鹿だなクルト。そんな得体の知れないやつに譲ってやることなんてないのに」と鼻で笑ってくる。
「兄さん。ああ、もしくはオレが兄さんの部屋で一緒に……」
「冗談じゃない。俺は俺だけの部屋で休ませてもらう。お前が勝手につまらない親切を振りまいたんだ。俺の知ったこっちゃない」
「だよね」
男が苦笑していると、テーブルで食べていたほうの男が立ち上がり、いくらか硬貨を置くと「俺は部屋に戻る」と立ち去ってしまった。
「あの、提案は嬉しいのですが、申し訳ないので……」
リフィがクルトと呼ばれた男に話しかけると「気にしないで。実際馬屋で眠ることには慣れてるんだ」とクルトはまた笑いかけてきた。恐縮しまくっているリフィには悪いが、フォルとしては願ったり叶ったりだ。
「本当に助かるよ。えっとクルト、さん?」
「うん。クルトと呼び捨ててくれていいよ」
「ありがとう。俺はフォルだ。こっちのずる賢そうなのがコルジア、で恐縮しまくっているのがリフィだ」
「フォル。私のどこがずる賢いというのです。賢い、は間違いないですが」
「はは。よろしく、コルジアにリフィ、そしてフォル。えっと、部屋に戻って行ったのがオレの兄さんでダミアンだ。オレたちはまあ見てもわかるだろうけど貧乏な育ちでね。ほんと馬と寝るのも慣れてるから気にしないでくれ」
「とても助かるよ。ありがとう。だがそれだけでは俺の気が済まない。よかったらここに滞在する間の宿代とあと食事代くらいはせめて持たせてくれ」
「いや、それはかえって申し訳ないよ」
「気になさることなどありませんよ。フォルのわがままであなたに馬屋で寝てもらうなんてとんでもないことをお願いする羽目になったのです。ご旅行ですか? なんなら旅行代金も請求なさればいいんです」
「……コルジア。お前はいちいち二言三言くらい余計だな」
「そうですか?」
少々困惑していたクルトに一緒に食事をとりながら話を聞くと、この国の王から御触書というものが出ていて内容は「危険な猪の魔物を退治した者に王女を嫁にやる」というものらしい。野心家でもあるダミアンが名乗り上げ、人の良さそうなクルトもそれに巻き込まれる形で参加することになったようだ。
「力には少々覚えはあるけど、さすがに猪の魔物だからなあ。でも兄さんはすごくやる気でね」
「……は? 待て。たかがそんなことで王女を嫁に……?」
そもそも王族であるフォルが思わず唖然としている横で何故かリフィが「うわぁ、物語で読んだやつだ! 英雄が助けるやつだ!」と頬に手を当てて喜んでいる。
「……リフィ?」
「リフィくん?」
「すごいね! きっと優しいクルトが主人公だね。どこで倒すの? 森? 森ならきっと小人がいて、多分クルトがその小人を知らずに助けてお礼に魔物を倒せる剣とか魔法とか方法とかを伝授されるんだよ。絶対そうだよ! もしくは猫とかアヒルとかカエルとかなんかの動物を助けるとその動物が実は魔力を持った他国の王子だったりするんだよ、で、やっぱり倒すための方法を教えてくれるんだ。うわぁ、わくわくするね、クルトがそしてお姫様をもらって王様になるやつだ」
「……あの、弟さん? リフィだっけ。その……、大丈夫、か?」
さらに困惑したクルトがフォルを見てくる。色々と抜けていたり危なっかしいものの、どちらかと言えば現実的なタイプだとフォルもリフィに対して思っていたので正直困惑している。コルジアは顔には出ていないがおそらく同じく困惑しているはずだ。フォルも顔には出さず一応「問題ない」とだけ答えておいた。
「数日はここで滞在らしい。どこか宿泊するところを探そう」
三人と一匹は宿屋を見つけると、とりあえず部屋を二つとろうとして部屋が一つしか空いていないと主人に言われた。
「それは困る。もう一つ部屋が必要なんだ」
「そう言われましてもね。ああ、そうだ。馬屋でしたら一人くらいならなんとかなりますけど」
「馬……っ?」
フォルが唖然としている横でリフィが「あの、同じ部屋でいいですよ」と平然と言い放つ。確かにリフィは普通に少年の体をしたどう見ても本物の少年なのだから何も問題はないのだろう。だが本当の姿を知っているだけにフォルが落ち着かない。他人である男女が眠る部屋を同じにするなどあってはならないことだと思ってしまう。
' 元の姿は女である張本人はあっけらかんとしているし、事情を知らないコルジアはまた生温い目でフォルを見てくる。ディルはリフィの鞄の中で大人しくしているようだが、とにかくフォルとしては何故自分ばかりが気にしないといけないのかと思いながらも、自分が気になるのだから仕方がないとため息をつき、「馬とは寝れん……」と首を振った。
「あの」
その時、すぐ後ろの酒場で食事をしていたらしい男が近づいてきた。
「よかったらオレの部屋をこの人たちに。オレが馬屋を使うよ」
「そんな、それは駄目ですよ」
フォルが「それは助かる」と言いかけている途中でリフィが勢いよく否定してきた。
「ううん、いいよ。オレは馬屋で眠るのに慣れているからね。気にしないで。それに主人、馬屋だと宿代も安くしてくれるんだろ?」
「まあベッドすらねえですからね。かなり安くしますよ」
「ほら、ね。気にしないで」
人の良さそうな男がにこにこと言ってきた。同じテーブルで食事をしていたらしい別の男が肉を食べながら「馬鹿だなクルト。そんな得体の知れないやつに譲ってやることなんてないのに」と鼻で笑ってくる。
「兄さん。ああ、もしくはオレが兄さんの部屋で一緒に……」
「冗談じゃない。俺は俺だけの部屋で休ませてもらう。お前が勝手につまらない親切を振りまいたんだ。俺の知ったこっちゃない」
「だよね」
男が苦笑していると、テーブルで食べていたほうの男が立ち上がり、いくらか硬貨を置くと「俺は部屋に戻る」と立ち去ってしまった。
「あの、提案は嬉しいのですが、申し訳ないので……」
リフィがクルトと呼ばれた男に話しかけると「気にしないで。実際馬屋で眠ることには慣れてるんだ」とクルトはまた笑いかけてきた。恐縮しまくっているリフィには悪いが、フォルとしては願ったり叶ったりだ。
「本当に助かるよ。えっとクルト、さん?」
「うん。クルトと呼び捨ててくれていいよ」
「ありがとう。俺はフォルだ。こっちのずる賢そうなのがコルジア、で恐縮しまくっているのがリフィだ」
「フォル。私のどこがずる賢いというのです。賢い、は間違いないですが」
「はは。よろしく、コルジアにリフィ、そしてフォル。えっと、部屋に戻って行ったのがオレの兄さんでダミアンだ。オレたちはまあ見てもわかるだろうけど貧乏な育ちでね。ほんと馬と寝るのも慣れてるから気にしないでくれ」
「とても助かるよ。ありがとう。だがそれだけでは俺の気が済まない。よかったらここに滞在する間の宿代とあと食事代くらいはせめて持たせてくれ」
「いや、それはかえって申し訳ないよ」
「気になさることなどありませんよ。フォルのわがままであなたに馬屋で寝てもらうなんてとんでもないことをお願いする羽目になったのです。ご旅行ですか? なんなら旅行代金も請求なさればいいんです」
「……コルジア。お前はいちいち二言三言くらい余計だな」
「そうですか?」
少々困惑していたクルトに一緒に食事をとりながら話を聞くと、この国の王から御触書というものが出ていて内容は「危険な猪の魔物を退治した者に王女を嫁にやる」というものらしい。野心家でもあるダミアンが名乗り上げ、人の良さそうなクルトもそれに巻き込まれる形で参加することになったようだ。
「力には少々覚えはあるけど、さすがに猪の魔物だからなあ。でも兄さんはすごくやる気でね」
「……は? 待て。たかがそんなことで王女を嫁に……?」
そもそも王族であるフォルが思わず唖然としている横で何故かリフィが「うわぁ、物語で読んだやつだ! 英雄が助けるやつだ!」と頬に手を当てて喜んでいる。
「……リフィ?」
「リフィくん?」
「すごいね! きっと優しいクルトが主人公だね。どこで倒すの? 森? 森ならきっと小人がいて、多分クルトがその小人を知らずに助けてお礼に魔物を倒せる剣とか魔法とか方法とかを伝授されるんだよ。絶対そうだよ! もしくは猫とかアヒルとかカエルとかなんかの動物を助けるとその動物が実は魔力を持った他国の王子だったりするんだよ、で、やっぱり倒すための方法を教えてくれるんだ。うわぁ、わくわくするね、クルトがそしてお姫様をもらって王様になるやつだ」
「……あの、弟さん? リフィだっけ。その……、大丈夫、か?」
さらに困惑したクルトがフォルを見てくる。色々と抜けていたり危なっかしいものの、どちらかと言えば現実的なタイプだとフォルもリフィに対して思っていたので正直困惑している。コルジアは顔には出ていないがおそらく同じく困惑しているはずだ。フォルも顔には出さず一応「問題ない」とだけ答えておいた。
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