58 / 151
第三章 旅立ち
57話
しおりを挟む
半月と少々経った頃に、船は最初の島へと上陸した。
「数日はここで滞在らしい。どこか宿泊するところを探そう」
三人と一匹は宿屋を見つけると、とりあえず部屋を二つとろうとして部屋が一つしか空いていないと主人に言われた。
「それは困る。もう一つ部屋が必要なんだ」
「そう言われましてもね。ああ、そうだ。馬屋でしたら一人くらいならなんとかなりますけど」
「馬……っ?」
フォルが唖然としている横でリフィが「あの、同じ部屋でいいですよ」と平然と言い放つ。確かにリフィは普通に少年の体をしたどう見ても本物の少年なのだから何も問題はないのだろう。だが本当の姿を知っているだけにフォルが落ち着かない。他人である男女が眠る部屋を同じにするなどあってはならないことだと思ってしまう。
' 元の姿は女である張本人はあっけらかんとしているし、事情を知らないコルジアはまた生温い目でフォルを見てくる。ディルはリフィの鞄の中で大人しくしているようだが、とにかくフォルとしては何故自分ばかりが気にしないといけないのかと思いながらも、自分が気になるのだから仕方がないとため息をつき、「馬とは寝れん……」と首を振った。
「あの」
その時、すぐ後ろの酒場で食事をしていたらしい男が近づいてきた。
「よかったらオレの部屋をこの人たちに。オレが馬屋を使うよ」
「そんな、それは駄目ですよ」
フォルが「それは助かる」と言いかけている途中でリフィが勢いよく否定してきた。
「ううん、いいよ。オレは馬屋で眠るのに慣れているからね。気にしないで。それに主人、馬屋だと宿代も安くしてくれるんだろ?」
「まあベッドすらねえですからね。かなり安くしますよ」
「ほら、ね。気にしないで」
人の良さそうな男がにこにこと言ってきた。同じテーブルで食事をしていたらしい別の男が肉を食べながら「馬鹿だなクルト。そんな得体の知れないやつに譲ってやることなんてないのに」と鼻で笑ってくる。
「兄さん。ああ、もしくはオレが兄さんの部屋で一緒に……」
「冗談じゃない。俺は俺だけの部屋で休ませてもらう。お前が勝手につまらない親切を振りまいたんだ。俺の知ったこっちゃない」
「だよね」
男が苦笑していると、テーブルで食べていたほうの男が立ち上がり、いくらか硬貨を置くと「俺は部屋に戻る」と立ち去ってしまった。
「あの、提案は嬉しいのですが、申し訳ないので……」
リフィがクルトと呼ばれた男に話しかけると「気にしないで。実際馬屋で眠ることには慣れてるんだ」とクルトはまた笑いかけてきた。恐縮しまくっているリフィには悪いが、フォルとしては願ったり叶ったりだ。
「本当に助かるよ。えっとクルト、さん?」
「うん。クルトと呼び捨ててくれていいよ」
「ありがとう。俺はフォルだ。こっちのずる賢そうなのがコルジア、で恐縮しまくっているのがリフィだ」
「フォル。私のどこがずる賢いというのです。賢い、は間違いないですが」
「はは。よろしく、コルジアにリフィ、そしてフォル。えっと、部屋に戻って行ったのがオレの兄さんでダミアンだ。オレたちはまあ見てもわかるだろうけど貧乏な育ちでね。ほんと馬と寝るのも慣れてるから気にしないでくれ」
「とても助かるよ。ありがとう。だがそれだけでは俺の気が済まない。よかったらここに滞在する間の宿代とあと食事代くらいはせめて持たせてくれ」
「いや、それはかえって申し訳ないよ」
「気になさることなどありませんよ。フォルのわがままであなたに馬屋で寝てもらうなんてとんでもないことをお願いする羽目になったのです。ご旅行ですか? なんなら旅行代金も請求なさればいいんです」
「……コルジア。お前はいちいち二言三言くらい余計だな」
「そうですか?」
少々困惑していたクルトに一緒に食事をとりながら話を聞くと、この国の王から御触書というものが出ていて内容は「危険な猪の魔物を退治した者に王女を嫁にやる」というものらしい。野心家でもあるダミアンが名乗り上げ、人の良さそうなクルトもそれに巻き込まれる形で参加することになったようだ。
「力には少々覚えはあるけど、さすがに猪の魔物だからなあ。でも兄さんはすごくやる気でね」
「……は? 待て。たかがそんなことで王女を嫁に……?」
そもそも王族であるフォルが思わず唖然としている横で何故かリフィが「うわぁ、物語で読んだやつだ! 英雄が助けるやつだ!」と頬に手を当てて喜んでいる。
「……リフィ?」
「リフィくん?」
「すごいね! きっと優しいクルトが主人公だね。どこで倒すの? 森? 森ならきっと小人がいて、多分クルトがその小人を知らずに助けてお礼に魔物を倒せる剣とか魔法とか方法とかを伝授されるんだよ。絶対そうだよ! もしくは猫とかアヒルとかカエルとかなんかの動物を助けるとその動物が実は魔力を持った他国の王子だったりするんだよ、で、やっぱり倒すための方法を教えてくれるんだ。うわぁ、わくわくするね、クルトがそしてお姫様をもらって王様になるやつだ」
「……あの、弟さん? リフィだっけ。その……、大丈夫、か?」
さらに困惑したクルトがフォルを見てくる。色々と抜けていたり危なっかしいものの、どちらかと言えば現実的なタイプだとフォルもリフィに対して思っていたので正直困惑している。コルジアは顔には出ていないがおそらく同じく困惑しているはずだ。フォルも顔には出さず一応「問題ない」とだけ答えておいた。
「数日はここで滞在らしい。どこか宿泊するところを探そう」
三人と一匹は宿屋を見つけると、とりあえず部屋を二つとろうとして部屋が一つしか空いていないと主人に言われた。
「それは困る。もう一つ部屋が必要なんだ」
「そう言われましてもね。ああ、そうだ。馬屋でしたら一人くらいならなんとかなりますけど」
「馬……っ?」
フォルが唖然としている横でリフィが「あの、同じ部屋でいいですよ」と平然と言い放つ。確かにリフィは普通に少年の体をしたどう見ても本物の少年なのだから何も問題はないのだろう。だが本当の姿を知っているだけにフォルが落ち着かない。他人である男女が眠る部屋を同じにするなどあってはならないことだと思ってしまう。
' 元の姿は女である張本人はあっけらかんとしているし、事情を知らないコルジアはまた生温い目でフォルを見てくる。ディルはリフィの鞄の中で大人しくしているようだが、とにかくフォルとしては何故自分ばかりが気にしないといけないのかと思いながらも、自分が気になるのだから仕方がないとため息をつき、「馬とは寝れん……」と首を振った。
「あの」
その時、すぐ後ろの酒場で食事をしていたらしい男が近づいてきた。
「よかったらオレの部屋をこの人たちに。オレが馬屋を使うよ」
「そんな、それは駄目ですよ」
フォルが「それは助かる」と言いかけている途中でリフィが勢いよく否定してきた。
「ううん、いいよ。オレは馬屋で眠るのに慣れているからね。気にしないで。それに主人、馬屋だと宿代も安くしてくれるんだろ?」
「まあベッドすらねえですからね。かなり安くしますよ」
「ほら、ね。気にしないで」
人の良さそうな男がにこにこと言ってきた。同じテーブルで食事をしていたらしい別の男が肉を食べながら「馬鹿だなクルト。そんな得体の知れないやつに譲ってやることなんてないのに」と鼻で笑ってくる。
「兄さん。ああ、もしくはオレが兄さんの部屋で一緒に……」
「冗談じゃない。俺は俺だけの部屋で休ませてもらう。お前が勝手につまらない親切を振りまいたんだ。俺の知ったこっちゃない」
「だよね」
男が苦笑していると、テーブルで食べていたほうの男が立ち上がり、いくらか硬貨を置くと「俺は部屋に戻る」と立ち去ってしまった。
「あの、提案は嬉しいのですが、申し訳ないので……」
リフィがクルトと呼ばれた男に話しかけると「気にしないで。実際馬屋で眠ることには慣れてるんだ」とクルトはまた笑いかけてきた。恐縮しまくっているリフィには悪いが、フォルとしては願ったり叶ったりだ。
「本当に助かるよ。えっとクルト、さん?」
「うん。クルトと呼び捨ててくれていいよ」
「ありがとう。俺はフォルだ。こっちのずる賢そうなのがコルジア、で恐縮しまくっているのがリフィだ」
「フォル。私のどこがずる賢いというのです。賢い、は間違いないですが」
「はは。よろしく、コルジアにリフィ、そしてフォル。えっと、部屋に戻って行ったのがオレの兄さんでダミアンだ。オレたちはまあ見てもわかるだろうけど貧乏な育ちでね。ほんと馬と寝るのも慣れてるから気にしないでくれ」
「とても助かるよ。ありがとう。だがそれだけでは俺の気が済まない。よかったらここに滞在する間の宿代とあと食事代くらいはせめて持たせてくれ」
「いや、それはかえって申し訳ないよ」
「気になさることなどありませんよ。フォルのわがままであなたに馬屋で寝てもらうなんてとんでもないことをお願いする羽目になったのです。ご旅行ですか? なんなら旅行代金も請求なさればいいんです」
「……コルジア。お前はいちいち二言三言くらい余計だな」
「そうですか?」
少々困惑していたクルトに一緒に食事をとりながら話を聞くと、この国の王から御触書というものが出ていて内容は「危険な猪の魔物を退治した者に王女を嫁にやる」というものらしい。野心家でもあるダミアンが名乗り上げ、人の良さそうなクルトもそれに巻き込まれる形で参加することになったようだ。
「力には少々覚えはあるけど、さすがに猪の魔物だからなあ。でも兄さんはすごくやる気でね」
「……は? 待て。たかがそんなことで王女を嫁に……?」
そもそも王族であるフォルが思わず唖然としている横で何故かリフィが「うわぁ、物語で読んだやつだ! 英雄が助けるやつだ!」と頬に手を当てて喜んでいる。
「……リフィ?」
「リフィくん?」
「すごいね! きっと優しいクルトが主人公だね。どこで倒すの? 森? 森ならきっと小人がいて、多分クルトがその小人を知らずに助けてお礼に魔物を倒せる剣とか魔法とか方法とかを伝授されるんだよ。絶対そうだよ! もしくは猫とかアヒルとかカエルとかなんかの動物を助けるとその動物が実は魔力を持った他国の王子だったりするんだよ、で、やっぱり倒すための方法を教えてくれるんだ。うわぁ、わくわくするね、クルトがそしてお姫様をもらって王様になるやつだ」
「……あの、弟さん? リフィだっけ。その……、大丈夫、か?」
さらに困惑したクルトがフォルを見てくる。色々と抜けていたり危なっかしいものの、どちらかと言えば現実的なタイプだとフォルもリフィに対して思っていたので正直困惑している。コルジアは顔には出ていないがおそらく同じく困惑しているはずだ。フォルも顔には出さず一応「問題ない」とだけ答えておいた。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる