銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

56話

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 しばらく経ったある日、日々軽い頭痛を抱えているかのような違和感と調子の悪さに悩まされていたリフィは目が覚めたとたん、すっきりとしていることに気づいて生きていることに感謝した。大袈裟だとディルに言われそうな気もしないでもないが、それくらいここのところじわじわとした不快感に参っていた。

『今日はすっきりとしていそうだな』
「おはよう、ディル! そうなの。こんなに朝が清々しかったことなんてないかもしれないくらい!」
『それはよかった。ようやく船に慣れたのだろうな』
「うん。それも大きいだろうけど、フォルが毎日夕食後にかけてくれた魔法のおかげもあるかも」

 あまり強い魔法をかけてはかえって体の負担になるからと、フォルは夕食後毎にとても軽い治癒魔法をリフィにかけてくれていた。かなり軽いため、体に悪影響が全くない分、効き目も薄い。本来は酷い怪我などに使うものであり、そこを癒すことに力が集中するため変な影響を体は受けないのであって、酔っている以外どこも悪くないなら下手をすると体の負担になるかもしれないからとフォルは説明してくれた。とても弱くともかけているうちに耐性ができていくだろうと。
 リフィも水魔法が得意であるため回復魔法を使えるのだが、フォルいわく船酔いに使うにはむしろ強すぎるらしい。

「フォルにはお世話になってばかりだな。一緒にいてくれてよかった」
『は』
「またそんな反応する。ディルはフォルのこと、嫌いなの?」
『少なくとも好きではない』
「何故?」
『……本能的に』
「なにそれ。もう。……でも僕としては一緒にいられてよかったけど、僕は全然役に立ててないどころか荷物になってる気がするんだよね」

 チームを組んでギルドの依頼を受けていた時も、船に乗ってからも、思い返せば助けてもらってばかりな気がする。そもそも最初の出会いからして助けてもらっていた。

『そんなことはない。そなたも役に立っているぞ』
「例えば?」
『……、……大きな魔物は馬車に乗れないことを教えたりだな」
「……うん、ありがとう」

 微妙な顔になった後、リフィはさっと着替えてディルを伴い、出港してから初めて心置きなく船内を見てまわりながら食堂へ向かった。今朝はフォルとコルジアには出会わなかったので、リフィは食後もそのまま船内を見てまわる。とはいえ中は入られないところが多い。上甲板にあるキャビンは食堂やリフィたちの部屋があるほかに船尾楼には船長室があるようだ。一番揺れるのは船首のほうらしいがその次が船尾らしいので、船長は大変だなとリフィはゾッとしながら思った。
 ちなみに船首楼や船尾楼は荒波をブロックしつつ海戦では敵の攻撃を防ぐ役割もあるらしい。また敵の船に乗り移りやすするためでもあると、途中話しかけてくれた船員に聞いた。

「乗り移ったりすることもあるの?」
「まあ、普段はねーよ。でも海は何があるかわからねーからな。僕──」
「リフィ。子ども扱いやめてよね。名前で呼んで」
「オーケィ、リフィ。リフィも気をつけろよ。もし海賊とかが攻めてきた場合は大人に守ってもらうんだ」
「だから子ども扱いやめてってば」
「ははは。まあ、船室を確保するためでもあるわな、戦うばっかじゃなく、役割っつったらよ」

 口は悪いが、気さくでいい人ではある。忙しいだろうにリフィがうろうろとしているのを見つけて「迷子か」と話しかけてくれたのだ。話しかけてくれた理由は少々微妙だが。

「へえ。おじさんは──」
「リフィもおじさん扱いはやめろ。俺はマーヴィンな」
「マーヴィンは何の担当なの」
「迷子受付係」
「もう、嘘ばっか!」
「見張りだよ。あと帆布の担当でもあんな」
「甲板の上に大きく張ってある布のこと?」
「ああ。俺らが今いる下の階にギャレーの他に帆布置き場もあるぞ。そうそう砲弾庫もある」
「わあ、大砲の?」
「おうともよ。近づくなよ」
「そ、それくらい僕でもわかってるよ。あ、ねえ。ギャレーってなに?」
「あー丘で言うキッチンだな」
「ギャレーって言うんだ。カッコいいね」
「はは、そうかよ。んだらな、船底にはバラストとかがある。ああ、あとビルジもあるかもな」
「それは何」
「バラストは船の重量を調整するために積み込む重しだな。ビルジはバラストや倉庫、錨鎖庫とかによ、溜まる海水や汚水、油性水とかだな」
「そ、そんなの溜まっていいの? 沈まないの?」
「よくはねぇよ。危険信号でもあるわな。それらが変に出ねぇよう、点検や整備しつつの運行だな。まあ何が言いてぇかってぇと、船底はかなり危ないから近寄んなってことだわ」
「うん、わかった!」

 自分が思っている以上に複雑そうな船を思い、リフィは真剣な顔で頷いた。するとマーヴィンは笑いながらリフィの頭をくしゃくしゃと撫でてから「んじゃまたな、迷子に気ぃつけろよ」と立ち去っていった。

「また子ども扱い」
『子どもであろうが』
「ディルまで。違うよ。何度も言うようだけど未成年は未成年でも、来年成人する子どもだからね。ニュアンスが違うの! でもマーヴィン、いい人だな」
『そなたはあれだな、変なやつに可愛がられやすい』
「どういう意味?」
『そのままだな』
「それ、ディルも入ってんの?」
『神幻獣の私が変なやつだと? ふざけるでないぞ。あと私はそなたを可愛がっておるのではない。眷属契約を結んだ相手として慈しみ、守り、それでいて対等に接しておるのだ』
「そっか。うん、ありがとう。僕もディルは誰よりも大切な存在だよ」
『うむ』

 ディルは満足げに舌とチロチロと出した。
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