銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第三章 旅立ち

53話

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 とうとう明日には出港できると港から連絡が入った。リフィはわくわくとしながら改めて荷物の整理をしていた。
 フォルと行き先が同じと聞いた時は驚いたが正直とても嬉しかった。
 竜のいる島までは各港へ寄りながらの船旅となるのでそれなりに長旅になるらしい。長期にわたってほぼ船で過ごすことになるのならディルがいるとはいえ、他にも知り合いがいてくれるほうが断然嬉しいしありがたい。
 明日から長旅が始まる。とりあえずコルドに連絡を入れておこうとリフィは片づけの最中に思い出し、通信機を取り出した。

「絶対コルド兄様にめちゃくちゃ心配されるだろうなあ」
『まあ、間違いないな。中々会えなくなるだろうし、船の長旅など何があるかもわからんしな』

 そもそも精霊や幻獣の加護があっても絶対に大丈夫なことなどなにもない。悪意あるものに捕まることもあれば怪我だとて防ぎようのない時もある。現にリフィは一度刺されて死にかけたし、崖から落ちて気を失った。

「って、僕さ、ちょっと大概な目に遭いすぎな気がしたんだけど……」
『普通の人間はもっと何もないのか?』
「うーん、どうだろ。普通の人がどうなのかは僕もわからないけど……」

 とはいえ本で読んだり、新しく出会った人たちとの話で気づいたことはある。多分、おそらく、そもそも普通は大抵親は子どもを大切にしてくれる。無条件の愛をくれるらしい。

「でも僕よりもね、もっと大変な子どもだってたくさんいるみたい。お金がなくて今生きるのすら大変で、親の愛どころではない子とかね。僕のところはお金持ちだったし、両親も僕を好きではなかったみたいだけどちゃんと寝るところも与えてくれたしご飯だって暖かい服だって与えてくれた。教育だって、ね。イルナお姉様は僕たちを殺しかけたけどでも本当は僕を殺したいわけじゃなかったし。そう思うと僕はまだまだ普通どころか幸せな人間だよね。大概な目に遭ったのは自業自得かも」
『……まあ少なくとも自業自得でないことだけは確かだがな』

 ディルは何とも言えないような顔でリフィを見てきた。



『じゃあ明日から船旅か』

 通信機で連絡を取ると相変わらずその前に陣取っているのかと思うくらいコルドは出るのが早い。苦笑しながらリフィは船が修繕と点検も無事終わったことを報告していた。

「うん。ずっと船に揺られる状態なんてちょっと想像もつかないから今からドキドキしてる」
『俺もお前に何かあったらどうしようってドキドキしてるよ……』
「ちょっとドキドキが違うようだけど……」
『仕方がないだろう。今度こそ気軽に会うことができなくなるんだぞ。なあ、本当に行くのか? 行かなければならない理由などないだろう?』
「ごめんね……でもわた、僕、どうしても海の向こうにある島へ行きたいんだ」
『……はぁ。何かあったら必ず連絡、いや、なくても定期的に連絡するんだぞ。無茶だけは絶対にしてくれるな。いいね?』
「はい!」

 コルドと話をしている途中で部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。

「ちょっと待ってて。誰か来たから」
『わかった』

 通信機をベッドに置いたまま、リフィはドアを開けに行った。

「やあ。昼食へ向かおうと思っていたんだ。よかったら一緒に行かないか」
「フォル。はい、是非。少し待っていてもらえますか」
「ああ」

 リフィは通信機のところまで戻ると「今からお昼食べてくるよ」とコルドに伝える。

『それは構わないが……今の声、誰だ』

 コルドと一緒に生活をしていた時、知り合う男女共々に対しコルドはいちいち気にしていた。それを思い出し少々面倒に思ったリフィはさっと終わらせる方向で進めた。

「フォルだよ。とりあえずまた定期連絡は入れるから安心して。ちゃんと気をつけるし。じゃあまたね」
『あ、おい、そ──』

 何か言いかけていたが気にすることなくリフィは通信を切り上げた。ディルに手を伸ばすとするすると肩にまで上がってくる。リフィは鞄を手にするとドアまで向かった。

「すみません、お待たせしました」
「誰かと話していたようだけど……よかったのか?」
「はい。問題ないです」
「えっと、誰と話して……」
「え?」
「ああいや。何でもない。昼食はいつもの酒場でよかったか? 明日からは長旅だしな、あれだったらもっと栄養をたくさん取るために外の店へ向かうか」
「いつものとこで大丈夫ですよ」
「うん……いや、やっぱり外の店へ向かおう。君はもっと栄養を蓄えるべきだ」

 頷きながらもじっとリフィを見てきたフォルが断言してきた。

「僕、そんなに貧相に見えるんですか……」
「いや、悪い。別にそういうわけじゃないが、でも、うんまぁ、貧相とは言わないが、もう少し太、いや、肉をつけてもいいと思うぞ」
「そうですかね?」
「そうだ。あとコルジアと合流したらこの話は終わりだぞ」
「はあ。それは全然構いませんが、何故ですか?」
「……余計な勘違いをさせないためだ」
「は?」
「いや。君が気にすることはない。とりあえず俺のためだと思って流してくれ」
「よくわかりませんが、はい! わかりました」

 よくわからないどころか全く意味がわからないが、命の恩人であり、いつも優しく楽しく接してくれるフォルのためとあれば問題ない。そもそも別に大した会話でもない。リフィは笑顔で頷いた。
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