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第二章 出会い

49話

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 唖然としていると二人がリフィに気づいて手招きしてきた。慌てて駆け寄ると、「怪我はないな」とフォルに言われた後に、倒したムシュフシュからは何を取ればいいのかと聞かれる。

「あー……、僕もこんなの倒したことないんで、ちょっとわかりません……すみません」
「そうか。ならこのままギルドまで運ぶか」
「そうですね、そうしましょう」
「え、このまま運ぶって、あの、どうやって?」
「馬車でいいんじゃないのか?」

 何故そんなことを、といった風にフォルが言ってくる。その横でコルジアも異論はないといった風に頷いている。
 リフィに言われたくないとは思うだろうが、フォルはたまにほんのり常識から少々ずれたことをすることがある。コルジアという従者がいる時点で貴族か何かだろうなとは思っているが、多分かなり位の高い貴族なのではないだろうか。
 初めて一緒に酒場へ食事に行った時もパンの中が茶色いことに気付くとかなり驚いていた。リフィも元は令嬢だったので何故驚いていたのかはわかる。上質な小麦粉で作られたパンの中身は白い。旅に出てからもきっと領主の屋敷など、いいところに泊まっていたのだろう。だからギルドにも慣れていないのだろう。あと料理に出てくるのが肉のローストやシチューでないことにもそっと驚いているようだった。ソーセージを見てフォルが「これは食べてもよいものなのか」とコルジアに少々恐る恐る聞いていたのをリフィは聞き逃していない。貴重な香辛料をふんだんに使ったソーセージならまだしも、気軽にとれる香草を使って肉の臭みを取った庶民のソーセージはあまり口に合わない可能性もある。野菜と香草を混ぜて作った血のソーセージも合わない人は本当に合わないだろう。実際口にした後、少々複雑な顔をしていてリフィはそっと笑いそうになった。そして改めて、おそらくかなり裕福な出身なのかもしれないと思った。旅に出ると否応なしに野宿することはあるが、この二人なら余裕で獣を狩ることもできるだろうし肉にはむしろ不自由してなかった可能性もある。そしてコルジアは従者だからまだ庶民の食事にもフォルよりは全然慣れているようでいちいち「これくらい食べられないでどうするんですか」などと変に楽しそうにフォルをからかっていた気がする。
 そういった様子をたまに見ていたので、少なくともコルジアは一般庶民の常識をフォルよりも把握しているだろうとずいぶん庶民の生活に慣れたリフィは思っていた。だが完全にという訳ではなさそうだ。

「あの、ですね。こんな大きな魔物を運んでくれる馬車なんてそうそうないですよ。特別な馬車ならわかりませんが、そんな特別な馬車を用意なんてできないしお金だってかかります」
「……なるほど」

 二人がそういえばそうか、といった風に頷いてきた。

「ではある程度解体しよう。そして板に車輪をつけて運べばよい」

 その板と車輪はどうするんですかとリフィが口にする前にコルジアが賛成してきた。

「そうですね。じゃあ板と車輪を用意しましょう」
「用意できるんですか?」

 ぽかんとしているリフィを少し怪訝そうに見た後、コルジアは「ええ」と自分の持つ鞄からそれなりに大きな板と車輪を出してくる。リフィの、コルドに貰った鞄もある程度何でも入るようになってはいるがさすがにここまでではない。というか鞄にそもそも板と車輪など入れていない。

「何で入ってるんですか……? 板と車輪って持ち歩くものでした?」
「呼び寄せただけですよ」
「あの、ちょっと何をおっしゃっているのかわからないんですが……」
「あまり考えられないことですよリフィくん。ではフォル、これを動くようにしていただけますか」
「そうだな」

 また見たことのないような光をフォルは手のひらから出した。すると板と車輪が上手く連動し、形になる。フォルとコルジアはとてもいい手際で魔物をある程度解体するとそれらを荷台となった板に乗せていった。

『多分光魔法だな』
『ディルはこんな魔法、知ってるの?』
『知らんが、光を利用した生活魔法の一種ではないだろうか。コルドも雷を使って攻撃するよりも何やら作ったりしていたであろう。ああいった応用と同じ使い方なのではないか』
『なるほど……。助けてくれた時も知らない魔法使ってたの、光魔法なんだろうなあ。あ、にしても光魔法なんて王族以外使える人ってすごく珍しいんじゃない? フォルってすごい人なんだね!』
『……は。だいたい私のほうが珍しい力を持っている』
『そこって競うとこなの?』

 心の中でディルと話をしていると、フォルに「多分その白蛇と話しているんだろうけど、えっと、大丈夫か?」と気遣わしげに聞かれた。確かに一見ぼんやりどこかを見ながら無言だったに違いない、とリフィは顔を少し赤くしながら「大丈夫です」と苦笑した。
 フォルとコルジアがムシュフシュをギルドまで一応運んだのだが、おそらく魔法で動かしやすくなっているのだろう。段差があっても二人は楽々と動かしていた。
 ムシュフシュを見たギルドにいた人たちは皆唖然としたり興奮したりしてフォルたちに近づいて魔物をある意味見学していた。依頼があった訳ではないが素材としてもかなり使えるらしく、計算してもらった結果かなりの金額を貰えることになった。

「僕はさすがに貰えません」
「何故。俺たちはチームだと思っていたんだが」
「フォル……確かに臨時のチームですが、あの魔物はお二人で倒したじゃないですか。どうかお二人で分けてください」
「……ではこうしよう。我々が貰う。だがそうなると懐が暖まり過ぎている俺としてはチームでの水準を上げたい。よってだ、皆の食事や武器、道具などにこの金を回そうと思う」
「いや、それは」
「俺の金だろう? リフィ、君に使い方をどうこう言われる筋合いはないよ」

 フォルは楽しそうに微笑んできた。
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