上 下
47 / 151
第二章 出会い

46話

しおりを挟む
 フォルが風呂から戻るとコルジアに「魔物との戦闘にでも行ってたんですか」と怪訝な顔をされた。

「セントウ違いだ。風呂へ行くと言っただろうが」
「私もここの温泉に浸かりましたが、あの湯に浸かってそんな疲れた表情をされるのはフォルス様くらいですよ」
「……ちょっとまあ、色々あってな……」
「はあ」

 コルジアがますます怪訝な顔をしていることには構わず、フォルは荷物の点検をしながら「で、船は出そうなのか」と聞いた。

「それがですね、あの嵐のせいで少々船が傷んだそうでして」
「……酷いのか」
「いえ、それほどではないそうですが、それでも長い時間海の上となる船ですからね。修理と点検に少なくとも半月はかかるんじゃないでしょうか」
「一月と言われるよりはましだが……それでも半月か」
「度々足止めを食らって一年と半年を費やした方が何をおっしゃってるんです?」
「……コルジア。お前とは一度ちゃんと話し合ったほうがよさそうだな」

 微妙な顔でコルジアに言えば「私は別に何も言いたいことはございませんが、そうおっしゃられるならよいでしょう、半月も時間はありますからね、徹底して話をいたしましょうか」と返ってきた。フォルは顔を引きつらせ顔をそらしつつ準備していた荷物をまた解き始めた。そして通信機に目がいく。

「……フォルス様、いい加減アルディス様にご連絡を取られてはどうです」
「ああ」

 王宮を出てしばらくの間は度々連絡を取っていた。こちらの状況やあちらの状況について言ったり聞いたりしてはお互いの無事を確かめ合っていた。だがしばらくすると全然状況が進まない不甲斐なさや申し訳なさが、ガラスに映るアルディスが相変わらず呪いに苦しんでいる様子と共にのしかかってきてしまい、次第にあまり連絡をしなくなっていった。ただでさえ呪いに苦しんでいる上にアルディスはフォルスを行かせたがらなかっただけに、余計落胆させてしまうのではと思ってしまうのだ。向こうから連絡が来ていることに気づいてもなかなか出れずにいた。

「そうだな……」

 ただ、このままではよくないことをフォルは百も承知している。これでは呪いを抱え苦しむアルディスを余計苦しませているだけかもしれない。
 フォルがため息をついているとノックが聞こえた。コルジアが「はい」とドアへ向かう。
 少しぼんやりとその様子を見ていたフォルは「こんにちは、コルジアさん」という声を耳にした途端、動揺が押し寄せてきた。そういえば後で伺うと言っていたのを思い出す。
 あの状況と、そして男に言われたことを思うとひたすら微妙な気持ちになり落ち着かない。いっそ窓から出て行こうかと窓に手掛けていると「何をなさっているのです」というコルジアの声がした。

「……外の状況を窺ってただけだ」
「何のために」
「これ以上天候に左右されるのはごめんだからな」
「……。ところでお客様ですよ。リフィくんがわざわざお礼を仰りたいと」
「そ、そうか」

 何でもない顔を装いつつフォルは向き直り、こちらを見ているリフィに笑いかけた。

「わざわざいいのに。とりあえず座りなさい。コルジアに茶でも淹れさせよう」
「いえ、お礼を言いに来たのにお茶をご馳走になっていてはまたお礼を言わなきゃ。このままで大丈夫です。あの、改めて本当にありがとうございました」

 窓から逃げようとしていたというのに、フォルは座って茶を飲まないと言うリフィにゆっくりする気はないのだろうかと何となく物足りなさを感じ、我ながら理不尽だなと微妙になる。

「何度もお礼を言われるほどのことはしていないよ」
「そんなことありません。あなたに見つけてもらわなかったら僕はあのままあの場所で誰にも見つけてもらえず一人気絶したままだったかもだし、目を覚ましても途方に暮れるだけだったかもしれません。ディルに対しても酷い目に合わせるところだったかも。フォルにとっても危険な場所でしたでしょうに、見ず知らずの僕を助けてくださって本当に感謝しかない。あの、お礼に相応しくないかもですが、フォルたちも旅をされておられるっぽいので、よかったら……」

 やはりこの辺の育ちというには少々不自然なほど礼儀正しい様子で礼を伝えてきたリフィはおずおずと手にしていたものを差し出してきた。
 いくつかの薬草だった。それも少年とはいえ男が渡してくるにはあまりにも可愛らしい風にリボンで束ねてある。

「……リボン」
「え? あ、へ、変ですかね」
「いや、とても可愛らしいと思う」
「そうですか? よかった」

 えへへ、と嬉しそうにリフィが笑った。それをただ見つめていると横からコルジアが「わざわざむしろすみません。これはまた、色んな薬草がありますねえ」と言いながら薬草をリフィから受け取る。フォルはムッとしてコルジアを見た。

「俺がもらったんだ」
「ならさっさと受け取ればよいではないですか。どのみち薬草を管理するのは私の仕事ですし何も問題ないでしょう」
「ある」
「……どんな問題があるというのです」

 わざわざリフィがプレゼント用にリボンで整えてくれた薬草を自分が受け取れなかったという問題だ、と口にしかけてフォルは思いとどまった。言葉にあえてしなくともそれが変に聞こえることは間違いないだろうし、あまり口にしないほうがいいように思えた。

「煩い」
「……あの、僕なにか間違えましたか……?」

 リフィが少し困惑したように二人を見てきた。コルジアが「いえ」と言う前に「とんでもない。何も問題はない。心を尽くしたお礼、本当にありがとう」とフォルはリフィに笑いかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...