銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第二章 出会い

46話

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 フォルが風呂から戻るとコルジアに「魔物との戦闘にでも行ってたんですか」と怪訝な顔をされた。

「セントウ違いだ。風呂へ行くと言っただろうが」
「私もここの温泉に浸かりましたが、あの湯に浸かってそんな疲れた表情をされるのはフォルス様くらいですよ」
「……ちょっとまあ、色々あってな……」
「はあ」

 コルジアがますます怪訝な顔をしていることには構わず、フォルは荷物の点検をしながら「で、船は出そうなのか」と聞いた。

「それがですね、あの嵐のせいで少々船が傷んだそうでして」
「……酷いのか」
「いえ、それほどではないそうですが、それでも長い時間海の上となる船ですからね。修理と点検に少なくとも半月はかかるんじゃないでしょうか」
「一月と言われるよりはましだが……それでも半月か」
「度々足止めを食らって一年と半年を費やした方が何をおっしゃってるんです?」
「……コルジア。お前とは一度ちゃんと話し合ったほうがよさそうだな」

 微妙な顔でコルジアに言えば「私は別に何も言いたいことはございませんが、そうおっしゃられるならよいでしょう、半月も時間はありますからね、徹底して話をいたしましょうか」と返ってきた。フォルは顔を引きつらせ顔をそらしつつ準備していた荷物をまた解き始めた。そして通信機に目がいく。

「……フォルス様、いい加減アルディス様にご連絡を取られてはどうです」
「ああ」

 王宮を出てしばらくの間は度々連絡を取っていた。こちらの状況やあちらの状況について言ったり聞いたりしてはお互いの無事を確かめ合っていた。だがしばらくすると全然状況が進まない不甲斐なさや申し訳なさが、ガラスに映るアルディスが相変わらず呪いに苦しんでいる様子と共にのしかかってきてしまい、次第にあまり連絡をしなくなっていった。ただでさえ呪いに苦しんでいる上にアルディスはフォルスを行かせたがらなかっただけに、余計落胆させてしまうのではと思ってしまうのだ。向こうから連絡が来ていることに気づいてもなかなか出れずにいた。

「そうだな……」

 ただ、このままではよくないことをフォルは百も承知している。これでは呪いを抱え苦しむアルディスを余計苦しませているだけかもしれない。
 フォルがため息をついているとノックが聞こえた。コルジアが「はい」とドアへ向かう。
 少しぼんやりとその様子を見ていたフォルは「こんにちは、コルジアさん」という声を耳にした途端、動揺が押し寄せてきた。そういえば後で伺うと言っていたのを思い出す。
 あの状況と、そして男に言われたことを思うとひたすら微妙な気持ちになり落ち着かない。いっそ窓から出て行こうかと窓に手掛けていると「何をなさっているのです」というコルジアの声がした。

「……外の状況を窺ってただけだ」
「何のために」
「これ以上天候に左右されるのはごめんだからな」
「……。ところでお客様ですよ。リフィくんがわざわざお礼を仰りたいと」
「そ、そうか」

 何でもない顔を装いつつフォルは向き直り、こちらを見ているリフィに笑いかけた。

「わざわざいいのに。とりあえず座りなさい。コルジアに茶でも淹れさせよう」
「いえ、お礼を言いに来たのにお茶をご馳走になっていてはまたお礼を言わなきゃ。このままで大丈夫です。あの、改めて本当にありがとうございました」

 窓から逃げようとしていたというのに、フォルは座って茶を飲まないと言うリフィにゆっくりする気はないのだろうかと何となく物足りなさを感じ、我ながら理不尽だなと微妙になる。

「何度もお礼を言われるほどのことはしていないよ」
「そんなことありません。あなたに見つけてもらわなかったら僕はあのままあの場所で誰にも見つけてもらえず一人気絶したままだったかもだし、目を覚ましても途方に暮れるだけだったかもしれません。ディルに対しても酷い目に合わせるところだったかも。フォルにとっても危険な場所でしたでしょうに、見ず知らずの僕を助けてくださって本当に感謝しかない。あの、お礼に相応しくないかもですが、フォルたちも旅をされておられるっぽいので、よかったら……」

 やはりこの辺の育ちというには少々不自然なほど礼儀正しい様子で礼を伝えてきたリフィはおずおずと手にしていたものを差し出してきた。
 いくつかの薬草だった。それも少年とはいえ男が渡してくるにはあまりにも可愛らしい風にリボンで束ねてある。

「……リボン」
「え? あ、へ、変ですかね」
「いや、とても可愛らしいと思う」
「そうですか? よかった」

 えへへ、と嬉しそうにリフィが笑った。それをただ見つめていると横からコルジアが「わざわざむしろすみません。これはまた、色んな薬草がありますねえ」と言いながら薬草をリフィから受け取る。フォルはムッとしてコルジアを見た。

「俺がもらったんだ」
「ならさっさと受け取ればよいではないですか。どのみち薬草を管理するのは私の仕事ですし何も問題ないでしょう」
「ある」
「……どんな問題があるというのです」

 わざわざリフィがプレゼント用にリボンで整えてくれた薬草を自分が受け取れなかったという問題だ、と口にしかけてフォルは思いとどまった。言葉にあえてしなくともそれが変に聞こえることは間違いないだろうし、あまり口にしないほうがいいように思えた。

「煩い」
「……あの、僕なにか間違えましたか……?」

 リフィが少し困惑したように二人を見てきた。コルジアが「いえ」と言う前に「とんでもない。何も問題はない。心を尽くしたお礼、本当にありがとう」とフォルはリフィに笑いかけた。
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