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第二章 出会い

41話

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 外はますます雨風が酷くなっているようだ。フォルはため息をついた。こうなったらまた一晩ここで過ごすしかない気がする。さすがに明日になればこの嵐も引くだろうと思われた。

「水と携帯食しかないし、君の体力が心配だが……」
「僕は大丈夫です。ディルがついてるし」
「その眷属は君に力でも与えてくれるのか?」
「ある意味くれますけど、直接的にはディルじゃなくて……ああいや、えっと、え、そうなの?」

 途中から話の内容がおかしくなったところを見ると、おそらくディルが念話でなにか話したのだろう。仲間外れはいささか寂しいがとあえて思いつつ、フォルは小さく笑った。

「何故笑うんです?」
「いや……その蛇と途中から何やら会話していたのだろうなと思うと何となくおかしくて」
「っ変ですか?」
「変ではないよ。君はやたら変かどうかを気にするんだな」

 怪訝に思って言えば、リフィは苦笑してきた。

「すみません。僕、実はあまりその、外の世界に慣れてるわけじゃなくて。実は二年ほどくらい前までは家に引きこもってたんです」
「そんな風には見えなかったな。どこか悪かったのか?」
「あー、えっと、そう、ちょっと体が弱くて。でも元気になったので憧れてた外の世界へ飛び込みました。けどそういう理由でたまに変なことをやらかさないかなってつい気になっちゃって」
「なるほど。大丈夫、変じゃない。もしなにか面白かったり気に留めたりするような言動が君にあっても、それは君の単に個性だと思うよ。なくさないで大切にするといい」
「え、あ、そ、そう、なんですね。わ……そんな風に言ってもらったことなかったなあ。なんか嬉しいです。ありがとうございます」

 実際、リフィは嬉しそうに笑ってきた。
 念のため魔除けの魔法をかけると、フォルはリフィに休むよう促した。ころりと横になっているリフィを見ながらフォルは、引きこもっていたのは実際何か理由でもあったのだろうかと考えていた。
 幻獣を眷属にすると体が弱くなるといったことは聞いたことがないし様々な文献に目を通してきたが見たこともない。
 今のリフィは確かに弱ってはいるが、これは単に数日間倒れていたからに相違ない。最初は優しいもので調整しつつ栄養をとり、ちゃんとしたベッドで休めば回復するだろう。それ以外には特に持病があるようには特に見えない。小柄ではあるが、元々が少女だからというのもフォルはもう知っているし、おそらく元とさほど違和感のないような姿にしているのだろう。眷属のせいではまずないはずだ。

「フォル?」

 考え事を続けていると名前を呼ばれた。

「どうした? 眠れないのか?」
「ええ、ちょっと。フォルもまだ起きているのでしたら、よければ少しお話しませんか」
「それは構わないが、君はなるべく休んだほうがいいよ」
「少しだけ」
「……仕方ないな。というか君は結構頼み事が上手い気がする。上にお兄さんかお姉さんでもいた?」
「え、わ、わがままな感じでしたか……? その、ごめんなさい」
「謝らないで。わがままというより、甘え上手かな。俺には弟がいてね、昔は弟もすごく甘えてくれて」

 リフィと重ねて見ていたのだろうか、フォルはアルディスを思い出して微笑んだ。

「優しい笑顔。とても弟さんのこと、大切に思ってるんですね」
「ああ、とても大切なんだ。すごく優秀でね。俺より優秀だと思う。そしてとても心の優しいやつなんだ。俺はそんな弟をどうしても守りたくなる。でも俺の弟は君ほど危なっかしくはないな」
「僕、危なっかしくないですよ」
「はは。君のお兄さんかお姉さんはとても心配だろうね」

 笑いながら言えば、リフィがふと切なそうな顔をした。何か自分は余計なことを言ってしまったのだろうかとフォルは戸惑う。

「僕にはお兄さんもお姉さんも二人ずついます」
「そりゃあ賑やかでいいな」
「賑やか……なのかはわかりませんが、えっと、そうですね、二番目の兄がとても僕を大切にしてくれて、あと確かに僕の心配ばかりしてくるけどほんっとすごく過保護で。ちょっと煩いです」

 切なそうだったのは気のせいかと思うくらい、リフィが楽しげに笑ってきた。
 ようやくリフィが眠ったのを見届けるとフォルも横になった。外はまだ雨風がひどい。ふと、今夜も晴れていて月が出ていたらリフィは姿を変えていたのだろうかと思った。月の光を浴びると毎回姿が変わるならしかし夜は一切人前に出られないことになる。どういう仕組みなんだろうかなと考えている内にどうやら眠りの波に飲みこまれたようだった。
 だが視線というか見られている気配を感じ、フォルは目を覚ました。どれくらい眠っていたのかわからないが、外はまだ闇だ。とはいえ雨風は少しおさまってきているように思えた。

『目を覚ましたか』

 ふと声が聞こえ、フォルは起き上がって剣に手をやる。

『警戒せずともよい』

 声の元を探すと、そこにはリフィの眷属である蛇、ディルがいた。

「……まさかお前が?」
『見極めさせてもらう』
「何をだ」

 問いかけるも、ディルはそれ以上何も言わずにリフィのそばで寄り添うようにしてくるまった。

「おい、何のことだ」

 もう一度問いかけるも答えはない。ただこれ以上何か言ってリフィを起こしてもと、フォルは諦めた。
 翌朝、空は気持ちがいいくらいの青空だった。
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