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第二章 出会い

37話

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 盗賊たちを一緒に来ていた冒険者二人に任せ、その際に捜索への応援も頼んでおき、一旦フォルはコルジアと共にそのままさらに奥へと向かった。だがいくら探し歩いても全く見つけることもできず、日が暮れてくる。

「これ以上知らない山の中で動き回ると私たち二人も危ないかと」
「そうだな。それでは意味がない。野営の準備をするか」

 コルジアが準備してきたテントを張り、周囲にはフォルが魔除けの魔法をかけた。
 狭いテントで何とか男二人、眠りについたのだが深夜、ふとフォルは目が覚めた。旅には慣れたがテントで眠ることは未だにやはり少々慣れないせいもあるのだろう。そのままもう一度眠ろうとしたが妙に目が冴えてしまったため、仕方なくフォルは気分転換も兼ねて表へ出る。
 嵐が近いはずだというのに晴れているようで、星がとても綺麗だった。そういえばあまり星を眺めることもなかったなとそのままフォルは少し周りを歩くことにした。今夜は満月なのであろう、丸い大きな月のおかげで足元も明るい。時折聞こえてくる虫の音に耳を澄ませながらフォルはアルディスのことを考えていた。今頃どうしているだろうかと気にするくらいなら通信機を使って連絡を取ればいい話なのだが、あまりに自分が不甲斐ないせいで全く成果が上がっていない以上、気安く連絡を取りにくい。

 そういえば近くに泉があったな……そこで顔でも洗ってから戻ろう。

 アルディスのことを今考えてもどうしようもないのだからと自分に言い聞かせ、フォルは泉へと向かった。
 その内雲が出てきたのだろうか。月が隠れ、辺りも見えにくくなる。こうなるとあまり歩き回らないほうがいいな、などと考えていると、泉のそばで小さな光が一つ、ふわふわと舞っていることに気づいた。

 ……精霊、か?

 フォルは初めて見る不思議な光を硬直したように身動きもせず見つめた。
 王族から精霊や幻獣を眷属にしたという者が出た歴史を、三百年前からは一度たりとも聞いていない。禁書を調べてわかったが、愛し子を誤ってであろうが殺してしまい精霊や幻獣からは嫌われ憎まれてきたからだ。その上殺した代償としてずっと呪いが続いている。
 それもあり、フォルはただでさえ王族でない一般の者すら中々見かけることのない精霊の光など見たことがなかった。だというのにその光は今、フォルの目の前までやってきた。
 なんて美しい光なのだろうと思う。見ていられないほどの眩しさではない、優しい光だというのに間違いなく強さを感じる。
 唖然としてフォルが眺めていると、その光はまるでついて来いと言っているかのようにフォルを一周してからさらに奥へと誘うように動き出す。もちろん、迷うことなくついて行った。
 だがついて行くとそこにあるのは崖だった。

「……まさか恨むあまり俺を崖から落とそうと……?」

 少し青ざめつつ悲しい気持ちで呟くも、精霊の光は構わず下へ向かっていく。もしかして何かあるのだろうかとそっと下を覗き込むと、光にほんのり照らされたそこに人が倒れている。とても小柄だがおそらく少年だろう。探していた少年に違いない、とフォルは気を付けながら崖をゆっくり滑るようにして下りていった。光に急かれている気がしてコルジアを呼ぶことすら浮かばなかった。

「おい、君……」

 そっと触れてみるが、意識はなさそうだ。精霊の光のおかげで様子が窺いやすい。いくつかの部位を確認し、折れたところもないどころか一見すると怪我もしていなさそうなことが判明した。
 心配なのか少年を照らしつつもうろうろと回っている光に、フォルは「大丈夫だと思う、怪我はなさそうだ」と告げると、その光が強くなった。すると二つ三つどころか数えきれないほどの光が集まって来る。

「……どういう……」

 思わず口から洩れるくらい不思議に思いつつ、今はそれどころではないとフォルは一旦上へ登れるか一人で試してみた。結果、一人なら何とか登れないこともないが安全とは言えないとわかる。いくら精霊の光があろうが下手に動くのはやめたほうがいいなと判断し、少し広くなっている場所まで少年をそっと抱えて運ぶと魔除けの結界を張った。すると精霊も落ち着いたのかぎょっとするほど集まっていた光は自然と見えなくなった。とりあえず少年を寝かせつつ、フォルはため息をつく。
 コルジアが目を覚まし、フォルがいないことに気づくと面倒だなと思った。機転を利かせ探してくれる可能性は高いのだが、間違いなく何故呼びにこなかったのかなどと、くどくどと延々説教されるところしか浮かばない。どうしたものかと思うが、しかし無茶をしてもいい結果にはならないだろうし朝になればどうにかなるかもしれないと思うことにする。少年も目を覚ますかもしれないしと、もう一度寝ておくため目を瞑った。
 だが結局寝付けない。一度目を覚ましたからなどではなく、どうしても先ほどの精霊が衝撃的だったため脳が興奮状態になっているのかもしれない。
 フォルは小さくため息をつくと体を起こした。そして少年を見る。
 先ほどの精霊は明らかに少年を助けるよう動いていた。

 ……この子はもしかして、精霊と契約を結んでいるのだろうか。

 滅多にあるはずがないが、あり得ないことではない。第一契約していない人間に対し精霊はああいった形で手を貸してこないし、とにかくぎょっとするほどの光の数だった。
 もし眷属としているのならとても羨ましく思う。フォルを含め、王族は決して精霊や幻獣を眷属にすることはできない。

「いや、別に眷属にしたいんじゃなくて……」

 力を得ることは国を担う王族として悪くはないが、別になくとも治めていける。ただ、フォルは眷属にすることができない原因が忌々しいだけで、その結果としてもう一つ得る羽目になったものさえどうにかできればそれでよかった。

「アルディス……」

 今も呪いで苦しんでいるであろう弟を思っていると辺りが明るくなった気がした。見上げると空がまた少し晴れたのだろうか、雲に隠れていた月が顔を出していた。満月だからか空に明るく映えている。
 弟のことを考えていると空が晴れた流れを偶然ながらいい兆候だとフォルが思っていると横たわっている少年に異変が現れた。
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