銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第二章 出会い

34話

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 ディル曰く、まだ幼竜なのらしい。だから元の姿も竜としてはまだまだ小さいのだという。それでも竜というだけでもすごいし、それも白い竜というのは竜の中でもさらに珍しかったのではないだろうかとリフィは思った。
 実際、生まれ方も滅多にない生まれ方だったらしい。
 本来なら海の向こうにある竜が住む島で生まれるものなのかもしれない。詳しいことはディルにもわからないのだという。滅多にないはぐれ竜がたまたま生み落とした卵から孵ったのがディルなのらしい。

『だから私は竜の島と言われている島も知らない』
『そうなんだ……。寂しい?』
『まさか。怪我をしていた時にあなたから救われて、私はあなたに一目ぼれをした。そんなあなたが蔑ろにされているのが納得いかず、我慢出来ず契約をした……独断で』
『ああ……! 道理で心当たりないなあと当時思ってたよ』
『……。だが私はあなたと出会えて幸せだ。だから寂しいなどと思ったことすらない』
『ディル……』
『まだまだ幼竜な上に小さな蛇に擬態しているから、いざという時にあなたを救えなかった。それらだけが今も悔しくて悲しくてならない』

 ディルが言っているのはイルナに襲われた時の話だろうとリフィは笑いかけた。

『そんなこと。私はディルの存在だけで十分救われてるし幸せなんだよ。だから気にしないで』

 そんなやりとりをしたことがあったのが心に残っていたのだとリフィは思う。だから噂に聞いたことのある、海の向こうのとある島へ行ってみたいなと考えた。
 その島は竜のいる島だと言われている。この町からその島への船が普通に出ているということは特殊な手段でしか行けないわけではないし、本当かどうかはわからないが、もし本当ならディルの親もそこにいるかもしれない。一応町の人やギルドでも竜の島について聞いてみたが、皆その島がどういった島かはあまり知らないようだった。

「誰も行ったことないとかですか?」
「船で向かってもかなり日数かかるからねぇ。まあ行った人はいるんだろけど、この町に戻ってないか戻ってきてたとしても誰も話を聞いたことないんじゃないかな。遠いところだけに船員も毎回同じ人でもないしねえ」
「そうなんですね」

 そう聞くとますます気になってしまう。
 だが海に出る予定はそうして立てたものの、現在足止めを食らっていた。今日、今から部屋をすっきりと片づけようと思っているのはある意味願掛けのようなものだ。いつでも旅立てるように片づけたら出航するかもしれない、といった。
 近く、嵐があるかもしれないと言われていて、船は出航を遅らせている。少し離れたところで発生したらしい。もしかしたら一週間後にはここも荒れるかもしれないとも言われていた。
 翌日、願掛け片づけにも関わらず、船はやはり留まったままだった。

「ディル、つまんないね」
『何か仕事でも引き受けるか』
「そうだね。そうする。予定潰れてすることないもんね」
『その前にコルドに定期連絡を入れておいたほうがよいだろうな』
「そうかな」
『嵐の噂はあのコルドなら耳にしているだろう。今頃やつはヤキモキしているだろうな』
「そうかなぁ」

 実際、通信機で連絡を取った瞬間に繋がった。

『リィー! 大丈夫なのか? 元気なのか? どこも具合は悪くないのか?』
「ちょっと落ち着いて、コルド兄様。なんでそんなに……」
『そっちに嵐が発生していると聞いたんだ! 落ち着いてなどいられるか。お前に連絡を入れたくともお前からするルールを破るなと言われそうだしで俺がここ数日どれほど──』
「安心して、嵐は今のところ来てないよ……」

 石の中で大いに嘆いているコルドに、リフィは苦笑しながら伝えた。
 コルドからも連絡を来る形だと、一日に何度も来て仕事にならないだけでなく普通に生活するにも支障が出たのでリフィが抗議したのだ。その代わり絶対数日置きにこちらから連絡を入れると約束はさせられた。その後少し世間話をした後ようやく通信を切り、リフィはため息をついた。

『コルドはいい加減妹離れをすべきだな』
「はは……今度そう言ってやって」
『言ってやりたいのは山々だが、あなたとしか意思の疎通が図れん』
「それは大人になったらまた変わるの?」
『どうだろうな。他の仲間を知らぬので何とも……だが可能性がないとは言えんな』
「そっか」

 改めて、やはりディルを連れてその島へ行ってみたいなとリフィは思った。だが船が出ないことには話にならない。またため息をつくと、リフィはギルドへ足を運んだ。
 ギルドでとりあえず暇つぶしになりそうな依頼を見つける。山の奥に生えていると言われている特殊なニガヨモギなどいくつかを取ってきて欲しいという内容で、それらの薬草を摘むくらいなら一日二日で済むしあの山は特に大した魔物も出ない。ディルと二人で十分だろうとリフィは気軽に引き受けた。
 必要な薬草の種類が書かれたリストを手に、リフィは山へ向かった。いくつかはすぐに見つかったが、いくつかは少々難しい場所に生えていたりした。ディルにも協力してもらい、リフィーはそれらを集め、枯れないように水魔法で保護してから袋へ入れる。

「これで全部かな」

 全て手にしたと思いリストと見比べたところで、あと一つだけ足りないことに気づいた。

「これは、もう少し奥に生えてるのかもだなあ。少なくとも今まで通ったところでは見かけてないもんね」
『あまり深追いすると危険だし、明日にしては』
「そうだね。……まあ、でもまだ時間は遅くないし、確認だけでもしておこうかな」

 リフィはニッコリと笑みを浮かべた。
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