銀の髪を持つ愛し子は外の世界に憧れる

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第一章 銀髪の侯爵令嬢

15話

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 アルと過ごす時間はとても楽しかったが、町を見て回る時はやはりいくらかでも現金を持っていないと心もとない。アルはリフィルナが気を使わないよう上手い言い方をしてはくれるが、それでもやはり一切持っていないままは落ち着かなかった。いつもアルが何か買ってくれようとするのだが、リフィルナはその度に慌てて断りを入れていた。
 アルのことをまだコルドに話していないのもあり、とても言いにくかったのだが「お金を少し、貸してください」とコルドにおずおず言えば「他人行儀な」とへの字口をした後、やたらと重い袋を渡してこようとしたので慌てて「そんな大金は怖くて持てない」と、なんとか銅貨をほんの少しだけ貸してもらった。礼儀正しさもあるからか、コルドは「何かに使うのか」といったことは一切聞いてこなかった。
 貸してもらったと言うと聞こえはいいが、正直リフィルナに返すあてはない。幻獣を眷属にしたとはいえ、何も収入はないし親から貰うこともない。許可さえ出るのならいくらでも働いてみたいとは思うが「侯爵令嬢ともあろう人が」と情けない目で見られるのがオチだった。外見を繕う身の回りのものは持っているが銅貨一枚すら持っていない侯爵令嬢、それが今の自分だ。コルドにもせめて何か喜んでもらえるものを作ったりするくらいしかできそうになかった。
 ただ、初めて一応自分の硬貨を手にし、リフィルナはドキドキしながらアルと雑貨店などを見て回った。金銭感覚は正直あまりないが、自分が持つ銅貨では大抵のものは買えないくらいはわかる。それでも持っているのと持っていないのでは雲泥の差だった。

「リフィルナ、今日はいつもより楽しそうだね」
「そ、そんなに顔か何かに出てます?」
「そりゃあもう」

 ニコニコと言われ、リフィルナは自分の顔が熱くなるのがわかった。

「何かあったの?」
「その、今日はコルド兄様にお願いをして、銅貨をほんの少しだけ……持っているんです。それがその、嬉しく、て」

 馬鹿正直に言った後で気づいた。淑女は決してそんなことをベラベラと喋らないだろうなと。

 これだから引きこもりの会話下手はもう……! きっとアルを困らせたよ私。それでもきっと優しいアルは私を同情して何か優しいこと言ってくれるのだろうけど、それが居たたまれなくて私、きっと恥ずかしくて消えてしまいたくなる。

 つい俯いているとアルがぎゅっと手を握ってきた。ぽかんとして思わずアルを見上げ、困惑しつつ口元が笑っているといった何だか妙な顔をしている様子に気づく。

「ご、ごめんなさい。私、ほんと気の利いた話し方できなくて……!」
「違う違う。僕は単にかわ……、楽しいなって思っただけだよ。でも好意をもって笑ったとしてもリフィルナは嫌がるかなぁって笑うの我慢してたんだよ。リフィルナ、いいなぁ、なんかそういうの。とてもいいと思う。そっか。嬉しかったんだ。えっと、じゃあ何か買ってみる? このネロリ油の入った小瓶とかはどう?」
「でも私が持ってる銅貨では到底買えないと思います」
「大丈夫だよ。他のものよりは手頃だから」

 ニコニコと小瓶を手渡され、リフィルナは高揚した気持ちのまま、店主のいるカウンターへ向かった。次第に緊張が高まってくる。どうすればいいのだろうと思っていると、アルが声をかけてくれた。

「店主、レディがこれを買いたいそうだ」

 背後にアルがいてくれるとわかり、緊張した気持ちもなんとか穏やかになれた。店主はアルのほうを見て首を傾げた後に頷くと、にこやかにリフィルナが持ってきた小瓶を紙袋へ入れてくれた。銅貨を手渡すとアルが先に店を出るよう言ってきたので、リフィルナはコクリと頷いて店を出た。まだ心臓が少しドキドキとしている。

 初めて自分のお金、って言ってもコルド兄様のだけど、でも自分のお金でお買い物をしてしまった……!

 緊張が解けたのと嬉しさで妙にほわほわとした気分だった。アルに「大丈夫?」と声をかけられて初めてアルも店を出てきたのだと気づく。

「は、はい! 大丈夫です。すごく緊張したのと嬉しいのとでそわそわしてしまって」
「よかった。リフィルナ、剣の練習もたまにしてるって言ってただろ。皮の手袋を使う時にこのネロリ油を垂らしてみるといいよ。皮の匂いを消してくれる上にふんわりといい香りがすると思う」
「わ、私だけ買い物してしまって……」
「そういう時もあっていいじゃないか。僕も楽しかったよ」
「本当ですか?」
「もちろん。とてもかわ、……楽しくていい時間だったよ」

 その後二人はいつものベンチへ向かい、ゆっくり会話を楽しんだ。

「そろそろ帰ろう」
「はい」

 アルはいつも日が落ちる前に帰ろうと言ってくる。リフィルナとしてもあまり帰りが遅いと夕食に遅れてしまいバレてしまうかもしれないので都合はよかったのだが、毎回少々名残惜しくはなった。
 そんなある日も途中まではいつもと同じだった。二人でぶらぶらと楽しみ、ベンチに座ってゆっくりと会話を楽しむ。
 だが、たまたま弾んだ会話のせいで気づけばいつもより時間が経ってしまっていたらしい。アルが空を見上げた後、慌てたように立ち上がった。リフィルナもつられたように空を見上げると薄っすらだが星がちらつき始めていた。

「ごめん、僕、急いで帰らないと。楽しかったよ、リフィルナ。それでは失礼する」

 いつもはリフィルナを馬車のところまで送りながらゆっくりと別れの挨拶を交わすのだが、アルは焦ったように言うと慌てて立ち去っていった。
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