上 下
13 / 151
第一章 銀髪の侯爵令嬢

12話

しおりを挟む
 ところで生まれて初めてできた友だちが、リフィルナは嬉しくて仕方がなかった。とはいえ家族に知られると咎められてしまうかもしれない。ただでさえ外出もままならないのだ。
 いつもなら絶対味方になってくれるコルドにもアルのことは言い出せなかった。ダンスのことでは何度も「知らない者を相手にするな」といったことを言われたのもあり、アルと知り合ったことも何となくだが咎められるのではないかとつい思ってしまう。コルドは大好きだし大事な兄だが、生まれて初めてできた友だちも大事にしたかった。何より、少し話しただけではあったがとても楽しかったのだ。
 その後、リフィルナはたまにではあるが屋敷を抜け出し、初めてできた友人に会いに行くようになった。
 屋敷を抜けるのは昔からちょくちょくやっていたことなので案外難しくない。二人が毎日会うのは難しかったが、アルが使っている伝書鳥でたまにやり取りをしては待ち合わせをするのはスリルがありながらもさほど難しくもなく楽しいと思えた。
 その鳥がアルからの手紙を持ってリフィルナの部屋の窓を叩いたのが最初だった。その日たまたま一人でぼんやり自室にいると、コツコツと窓を叩く音がする。気のせいかと思ったが、また聞こえる。怪訝に思い、窓へ近づくとその鳥がいた。小柄な鳥だが目を奪われる程綺麗な青い姿をしている。こんな綺麗で気品のある青があるだろうかというくらいの色で、リフィルナが思わずぽかんとしているとその鳥は構わず中へ入ってきた。

「あ、えっと、鳥さん? 怖くないの? 人に慣れてるのかな……」

 リフィルナはとりあえずディルに隠れているように慌てて伝える。蛇の姿だけに怯えるかもしれない。ディルは一言威嚇音を出した後姿を消した。リフィルナは「ごめんね」とディルがいた方向に向かって謝ると、青い鳥に向き合った。

「あなたは何かご用があったのかな」

 するとまるで言葉がわかったかのように鳥が片     足を差し出してくる。見れば羊皮紙がそこに巻き付けられていた。

「取っていいの? 取るよ?」

 一応断ってからリフィルナはそっと手をそこへ伸ばした。紙を取る間、鳥はじっとしている。折りたたまれた中に書かれていたのはアルからの手紙だった。魔法を使ってあるのか、リフィルナが開いた途端に字が現れる。

『懐かしいリフィルナ。驚いた? その魅力的な青い子は僕の親友と言ってもいい子なんだ。名前はブルー。安直な決め方なんて言わないでおくれ。すでに昔、散々周りに言われたからね。よかったらリフィルナも仲良くしてくれると嬉しいな。それとね、もしリフィルナが問題ないなら、今度会えないかな? 返事をいただけると僕がとてつもなく喜ぶよ。アルより』
「アル! アル! 友だちにって言うのは本当だったんだ。私、夢だったのかなってそろそろ思いそうだった」

 嬉しくて思わずひとり言を口にした後、リフィルナは慌てて青い鳥を見た。

「ブルー、ありがとう! 私、アルにお返事書きたい。あ、ちょっと待っててね。お水と何か食べ物、探してくるからね」

 信頼している侍女のマリーを呼び、鳥が食べてくれそうな食べ物を持ってきて欲しいと頼む。

「私のお友だちからの伝言を持ってきた鳥ってことどころか、私のところに鳥が来ていることも秘密にして欲しいんだけども、いいかな……」
「もちろんですよ、リフィルナ様。そうですね、サンショウの木の実とかをこっそり持ってきます。リフィルナ様はお水をあげてみては。丁度鳥が飲みやすそうな器がありますから。多分水差しのお水で大丈夫だと思いますよ」
「わかった、ありがとう、マリー」

 マリーは当然だとばかりに笑みを浮かべて頷くと、部屋を出ていった。リフィルナはわくわくしながら言われた器に水を入れ、それをブルーへ持って行く。ブルーは躊躇することもなく嘴を水に浸した。幻獣である蛇以外、ペットを飼うことも許されていなかったリフィルナとしてはそんなことすら嬉しくてたまらない。

「ブルー、お水飲んでくれてありがとう。もう少ししたらおやつがくるから、待っててね。私も急いでアルにお返事書くからね」
『アル様。こんにちは、アル。お友だちにというのは本当だったんですね。私、あれは夢だったのかなって思いそうでした。嬉しい! もちろんお会いしたいです。でもどうしたらいいかわからなくて。よかったらご指導よろしくお願いします。追伸、ブルーは私とも仲良くしてくれそうです、よかった! 私の手から、木の実とかを食べてくれたんですよ』

 その後何度かやり取りをして、待ち合わせの日時と場所を決めた。その手紙のやり取りだけでも楽しかった。ちなみに外出に関してはマリーにも内緒にしている。もしバレた時にマリーが共犯かどうかでかなり違うだろうと思えたからだ。知らないままでも、侍女のくせに把握していないなんてと咎められるかもしれないが、共犯となるともっとひどい罰を食らってしまうかもしれない。首になってしまうかもしれない。
 誰にも内緒で町まで出かけることに関しては、事前まではとてもわくわくしていた。だがいざ実行すると侯爵令嬢ともあろう者が供も連れずに一人出歩くということが思っていた以上に緊張したし、よくないことをしていると自覚もした。
 もし、自分が男だったなら。
 ありもしないことを考えるのは無駄なことだと昔から両親のことで思い知ってはいるが、それでもつい考えてしまう。
 もしリフィルナが男だったなら、ここまで外出することを禁じられなかったかもしれないし、何より一人で歩くことに罪悪感も覚えなかったのだろう。リフィルナは自分が女であることを残念に思いつつ、恐る恐る待ち合わせをしている、町にある時計台へ向かった。幸い自宅からそう遠くないし、馬車の従者もこっそりリフィルナを連れ出してくれる。フィールズ家ではいくつか馬車があるため、その内の一つがたまたまなくとも誰も気づくことはないと思われたし、従者はただ言われた通り乗せて運ぶだけなのでバレても酷く咎められることはないだろうとリフィルナは考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...