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第一章 銀髪の侯爵令嬢
10話
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そもそもイルナにとってリフィルナは異分子だった。相容れない存在。家族皆が持ち合わせている茶色の髪も青い目もリフィルナは持っていない。
そんなリフィルナがイルナは昔から気に食わなくて仕方がなかった。
家族と異なるからと外に出してもらえない原因でしかない白に近いシルバーの髪も黄色と金色が混ざったような琥珀色の瞳も、そう思いたくはないのだが、間違いなくリフィルナを引き立てている。それが何より気に食わなかった。イルナがどれほど入念にお洒落をしても決してあんな風にはなれない。
容姿に関してはもちろん自信がある。父親似のはっきりとした目鼻立ちとスラリとした身長、母親似の凹凸にメリハリのある体型、そしてそれらを生かしたドレスを身にまとっていれば怖いものなどないはずだった。
一つ下の妹ラディアはイルナと違ってあえてよく言うなら可愛らしいタイプというのだろうか。父親と母親の長所からほんの少しずれているのか、イルナとも雰囲気は似ているのかもしれないが断然誰もがイルナのほうが綺麗だと言うだろう。
だがリフィルナは違う。髪や目の色だけでなく顔立ちもイルナやラディアとはどこか違う。異分子だ。両親を見てリフィルナを見ればなんとなく似ていなくもない気はするが、姉たちとは全然似ていない。そして人はきっとリフィルナを見るだろう。イルナが入念に着飾っても、そこにリフィルナが現れればきっと人はリフィルナに目が奪われるだろう。それが子どもの頃から嫌だった。だからリフィルナがあまり外へ出られないのをイルナは内心喜んでいた。
そんなある日、茶会に出席するために王宮へ出向いていたイルナは、この国の第一王子であるフォルスをたまたま見かけることとなった。王族特有の白に近い金色の髪に、吸い込まれそうな青い瞳を持ち、どことなく憂いのある様子のフォルスを、イルナは一目見て気になった。噂によると、王子はあれほど見目がいいというのにとても正義感が強く真面目な性格でもあるらしい。何より第一王子だ。イルナにはもうフォルス以外考えられなくなった。早速親にその気持ちを打ち明け、どうにかしてフォルスと婚約できるようにして欲しいとねだった。外聞を気にするような父親ではあっても侯爵だ。どのみち王子の相手としてフィールズ家ほど相応しい家柄はそうないはずだった。
イルナに甘い上にフィールズ家としても願ってもない話だ。父親はわりとすぐに王へ話を持ちかけてくれたらしい。話は面白いほどトントン拍子に進んだ。仮の婚約ではあり直接フォルスと接することはあまりなかったが、フォルス本人も特に断るつもりはなさそうでイルナとしては満足だった。
実際フォルスがイルナに会いに来るのは必要最低限といった程度ではあったが、真面目な性格だしとあまり気にしなかったし、イルナが成人しデビュタントを果たすと同時に婚約発表も行われ、晴れて正式に婚約者となれたというのに文句があるはずもない。
だが、そんな浮わついた気分をまたリフィルナが台無しにしてきた。
「何ですって?」
ある日、妹の一人であるラディアが部屋を訪問してきたかと思うと進言してきた言葉に、イルナは唖然として思わず聞き返した。
「ですから、リフィルナがこっそりフォルス殿下と会っている、と」
「まさか。いくらなんでも突拍子でもなさ過ぎるでしょう。リフィルナは確かに気に食わないけど、だからといってありもしないことを言うものではないことよ、ラディア」
あまりのことに、イルナは苦笑しながらラディアを窘めた。リフィルナのことは実の妹ながらに本当に気に食わない。だからといってさすがに無茶なことを言って咎めるほどではない。リフィルナはそもそも両親から外出を制限されているのだ。そんなリフィルナがそこそこ多忙であり、婚約者のイルナですら滅多に会えないフォルスといつどうやって会うというのか。
「嘘などついておりません! 私も本当にたまたま見かけちゃったんです。どうやらリフィルナは今までもたびたび屋敷を抜け出していたのではないでしょうか。この間、新しいリボンを買いに行こうと町へ出かけたんです。その時にリフィルナを見かけて。私本当に驚いたんですのよ。で、思わず声をかけることも忘れて後をつけちゃったんです。でも一瞬見失っちゃって。どうしようかと思っていたら偶然見つけることができたんです。リフィルナ、どうしていたと思います?」
イルナに問いかけるように言ってきたラディアだが、答えを待つことなく続けてきた。
「なんとフォルス殿下と楽しげに話をしているんですよ、町の片隅のベンチに腰掛けて。目を疑いましたけど間違いありません。私のお付きの者もちゃんと見ていますから間違いありませんわ。声をかけようかと思ったんですけど、先にお姉様にお伝えしたほうがいいかと思って……あ、お付きの者には黙っているようちゃんと念押ししています」
つらつらと話をしてくるラディアに冗談を言っている様子は感じられなかった。
──嘘でしょう?
まさか、そんなことがあるはずがない。だいたいフォルスとリフィルナは面識すらないはずなのだ。婚約発表をしたパーティでも、リフィルナは一応名目上連れて行きはしたが、両親はあえて紹介していない。昔リフィルナに直接地位を与えたキャベル王は幻獣を眷属にした娘と久しぶりに会いたがっていたが、少なくともイルナが知っている範囲ではフォルスはそれすら耳にしていないはずだった。
だがあのリフィルナを思うと、絶対にあり得ないとも思えない。
私よりも見栄えのする、私よりも目を奪われる存在……。
イルナは次第に怒りが込み上げてきた。そして危機を覚えた。
そんなリフィルナがイルナは昔から気に食わなくて仕方がなかった。
家族と異なるからと外に出してもらえない原因でしかない白に近いシルバーの髪も黄色と金色が混ざったような琥珀色の瞳も、そう思いたくはないのだが、間違いなくリフィルナを引き立てている。それが何より気に食わなかった。イルナがどれほど入念にお洒落をしても決してあんな風にはなれない。
容姿に関してはもちろん自信がある。父親似のはっきりとした目鼻立ちとスラリとした身長、母親似の凹凸にメリハリのある体型、そしてそれらを生かしたドレスを身にまとっていれば怖いものなどないはずだった。
一つ下の妹ラディアはイルナと違ってあえてよく言うなら可愛らしいタイプというのだろうか。父親と母親の長所からほんの少しずれているのか、イルナとも雰囲気は似ているのかもしれないが断然誰もがイルナのほうが綺麗だと言うだろう。
だがリフィルナは違う。髪や目の色だけでなく顔立ちもイルナやラディアとはどこか違う。異分子だ。両親を見てリフィルナを見ればなんとなく似ていなくもない気はするが、姉たちとは全然似ていない。そして人はきっとリフィルナを見るだろう。イルナが入念に着飾っても、そこにリフィルナが現れればきっと人はリフィルナに目が奪われるだろう。それが子どもの頃から嫌だった。だからリフィルナがあまり外へ出られないのをイルナは内心喜んでいた。
そんなある日、茶会に出席するために王宮へ出向いていたイルナは、この国の第一王子であるフォルスをたまたま見かけることとなった。王族特有の白に近い金色の髪に、吸い込まれそうな青い瞳を持ち、どことなく憂いのある様子のフォルスを、イルナは一目見て気になった。噂によると、王子はあれほど見目がいいというのにとても正義感が強く真面目な性格でもあるらしい。何より第一王子だ。イルナにはもうフォルス以外考えられなくなった。早速親にその気持ちを打ち明け、どうにかしてフォルスと婚約できるようにして欲しいとねだった。外聞を気にするような父親ではあっても侯爵だ。どのみち王子の相手としてフィールズ家ほど相応しい家柄はそうないはずだった。
イルナに甘い上にフィールズ家としても願ってもない話だ。父親はわりとすぐに王へ話を持ちかけてくれたらしい。話は面白いほどトントン拍子に進んだ。仮の婚約ではあり直接フォルスと接することはあまりなかったが、フォルス本人も特に断るつもりはなさそうでイルナとしては満足だった。
実際フォルスがイルナに会いに来るのは必要最低限といった程度ではあったが、真面目な性格だしとあまり気にしなかったし、イルナが成人しデビュタントを果たすと同時に婚約発表も行われ、晴れて正式に婚約者となれたというのに文句があるはずもない。
だが、そんな浮わついた気分をまたリフィルナが台無しにしてきた。
「何ですって?」
ある日、妹の一人であるラディアが部屋を訪問してきたかと思うと進言してきた言葉に、イルナは唖然として思わず聞き返した。
「ですから、リフィルナがこっそりフォルス殿下と会っている、と」
「まさか。いくらなんでも突拍子でもなさ過ぎるでしょう。リフィルナは確かに気に食わないけど、だからといってありもしないことを言うものではないことよ、ラディア」
あまりのことに、イルナは苦笑しながらラディアを窘めた。リフィルナのことは実の妹ながらに本当に気に食わない。だからといってさすがに無茶なことを言って咎めるほどではない。リフィルナはそもそも両親から外出を制限されているのだ。そんなリフィルナがそこそこ多忙であり、婚約者のイルナですら滅多に会えないフォルスといつどうやって会うというのか。
「嘘などついておりません! 私も本当にたまたま見かけちゃったんです。どうやらリフィルナは今までもたびたび屋敷を抜け出していたのではないでしょうか。この間、新しいリボンを買いに行こうと町へ出かけたんです。その時にリフィルナを見かけて。私本当に驚いたんですのよ。で、思わず声をかけることも忘れて後をつけちゃったんです。でも一瞬見失っちゃって。どうしようかと思っていたら偶然見つけることができたんです。リフィルナ、どうしていたと思います?」
イルナに問いかけるように言ってきたラディアだが、答えを待つことなく続けてきた。
「なんとフォルス殿下と楽しげに話をしているんですよ、町の片隅のベンチに腰掛けて。目を疑いましたけど間違いありません。私のお付きの者もちゃんと見ていますから間違いありませんわ。声をかけようかと思ったんですけど、先にお姉様にお伝えしたほうがいいかと思って……あ、お付きの者には黙っているようちゃんと念押ししています」
つらつらと話をしてくるラディアに冗談を言っている様子は感じられなかった。
──嘘でしょう?
まさか、そんなことがあるはずがない。だいたいフォルスとリフィルナは面識すらないはずなのだ。婚約発表をしたパーティでも、リフィルナは一応名目上連れて行きはしたが、両親はあえて紹介していない。昔リフィルナに直接地位を与えたキャベル王は幻獣を眷属にした娘と久しぶりに会いたがっていたが、少なくともイルナが知っている範囲ではフォルスはそれすら耳にしていないはずだった。
だがあのリフィルナを思うと、絶対にあり得ないとも思えない。
私よりも見栄えのする、私よりも目を奪われる存在……。
イルナは次第に怒りが込み上げてきた。そして危機を覚えた。
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