ヴェヒター

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3Wednesday

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 青葉が鬱陶しい。睦は呆れたように思った。
 そういえば全然部屋に戻っていないなとは思った。もしかして? とも思った。だが直接何度も聞かされると鬱陶しいことこの上ない。

「そんで後でコーヒー淹れたら無言だけど幸せそうに飲んでくれてさ! いやもう、どうしたらいい? マジ慶一くんかわいすぎて俺体中の汁なくなりそう」
「干からびればいいんじゃない?」
「え、じゃあ慶一くんに潤してもらう。慶一くんとちゅーしてえっちして、潤してもらっ」
「もらって、そんでまた汁なくなって干からびれば?」
「ひでぇ!」

 拗ねたように青葉が睦を見てくる。睦はジロリと青葉を見返した。

「酷いのはあお。何で俺が俺のじゃない幸せノロケをうざいほど聞かされなきゃなの? 俺のいいトコを延々に語ってくるなら俺も耳貸すけど、そんなノロケ聞いてらんねーし」
「むしろ何で俺がむつのいいトコ延々と語り出すわけっ? そっちのがうざいっつーかキモいだろ!」
「少なくとも俺はそっちのがまだいい。あ、でも慶一くんのエロいとこなら聞いてもいい。あお抜きでの」
「言うかよ……!」

 ニッコリ睦が言うと、今度は青葉が嫌そうに睦を見てきた。

「何で。かわいいんでしょ? 受け入れてくれた慶一くん、どうだった? ただでさえ最高具合のあの中、もっとよくなんの? あのしっとりした肌、さらに吸いつくような感触になんの? 普段見せてこないイき顔はもっとエロくなんの?」
「……っむつっ」

 あえてわざとそういう言い方すると、青葉は涙目になりながら睦の胸倉をつかんでくる。

 ……いざとなるとしっかりして俺より頼りがいあんのにさ、ほんとこーゆーとこかわいいよね。

 睦は意地悪く笑う。そして青葉の向こう側に気づくと、胸倉をつかんでいる手を離して笑いかけた。

「あおのそーゆーとこ、かわいくて好きだよ……」

 甘く囁くように言うと、そのまま青葉の頬にちゅっとキスした。今までセックスしたことはあってもキスは一切したことない。された青葉はとてつもなくきょとんとして睦を見てきた。

「ほんとかわいいよね、あお」

 語尾にハートマークつけているかのように青葉の名を呼ぶと、睦は青葉の背後にニッコリ笑いかけて手を振る。ポカンとしていた青葉もそれで後ろに気づいたのか「け、慶一くん! いや、今のはマジ何でもねーし……!」と無駄に焦っている。

「……いや、お前ら兄弟だろ……むしろ俺がどう思うと思ったんだ……」

 それに対し呆れたような声で慶一が呟く。

「そ、そうだよね!」

 青葉は微妙な顔を慶一へ向けた後、睦に恨みがましい目を向けてきた。

 ……新しい遊び、楽しいかも。

 そっと思うと睦は慶一に近づいた。

「あおとつき合うんだってー?」

 ニコニコ言うと、途端慶一が少し赤らめた顔を俯かせ視線を彷徨わせる。

 ……ほんとこの子ら、何なの楽しい……。

 あんなにイライラして腹立たしくて憤っていたはずなのに今はひたすら楽しいと思える自分を、睦は少し好きだと思えた。

「あおのこと、好きなの」

 睦がそう口にすると、慶一はだが少しハッとなったように睦を見てきた。そして今の口調と睦の表情を見ると、どこか安心したように少しだけ微笑んでくる。慶一の今の表情を見ると、睦は青葉に取られたのがほんの少し残念に思えた。

「……嫌いじゃない」

 そしてまた同じように言ってくる慶一に、ニッコリ笑いかける。

「俺もさ、慶一くん、好きだよ」

 慶一の顔が「俺も、ってどういうことだ」といった表情になる。

「まぁ、慶一くんがあおを思っているようなのとは違うけどさー」
「……っ?」

 慶一に顔を近づけて囁くと、慶一は困ったようになりながらもさらに赤くなった。青葉が「離れろ」だか何だか言っているのを無視して、睦はますます顔を近づける。

「あおを大事にしてやってね。あいつ、しっかりしてるけどやっぱまだまだ子どもだから」
「……睦」

 少し驚いたような顔をした慶一の唇に、相当顔を近づけていた睦は自分の唇を重ねた。

「っ?」
「っちょ、む、むつっ? てめ、何しやがる……っ」

 焦り怒っている青葉を無視し、睦はさらに慶一の口内へ舌を割入れ、ねっとり絡ませた。

「っん、ぅ、んっ」

 あまりのことに引き剥がすことすら思いつかない青葉はポカンとしているようだ。その青葉の前で濃厚なキスを堪能した後、睦はようやく唇を離した。

「……お前、何考えて……!」

 慶一はムッとしつつも効果はない。濡れたような瞳や染まった頬はむしろそのまま押し倒したくなる様子で、睦は苦笑した。

「慶一くん、ほんっと危なっかしいよね。お前本人からは全くそのつもりがないしむしろ止めろって気持ちちゃんと伝わってくるのに、お前の体の反応がね。ほんと」

 睦は最後は吹き出しながら言った。

「むつ! てめ……」

 ようやく我に返った青葉が睦につかみかかろうとしてきたが、睦はひらりと避ける。

「何ー? だって言ったじゃん。俺はあおみたいな感じで慶一くん好きなわけじゃないけど、好きは好きだしちょっかいはかけるってさ?」
「何でだよ……!」

 ……おもしろいから?

「おもしろいから? あれ? 珍しく本音と同じ言葉、出ちゃったよ」
「出ても最悪だけどな! もーほんっとむつ、何考えて……!」

 ムッとしている青葉に睦はニッコリ笑いかけた。

「あおこそ何考えてんのぉ? 俺と慶一くんの濃厚ちゅー見て、何で下硬くするわけ?」
「……っこ、れは、その……慶一くんがエロいせいだし……」
「は? 何で俺のせい……? ていうか青葉こそほんと何考えて……」

 睦と青葉のやりとりを聞いて、慶一が引いたような顔で青葉を見る。

「だ、だって! 仕方ねーじゃん! 慶一くんエロいから仕方ねーじゃん!」

 青葉は開き直ったかのように睦から慶一を離すとぎゅっと抱きしめている。

「……離せ」

 抱きつかれた慶一はつき合っている相手だというのに、心底面倒そうな顔しながら呟いている。

「ほんともう、お前らかわいいしおもしろいよね」

 その様子を見ながら睦が笑っていると、背後から「楽しそうだね?」という声がした。その声に、睦は思わずムッとしたような表情になる。恐らく条件反射だろう。慶一はどう考えているのか一見わからないが、青葉は今にも噛みつきそうな顔で声の主を見ている。

「酷いなあ、歓迎モード、作ってくれないの?」

 あからさまな態度をされても、声の主、流河はニコニコ笑っている。

「作るわけねーじゃん! どっか行けよ」

 青葉がさらに慶一をぎゅっと抱きしめながら流河を睨む。

「そう言われても。確かに人通りの少ない廊下だろうけどやっぱり公共の場だしね? それに俺、今何もしてないけど?」
「もし慶一くんに何かするなら俺も怒るからね」

 睦はムッとした顔のまま青葉と同じように流河を睨む。

「えぇ? 俺だけ仲間はずれ?」
「そもそも仲間入ってねーよ!」

 青葉がますますムッとしたように言う。そして「お前はマジ慶一くんに近づくなバーカ」など子どもかと言いたくなるような捨て台詞を吐くと、慶一を無理やり引きつれて歩いていってしまった。

「あーぁ、慶一、連れてかれちゃった。代わりに睦、慰めてくれる?」
「ざけんな。……慶一くん、あおとつき合うんだってさ。だからマジあの二人にちょっかいかけんなよ」
「あんたはかけるくせに?」
「俺はいーの!」
「相変わらず勝手」

 勝手、と言いながらも流河は睦の髪に手をやるとすっと撫でるように触れた後でもう少ししっかりと頭を撫でてきた。それが心地よく、睦はムッとした顔でそのままじっとしていた。
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