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とにかくこの場を収拾しなければと、結弦がさらに何か言おうとした。すると拓が背後から結弦の口元というか顔を手で覆ってきた。
「っぶ。何すんだよ」
「お前はむしろ黙っとけ。余計ややこしくなる」
手は離してくれたが、ため息つきそうな勢いで拓が前を見ながら言ってくる。
「は? 馬鹿を扱うみたいな言動するな」
「違わないだろ」
「違うわ!」
言い返していると咳払いが聞こえた。見れば旭日がますます困惑したような顔をしている。それと共に、結弦は自分が拓の腕の中にいると今さら気づいた。
「と、とりあえず離して」
少しもがきながら拓から離れようとしたが、ちっとも身動きとれない。
俺は少し筋トレすべきなのか?
結弦の周りの友人で筋トレしていると口にしている者はいないものの、拓の裸を見たからわかる。多分している人は少なからずいる。
「佐野くん、離してって言ってるけど?」
もがいているつもりでいる結弦がびくともしないままの状態に内心唖然としていると、困惑していたはずの旭日が少し笑みを浮かべながら拓に首を傾げてきた。
「佐野が本当に嫌がることはしてない」
「それは君の主観でしょ。離してって言ったら離してあげるべきじゃないの」
「部外者は黙ってください」
「部外者? 一緒にいた俺たちに割って入ってきた君のことかな」
「最近佐野と知り合ったばかりのあんたのことですよ」
……何、この変な空気。
もがこうとするのを止め、結弦は拓の腕の中にいるまま唖然と立ち尽くした。なぜこの二人は、初対面で心なしか喧嘩腰なのか。二人とも普段物静かだったり穏やかだったりするだけに、謎でしかない。
結崎さんはもしかしたら、いまだに本当にそうか実感ないけど、もしかしたら俺に好意抱いてくれている可能性が無きにしも非ずだから、もしかしたらそういう態度になってしまったのかもしれないと百歩譲って考えられたとして……っていうか俺は何回もしかしたらって言ってんのか。
とにかく、そうだとしても拓はなぜなのかわからない。
……あ、そういえば三坂くんは結崎さんがフォークだと思ってるんだっけか?
それこそもしかしたら獲物を取られると焦っての言動なのかもしれない。
……だよ、な。結崎さんが俺をってのですらあり得ないのに、三坂くんもが俺を獲物じゃなくてそういう意味で、なんてあるわけない。
……ない、わな……。
「とにかく、いきなり邪魔してきたのは君だよ。何? 君も彼が好きなの? だとしてもいきなり失礼だと思うけど、そうじゃないなら俺のすることに干渉しないで欲しいな」
いや、だからあり得ないんですって……。って、結崎さんはほんとに俺のこと……? マジ意味わかんない。ほんと何で?
何を言うのかと結弦は旭日を困惑しながら見た。
「あんたに言われるいわれはない。失礼なのはすみません。でもこいつは俺のなんで」
い、いやいやいやいや……! 三坂くんこそほんっと何言ってんだよ……!
まさか自分がフォークで結弦がケーキだとばらすつもりなのだろうか。そういえば拓は隠す気は特にない的なことを前に言っていた気がする。
結弦は焦って腕の中から拓を見上げようとした。だがその前に、ため息つきながら旭日が近づいてきた。
「そう。わかった。君の気持ちはね。だからと言って佐野くんを諦めるってわけじゃないけど」
「そこは諦めてください」
「なぜ? 佐野くんから直接君が好きだから諦めてくれって言われたんじゃないのに?」
「……おい。お前からも言えよ」
旭日の言葉にほんの少し無言になった拓だったが、抱えたままの結弦に少し屈みながらぶっきらぼうに言ってくる。
「は? な、何を」
「三坂くんのものだから諦めてくださいって」
「いや、何でだよ……!」
フォークとケーキだとばらせと言うのか。思わず速攻で突っ込みを入れるように言い返すと、拓はムッとした顔になった。ついでに旭日は少しおかしそうに両手をわざとらしく上げ、おそらく呆れている。
「じゃあ、この人にかわいい言われながら色々されたいのか」
せめてそろそろ腕から解放して欲しいところだが、抱え込まれたまま拓がまた屈むようにして、今度は耳元で囁いてきた。耳がそんなに弱いつもりはなかったが、ちょくちょく拓に食べられているせいか、もう少しで変な声が出そうになる。何とかそれを堪えるため下唇を噛みしめてから、結弦は斜め上をじろりと見上げた。拓は無表情に近い顔をしている。
拓の言ったことは極論でしかないが、絶対違うとも断言できない。いまだに少々懐疑的ではあるが、とりあえず旭日は結弦をかわいいと少なくとも思っているようだ。何かの間違いでしかないと思うが、とりあえず。そして先ほどのやり取りを思い返せば、拓の言うように穏やかであるはずの旭日に笑顔のままぐいぐい進められ気づけば確かに色々されそうな気もしないではない。
そ、れは困る。
「おっ、れは……み、さかく、ん……も、の……あき……く、ださ……い」
ここは言われた通りにするかと思ったはいいが、実際口にしようとすれば笑えるぐらい口にできなかった。何とか最後まで言ったつもりだが、くっついているはずの拓にすら「何て?」と言われる。
くっそ。思ってもないことだからだろ、多分こんなに言いにくいの……。ああもう顔、クソ熱いんだけど……!
「っぶ。何すんだよ」
「お前はむしろ黙っとけ。余計ややこしくなる」
手は離してくれたが、ため息つきそうな勢いで拓が前を見ながら言ってくる。
「は? 馬鹿を扱うみたいな言動するな」
「違わないだろ」
「違うわ!」
言い返していると咳払いが聞こえた。見れば旭日がますます困惑したような顔をしている。それと共に、結弦は自分が拓の腕の中にいると今さら気づいた。
「と、とりあえず離して」
少しもがきながら拓から離れようとしたが、ちっとも身動きとれない。
俺は少し筋トレすべきなのか?
結弦の周りの友人で筋トレしていると口にしている者はいないものの、拓の裸を見たからわかる。多分している人は少なからずいる。
「佐野くん、離してって言ってるけど?」
もがいているつもりでいる結弦がびくともしないままの状態に内心唖然としていると、困惑していたはずの旭日が少し笑みを浮かべながら拓に首を傾げてきた。
「佐野が本当に嫌がることはしてない」
「それは君の主観でしょ。離してって言ったら離してあげるべきじゃないの」
「部外者は黙ってください」
「部外者? 一緒にいた俺たちに割って入ってきた君のことかな」
「最近佐野と知り合ったばかりのあんたのことですよ」
……何、この変な空気。
もがこうとするのを止め、結弦は拓の腕の中にいるまま唖然と立ち尽くした。なぜこの二人は、初対面で心なしか喧嘩腰なのか。二人とも普段物静かだったり穏やかだったりするだけに、謎でしかない。
結崎さんはもしかしたら、いまだに本当にそうか実感ないけど、もしかしたら俺に好意抱いてくれている可能性が無きにしも非ずだから、もしかしたらそういう態度になってしまったのかもしれないと百歩譲って考えられたとして……っていうか俺は何回もしかしたらって言ってんのか。
とにかく、そうだとしても拓はなぜなのかわからない。
……あ、そういえば三坂くんは結崎さんがフォークだと思ってるんだっけか?
それこそもしかしたら獲物を取られると焦っての言動なのかもしれない。
……だよ、な。結崎さんが俺をってのですらあり得ないのに、三坂くんもが俺を獲物じゃなくてそういう意味で、なんてあるわけない。
……ない、わな……。
「とにかく、いきなり邪魔してきたのは君だよ。何? 君も彼が好きなの? だとしてもいきなり失礼だと思うけど、そうじゃないなら俺のすることに干渉しないで欲しいな」
いや、だからあり得ないんですって……。って、結崎さんはほんとに俺のこと……? マジ意味わかんない。ほんと何で?
何を言うのかと結弦は旭日を困惑しながら見た。
「あんたに言われるいわれはない。失礼なのはすみません。でもこいつは俺のなんで」
い、いやいやいやいや……! 三坂くんこそほんっと何言ってんだよ……!
まさか自分がフォークで結弦がケーキだとばらすつもりなのだろうか。そういえば拓は隠す気は特にない的なことを前に言っていた気がする。
結弦は焦って腕の中から拓を見上げようとした。だがその前に、ため息つきながら旭日が近づいてきた。
「そう。わかった。君の気持ちはね。だからと言って佐野くんを諦めるってわけじゃないけど」
「そこは諦めてください」
「なぜ? 佐野くんから直接君が好きだから諦めてくれって言われたんじゃないのに?」
「……おい。お前からも言えよ」
旭日の言葉にほんの少し無言になった拓だったが、抱えたままの結弦に少し屈みながらぶっきらぼうに言ってくる。
「は? な、何を」
「三坂くんのものだから諦めてくださいって」
「いや、何でだよ……!」
フォークとケーキだとばらせと言うのか。思わず速攻で突っ込みを入れるように言い返すと、拓はムッとした顔になった。ついでに旭日は少しおかしそうに両手をわざとらしく上げ、おそらく呆れている。
「じゃあ、この人にかわいい言われながら色々されたいのか」
せめてそろそろ腕から解放して欲しいところだが、抱え込まれたまま拓がまた屈むようにして、今度は耳元で囁いてきた。耳がそんなに弱いつもりはなかったが、ちょくちょく拓に食べられているせいか、もう少しで変な声が出そうになる。何とかそれを堪えるため下唇を噛みしめてから、結弦は斜め上をじろりと見上げた。拓は無表情に近い顔をしている。
拓の言ったことは極論でしかないが、絶対違うとも断言できない。いまだに少々懐疑的ではあるが、とりあえず旭日は結弦をかわいいと少なくとも思っているようだ。何かの間違いでしかないと思うが、とりあえず。そして先ほどのやり取りを思い返せば、拓の言うように穏やかであるはずの旭日に笑顔のままぐいぐい進められ気づけば確かに色々されそうな気もしないではない。
そ、れは困る。
「おっ、れは……み、さかく、ん……も、の……あき……く、ださ……い」
ここは言われた通りにするかと思ったはいいが、実際口にしようとすれば笑えるぐらい口にできなかった。何とか最後まで言ったつもりだが、くっついているはずの拓にすら「何て?」と言われる。
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