たまらなく甘いキミ

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 頷いたあと、気づけば結弦はあっという間に拓の家に連れ込まれていた。驚きの速さだったように思う。頷いた自分がどうにも居たたまれないというか恥ずかしくて少々上の空気味だったが、ほぼ抱えられるように移動したのではないだろうか。いや、少なくとも外ではまだそこまでではなかったと思うが、マンションの廊下を歩いている時くらいから人目をはばからずというか人目がないからか、間違いなく拓は結弦を俵担ぎで足早に移動していた。

「何?」

 玄関でさすがに自分は靴を脱いだようだが、結弦は靴を履いたままだった。そろそろ上の空から帰ってきた結弦がそれを咎めようとすると、少々苛立ち混じりに聞かれた。

「何、じゃない。いい加減おろして。あと靴ぐらい脱がせて」
「脱がせろって?」
「じゃない! 靴くらい自分で脱ぐわ! でもお前に抱えられてて脱げないから、とりあえずおろせっつってんの!」

 少し体をバタバタして言えば「暴れるな。危ない」と改めて抱えなおされた。

「いや、だからおろ……おい!」

 俵担ぎのまま、拓は結弦から脱がせた靴を玄関のたたきにポイポイと多分乱暴に投げた。何ならため息さえ聞こえてきた気がするが、それならため息つきたいのはこちらだと結弦は思う。

「おろせって!」
「暴れんな」
「お前がおろせば暴れねえわ!」
「オーケィ」

 オーケィと言いながらようやくおろされた場所に気づくと、結弦は途端落ち着きをなくした。今まで何度も拓の家で食われてきたが、ベッドの上で食われたことはない。
 とりあえず慌てておりようとしたが、その前に覆いかぶされた。

「おま……っ」

 文句言う前に口をふさがれる。ふさいできた拓の唇が自分の唇に触れた瞬間、認めたくないが結弦は一気に力が抜けた。
 シンとした部屋に少し乱れた吐息の音だけが響く。自分の息なのか拓の息なのかわからないのは脳が焼けつくような感じがするからかもしれない。まるで脳の中が熱を持ち、それが焦げて火花が散っているようだ。おかげでモヤモヤしてきて何も考えられない。

「は……」

 どちらともつかない荒い息にすら溺れそうだった。このまま本当に口から食べられてしまうかもしれないくらい、激しく口の中を蹂躙されているかのように貪られた。

「待っ、くるし……っ」

 そろそろ本気で息ができなくなりそうで、何とか口にしようと結弦がキスの合間に漏らせば、ようやく拓の唇が完全に離れた。だがそれはすぐに結弦の耳や首筋へと移動していく。
 首筋などに唇を這わせられるのは別に今に始まったことでもない。だがどこかいつもと違う気もする。

 何? ずっとお預けだったから? 今のキスがヤバいくらい激しかったから?

 いつも以上にゾクゾクした、内から込み上げる表現し難い震えを感じた。本気で食べられそうで怖い気持ちと、ただひたすら腹の奥を甘く抉ってくるかのような官能的な気持ちに怯えながらも耽溺してしまう。

「っあ……」

 かすれた声がつい漏れるが、それに構う余裕などなかった。

 無理。マジで脳、焼けつく。ショートする。無理。無理。無理……む、り。

 もはや「無理」しか頭に浮かばなくなってきた。拓の手が結弦の下腹部へ伸びてもいつもと違ってされるがままだった。

「は……、甘い……」

 耳元で漏れ聞こえる低く響く声に、ようやく「無理」以外に思えたのは「俺のが甘い」だった。腹の奥から胸にかけて、甘くて胸やけしそうなじわりとした何かが先ほどからずっと感じる。それは結弦の今や間違いなく硬くなったものに触れられると、明確な響きと痺れとなって全身を貫いてきた。

「ぁ、あっ、あ……っ」
「ガチガチ。咥えてやろうか?」

 フォークに急所を咥えられるなんて絶対怖すぎる。

「お、ま……っえ、が……、っ食いた、い、だ……っん、けっ、だろ!」
「は」

 キスでとりあえず最低限の飢えが満たされたのか、先ほどより余裕を見せている拓が腹立たしく思える。

「飢、えてん、のっ、お前、なの、に何、でそっち、のが余裕……」

 余裕みせているのだと言いかけて結弦は我に返った。これでは「お前にキスされ触れらえて俺は余裕ありません」と宣言しているようなものだ。拓こそフォークで余裕ないはずであり、ケーキである結弦は飢えなどないから切迫するものなど何もないはずだというのにこれでは微妙過ぎる。

「余裕? そんなもの、ないよ」

 どう見ても、少なくとも結弦より余裕そうにしか見えない拓が少し笑った後、覆いかぶさった状態から退くと、結弦を横へ向かせてきた。そして拓もそれに沿うようにして横たわってくる。結弦の切羽詰まった下半身を放置して休憩でもするのかと唖然とした気持ちになりそうだったが、尻の辺りに違和感があることに気づいた。

 ……これ……、もしかして?

「わかる?」
「な、んでお前まで硬くして、んの……」

 今まで結弦のものが主張してきたことは悲しいかな、何度もある。毎回ぐったりするくらい翻弄されているものの、これでも最初の時以来何とか触れられることすら避けてきたが、実はほぼ毎回主張していた。だが、拓が反応しているのを見たことはなかった。

 いや、見たくねえし見ようともしてなかったとも、言う、けどさ……。

 自分のものを勃起させながら拓の下半身に目をやるのが、何となく負けたような気になりそうで避けていたとも言う。とにかく、見たこともなかっただけに感じたことだって当然ない。だから今感じて、結弦は心底驚いていた。
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