たまらなく甘いキミ

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 そろそろ断ってもいいのではと結弦はいい加減思っている。味がわからないことに対して同情しかないが、だからといってなぜ自分がここまで身を削る思いで協力してやらなければいけないのか。

 元々友だちでもないんだぞ。今だって俺ら、いったいどんな関係だよ。ただフォークとケーキってだけだろ。っていうか身を削るって、まさにそのまますぎて笑える。……いや、笑えないし……!

 自分に突っ込んでため息ついた後、結弦はさらに考えた。
 友人でもない状態から、さすがに今は違う関係性になっているだろうか。食べるためとはいえ、アルバイトの後だけだとしても、誰より頻繁に拓の家で会っている気がする。

 友だち、と言えるのだろうか?
 それとも……?

「お前の味って何かほんのりチョコ思い出すし、だからこういうチョコタイプの何か食ったらお前の味再現できるんかなとか。まあ、見事に味わからないけどな」

 そう言っていた拓をまた思い出し、結弦は少し顔が熱くなった。いくら味覚を失い、今のところ結弦の味しかわからないとはいえ、結弦の味を求めすぎではないだろうか。結弦の味を求めすぎて、いっそ結弦のことが好きなのではと思ってしまう。

 べ、つに俺は好きじゃないけど。そもそも男に興味ないし。

 数が圧倒的に少ないとはいえ、フォークとケーキという第三の性別とも言えるものが存在するからだろうか。世間ではそれほど同性同士に対して問題視していない。結弦も別に誰がどうつき合おうが大して気にならない。

 俺以外ならな。

 いくら誰も気にしなくとも、だからといって誰もがどの性でもいいというわけでもない。この辺は性的指向によるものだろう。
 だから別に俺はあいつが俺のことどう思ってようがどうでもいい、けど、でもあれだ、こっちはほんと身を削る勢いなんだから、俺のこと好きだってくらいの理由じゃないとあれだろ、うん。
 うんうん自分に頷いた後、今度は思い切り首を横に振った。おかげで少し首が痛い。

 じゃないし! 俺のこと好きだろうが何だろうが、ちょっと食いすぎなんだよ……! だから俺はそろそろ断ってもいい!

 結局そこへまた行きつき、結弦は自分の考えにまた頷いた。

「は? 何で」

 だから次にアルバイト先の更衣室で顔を合わせた時、周りを窺ってからそう告げると、即怪訝な顔された。

「何でじゃないし。お前食いすぎなんだよ。俺はいい加減断ってもいいと思う。ほんと食いすぎ」
「何度も言ってるけど、実際食ってるわけじゃないだろ」
「そういう問題じゃないし。だいたい俺は何でお前にそこまでしてやらなきゃなの? 俺はお前の何だよ」
「何って、そりゃ……」

 そりゃ、と言った後何も返ってこないため、話しながら着替えていた結弦は拓を見て、「そりゃ、何?」と再度聞く。

「……あー、ケーキ」

 そう返ってくる気もしないでもなかった。だが改めて言われると何だか妙に腹立たしい。

「それって別に俺じゃなくてもケーキなら誰でもいいってことだよな。ただ元々数少ないし、周りにいるケーキが俺だったからってことだよな」
「そ、ういうわけじゃない」
「は? そういうわけだろ」
「そりゃ他にケーキ、知らんけど……でも俺はお前が食いたいんだよ。いつもお前に対して食いたいっつってるだろが」
「だからそれは他にケーキがいないからだろ」
「ちげーし」
「違うくない!」
「何でお前が断言すんだよ。あともう少し落ち着け。誰かに聞かれたらどうすんだ。俺はいいけど……」

 俺はいい? 嘘だ、絶対ほんとはお前だって俺みたいなの食ってんの、他の誰にも知られたくないくせに。

 先ほどから気持ちがじわじわ激高してきているからだろうか。そんな風に思え、結弦は思い切り拓を見上げ睨んだ。

「はぁ。とにかく、落ち着け。いいな? 今日はもう、俺もバイト終わったらそのまま帰るから」

 それに対し拓はため息つきながら前髪をかき上げた。そしてポンと結弦の頭に手をやってから更衣室を出ていった。

 何で俺が子ども扱いみたいにあやされなきゃなんだよ……! あとまるで俺がわがまま言ったりしてるっぽい扱いやめろよ……! 何だよ。そんなのまるで……俺、何かこう……「仕事と私どっちが大事なの」的なこと言い出したやつぽくなってねえ? 何で俺が!

 じわじわ激高していた感情が頂点まできてしまい、結弦はしばらく更衣室にこもっていた。ようやくそれなりに落ち着く頃には他の従業員が着替えに入ってきた。

「今日はもう終わり?」
「いや、今からっすけど」
「え、じゃあ何で佐野くん、一日働き終えたみたいな顔してんの」
「気のせいっす」

 同じ調理担当の先輩に、結弦は無理やり笑顔で言い返した。
 その日は久しぶりに拓の家へ行くことなく自宅へ帰った。親には「最近遅かったのに今日は早いじゃない」と言われたりした。

「まあ」
「彼女に振られたの?」
「は? 彼女いないけど」
「あら。てっきり最近遅いの、バイトの後彼女と会ってるのかと。いつ紹介してもらえるのかとか思ってたのに」
「ちげーし」
「……ああ、もしかして彼女じゃなく彼氏……」
「のわけねーから!」

 否定した結弦の顔を見てきた後に少しにやりとそんなことを言ってきた母親に、結弦はさらに強く否定した。

「冗談か本気かわからないような冗談はやめて」
「あら、別に冗談じゃないのに」
「なおさらタチ悪いわ。あと、俺もう寝る」
「晩御飯は?」
「いらない」

 即答したが、夜中に目が覚めて夕食まで否定したことを大いに後悔した。
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