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「なあ……、別に……そこまで頻繁に、食わなくても、よくないか?」
最近ますますアルバイト終わりに拓の家へ連れ込まれ、味わわれている気がしている。今日も拉致されるかのごとくアルバイトを終えた職場から連れ出され、拓の家でさんざん味わわれた後、結弦は息も絶え絶えにようやくそう告げた。前から言ってやろう言ってやろうと思っていたのだが、気力やらタイミングやら気力やら気力やらでなかなか言えなかった。
言う前にこいつに食われて、何かぐだぐだになるし。って別に気持ちよすぎてぼーっとなるとかじゃないから。
内心自分へ突っ込んだ後、結弦はもう一度「よくないか?」と繰り返した。
「何で」
ようやく言えたというのに、どうでもよさげに返される。
「何でって」
「別にお前をマジで食べるわけじゃないんだし、減らないんだからいいだろ」
「へ、減ってる! 俺の何か大事なものが減ってる気がするし、少なくとも元気とか何かそういうのは確実に減ってる!」
「そうか?」
やはりどうでもよさそうな様子に見え、結弦はじろりと拓を見上げた。
「だいたいケーキ味わわなくても普通の食い物で栄養も飢えも満たせんだろ、フォークって。そう習ったぞ」
「まあ、そうだけど。じゃあお前なら全く味のしないゴムのようなものを、栄養あるからとかとりあえず腹は満たせるからと日々口に入れるだけで満足できんのか」
「ぅ」
そう言われると困る。できる、などと嘘はつけないし、かといって「無理だし仕方ないな」と言えばさらに拓からいいように味わわれてしまいそうだ。
「ち、ちなみにケーキからも飢えや栄養って満たせんのか?」
そして慌てて話をそらしたつもりが、わりと墓穴になる。よくあることだ。
「……まあ、な。でもちょっと舐めたくらいじゃたいして満たせないけどな」
それってもっと深く食えば満たせるって意味かよ……っ?
「えーっと、えっと、そ、そういや俺も腹減ったし、か、帰るわ」
「……ほんとお前って」
「な、んだよ」
「いや? 腹減ったなら、何か食ってくか?」
とりあえずさらに話をそらそうとして言っただけではあったが、口にしてみると実際本当に減っていたようだ。何か返事する前に腹がそこそこ大きく鳴った。
「ふは」
「……笑うな。何かって、何かあんの?」
「んーとりあえず今あんのはガトーショコラとチョコフィナンシェとカカオテリーヌとチョコのギモーヴと……」
「いや何それ見事にチョコまみれすぎんか……! お前、甘いの得意じゃなかったって言ってなかったか?」
結弦は別に甘いものは大好きでも大嫌いでもないが、そこまでチョコレートだらけだとさすがに少々引く。というか普通におかず系はないのかと思ってしまう。
「得意じゃなかったよ。でもどのみち今は何食っても味しねーし」
「……あー。いや、だからといって何で……」
「そりゃ、お前の味って何かほんのりチョコ思い出すし、だからこういうチョコタイプの何か食ったらお前の味再現できるんかなとか。まあ、見事に味わからないけどな」
「は?」
何それ。それもう、むしろ俺のこと好きなのでは?
思わずそう思ってしまう程度には「俺の味求めすぎだろ」と感じられた。
「? 何かお前、顔赤くないか?」
「べ、別に赤くないし。っていうかもしそうだとしても、チョコじゃ栄養とれないだろ……太るだけでは?」
「どのみちどれも味しねーからそんな食ってないし、体は基本鍛えてるから太る心配はないぞ、安心しろ」
「いや、何で俺が心配したり安心しなきゃなんだよ……!」
「さっきからいやいやうるさいな。で、チョコのやつ、食うのか? 食わないのか?」
「食べるけど……! お前、ちゃんと飯食ってんのか?」
別に太ろうがやせ細ろうが鍛えようがどうでもいいけどあれだ、せっかくこうして味わわせてやってるのに体調悪くされたら、それこそ後味悪いからな。
うんうん結弦が頷いていると、拓は「何で頷いてんだ?」と怪訝そうにした後「まあ、一応はな」と近くにあるらしいコンビニエンスストアの袋を指さした。
「見事にコンビニ飯ばっかだろ……!」
思わず即突っ込んでしまったが、拓はといえば「それが何か?」といった顔で結弦を見てくる。
「……自分で作ったりしないのか?」
「お前はするのか?」
「俺はだって自宅、だし」
親元でも自炊する人はするのだろう。人に言っておきながら、これでは五十歩百歩だ。
……そんなことない、んじゃないか? だって俺は母親がしてくれるから別にしなくてもご飯にありつけるからで、一人暮らししたら多分……。
まあ、多分、しないだろう。
普段の自分を省みて、結弦はさりげに拓から目をそらした。すると拓のほうから吹き出す声が聞こえてきた気がする。だがそらした顔をさっと戻すも、拓を全然知らない人が見れば威圧感さえ覚えそうな、いつものように淡々とした顔のままだ。
「……いま笑った?」
「さあ」
「さあ? さあって何」
「別に。っていうか、お前元気まだまだありそうだな? じゃあもう少し味わわせろよ」
「げ、元気ないから……! あーマジ元気ない、すごく元気ない」
拓の言葉に、結弦は青ざめながら手をぶんぶんと顔の前で振った。すると今度こそ間違いなく拓の口元が少し震えて軽く吹き出す音が聞こえてきた。
最近ますますアルバイト終わりに拓の家へ連れ込まれ、味わわれている気がしている。今日も拉致されるかのごとくアルバイトを終えた職場から連れ出され、拓の家でさんざん味わわれた後、結弦は息も絶え絶えにようやくそう告げた。前から言ってやろう言ってやろうと思っていたのだが、気力やらタイミングやら気力やら気力やらでなかなか言えなかった。
言う前にこいつに食われて、何かぐだぐだになるし。って別に気持ちよすぎてぼーっとなるとかじゃないから。
内心自分へ突っ込んだ後、結弦はもう一度「よくないか?」と繰り返した。
「何で」
ようやく言えたというのに、どうでもよさげに返される。
「何でって」
「別にお前をマジで食べるわけじゃないんだし、減らないんだからいいだろ」
「へ、減ってる! 俺の何か大事なものが減ってる気がするし、少なくとも元気とか何かそういうのは確実に減ってる!」
「そうか?」
やはりどうでもよさそうな様子に見え、結弦はじろりと拓を見上げた。
「だいたいケーキ味わわなくても普通の食い物で栄養も飢えも満たせんだろ、フォークって。そう習ったぞ」
「まあ、そうだけど。じゃあお前なら全く味のしないゴムのようなものを、栄養あるからとかとりあえず腹は満たせるからと日々口に入れるだけで満足できんのか」
「ぅ」
そう言われると困る。できる、などと嘘はつけないし、かといって「無理だし仕方ないな」と言えばさらに拓からいいように味わわれてしまいそうだ。
「ち、ちなみにケーキからも飢えや栄養って満たせんのか?」
そして慌てて話をそらしたつもりが、わりと墓穴になる。よくあることだ。
「……まあ、な。でもちょっと舐めたくらいじゃたいして満たせないけどな」
それってもっと深く食えば満たせるって意味かよ……っ?
「えーっと、えっと、そ、そういや俺も腹減ったし、か、帰るわ」
「……ほんとお前って」
「な、んだよ」
「いや? 腹減ったなら、何か食ってくか?」
とりあえずさらに話をそらそうとして言っただけではあったが、口にしてみると実際本当に減っていたようだ。何か返事する前に腹がそこそこ大きく鳴った。
「ふは」
「……笑うな。何かって、何かあんの?」
「んーとりあえず今あんのはガトーショコラとチョコフィナンシェとカカオテリーヌとチョコのギモーヴと……」
「いや何それ見事にチョコまみれすぎんか……! お前、甘いの得意じゃなかったって言ってなかったか?」
結弦は別に甘いものは大好きでも大嫌いでもないが、そこまでチョコレートだらけだとさすがに少々引く。というか普通におかず系はないのかと思ってしまう。
「得意じゃなかったよ。でもどのみち今は何食っても味しねーし」
「……あー。いや、だからといって何で……」
「そりゃ、お前の味って何かほんのりチョコ思い出すし、だからこういうチョコタイプの何か食ったらお前の味再現できるんかなとか。まあ、見事に味わからないけどな」
「は?」
何それ。それもう、むしろ俺のこと好きなのでは?
思わずそう思ってしまう程度には「俺の味求めすぎだろ」と感じられた。
「? 何かお前、顔赤くないか?」
「べ、別に赤くないし。っていうかもしそうだとしても、チョコじゃ栄養とれないだろ……太るだけでは?」
「どのみちどれも味しねーからそんな食ってないし、体は基本鍛えてるから太る心配はないぞ、安心しろ」
「いや、何で俺が心配したり安心しなきゃなんだよ……!」
「さっきからいやいやうるさいな。で、チョコのやつ、食うのか? 食わないのか?」
「食べるけど……! お前、ちゃんと飯食ってんのか?」
別に太ろうがやせ細ろうが鍛えようがどうでもいいけどあれだ、せっかくこうして味わわせてやってるのに体調悪くされたら、それこそ後味悪いからな。
うんうん結弦が頷いていると、拓は「何で頷いてんだ?」と怪訝そうにした後「まあ、一応はな」と近くにあるらしいコンビニエンスストアの袋を指さした。
「見事にコンビニ飯ばっかだろ……!」
思わず即突っ込んでしまったが、拓はといえば「それが何か?」といった顔で結弦を見てくる。
「……自分で作ったりしないのか?」
「お前はするのか?」
「俺はだって自宅、だし」
親元でも自炊する人はするのだろう。人に言っておきながら、これでは五十歩百歩だ。
……そんなことない、んじゃないか? だって俺は母親がしてくれるから別にしなくてもご飯にありつけるからで、一人暮らししたら多分……。
まあ、多分、しないだろう。
普段の自分を省みて、結弦はさりげに拓から目をそらした。すると拓のほうから吹き出す声が聞こえてきた気がする。だがそらした顔をさっと戻すも、拓を全然知らない人が見れば威圧感さえ覚えそうな、いつものように淡々とした顔のままだ。
「……いま笑った?」
「さあ」
「さあ? さあって何」
「別に。っていうか、お前元気まだまだありそうだな? じゃあもう少し味わわせろよ」
「げ、元気ないから……! あーマジ元気ない、すごく元気ない」
拓の言葉に、結弦は青ざめながら手をぶんぶんと顔の前で振った。すると今度こそ間違いなく拓の口元が少し震えて軽く吹き出す音が聞こえてきた。
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