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拓と会うのはアルバイトの時だけだ。他で会うことは今までなかったし、多分これからもない。
だが拓がフォークだと知り、ついでに自分がケーキだと自覚してからは、アルバイトの後に拓の家へ行くことが増えた。
俺はできれば行きたくないけどな……! でもばらされたら困るし、それに味、わかんないのはやっぱかわいそうだし……。
結弦の家でなく拓の家なのは、拓が一人暮らしだからだ。一人暮らしであるフォークの家など危険でしかないかもしれないが、結弦の家よりましだと結弦は判断した。実家暮らしだけに、味わわれるところを家族に知られる危険がないとは言えない。わずかだろうが、その危険を思えば致し方ない。
あんな風に味わわれるとこなんて……そんなの居たたまれなさ過ぎるだろ……見られても聞かれてもたまるか。
キスされるだけでなく、耳から首、肩とさんざん舐められたり食まれたりするのだ。何があっても知られたくない。
幸い最初の時以来そうやってせいぜい肩くらいまでを味わわれるだけで済んでいる。何より下は死守できている。また一応、味わわせるものの服は脱がすなと拓には釘を指していた。
「は? 何で」
「何でもクソもあるか。別に脱がなくても味わえるだろ……!」
「……部位によって味が違う」
「部位、言うな……! だいたい脱がせてどこ味わう気だよ」
「そりゃ胸とか腹とかへそとか……」
「ストップ。聞きたくない」
「お前がどこ、って言ったんだろ」
「やっぱ聞きたくなかった。あとまだ続きそうすぎて、絶対聞きたくないこと言われそうだったから」
「絶対聞きたくないことって?」
「いいか、聞きたくないイコール、言いたくもない」
へそより下にあるものなんて限られすぎている。
「まぁ、いいけどさ。でもちょっと舐めるだけでやべえのに、これ最後まで食ったらどうなんだろな」
「思っても口にするな。いや、思うのも禁止!」
何て恐ろしいことを言うのかと、結弦は顔を青ざめながら拓を見た。
学校で習った時も、ケーキはそれぞれ味が違うと聞いてはいた。その後にケーキがそれぞれ違うのか、フォークのケーキに対する味覚が違うのかという実験をした話もたまたま雑誌で読んだ。
結果としては両方だったように思う。同じケーキをそれぞれ別のフォークが味わった場合も異なる味を感じたらしいし、違うケーキを同じフォークが味わった場合も異なる味を感じた、とあったように結弦は記憶している。
だが、部位によって違うとは聞いたことない。
そんなこと、ある?
だが拓いわく「違う」らしい。
「気のせいじゃ」
「いや、気のせいじゃない。甘さや濃厚さがそれぞれ違う。そりゃチョコレートとかプリン、大福みたいに全く違う味とは言わないが、チョコレートとカフェモカくらいには違う。あと肌だけじゃなくて涙と唾液でも違うんだよな。それにあの時味わった血や精え……」
「待て待て待て……! 何か不穏な方向行ってる……! それも聞きたくないからな!」
何て恐ろしいことを言うのかと、結弦はまたもや思って顔を青ざめる。
「もう、この話は中止」
「いいけど……お前が言い出したんだろ」
「違うし」
「違わない」
「違う。お前が俺の服脱がそうとするからだろ」
「だって色々味わいたいだろ」
「たく、ない!」
「あー、わかったわかった」
本当にわかっているのか、拓はため息つきながら結弦をなだめるように後ろから抱き寄せ頭を撫でてくる。
「おい、タメなんだから子ども扱い……」
「ちょっともう黙って」
頭を撫でていた手を、拓は振り返ろうとした結弦の頬あたりに添えると、引き寄せキスしてきた。そのまま唇だけでなく口の中まで味わわれる。
文句を言おうにも抵抗しようにも、そのキスで結弦は一気に力が入らなくなった。それだけでなく、脳ミソまで溶けていきそうな気がする。
何でこいつ相手にそんな風になんの?
考えられるとしたら、拓がフォークで結弦がケーキだからだろうか。とはいえ、フォークはケーキに対して本能的にケーキの味を極上だと感じ抗えないらしいが、ケーキがフォークに対し何らかの理由で抗えなくなるとは聞いたことない。
単に拓の何というか、テクニックがいいからだろうか。そうだとしたら腹立たしさしかないが、可能性はゼロではない。
限りなくゼロに近いもう一つの案は、相性がいいとか結弦が拓に対して好意を持っているとかだが、改めて考えるとゼロに近いどころか絶対マイナス振り切っているはずだ。
そんなこと、あり得るわけないだろ。
可能性の考慮だとしても、多少よぎるだけで冗談じゃないと結弦はドン引きしながら思った。
「考えごととか、余裕だな?」
そしてじっと見てきた拓により、唇だけでなく他の部分もいつも以上に、さらに入念に味わわれる羽目になった。一通り味わわれると、結弦は下手すれば腰が抜けたようになり、立ち上がることもままならなくなる。今もそうだった。
「へろへろだな」
「誰のせいだと……クソ。何か足腰が肉じゃなくて綿になったみたいだ」
「そりゃ大変だ。泊まってくか?」
「絶対、嫌だ!」
ニヤリと言われ、結弦は棚につかまり足をガクガクさせて立ち上がろうとしながら大いに否定した。
だが拓がフォークだと知り、ついでに自分がケーキだと自覚してからは、アルバイトの後に拓の家へ行くことが増えた。
俺はできれば行きたくないけどな……! でもばらされたら困るし、それに味、わかんないのはやっぱかわいそうだし……。
結弦の家でなく拓の家なのは、拓が一人暮らしだからだ。一人暮らしであるフォークの家など危険でしかないかもしれないが、結弦の家よりましだと結弦は判断した。実家暮らしだけに、味わわれるところを家族に知られる危険がないとは言えない。わずかだろうが、その危険を思えば致し方ない。
あんな風に味わわれるとこなんて……そんなの居たたまれなさ過ぎるだろ……見られても聞かれてもたまるか。
キスされるだけでなく、耳から首、肩とさんざん舐められたり食まれたりするのだ。何があっても知られたくない。
幸い最初の時以来そうやってせいぜい肩くらいまでを味わわれるだけで済んでいる。何より下は死守できている。また一応、味わわせるものの服は脱がすなと拓には釘を指していた。
「は? 何で」
「何でもクソもあるか。別に脱がなくても味わえるだろ……!」
「……部位によって味が違う」
「部位、言うな……! だいたい脱がせてどこ味わう気だよ」
「そりゃ胸とか腹とかへそとか……」
「ストップ。聞きたくない」
「お前がどこ、って言ったんだろ」
「やっぱ聞きたくなかった。あとまだ続きそうすぎて、絶対聞きたくないこと言われそうだったから」
「絶対聞きたくないことって?」
「いいか、聞きたくないイコール、言いたくもない」
へそより下にあるものなんて限られすぎている。
「まぁ、いいけどさ。でもちょっと舐めるだけでやべえのに、これ最後まで食ったらどうなんだろな」
「思っても口にするな。いや、思うのも禁止!」
何て恐ろしいことを言うのかと、結弦は顔を青ざめながら拓を見た。
学校で習った時も、ケーキはそれぞれ味が違うと聞いてはいた。その後にケーキがそれぞれ違うのか、フォークのケーキに対する味覚が違うのかという実験をした話もたまたま雑誌で読んだ。
結果としては両方だったように思う。同じケーキをそれぞれ別のフォークが味わった場合も異なる味を感じたらしいし、違うケーキを同じフォークが味わった場合も異なる味を感じた、とあったように結弦は記憶している。
だが、部位によって違うとは聞いたことない。
そんなこと、ある?
だが拓いわく「違う」らしい。
「気のせいじゃ」
「いや、気のせいじゃない。甘さや濃厚さがそれぞれ違う。そりゃチョコレートとかプリン、大福みたいに全く違う味とは言わないが、チョコレートとカフェモカくらいには違う。あと肌だけじゃなくて涙と唾液でも違うんだよな。それにあの時味わった血や精え……」
「待て待て待て……! 何か不穏な方向行ってる……! それも聞きたくないからな!」
何て恐ろしいことを言うのかと、結弦はまたもや思って顔を青ざめる。
「もう、この話は中止」
「いいけど……お前が言い出したんだろ」
「違うし」
「違わない」
「違う。お前が俺の服脱がそうとするからだろ」
「だって色々味わいたいだろ」
「たく、ない!」
「あー、わかったわかった」
本当にわかっているのか、拓はため息つきながら結弦をなだめるように後ろから抱き寄せ頭を撫でてくる。
「おい、タメなんだから子ども扱い……」
「ちょっともう黙って」
頭を撫でていた手を、拓は振り返ろうとした結弦の頬あたりに添えると、引き寄せキスしてきた。そのまま唇だけでなく口の中まで味わわれる。
文句を言おうにも抵抗しようにも、そのキスで結弦は一気に力が入らなくなった。それだけでなく、脳ミソまで溶けていきそうな気がする。
何でこいつ相手にそんな風になんの?
考えられるとしたら、拓がフォークで結弦がケーキだからだろうか。とはいえ、フォークはケーキに対して本能的にケーキの味を極上だと感じ抗えないらしいが、ケーキがフォークに対し何らかの理由で抗えなくなるとは聞いたことない。
単に拓の何というか、テクニックがいいからだろうか。そうだとしたら腹立たしさしかないが、可能性はゼロではない。
限りなくゼロに近いもう一つの案は、相性がいいとか結弦が拓に対して好意を持っているとかだが、改めて考えるとゼロに近いどころか絶対マイナス振り切っているはずだ。
そんなこと、あり得るわけないだろ。
可能性の考慮だとしても、多少よぎるだけで冗談じゃないと結弦はドン引きしながら思った。
「考えごととか、余裕だな?」
そしてじっと見てきた拓により、唇だけでなく他の部分もいつも以上に、さらに入念に味わわれる羽目になった。一通り味わわれると、結弦は下手すれば腰が抜けたようになり、立ち上がることもままならなくなる。今もそうだった。
「へろへろだな」
「誰のせいだと……クソ。何か足腰が肉じゃなくて綿になったみたいだ」
「そりゃ大変だ。泊まってくか?」
「絶対、嫌だ!」
ニヤリと言われ、結弦は棚につかまり足をガクガクさせて立ち上がろうとしながら大いに否定した。
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