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フォークの人が味覚を失ってからは、何を食べても飲んでも味を感じられなくなる。ただしケーキの人に対してだけ、味を感じる。
中学や高校の保健体育で結弦はそう習った。テレビでもたまにそれらの性別について取り上げられていると、同じことを言っている。
ケーキにだけ、味を、感じる。
「お前の傷ついた手のひらから。お前の血から。甘くておいしそうな匂いが」
「俺、以前は甘いもの苦手だったのにな。お前の甘さは最高にやばい……」
待って……どういう、こと……。
ただでさえ処理能力は追いついていない。アルコールのせいであり、酔ったせいであり、不意に我に返ったせいであり、そして拓がフォークだと言ってきたせいだ。
混乱しかしていない。そのわりにまだ頭は動いているほうかもしれない。
むしろ我に返ることなく、もっと酔ったままのほうがよかったかも……。
そうすれば少なくともそこに気づかなかったかもしれない。なぜフォークらしい拓が、結弦を甘く感じるのかに。
「な、んで」
「はぁ……。俺、味覚失ってから初めてこんなにも食べたいって思えた。だからちょっと抑えられそうにない。話とかは悪い、後に」
「え。でも……っぅん」
結弦が何か言う前に、また拓の唇がふさいできた。キスなんてものじゃない。キスなどしたことないので断言できないが、これはキスというよりまるで捕食だ。唇や口内を余すことなく味わわれている。唾液一滴すら逃さないという勢いで食べられている。
息、できな、い……。
合間に何とか吸い込もうとしてもまたすぐにふさがれる。ただでさえアルコールでまだ麻痺している脳は酸欠でネクローシスになりそうだ。
だというのに気持ちいい。脳がしびれてバグでも起こしているのだろうか。
「もっと……もっと味わいたい」
熱い吐息の後に囁くと、拓は結弦の舌をやわやわとではあるが噛んできた。そして吸いつかれる。
無理。無理。待って、もしかして俺、本気で食われんの? 唾液どころか、俺の肉、食べられるの? フォークの犯罪って、たまにあったんじゃなかった、っけ? 内容どうだっけ? 食われたって事件、なかった? え、思い出せないんだけど……待って、どうなの? 俺、食われんの? 無理、無理……怖い。怖い。
背中がまたぞくぞくした。本当に怖いと思っている。だがそれとともに結弦の腹の奥が締めつけられるような、何か食い込むような感覚もする。
「は、は。腰、揺れてる。気持ち、いいのか?」
「違……っ」
違う。断じて違う。
男に、それもフォークによってキスされ、舐められ、噛まれ、吸いつかれている。そのまま食われるかもしれないのだ。気持ちいいわけない。
「体中からいい匂いしてきた。たまんないな」
相変わらず口内を味わわれながら、自分の服が乱されるのを感じる。拓の唇が乱された服の間から結弦の体に這わされ、舐められる。
体がびくりと勝手に動くのは、気持ちいいからではなく、怖いからだ。そうでないとおかしい。現に今も怖い。
「ぁ……」
「心臓の音、やばいな佐野。怖いか?」
拓に聞かれ、結弦はコクコク頷いた。だが目を細めて微笑んだだけで、拓はやめてくれない。
「硬くなってんのな。味わわせてもらってる分、抜いてやる」
しかも結弦は自分の下肢に手が触れられるのを感じた。
「ち、が……いらな、やめ……」
違う。だが違わない。そこは間違いなく硬くなっている。
「や、だ……、やめ」
スボンも緩められ、下着からの締めつけがなくなり、一気に解放感を覚えた。だがそれもつかの間、それはぎゅっとつかまれる。その手に揉みこまれ、ゆるゆる動かされ、あっという間にそこから水音が聞こえてきた。
「すごく、いい匂いする。甘くてとろけそう」
「三坂、く……、やめっ」
ぬるぬる動く手がだんだん激しく上下してきた。その間も相変わらず口の中や体のあちこちを味わわれ続けていて、結弦のキャパシティはすでに限界だった。あと呼吸に関しても限界かもしれない。
「っし、ぬ……っ」
射精するのに全く伴わない言葉を吐きながら、結弦はどれだけ溜め込んでいたのかと思われそうなほど激しく精液が飛び散るのを感じた。
「ぁ、は……」
「何これ。クソ、何でこんなに……」
一気に脱力感に襲われていると、拓が小さく悪態つきながら、結弦によって濡れた自分の手をベロリと舐めている。そんな様子に引くどころか、なぜかみぞおち辺りがもぞもぞした。
というか全力疾走した時のように息が荒い。脱力感がますます半端ない。だが拓が少し離れてくれたからか、恐怖心は少し薄れたような気はする。決して出したからではない。
「……味わってる最中もだけど、お前イく瞬間匂いがますます強くなった……」
解説やめろ。
拓に引きながら、実際でもじりじり引き、さらに拓から距離を取ろうと図る。まだ酔っている気はするが、動けないほどではない。多分。
「どうしたんだ? まるで警戒してるモルモットみたいだぞ」
「モルモットじゃないけどまさにその通りだよ……! 警戒するだろが……俺、マジで食われるとこだったんだろ、警戒くらいするだろが!」
「……ほんとに食わねえよ」
少し涙目になりながら言えば、拓が困惑した様子を見せてきた。だが「本当に?」と聞く前に「多分?」とつけ加えられる。
「って今度は必死に威嚇する猫みたいになってる」
「なるだろうがそんなもん……!」
本当に「シャーッ」とでも言いたくなるくらい、結弦は怖さも忘れて拓を思い切り睨みつけた。
中学や高校の保健体育で結弦はそう習った。テレビでもたまにそれらの性別について取り上げられていると、同じことを言っている。
ケーキにだけ、味を、感じる。
「お前の傷ついた手のひらから。お前の血から。甘くておいしそうな匂いが」
「俺、以前は甘いもの苦手だったのにな。お前の甘さは最高にやばい……」
待って……どういう、こと……。
ただでさえ処理能力は追いついていない。アルコールのせいであり、酔ったせいであり、不意に我に返ったせいであり、そして拓がフォークだと言ってきたせいだ。
混乱しかしていない。そのわりにまだ頭は動いているほうかもしれない。
むしろ我に返ることなく、もっと酔ったままのほうがよかったかも……。
そうすれば少なくともそこに気づかなかったかもしれない。なぜフォークらしい拓が、結弦を甘く感じるのかに。
「な、んで」
「はぁ……。俺、味覚失ってから初めてこんなにも食べたいって思えた。だからちょっと抑えられそうにない。話とかは悪い、後に」
「え。でも……っぅん」
結弦が何か言う前に、また拓の唇がふさいできた。キスなんてものじゃない。キスなどしたことないので断言できないが、これはキスというよりまるで捕食だ。唇や口内を余すことなく味わわれている。唾液一滴すら逃さないという勢いで食べられている。
息、できな、い……。
合間に何とか吸い込もうとしてもまたすぐにふさがれる。ただでさえアルコールでまだ麻痺している脳は酸欠でネクローシスになりそうだ。
だというのに気持ちいい。脳がしびれてバグでも起こしているのだろうか。
「もっと……もっと味わいたい」
熱い吐息の後に囁くと、拓は結弦の舌をやわやわとではあるが噛んできた。そして吸いつかれる。
無理。無理。待って、もしかして俺、本気で食われんの? 唾液どころか、俺の肉、食べられるの? フォークの犯罪って、たまにあったんじゃなかった、っけ? 内容どうだっけ? 食われたって事件、なかった? え、思い出せないんだけど……待って、どうなの? 俺、食われんの? 無理、無理……怖い。怖い。
背中がまたぞくぞくした。本当に怖いと思っている。だがそれとともに結弦の腹の奥が締めつけられるような、何か食い込むような感覚もする。
「は、は。腰、揺れてる。気持ち、いいのか?」
「違……っ」
違う。断じて違う。
男に、それもフォークによってキスされ、舐められ、噛まれ、吸いつかれている。そのまま食われるかもしれないのだ。気持ちいいわけない。
「体中からいい匂いしてきた。たまんないな」
相変わらず口内を味わわれながら、自分の服が乱されるのを感じる。拓の唇が乱された服の間から結弦の体に這わされ、舐められる。
体がびくりと勝手に動くのは、気持ちいいからではなく、怖いからだ。そうでないとおかしい。現に今も怖い。
「ぁ……」
「心臓の音、やばいな佐野。怖いか?」
拓に聞かれ、結弦はコクコク頷いた。だが目を細めて微笑んだだけで、拓はやめてくれない。
「硬くなってんのな。味わわせてもらってる分、抜いてやる」
しかも結弦は自分の下肢に手が触れられるのを感じた。
「ち、が……いらな、やめ……」
違う。だが違わない。そこは間違いなく硬くなっている。
「や、だ……、やめ」
スボンも緩められ、下着からの締めつけがなくなり、一気に解放感を覚えた。だがそれもつかの間、それはぎゅっとつかまれる。その手に揉みこまれ、ゆるゆる動かされ、あっという間にそこから水音が聞こえてきた。
「すごく、いい匂いする。甘くてとろけそう」
「三坂、く……、やめっ」
ぬるぬる動く手がだんだん激しく上下してきた。その間も相変わらず口の中や体のあちこちを味わわれ続けていて、結弦のキャパシティはすでに限界だった。あと呼吸に関しても限界かもしれない。
「っし、ぬ……っ」
射精するのに全く伴わない言葉を吐きながら、結弦はどれだけ溜め込んでいたのかと思われそうなほど激しく精液が飛び散るのを感じた。
「ぁ、は……」
「何これ。クソ、何でこんなに……」
一気に脱力感に襲われていると、拓が小さく悪態つきながら、結弦によって濡れた自分の手をベロリと舐めている。そんな様子に引くどころか、なぜかみぞおち辺りがもぞもぞした。
というか全力疾走した時のように息が荒い。脱力感がますます半端ない。だが拓が少し離れてくれたからか、恐怖心は少し薄れたような気はする。決して出したからではない。
「……味わってる最中もだけど、お前イく瞬間匂いがますます強くなった……」
解説やめろ。
拓に引きながら、実際でもじりじり引き、さらに拓から距離を取ろうと図る。まだ酔っている気はするが、動けないほどではない。多分。
「どうしたんだ? まるで警戒してるモルモットみたいだぞ」
「モルモットじゃないけどまさにその通りだよ……! 警戒するだろが……俺、マジで食われるとこだったんだろ、警戒くらいするだろが!」
「……ほんとに食わねえよ」
少し涙目になりながら言えば、拓が困惑した様子を見せてきた。だが「本当に?」と聞く前に「多分?」とつけ加えられる。
「って今度は必死に威嚇する猫みたいになってる」
「なるだろうがそんなもん……!」
本当に「シャーッ」とでも言いたくなるくらい、結弦は怖さも忘れて拓を思い切り睨みつけた。
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