月と太陽

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45話(終)

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 翌朝、目が覚めて目の前に日陽がいる光景に那月は微笑んだ。眠っている日陽を見つめていると嬉しさと愛しさに胸が痛くなるほどだった。
 やっぱりずっとこうして一緒にいられたらいいのに、と明るい監禁への道に思いを馳せ、そっと楽しんだが苦しくはなかった。

「……何でじっと見てんの」

 いつの間にか日陽も目が覚めていたようで、まだ少し眠そうな、でも微妙な顔で那月を見ている。

「日陽がかわいいから。あとやっぱり監禁したいなあって思ってた」
「朝からこってりだな……」
「うん。おはよう、日陽」
「おはよ」

 挨拶しながら軽くキスする。那月が「監禁」と言っても日陽は微妙な顔をしつつサラリと流してきた。普通だったらもちろん冗談だと流されるようなことだろうけれども、那月があんな風になったのを目の当たりにし、その後に「監禁したいほどの独占欲」をはっきりと告げているというのに流してくれた。
 だからこそささやかなことがささやかじゃなくて、そして嬉しい。さらにキスを続けているとムラムラしてくる。

「おい……朝から盛ってくんな」
「んーでもお泊りの醍醐味でしょ」
「は? 醍醐味そこじゃないだろ……、っちょ、キツいから、体! あーもうっ」

 体がキツイと言う日陽を労わる気持ちはもの凄くあるのに、結局日陽が欲しい欲に勝てなかった。明らかに自分勝手でワガママだとわかっているが、日陽がこれくらいのワガママなら受け入れてくれることも今ではわかっている。

「……お前性格悪い」
「いまさらだよ」

 終わった後、疲れ切った様子で呟いてくる日陽に、那月はニコニコとキスする。

「まあ、いいけどな。俺、お前に求められるの、正直なところ好きだ。何か、嬉しいし気持ちいい」
「……セックス終わったところで煽ってくんのやめて」
「今のをどうとったら煽ってんだよ。お前こそいちいち、ちょっとしたことで硬くすんのやめろよ……」

 結局もう一回して、今度こそ日陽は息も絶え絶えだったし、さすがに那月もふらふらになりそうだった。

「朝から四百メートル走を二回全力疾走した気がする」
「バカ那月……俺は拷問すら受けた気がするからな……」
「日陽、そんなエロい掠れた声出さないで、俺死ぬから」
「本当に一度死んどけよ……!」

 しばらく二人で何もしないまま横になった後、ようやく那月は起き上がりブランチを作るため部屋を出た。
一緒に作る、と言った日陽はまるで生まれたての小鹿のようにガクガクしていたのでそのまま横になっている。ガクガクしている様子を二人で笑った後に日陽は微妙な顔になり「ほぼお前のせいなのにお前は笑うな」と言ってきて、また笑った。
 腹は減っているが、もし日陽が復活しそうなら後で一緒に外で食べようと思い、那月は簡単なものを作る。材料なら昨日、日陽が来ることになった後で一緒に買い物をしているので何とかなる。ハンバーグ以外は何を作ると明確に決めてなかったので適当に買っていた。まさか泊まるとまでは思ってなかった。
 アボカドを半分に切り、種と実をくり抜いてとろけるチーズと卵を入れ、オーブントースターで焼く。その間にくり抜いたアボカドの実と缶詰のツナとみじん切りにした玉ねぎを混ぜてバゲットに乗せた。

「俺がオムライス作られるようになる前にお前はどんだけ色んなもの作ってくるんだ」

 できたら那月の部屋へ持っていくと言っていたのに、途中で日陽がふらふらとやってきてそんなことを言ってくる。

「オムライスは難しいよ、卵料理って難しいから」
「でもこれも卵入ってるだろ」
「これは卵の火加減関係ないし。ねえ、これだけだとすぐに腹減るでしょ。食べた後で日陽の体の具合悪くなさそうなら外へ出かけよ。そんで外で食べよう」

 外へ出かけようと那月が言うと、日陽は嬉しそうに笑って頷いてきた。

「おう。多分もうちょいしたらいけると思う。俺だってちゃんと部活頑張ってるし体、鍛えてんだからな。セックスくらいでへばってたまるかよ」

 ああ、やっぱり監禁、したいな。

 爽やかにそう思いつつ、今度学校の長期休みが来たら数日だけでも監禁ごっこにつき合ってもらおうかと密かに企んだ。
 日陽の明るさが自分まで明るくしてくれる。夜、日陽が家へ帰って一人になっても那月はまだ幸せだった。日陽と沢山絡み合ったベッドへ横になり「ツキくん」をつかんでじっと見ながらもひとりでに顔が綻んでくる。
 きっと日陽は太陽だと那月は思う。そして自分は太陽の恵みをいっぱいに受けた地球だ、と言いたいところだったが、違うなと苦笑した。どちらかというと地球は少し違うが智充だろう。那月は忌々しいと舌打ちをしながら思い、そしてツキくんの首元にある三日月らしき柄を見る。
 自分は日陽が太陽なら月だ。陰と陽みたいに対極にあるもの。でも表裏一体だ。そう思うと嬉しくなった。
 ただ、月は自分自身では輝けない。太陽の光によって丸く輝いたり影ができたりする。太陽がないと存在できないかのようでもあるが、それでも月そのものもちゃんと力を持っている。
 だから日陽に頼ってばかりではなく、ちゃんと日陽にも頼られる存在になれたらいいなと思った。
 表裏一体であり、別々のもの。自分と日陽が同じものでなく、別のものでよかったと思う。別だから愛し合える。

「つっきー!」

 最近はよくあることだが気づくと智充が絡んでくる。その日も那月は隠すことなく面倒くさいといった表情で軽く舌打ちをした。日陽が微妙な顔になり、智充は大袈裟にショックを受けたような顔になる。ここまではいつものことだったが「あ、そうだ!」と智充が何か思い出したように那月を手招きしてきた。

「つっきー、ちょっと来い」
「何だよ」
「いいから! あ、日陽は来るなよー?」
「は? 何でだよ」

 日陽が不審そうな眼差しで智充を見ているが、構わず智充は那月を引っ張り廊下に連れ出してきた。

「何なんだよ」
「まーまー。ほら、これ。これでどうだ!」

 不機嫌さを隠すことない那月を宥めるように笑いながら、智充は目の前に一枚の写真を差し出してきた。

「何……、……っ!」

 面倒くさいといった風に那月は写真を見る。そして見た途端、目を見開いた。
 そこには三歳くらいの日陽が写っていた。凄くかわいく笑っている。とてつもなくかわいい日陽がそこにいた。

「これ、どう思う?」
「欲しい」
「なあ、那月。わかるか? 俺が日陽の幼馴染だからこそ、手に入るものだぞ。どうだよ!」

 とてつもなく得意げな顔して、智充は焦らすことなく写真を那月にくれる。

「智充最高」
「だろぉぉぉ? 他にもまだあるんだぜ。今度見せてやるからうちへ来いよ」

 急に機嫌よくなった那月に嬉しくなったのか、智充も嬉しそうにしながらもう一枚、日陽の写真を出してきてそれもくれた。
 それは五歳くらいだろうか。それも満面の笑みでこちらを見ている日陽だった。
 日陽の小さい頃の写真は一応日陽にも見せてもらったことあるが、舐めるように見ようとしたらすぐに片づけられたし、一枚欲しいと言ってもくれなかった。
 とてつもなく特別なものを見て、手にしたことに那月は嬉しくなり、顔が熱くなってきた。ほくほくしながら生徒手帳の間にとりあえず智充がくれた写真を入れる。
 戻った後もまだ嬉しそうな顔のままだったのかもしれない。日陽が怪訝そうな顔で「どうしたんだよ。何あったんだ」と聞いてくる。

「何でもねえよ! な! つっきー」
「何でもない」
「だよなー! あーつっきーの機嫌がよくなって俺は嬉しいぞ!」

 智充が嬉しそうに騒ぐし、那月もすごく嬉しかったのでニコニコ席へ座った。

「……。俺、智充に凄いヤキモチやきそう。つか智充、ムカつくわお前」
「ええっ? ちょ、待って何それ! 那月懐柔したら今度は日陽なのかよ!」

 智充が焦り出す。ムッとしている日陽はだが本気というわけではなさそうで、でもそう言ってくれる日陽がまた嬉しくて、那月はさらに幸せな気持ちになった。
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