月と太陽

Guidepost

文字の大きさ
上 下
40 / 45

40話

しおりを挟む
 日陽から連絡が来ていて、那月はいそいそと帰る準備をした。

「最近何か楽しそうだな」

 翼が微妙な顔しながら言ってくる。

「楽しいしね」
「……くそ、彼女か?」
「まぁ、そんな感じ」

 実際嬉しいのでニコニコ翼を見ると、もの凄く羨ましそうな顔された。

「何か羨ましそうだけど」
「はっきり言ってくんなよ。ああそうだよ! 羨ましいに決まってんだろ」
「でも夏川ってモテんのに」
「そんなの俺が知るかよ。モテた記憶ねーよ。つかモテようがモテまいが、誰でもいいわけでもねーし」

 それはわかる、と那月も思った。好意を示してくれる相手がいたとしても、それが日陽じゃないなら意味ない。

「うん」

 那月が頷くと、むくれていた翼がじっと那月を見てきた。

「相手って黒江から告ったの? それとも告られた?」
「俺が好きって言ったかな」
「……すげーな。勇気あんな」

 勇気って。

 那月は内心苦笑した。だが翼は嫌味でもなんでもなく、本当に凄いといった風に那月を見てくる。多分翼が「好きだ」とか「つき合って欲しい」と言えば、那月や翼のように自分がそもそも相手を好きじゃないと無理とか実は異性は無理といった女子ではない限り、かなりの確率で成功しそうな気がする。少なくとも言われた相手は嬉しいと思う気がする。奥手過ぎてそういうこと言われると本気で困るなんて女子を、那月は今のところ見かけた記憶がない。

「夏川が言えば多分大抵の子は嬉しいと思うけど」
「……思わねーで困るヤツもいる。……ああ、で、さ。言われた相手ってどんな反応だったんだ? やっぱ喜んでたんか?」

 どこか落ち込んだ風にも見えたが、ハッとなったように翼はニヤリと那月に笑いかけてきた。

「……うーん? 怒られた気がする」
「は? 何で」
「うーんと……俺が勝手にダメだと決めつけて、なかったことにしたりだったから、かな」
「? 何かよくわかんねーけど、結局向こうも好きだったってやつか?」
「うん、ありがたいことに」

 本当にありがたいことに。

 勇気出して告白した時の日陽は男前だった。那月に対して怒りながらも「あの出来事のせいで、お前のこと、好きになった」と言って日陽からキスしてくれた。あの後那月は調子に乗って「したい」と言えば「するしかないだろ?」と笑ってくれた。
 今の那月の状態も、言えばやはり温かい笑顔で「バカだなあ」と抱きしめてくれるのだろう。わかっているが、あまりに自分が男として情けなさ過ぎて言えない。今までの「日陽に嫌われるのが怖いから言えない」とは違う。自分のヘタレ具合が恥ずかしくて言えない。これは男ならきっと誰だってそう思うことがあるタイプのものだとは思う。

「自分が好きで、相手も自分を好いてくれてたってさ、何かこう、奇跡だよな」

 ありがたいことにと那月が言った後、翼がしみじみした顔で言ってきた。先ほどの様子といい、もしかして翼も人に言いづらいような恋でもしているのだろうかと那月は少し思った。

 奇跡、か。

「そうだね。でもその奇跡も言ったり態度に出さないと生まれないとは思うよ」

 丸ごと自分に返ってくる言葉を那月は口にする。翼はどこか痛むような表情を一瞬した後「そうだな」と笑っていた。
 少し話してしまったので駆け足でコンビニエンスストアへ向かいながら、那月は自分で言った言葉を脳内で繰り返していた。何でも言えと両手を広げてくれている日陽に、今までと違いただ単に男のつまらないプライドのようなものだからと口にしないことに罪悪感を覚えてきた。

 あー、俺、ちっさいな。

 微妙な顔になりながらコンビニエンスストアへ入る。きょろきょろと見回せば日陽は入って右手すぐにある雑誌の立ち読みコーナーで立ち読みをしていた。

「ごめんな、待った?」
「そんな待ってない。あと、形のいい胸を拝ませてもらってた」

 見ると水着のグラビアアイドルが表紙になっている雑誌を持っている。

「日陽……お前結構人気あるんだしさ。誰か知り合いの女子とかに見られるよ?」
「別にエロ本じゃないんだし。つか俺のことで周り気にしてこないお前が何言ってんの」

 日陽はおかしそうに笑ってくる。また自己嫌悪をしながら走ってきた那月は、その笑顔に癒された。

「つかお前、走ってきた?」
「ああ、うん」
「にしてはそんな息乱れてねーな。陸上部も向いてんじゃないのか」
「そんなこと言って、俺が陸上興味ないの知ってるくせに。陸上部入ってたら『何で入ったんだ』って絶対言ってただろ」

 紙パックのジュースを那月は買った。その後二人で店を出て歩きながらそんな話をする。

「言わないよ別に」
「そうなの? じゃあ入ってればよかった。ジュース、飲む?」
「そんな健康そうなのいらない。入ってればって、何で」
「日陽がいるから」

 買ったジュースにストローをさし、二口程飲んだ後に当たり前だろうと即答すると赤い顔をされた。

「お前、ほんと前から俺が好きだったんだな」
「そう言ったよ。そんで昔からずっと密かにヤキモチや嫉妬し通しだった」
「あはは、お疲れ。あ、でもさっきは雑誌の子に嫉妬しなかったな。女の子はいいの?」
「俺別に女の子除外してるわけじゃないよ……。さすがにグラビアアイドルにまでいちいちやかないだけ。あとなんだろ、日陽が俺を受け入れてくれている側だからかなー。どうしても女子に対してより男子に対してのが警戒しちゃう、とか?」
「いやいやいや、やめろよ……まるで俺がお前以外の男相手だってできるみたいだろ……。しねーよ、他のヤツとかと……! 女の子とはさておき、ヤローとは無理」
「でも俺とつき合ってもないのにしたよね」
「それは那月だから!」

 那月だから、と当たり前のように言われて、那月は思わずストローを銜えたまま思い切り日陽をガン見した。

「めっちゃ見てくんの、やめろ」

 日陽はまた赤い顔をしながら顔を逸らしている。

「もしかして日陽も結構俺のこと、それなりに好きだった?」
「……今となったらわかんねーけど、……多分?」

 今なら空を飛ぶことすらできるかもしれないと那月は思いながらひたすらジュースを飲んだ。

「ところで、今からお前ん家、行っていい?」

 だが日陽にそう聞かれ、またストローを銜えたまま少し固まってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...