月と太陽

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39話

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 部活の最中に見かけた那月と別のクラスの女子に対して、別にそこまでモヤモヤとしたわけではない。日陽は微妙な顔になりながら思う。
 確かに気持ちのいいものではない。だが那月が日陽を本当に好いてくれているのはとてもわかっているのでそれが揺らぐことはない。ただ、今も思ったように気持ちのいいものではない。それは認める。
 そういえば、と日陽は思い出した。以前、部活中に智充と話していた時のことをだ。那月がひたすら昼休みになると日陽を連れ出しており、その話を智充に振ろうとした時に智充が笑いながら言ってきたことだ。

「あいつ、何だかんだで周りからワイワイ絡まれるタイプだもんなー」

 昼休み、と言った途端返ってきた言葉に日陽が怪訝な顔をしていると続けてきた。

「那月だろ? 休み時間でもよく女子だけじゃなくて男子にすら何かと絡まれてるだろ」
「まぁ……」
「でも那月ってわりと一人でいるのも好きそうじゃん」
「え」
「ん? まさに一人っ子ってタイプだよな、那月って。明るいヤツだけど一人も好きってやつだろ。だからせめて昼休みはお前相手にゆっくりぼんやりしたいとかなんだろ?」
「え、あ……ああ、うん、そう」

 あの時、智充の話を聞きながら日陽は戸惑っていた。智充に言われて、日陽も確かにそうだろうなと那月の性格を思った。そして、もしかして智充のほうが那月のことをよくわかっているのだろうかと思い、一瞬胸がチリッと痛んだ。
 あれは今思えば、智充に対して一瞬ヤキモチのようなものをやいたのかもしれない。自分が那月をわかってやれないのに、智充ならわかるのだろうかと思った。
 智充に対してヤキモチをやくなどと、理性で考えれば意味のないことだ。あの二人がくっつくはずない。那月がああいった風だというのもあるし、智充は絶対に日陽や那月に対して恋愛的な感情を抱かない。
 世の中「絶対」なんて言葉はないと聞く。もちろん今のも本当に絶対とは言い切れないのかもしれないが、せめて九十九パーセントは絶対だと言いたい。相手が男だからというのも否定できないが、それは「絶対」の中に含まれない。絶対だと言い切れるのは智充の性格にある。
 智充は結構惚れっぽい。今までも智充が付き合ったことのある相手は智充から好きになっていた。ただ、普段は「女の子が、女子が」と煩いが実際のところ向こうから好きになって告白してきたとしても断るか保留にしそうだ。惚れっぽいわりに根が真面目で誠実なのだと思う。その辺は日陽のほうがいい加減だ。もっと気軽につき合ってきたし、那月とのつき合う前にしたあの行為だって改めて軽すぎだろうと思う。
 そんな智充が今まで親しい友人だった相手を、ある日突然意識し出すことはない。意識するなら親しい友人になる前にしているだろう。智充としては友人としてよく知るようになったから、さらに親しい友人になるという感じがする。
 だから、男女云々抜きでも絶対に智充は日陽や那月に対してまず恋愛感情を抱かないと日陽は思っている。とても小さな頃からずっと一緒にいた相手だ。そういったことは智充が明け透けなのもあってよく知っている。
 よく知っているのに、なのにヤキモチやいた。抱いてしまった恋愛感情に関してはほんと絶対なんてなくて、言うことを聞かないなとは思う。そして馬鹿だ。
 日陽は自分の中にある感情に対して呆れ、呟いた。

「……智充のことよく知ってる俺でも那月が関わると思わずやくんだ。那月ならそりゃなおさらかもな」

 那月から見れば確かにいつだって日陽と智充は一緒にいるように見えるだろう。実際のところそこまでいつも一緒というわけではない。普段でも部活でも他の友人といることもある。そして那月と過ごすことも多い。
 だが何かあると確かに日陽は智充を引き合いに出したり頭に浮かべたりしているかもしれない。これは智充に対して特別な感情を抱いているからではなく、昔から兄弟のように思っていたからなのだが、那月からすれば嫌だろう。日陽も多分、那月が日陽より他の誰かばかりと話していたり思っていたら嫌だ。そういうのもあって、思いつめやすい那月はあんなに塞いでいたのだろうと日陽は改めて思った。
 とはいえ、じゃあ智充とは顔を合わせない、会わないといったことをするのは不自然だ。そんなやり方だとやはり続かない気がする。日陽にとっても那月は大事な存在だ。少しでも続かないような事柄は避けたい。全力で思い合った結果、どうしようもなくなってお互い納得の上で離れるとかならまだしも、つまらないことや些細なことで相手を思うことに疲れたり疲れられたりは嫌だ。
 那月が思っていることを出したり言うようになって円満なはずなのにこんなことを考えているのは、那月が女子と一緒にいたからではもちろん、ない。
 確かに気持ちのいいものではないけどさ。
 部活が終わり、那月のいるテニス部がそろそろ終わりそうな気がするのを確認しつつ友人と学校を出ながら日陽は小さくため息ついた。

「秋尾、何だよ今日の練習くらいで疲れたんかよ」

 一緒にいる友人に言われ「うるせー」とだけ返す。
 毎日ではない部活の帰りなので、大抵帰りはどこかへ寄る。皆金のない学生の身であるため、カラオケやファミリーレストランに行くのはしょっちゅうではない。大抵はコンビニエンスストアだ。
 今日も坂を下りながら途中にあるコンビニエンスストアへ立ち寄り、適当に欲しいものを物色しつつ買ったものを外で食べる。
 ここのオーナーは店の周りで食べることに対して怒らない。その代わり綺麗にしないと怒られるだけでなく「しばらく来るな」とさえ言われる。都会では考えられないアットホームさだが、そんなオーナーに対して文句が出たことはない。
 部活組ではない、進学校にしては珍しい派手なタイプの生徒であってもその辺はちゃんとしているし、日陽らもいつも食べた後はちゃんとゴミを分別して捨てている。
 今は分別するものは何もなかったので、そのまま日陽はゴミ箱へ袋などを捨てながら携帯で時間を確認した。那月に『部活終わったら教えて』と送る。

「はる、帰らねーの?」

 まだ残っている紙パックのジュースだけ持ったまま、智充が聞いてきた。

「あーちょっと」

日陽が言葉を濁していると、とてつもなく嫌な笑い方をしてきた。忌々しいとばかりに無言で睨むも楽しげだ。

「何だ、秋尾は帰らねーの?」
「用事あるってさ」
「マジかよー。まさか彼女とかじゃねーだろな」
「告白とかだったら邪魔したい」
「お前ら最悪の性格してるよなー。そんなんじゃねーって」
「何でそれを秋尾じゃなくてお前が否定してんだよ」

 そんな話しながら、智充たちは手を振って帰っていった。

 睨んで悪かった、智充。お前はいいやつだ。

 内心でうんうん頷いていると通知音がした。見れば『今終わった!』と返信がある。

『今コンビニで一人なんだけど、一緒に帰らないか?』
『帰る帰る! 待ってて、すぐ向かう!』

 速攻で返ってくる文面に日陽は微笑んだ。『了解』と打った後でまたため息ついた。
 那月が女子と一緒にいたから珍しく少々考えていたのではない。ただ、何というか浅ましいというか、何というか。

 ……でも俺も男だからな。

 自分で納得させるように、今度は実際うんうん頷いた。
 最近、那月はキス以外してこない。気のせいかと思っていたが、どうにも気のせいじゃないような気がする。あれだけ散々されてそれに困っていたというのに、いざ全くされなくなるとそれはそれで気になるのだ。
 那月の家へそれとなく行こうとしても逸らされる。日陽の家でもいいのだが、大抵誰かがいるのでやりにくさもあり、今までも一度那月が日陽のを抜いてきたくらいしか日陽の家では、ない。
 しまくられるのは困るが、恋人としてはできれば普通くらいの頻度では、したい。男なのでそれはどうしようもない。
 後は、また那月が考えなくていいようなことに黙って悩んでいる可能性もある。

 今日こそはその辺も含め、はっきりさせてやる。そんで週末エッチだ。

 日陽は妙な気合いを入れた。
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