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38話
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別に日陽が鈍いと思っているわけではない。ないが、それでも最近は日陽の家ばかり行っていることに気づかれるとは、那月はあえて考えていなかった。日陽ならそういうことをあまり気にしなさそうだと思っていたのだと思う。なので「俺ん家来るの多くなったよな?」と言われた時は少しドキリとした。
実際に那月の家へは、日陽に自分のドロドロとしたものを打ち明けてから呼んでいない。深い意味はない、と言いたいところだが、なくはない。
打ち明けてからの那月はとてもスッキリしている。もちろん、その後も日陽の周りにヤキモチをやいているが、それを燻らせて自分が焦げつきそうになるのではなく、外へ出せているのでとても換気がいい状態だった。
だからこそ家に来させたくないというのだろうか。自分には自信があると思っていたくせにと那月は自分を笑いたくなる。
自信がないのだ。自分の家へ来た日陽をまたおかしな風に独占したくならないだろうかと考えてしまい、少し怖い。
打ち明けた日から一度も日陽とセックスしていない。キスはしているが、それ以上するとまたどうしようもない自分が湧き起こるのではないかと怯えてしまう。
何でも言えと日陽は言った。そしてその言葉が嬉しくて、そんな日陽が大好きで那月の気持ちは救われたようなものだ。なのにこうしてまた言えずにいる。
悪循環というのだろうか。また違うだろうが、どうにも自分は馬鹿なのだろうなと那月はわかっている。
これもサラッと言えばいいのだろう。日陽もきっと笑ってくれる。だが言えない、というか言いたくない。あまりに自分が情けないのだ。
ドロドロしたものを勝手に抱えて怯え、日陽にまで迷惑をかけた。そしてそれを打ち明け楽にさせてもらったかと思えば今度はセックスが怖いなどと、言えるものかと思ってしまう。男としてあまりに情けない。というか、痛い。
もちろんセックス自体が怖いのではないし、勃起不全になったのでもない。正直なところ、毎日のように日陽はおかずになっている。毎日おかずにしたいくらい日陽が大好きだし、日陽としたくて堪らないとも思う。ただ、自分に自信がない。
「黒江くん、今度一緒に遊ぼうよ。何だったら明日は学校休みだし……」
「うん、今度皆で一緒にね」
そうじゃないという顔した女子にニッコリ笑った後で、那月はその場を離れる。声かけたり誘ってくれる女子に対して嫌いだとか鬱陶しいとは思わない半面、嬉しくもないし楽しくもない。
相変わらず那月は自分にとって不にも可にもならない相手にはそつない対応している。こればかりは培ってきたものなので無理しているとかではなく、ある意味とても楽な対応だったりする。その代わりその相手とは関係性を深めることもないが、全くもって気にならない。今の子も多分綺麗な顔していたのだろうが、すでにもう那月の中で顔はぼんやりしている。
そんなだから、もちろん別の相手とセックスしたいと思わない。日陽に対してひたすらしたいと思ったり、毎日のようにおかずにしているのは性的に足りていないのではない。ただひたすら日陽が足りないだけだ。ドロドロしたものを打ち明けてもこうして日陽を家へ呼べないのも、それこそセックス自体を怯えるのもそのせいだ。
ただひたすら日陽が足りない。こればかりは打ち明けても変わらない。だから自分に自信もない。ひたすら求めてしまいそうでしかない。
ほんと、情けないよねえ。
那月は内心呟いた。
「つっきー!」
歩いていると煩い声が聞こえた。途端、那月は微妙な顔になる。向こうから駆けてくる存在をそして軽やかに避けた。
「避けるなんてひどい!」
「日陽、部活は?」
酷いと嘘泣きしている智充を華麗にスルーして那月が聞くと、日陽は苦笑してきた。
「今休憩。那月はどうしたんだ、こんな正門までの通りで」
「俺も休憩してた」
「つか女子といただろ? つっきー隅に置けないなー」
「おい」
智充がニコニコ言う横で日陽が困ったような顔している。その顔が、女子に対してやいている顔なら嬉しかったなあと思いながら、那月はどうでもよさそうに答えた。
「休憩で飲み物買いに来てたら話しかけられただけだよ」
「飲み物? だからさっき自販機の近くにいたのか。でも何で今ここにいたんだ? テニスコートにも入らず」
日陽が怪訝そうに聞いてくる。
「ああ、うん。自販機で声かけられて少し話した後その子から離れて歩いてたらここまで来てただけ」
これは嘘ではない。実際ぼんやり日陽やセックスについて考えていたらここにいただけだ。
「那月は相変わらずモテるよなー。俺にもわけて」
智充が楽しげに言うと、日陽の表情が少し曇る。
あれ? もしかしてヤキモチ……? でも日陽がヤキモチやくなんて見たことないし……。
密かに思いながらハラハラにも近い感じにドキドキする。つき合ってそれなりに経ち、思い切りセックスだって何度もしているというのに自分でもかわいらしいヤツだなと思う。と同時にやっぱり情けないヤツでもあるなと。
とりあえず珍しく智充に対し「グッジョブ」とは思った。もっと煽るようなこと言え、と。
「つか日陽ってばヤキモチやきだなー。さっきだって女子といる那月見てムッとしてたんだぜー。那月は元々モテてんだからいまさらだろ。モテてるのに日陽が好きってヤツなんだから安心すればいーじゃん」
ああ、マジでグッジョブ過ぎだな今日の智充は。
心の中で手のひらをグッと握りしめて那月は思った。言われた日陽は顔を赤らめながらも「煩い、智充。そんなんじゃない」などと那月にとってとてもかわいい反応している。
いつもひたすらヤキモチやいている那月にとって、今日はいい日だなとしみじみ思った。
実際に那月の家へは、日陽に自分のドロドロとしたものを打ち明けてから呼んでいない。深い意味はない、と言いたいところだが、なくはない。
打ち明けてからの那月はとてもスッキリしている。もちろん、その後も日陽の周りにヤキモチをやいているが、それを燻らせて自分が焦げつきそうになるのではなく、外へ出せているのでとても換気がいい状態だった。
だからこそ家に来させたくないというのだろうか。自分には自信があると思っていたくせにと那月は自分を笑いたくなる。
自信がないのだ。自分の家へ来た日陽をまたおかしな風に独占したくならないだろうかと考えてしまい、少し怖い。
打ち明けた日から一度も日陽とセックスしていない。キスはしているが、それ以上するとまたどうしようもない自分が湧き起こるのではないかと怯えてしまう。
何でも言えと日陽は言った。そしてその言葉が嬉しくて、そんな日陽が大好きで那月の気持ちは救われたようなものだ。なのにこうしてまた言えずにいる。
悪循環というのだろうか。また違うだろうが、どうにも自分は馬鹿なのだろうなと那月はわかっている。
これもサラッと言えばいいのだろう。日陽もきっと笑ってくれる。だが言えない、というか言いたくない。あまりに自分が情けないのだ。
ドロドロしたものを勝手に抱えて怯え、日陽にまで迷惑をかけた。そしてそれを打ち明け楽にさせてもらったかと思えば今度はセックスが怖いなどと、言えるものかと思ってしまう。男としてあまりに情けない。というか、痛い。
もちろんセックス自体が怖いのではないし、勃起不全になったのでもない。正直なところ、毎日のように日陽はおかずになっている。毎日おかずにしたいくらい日陽が大好きだし、日陽としたくて堪らないとも思う。ただ、自分に自信がない。
「黒江くん、今度一緒に遊ぼうよ。何だったら明日は学校休みだし……」
「うん、今度皆で一緒にね」
そうじゃないという顔した女子にニッコリ笑った後で、那月はその場を離れる。声かけたり誘ってくれる女子に対して嫌いだとか鬱陶しいとは思わない半面、嬉しくもないし楽しくもない。
相変わらず那月は自分にとって不にも可にもならない相手にはそつない対応している。こればかりは培ってきたものなので無理しているとかではなく、ある意味とても楽な対応だったりする。その代わりその相手とは関係性を深めることもないが、全くもって気にならない。今の子も多分綺麗な顔していたのだろうが、すでにもう那月の中で顔はぼんやりしている。
そんなだから、もちろん別の相手とセックスしたいと思わない。日陽に対してひたすらしたいと思ったり、毎日のようにおかずにしているのは性的に足りていないのではない。ただひたすら日陽が足りないだけだ。ドロドロしたものを打ち明けてもこうして日陽を家へ呼べないのも、それこそセックス自体を怯えるのもそのせいだ。
ただひたすら日陽が足りない。こればかりは打ち明けても変わらない。だから自分に自信もない。ひたすら求めてしまいそうでしかない。
ほんと、情けないよねえ。
那月は内心呟いた。
「つっきー!」
歩いていると煩い声が聞こえた。途端、那月は微妙な顔になる。向こうから駆けてくる存在をそして軽やかに避けた。
「避けるなんてひどい!」
「日陽、部活は?」
酷いと嘘泣きしている智充を華麗にスルーして那月が聞くと、日陽は苦笑してきた。
「今休憩。那月はどうしたんだ、こんな正門までの通りで」
「俺も休憩してた」
「つか女子といただろ? つっきー隅に置けないなー」
「おい」
智充がニコニコ言う横で日陽が困ったような顔している。その顔が、女子に対してやいている顔なら嬉しかったなあと思いながら、那月はどうでもよさそうに答えた。
「休憩で飲み物買いに来てたら話しかけられただけだよ」
「飲み物? だからさっき自販機の近くにいたのか。でも何で今ここにいたんだ? テニスコートにも入らず」
日陽が怪訝そうに聞いてくる。
「ああ、うん。自販機で声かけられて少し話した後その子から離れて歩いてたらここまで来てただけ」
これは嘘ではない。実際ぼんやり日陽やセックスについて考えていたらここにいただけだ。
「那月は相変わらずモテるよなー。俺にもわけて」
智充が楽しげに言うと、日陽の表情が少し曇る。
あれ? もしかしてヤキモチ……? でも日陽がヤキモチやくなんて見たことないし……。
密かに思いながらハラハラにも近い感じにドキドキする。つき合ってそれなりに経ち、思い切りセックスだって何度もしているというのに自分でもかわいらしいヤツだなと思う。と同時にやっぱり情けないヤツでもあるなと。
とりあえず珍しく智充に対し「グッジョブ」とは思った。もっと煽るようなこと言え、と。
「つか日陽ってばヤキモチやきだなー。さっきだって女子といる那月見てムッとしてたんだぜー。那月は元々モテてんだからいまさらだろ。モテてるのに日陽が好きってヤツなんだから安心すればいーじゃん」
ああ、マジでグッジョブ過ぎだな今日の智充は。
心の中で手のひらをグッと握りしめて那月は思った。言われた日陽は顔を赤らめながらも「煩い、智充。そんなんじゃない」などと那月にとってとてもかわいい反応している。
いつもひたすらヤキモチやいている那月にとって、今日はいい日だなとしみじみ思った。
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