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37話
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家へ行くなら今までは大抵、日陽が那月の家へ行っていた。だが最近は那月が日陽の家へ来ることが多い。別に構わないので気にしていなかったがふとそれに気づいた。
「俺ん家来るの多くなったよな?」
「そうかな」
那月はニコニコ首を傾げる。そうだよと言いかけて那月の表情が気になった。
「……お前、また何か隠してる?」
「か、隠してない隠してない隠してない」
「言い過ぎ。むしろ怪しいだろ」
「怪しいといえばさ、日陽なんであんま小さい頃の写真見せてくれないの?」
思い出したといった表情で那月が聞いてくる。話を逸らされた感じもしたが、那月は純粋に聞きたいといった表情をしながら日陽をじっと見つめてくる。
「別に見せないようにしてるつもりはないけど」
「じゃあ見せて」
「……いいけどお前やたらかわいいかわいい言うから照れ臭いんだよ」
前に見せたのはつき合う前だった。だから落ち着かなかったのかもしれない。その時には多分もう那月のことが気になっていた。だが那月は一度セックスをした後なかったことにしてきた。そんな状態だったのもあって余計に落ち着かなかったのだろうと思う。
「小さい頃なんだからかわいいって言っても変じゃないだろ」
「まあ、そうなんだけどな……」
日陽はため息ついてからクローゼットを開ける。そして奥に置いてあるアルバムを出した。普段は自分も見ることがないので那月がアルバムを開くと一緒に見た。
「ほらほら、この顔! 何でこんなかわいい顔してたの?」
那月は前以上に嬉しそうに笑いながら聞いてくる。指さしている写真の顔を見て、日陽は「えー覚えてねーよ」と苦笑した。
「つか、それかわいいのか? 顔、くしゃくしゃだろ、それ」
「それがまたかわいいんだろ。こんなにくしゃくしゃにして、何がおかしかったのかなあ。もしくは笑う寸前だったのかなあ」
「覚えてない」
実際覚えてなかった。小さい頃の思い出は思い出そうとすれば所々浮かんだりするのだが、写真と結びつけようとすると思い出せない。別にそれは嫌なことがあったからとか記憶喪失になったとかそういった類のことではなく、多分自分が小さな頃から今に至るまで平穏無事だったからだろうと日陽は思っている。頭に浮かぶ思い出は、そんな平穏無事な日常の中でも比較的記憶に残るものばかりなのだと思う。
お祭りに連れて行ってくれる約束をしたのに用事でいけなくなったと父親に言われ、クローゼットに籠って泣いた時。
いつも一緒に遊んでいた智充が、その日はたまたま別の子と遊んでいて、その日は遊ぼうと思っていたため朝からそれを知って不貞腐れていた時。
幼稚園で初めて好きな子ができて、一緒に遊びながらドキドキしていたらその子が他の男の子が好きなのだと楽しそうに言ってきた時。
そういえばどちらかというと負の感情のほうが覚えているなと微妙になった。負の感情とはいえ、人に対して当たり前のように甘えていたからこその感情だろう。そして普段は楽しくて幸せだったのだろうと思う。写真は大抵そんな時に撮る。だからあまり覚えていないのだろうと日陽は思った。
「何で覚えてないのかなあ」
「だったら那月は覚えてんの?」
「俺? うん……そうだね、写真自体少ないしなあ。わりと覚えてるよ」
日陽が聞くと、那月はキラキラさえしていそうな顔で笑いかけてきた。ああ、と日陽は思う。
もしかしたらそれは自分と逆の理由だからではないのだろうか。小さな頃の写真は家族絡みが多い。ただの憶測でしかないし、あえて指摘するつもりもないが、那月が小さな頃から那月の両親は忙しかったのだろう。だから写真が少ないのではないかと思ったし、堪らなく楽しかった記憶がそれだけよく残っているのかもしれない。
「ねえねえ、これも? これも覚えてないの?」
ふと那月が指さしてきた写真では智充が泣いていて、日陽がそれを恐らく慰めているか何かといった光景が写っている。
「えー? うん、あんま覚えてない」
「そっか。覚えてないってことは智充が泣くのってよくあったの? あの煩くて騒がしい智充が?」
「煩いも騒がしいも同じ意味だろ。まあ二回も言いたくなるのはわかるけど。智充、昔はかわいかったから」
写真で見てもそれはわかるだろうと思われた。髪型はあきらかに男の子ではあるが、顔を見ているとまるで女の子にも見える。
「あー、まあそうみたいだね」
だが那月はどうでもよさそうに頷いただけで、日陽は思わず笑う。
「何?」
「いや、智充に対しての扱いが酷いだろ」
「仕方ないよ。だって友だちではあるけど邪魔でもあるから」
「ほんっと歯に衣着せなくなったな」
「顔は置いておいて、そんな泣き虫だったの?」
「わりとね。甘えただったし」
「……誰に」
那月の顔が怖い。
「……あー、親とか」
「親、ね。そんで日陽には?」
「……あー……、まあ、そこそこ」
嘘をついたら余計面倒そうだと、さらっと答えると舌打ちが聞こえてきた。
「でもほら、あいつ下に双子いるだろ。あの子らが生まれてくると今の智充って感じになってった!」
「ふーん」
日陽がつけ足すも、那月はどうでもよさそうに頷く。日陽は微妙な顔をしながらため息ついた。
「……お前、智充を呪ったりすんなよ」
「喧嘩吹っかけるなとかならまだしも、呪うって何」
「何かそういうことしそーだろ」
「やだなあ。智充呪うくらいなら、日陽が完全に俺だけのものになるようお呪いかけるよ」
今の言葉で「のろい」と「まじない」の酷似具合に思いを馳せた。昔よく女子がやっていた「おまじない」を思い出し、そっと怖ささえ覚える。
「お呪いするのもやめてくれ」
「できるのならしたいけど、さすがに俺にはそんな能力はないよ」
おかしそうに笑いながら那月が「写真、いくつか欲しい」と言ってきて、恐らく純粋に欲しがっているのだろうと思いながらもほんの少しだけ、本当に呪いだか呪いだかをかけられそうな気がしてしまい「無理」と断った。
「俺ん家来るの多くなったよな?」
「そうかな」
那月はニコニコ首を傾げる。そうだよと言いかけて那月の表情が気になった。
「……お前、また何か隠してる?」
「か、隠してない隠してない隠してない」
「言い過ぎ。むしろ怪しいだろ」
「怪しいといえばさ、日陽なんであんま小さい頃の写真見せてくれないの?」
思い出したといった表情で那月が聞いてくる。話を逸らされた感じもしたが、那月は純粋に聞きたいといった表情をしながら日陽をじっと見つめてくる。
「別に見せないようにしてるつもりはないけど」
「じゃあ見せて」
「……いいけどお前やたらかわいいかわいい言うから照れ臭いんだよ」
前に見せたのはつき合う前だった。だから落ち着かなかったのかもしれない。その時には多分もう那月のことが気になっていた。だが那月は一度セックスをした後なかったことにしてきた。そんな状態だったのもあって余計に落ち着かなかったのだろうと思う。
「小さい頃なんだからかわいいって言っても変じゃないだろ」
「まあ、そうなんだけどな……」
日陽はため息ついてからクローゼットを開ける。そして奥に置いてあるアルバムを出した。普段は自分も見ることがないので那月がアルバムを開くと一緒に見た。
「ほらほら、この顔! 何でこんなかわいい顔してたの?」
那月は前以上に嬉しそうに笑いながら聞いてくる。指さしている写真の顔を見て、日陽は「えー覚えてねーよ」と苦笑した。
「つか、それかわいいのか? 顔、くしゃくしゃだろ、それ」
「それがまたかわいいんだろ。こんなにくしゃくしゃにして、何がおかしかったのかなあ。もしくは笑う寸前だったのかなあ」
「覚えてない」
実際覚えてなかった。小さい頃の思い出は思い出そうとすれば所々浮かんだりするのだが、写真と結びつけようとすると思い出せない。別にそれは嫌なことがあったからとか記憶喪失になったとかそういった類のことではなく、多分自分が小さな頃から今に至るまで平穏無事だったからだろうと日陽は思っている。頭に浮かぶ思い出は、そんな平穏無事な日常の中でも比較的記憶に残るものばかりなのだと思う。
お祭りに連れて行ってくれる約束をしたのに用事でいけなくなったと父親に言われ、クローゼットに籠って泣いた時。
いつも一緒に遊んでいた智充が、その日はたまたま別の子と遊んでいて、その日は遊ぼうと思っていたため朝からそれを知って不貞腐れていた時。
幼稚園で初めて好きな子ができて、一緒に遊びながらドキドキしていたらその子が他の男の子が好きなのだと楽しそうに言ってきた時。
そういえばどちらかというと負の感情のほうが覚えているなと微妙になった。負の感情とはいえ、人に対して当たり前のように甘えていたからこその感情だろう。そして普段は楽しくて幸せだったのだろうと思う。写真は大抵そんな時に撮る。だからあまり覚えていないのだろうと日陽は思った。
「何で覚えてないのかなあ」
「だったら那月は覚えてんの?」
「俺? うん……そうだね、写真自体少ないしなあ。わりと覚えてるよ」
日陽が聞くと、那月はキラキラさえしていそうな顔で笑いかけてきた。ああ、と日陽は思う。
もしかしたらそれは自分と逆の理由だからではないのだろうか。小さな頃の写真は家族絡みが多い。ただの憶測でしかないし、あえて指摘するつもりもないが、那月が小さな頃から那月の両親は忙しかったのだろう。だから写真が少ないのではないかと思ったし、堪らなく楽しかった記憶がそれだけよく残っているのかもしれない。
「ねえねえ、これも? これも覚えてないの?」
ふと那月が指さしてきた写真では智充が泣いていて、日陽がそれを恐らく慰めているか何かといった光景が写っている。
「えー? うん、あんま覚えてない」
「そっか。覚えてないってことは智充が泣くのってよくあったの? あの煩くて騒がしい智充が?」
「煩いも騒がしいも同じ意味だろ。まあ二回も言いたくなるのはわかるけど。智充、昔はかわいかったから」
写真で見てもそれはわかるだろうと思われた。髪型はあきらかに男の子ではあるが、顔を見ているとまるで女の子にも見える。
「あー、まあそうみたいだね」
だが那月はどうでもよさそうに頷いただけで、日陽は思わず笑う。
「何?」
「いや、智充に対しての扱いが酷いだろ」
「仕方ないよ。だって友だちではあるけど邪魔でもあるから」
「ほんっと歯に衣着せなくなったな」
「顔は置いておいて、そんな泣き虫だったの?」
「わりとね。甘えただったし」
「……誰に」
那月の顔が怖い。
「……あー、親とか」
「親、ね。そんで日陽には?」
「……あー……、まあ、そこそこ」
嘘をついたら余計面倒そうだと、さらっと答えると舌打ちが聞こえてきた。
「でもほら、あいつ下に双子いるだろ。あの子らが生まれてくると今の智充って感じになってった!」
「ふーん」
日陽がつけ足すも、那月はどうでもよさそうに頷く。日陽は微妙な顔をしながらため息ついた。
「……お前、智充を呪ったりすんなよ」
「喧嘩吹っかけるなとかならまだしも、呪うって何」
「何かそういうことしそーだろ」
「やだなあ。智充呪うくらいなら、日陽が完全に俺だけのものになるようお呪いかけるよ」
今の言葉で「のろい」と「まじない」の酷似具合に思いを馳せた。昔よく女子がやっていた「おまじない」を思い出し、そっと怖ささえ覚える。
「お呪いするのもやめてくれ」
「できるのならしたいけど、さすがに俺にはそんな能力はないよ」
おかしそうに笑いながら那月が「写真、いくつか欲しい」と言ってきて、恐らく純粋に欲しがっているのだろうと思いながらもほんの少しだけ、本当に呪いだか呪いだかをかけられそうな気がしてしまい「無理」と断った。
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