月と太陽

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36話

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 好きな相手に対して自分を出せるというのは本当に嬉しいし楽だなと那月は思う。ひたすら独占欲ばかりなのにそれを隠さなくても怒られないし嫌われない。だからますます日陽が好きになる。
 自分の中で抱え込み悩んでいた時はやはり、求められるに足りない存在だと思っていたのかもしれない。那月はちゃんと努力してきた自分に自信がないつもりではないが、それでもどこかで「こんな自分」とでも思っていたのだろうか。それとも同性であり、親しい友人としては智充に敵わない、そんな状態が自信をなくさせていたのだろうか。
 両方かもしれない。
 どこかで聞いたことがあるが、自分は大丈夫なのだという安心感は、自分に対する自信だけでなく、自分が困った時に誰かが助けてくれるという周りに対しての信頼感からも来ているらしい。周りの人が味方になってくれると信じられることが安心感に結びつく。実際助けられている、味方になってくれているという事実が大事なのではなく、そう信じられるということが心を守ってくれるのだという。
 いつも安心感を得られなかった那月は逆に何故そういったことができなかったのだろうと思った。
 できなかったと実感しているのではない。だが確かに人に対して弱みをさらけ出し助けを求めることが苦手だ。日陽に対してですら、自分の嫌な部分をさらけ出すのが怖かった。別に弱みだからと日陽に攻撃されたり貶されると思ったのではない。ただひたすら嫌われたくなかった。
 だが日陽はむしろ怒ってくれた。

「言ったら俺が那月を嫌いになる? 何言ってんだ? 全部言えよ。全部吐き出せ。お前のどんな中身だって那月自身なんだ。だったら俺は受け止めてやるよ、どんな那月でも。だから、ちゃんと口にしろ。ちゃんと、言え」

 そう言ってくれた。日陽が安心感を与えてくれた。
 ちゃんと言えといいながら、あからさまに日陽を独占しようとしたら日陽は微妙な顔をして「やりすぎ」だとも言う。それに関しては別に「言えと言ったから言ってるのに嘘つき」などとは思わない。むしろ余計に安心できた。これで日陽が那月の今の態度に困っていても隠そうとしたり何でもない振りをしてきたほうが多分那月は怯えたり傷ついただろうと思う。本当に出していいのだとさえ思えた。
 日陽が那月があからさまなことに困っているのは、多分那月のことも心配してくれているのだろう。
 那月は別に日陽とつき合っているのが誰にバレてもよかった。散々日陽を抱いていた時は、見つかればいいのにとさえ思っていたくらいなのだ。むしろ大声で言って回りたいくらいだ。もしそれで嫌悪してくる者がいるなら勝手にすればいいと思う。そんな相手、こちらが願い下げだと思う。
 隠そうともしないが大声で言って回ることもしないのは、わがままで自分勝手な那月でも一応日陽のことも考えてはいるからだ。自分がよくても日陽はきっと男とつき合っているとバレるのはありがたくないだろう。
 申し訳ないが、気持ちに関しては今後隠すつもりない。日陽が誰かとやたら近かったら引き離したいし、誰かと妙に仲がいいなら遠慮なく嫉妬する。だが「日陽と俺は好き同士でつき合っている。セックスもしている仲だから誰も邪魔するな」というはっきりとした宣言はしないでおく。

 ……智充以外には。

「日陽に触れんな。俺のだ」
「えー今のもっ? ただポンってしただけじゃんー」

 日陽は智充には打ち明けている。だから那月もミジンコたりとも遠慮しない。

「ポンもちょんもなし」
「えー、じゃあぎゅう、は」
「もっとなしに決まってんだろ」
「けち!」

 那月からすれば、本気で言っている。じゃれているのでも楽しんでいるのでもない。だが智充はどこか楽しそうに言い返してくる。そういったやりとりをいつも微妙な顔で見ている日陽に、二人きりでいる時に聞いてみた。

「智充って、ドエムなの?」
「俺の幼馴染だけじゃなくお前の友だちでもあるんだぞ……変態にしてやるなよ」
「だって俺が邪険にしても何か嬉しそうに見えるんだけど」
「あー。智充からすれば無視されるんじゃないかって思ってたみたいだからな。お前が絡んでくれるのが嬉しいんだろ」
「……無視しよう」

 喜ばせるつもりなんてないとばかりに那月が微妙な顔で言うと日陽が笑ってきた。

「お前の友だちでもあるのに? お前にできるの?」
「できるよ。だって俺は日陽さえいればいい」
「ふーん? じゃあ那月が無視すれば智充は調子乗って俺に沢山触るかもだけど、いいんだ?」
「やだよ」

 楽しげに言ってくる日陽を那月はぎゅっと引き寄せた。

「日陽もそういう時は拒んで」
「何て言って? 俺は那月だけの体だからって?」
「そう」
「智充はただの冗談だって受け取るよ。俺だって冗談言ってる気分になる」
「何で。俺の体なのに」

 当たり前のことすぎて怪訝な顔を那月がすると、日陽は少し顔を赤らめた。

「そこじゃない。智充と俺の認識が一緒だからだよ……! あいつとはお互い相手を性的に絶対見られねーのにそんなこと、真剣に言えるわけないだろ……」
「……わかる、けどわかりたくない」

 那月自身も日陽と智充が性的な関係になるところは、黒々とした思いを持て余して苦しんでいた時ですら想像したことはない。将来そうなる可能性がないとはいえないと怯えていてもだ。
 この二人の信頼関係とかけがえのなさにただひたすら嫉妬していた。もちろんそれは今も嫉妬している。だからわかるのだが、わかりたくない。

「ったく。つか、だいたい俺の体は基本的に俺のだからな。まあお前といる時はその、那月のでもいいけど……」

 赤い顔をしながら言う日陽が愛おしい。那月は嬉しさに笑みを浮かべながら引き寄せていた日陽に軽いキスする。

「智充と無理に仲よくしろとは言わないけど、ほどほどにな」
「んー。日陽はもう少し智充から離れてもいいんだよ?」
「身内みたいなもんだから難しい」
「ケチ」
「智充と同じ反応かよ。つか、ケチとかなのか……?」

 そんなことを言いないながら、日陽とひたすら優しいキスした。
 唇がそっと合わさるだけでドキドキする。あれほどもっと激しく合わさっていたというのにと思いつつ、ひたすら甘く疼く心地よさに那月は包まれていた。
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