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34話
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朝、那月はいつも日陽よりも早い。今日も早くに着いて、すでに来ている他のクラスメイトと軽く話したりしながら自分の机でぼんやりしていた。すると「つっきー!」という間抜けな呼び名が聞こえてくる。それとともにいきなり抱きつかれた。智充だ。那月が何か反応する前に、後から来た日陽が呆れた顔しながら智充を引きはがす。
「智充に全部話したよ」
日陽は穏やかな笑みを浮かべながら那月を見てきた。本当に言ってくれたんだと那月は嬉しく思った。笑顔で日陽を見る。そこへ智充が間に入ってきた。
「那月、俺と日陽はただの友だちだからな! だから俺にヤキモチやいて冷たくしないで!」
智充はいいやつだと那月も本当に思っている。凄くいいやつだ。嫌いになる理由も本当は全くない。ただ、こればかりは那月もどうしようもない。それを言おうと口を開く前に日陽が遮ってきた。
「智充……ここでそういう話すんな馬鹿」
「だって」
「じゃあ昼休み、飯食う時にしてくれ」
今度は智充がわかったという前に那月が遮る。
「待って。昼は俺、日陽と二人がいい」
「そんなぁ」
「……ったく。那月、とりあえず今日は三人で頼む」
「…………わかった」
もの凄く不本意だという気持ちを隠すことなく那月は頷いた。
昼休み、三人で屋上へ向かう。三人で食べたのはかなり久しぶりな気がした。
「俺、那月とはるの三人で食べるのめっちゃ久しぶりな気がする!」
智充もニコニコ言ってくる。
そう、智充は凄く、いいやつだ。
那月は改めて思う。騒がしいほど明るくて、それでも案外人を見ていて、そして裏がない。
それでも気に食わないものは気に食わないのだ。どうしようもない。もちろん今でも友人だと思っている。それでもどうしようもない。
「俺の日陽を気安く呼ぶな」
「おい、那月」
ムッとした顔を隠すことなく智充に言うと、日陽が赤い顔で困惑したように那月を見てきた。
「え、気安く? ってああ、はるって呼ぶこと? でも昔からだぞ。それに俺、はる……ひを恋愛的な目で見ることまずできねーから安心してくれよ!」
智充が苦笑しながら言ってきた。那月はぷいっと横を向く。
「那月! 全く……。何でも話せとは言ったがそこまであからさまに――」
言いかけた日陽に、那月はぎゅっと抱きついた。胸元に顔を埋めているので日陽の表情は見えないが、聞こえてきた「は、は……」という乾いた笑い声から想像するに、智充のほうを見ているのだろう。
「恋人っつーか、日陽に懐き倒している犬?」
智充の声も聞こえた。
犬か。
那月は日陽に抱きついたまま思う。
犬でもいいな。
そうして日陽に飼われたい。室内犬がいい。いっそ繋いでくれていてもいい。大事に部屋で繋がれ、日陽から餌を貰い、そして躾されつつかわいがって欲しい。日陽が大好き過ぎる犬だから、たまにじゃれて噛みつくかもしれないが、優しく受け止めて欲しい。
「おい、那月を犬扱いするなよ」
だが日陽はムッとしたように智充に言っている。
犬でもいいのに。
とはいえ自分のことで智充に対して叱咤してくれた日陽が嬉しくて堪らない。
「わりーわりー。でもちょっとわからんでもないだろ?」
「わかんねーよ」
「何だよー。日陽は穏やかそうにみえて変なとこでクソ真面目に頑固なんだからなー。別に悪い意味で言ったわけじゃねーって」
「でも那月は犬じゃない」
「犬でいいよ」
埋めていた顔を上げ、那月は間近で日陽を見上げた。
「は? 何でだよ」
「ほら、本人がいいって言ってんじゃん。わからんでもないぞつっきー! そんで日陽に懐いて、めっちゃ甘えたいんだろー?」
楽しげに言う智充をスルーして、那月は日陽をじっと見た。
「日陽の部屋で飼って? 首輪つけて繋いでて」
「わー、俺が思ってたよりだいぶ斜め上行ってた、ヤベェな……」
「ちょっと智充煩い黙れ。なあ、那月……いくら俺が好きでも人間の尊厳は保っておけよ……」
鬱陶しそうに智充を見た後で、日陽が真面目な顔してそんなことを言ってくる。普段はいい加減なところもあったりかわいいところもあったりするくせに、智充の言うように那月はたまにやたら真面目で頑なだとは那月も思う。でもそれは相手を思いつつ天然なところがあるからだとも思う。
那月はキッと智充を見た。
「智充より俺のが日陽のこと、知ってる」
「え? あ、あー。うん、別にそれでいーよ。だってそりゃ恋人だもんな」
ポカンとした後で智充がニヤリと笑う。その顔を見た途端、日陽が困った顔を赤くしながら「変な勘ぐりすんなよ」と智充を睨む。
今の様子だけで、変な勘ぐりをしたってわかるのだと那月も別途困った顔した。
「日陽、言われた通り三人でご飯食べたし、もういいだろ。二人きりになりたい」
「お、おい」
「つっきー、待ってよ。つか俺がはるって日陽のこと呼ぶのも、那月のことをつっきーって呼ぶのも同じだぞ? でもお前、さすがに俺がお前のこと恋愛的な目で見るかもとか思わんでしょ?」
「……激しく気持ちの悪いこと言うのやめろ」
那月はとてつもなく微妙な顔を智充へ向けた。
「そうだぞ。俺、お前と那月を取り合うつもりなんてないからな。那月は俺のだ」
日陽の言葉に智充も「一緒になって乗ってくんなよー!」と微妙な顔になる。だが那月はとても嬉しくて、改めてもう一度ぎゅっと日陽を抱きしめた。
「智充に全部話したよ」
日陽は穏やかな笑みを浮かべながら那月を見てきた。本当に言ってくれたんだと那月は嬉しく思った。笑顔で日陽を見る。そこへ智充が間に入ってきた。
「那月、俺と日陽はただの友だちだからな! だから俺にヤキモチやいて冷たくしないで!」
智充はいいやつだと那月も本当に思っている。凄くいいやつだ。嫌いになる理由も本当は全くない。ただ、こればかりは那月もどうしようもない。それを言おうと口を開く前に日陽が遮ってきた。
「智充……ここでそういう話すんな馬鹿」
「だって」
「じゃあ昼休み、飯食う時にしてくれ」
今度は智充がわかったという前に那月が遮る。
「待って。昼は俺、日陽と二人がいい」
「そんなぁ」
「……ったく。那月、とりあえず今日は三人で頼む」
「…………わかった」
もの凄く不本意だという気持ちを隠すことなく那月は頷いた。
昼休み、三人で屋上へ向かう。三人で食べたのはかなり久しぶりな気がした。
「俺、那月とはるの三人で食べるのめっちゃ久しぶりな気がする!」
智充もニコニコ言ってくる。
そう、智充は凄く、いいやつだ。
那月は改めて思う。騒がしいほど明るくて、それでも案外人を見ていて、そして裏がない。
それでも気に食わないものは気に食わないのだ。どうしようもない。もちろん今でも友人だと思っている。それでもどうしようもない。
「俺の日陽を気安く呼ぶな」
「おい、那月」
ムッとした顔を隠すことなく智充に言うと、日陽が赤い顔で困惑したように那月を見てきた。
「え、気安く? ってああ、はるって呼ぶこと? でも昔からだぞ。それに俺、はる……ひを恋愛的な目で見ることまずできねーから安心してくれよ!」
智充が苦笑しながら言ってきた。那月はぷいっと横を向く。
「那月! 全く……。何でも話せとは言ったがそこまであからさまに――」
言いかけた日陽に、那月はぎゅっと抱きついた。胸元に顔を埋めているので日陽の表情は見えないが、聞こえてきた「は、は……」という乾いた笑い声から想像するに、智充のほうを見ているのだろう。
「恋人っつーか、日陽に懐き倒している犬?」
智充の声も聞こえた。
犬か。
那月は日陽に抱きついたまま思う。
犬でもいいな。
そうして日陽に飼われたい。室内犬がいい。いっそ繋いでくれていてもいい。大事に部屋で繋がれ、日陽から餌を貰い、そして躾されつつかわいがって欲しい。日陽が大好き過ぎる犬だから、たまにじゃれて噛みつくかもしれないが、優しく受け止めて欲しい。
「おい、那月を犬扱いするなよ」
だが日陽はムッとしたように智充に言っている。
犬でもいいのに。
とはいえ自分のことで智充に対して叱咤してくれた日陽が嬉しくて堪らない。
「わりーわりー。でもちょっとわからんでもないだろ?」
「わかんねーよ」
「何だよー。日陽は穏やかそうにみえて変なとこでクソ真面目に頑固なんだからなー。別に悪い意味で言ったわけじゃねーって」
「でも那月は犬じゃない」
「犬でいいよ」
埋めていた顔を上げ、那月は間近で日陽を見上げた。
「は? 何でだよ」
「ほら、本人がいいって言ってんじゃん。わからんでもないぞつっきー! そんで日陽に懐いて、めっちゃ甘えたいんだろー?」
楽しげに言う智充をスルーして、那月は日陽をじっと見た。
「日陽の部屋で飼って? 首輪つけて繋いでて」
「わー、俺が思ってたよりだいぶ斜め上行ってた、ヤベェな……」
「ちょっと智充煩い黙れ。なあ、那月……いくら俺が好きでも人間の尊厳は保っておけよ……」
鬱陶しそうに智充を見た後で、日陽が真面目な顔してそんなことを言ってくる。普段はいい加減なところもあったりかわいいところもあったりするくせに、智充の言うように那月はたまにやたら真面目で頑なだとは那月も思う。でもそれは相手を思いつつ天然なところがあるからだとも思う。
那月はキッと智充を見た。
「智充より俺のが日陽のこと、知ってる」
「え? あ、あー。うん、別にそれでいーよ。だってそりゃ恋人だもんな」
ポカンとした後で智充がニヤリと笑う。その顔を見た途端、日陽が困った顔を赤くしながら「変な勘ぐりすんなよ」と智充を睨む。
今の様子だけで、変な勘ぐりをしたってわかるのだと那月も別途困った顔した。
「日陽、言われた通り三人でご飯食べたし、もういいだろ。二人きりになりたい」
「お、おい」
「つっきー、待ってよ。つか俺がはるって日陽のこと呼ぶのも、那月のことをつっきーって呼ぶのも同じだぞ? でもお前、さすがに俺がお前のこと恋愛的な目で見るかもとか思わんでしょ?」
「……激しく気持ちの悪いこと言うのやめろ」
那月はとてつもなく微妙な顔を智充へ向けた。
「そうだぞ。俺、お前と那月を取り合うつもりなんてないからな。那月は俺のだ」
日陽の言葉に智充も「一緒になって乗ってくんなよー!」と微妙な顔になる。だが那月はとても嬉しくて、改めてもう一度ぎゅっと日陽を抱きしめた。
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